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菊水鉾のゑびすさまへ、祈りを籠めて――。〈七月 菊水えびす扇〉「日本画家・定家亜由子 帯のたもとに隠す花」vol.7

菊水鉾のゑびすさまへ、祈りを籠めて――。〈七月 菊水えびす扇〉「日本画家・定家亜由子 帯のたもとに隠す花」vol.7

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日本画家・定家亜由子さんが描く月々の自然を、扇のかたち(扇面)でご紹介する連載。コンチキチンが町中に響く七月の作品は、やはり祇園祭にちなんだものです。亜由子さんが手掛けた「菊水鉾」のための扇面にまつわるエピソードをお愉しみください。

2026.06.05

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「菊水鉾」を飾る七福神の懸装品にもご注目

七月の京都といえば、祇園祭。

ことに華やかなのは、やはり、動く美術館ともいわれる山鉾巡行でしょう。

菊水鉾

写真は2024年の山鉾巡行時のもの

34基ある山鉾(前祭23基/後祭11基)のひとつ、菊水鉾。

この度、光栄なことに、祇園祭・菊水鉾の扇子の原画を描かせていただきました。一月のエッセイにも登場した十日ゑびすの福笹と菊の花を組み合わせた絵です。

2026.01.05

カルチャー

絵の奥に宿る、風を求めて。〈一月 水仙〉「日本画家・定家亜由子―帯のたもとに隠す花」vol.1

菊水鉾は、町内に湧き出る名水「菊水の井」にちなんで名付けられた鉾。菊の露(薬の酒)を飲み、七百年の長寿を得たという中国の故事をもとにした能楽『菊慈童きくじどう』※を祀ったのが始まりです。

菊水鉾を有する菊擦鉾町には、かつて夷ゑびす社があったことから、古くは「夷三郎町」といいました。応仁の乱以前には「ゑびす山」を出していた記録もあり、現在もゑびす神をご神体としています。そのことから、祇園祭本来の意である「厄除け」に加えて、菊水鉾には「不老長寿」と「商売繁盛」の御加護があるとされています。

※菊慈童……観世流での呼称。他の4つの流儀(宝生・金春・金剛・喜多)では、『枕慈童』と呼ぶ。

菊水鉾の後懸

菊水鉾の後懸の「布袋さま」の背景には、えびす様や菊水にも通じる豊かな水の象徴として、波の文様が描かれている。前懸は「ゑびす神と大黒天」、左面胴懸に「福禄寿と寿老人」、右面胴懸には「毘沙門天と弁天さま」を見ることができる

今回の扇子の絵に、私はゑびすさまを全面に描きたいと思いました。菊水鉾に菊童子の物語があることはよく知られていますが、ゑびすさまがお乗りになっていることは、あまり知られていないかもしれないからです。

2013(平成25)年に御新調された鉾を飾る織物には「七福神」が織り込まれているのですが、よくよく鑑賞すると、六柱の神様しか描かれていないことに気づきます。それはもちろん、すでに御像のゑびす様が御鎮座されているから。そのため、ゑびすさまは留守文様※として描かれているのです。

六福神の織物が、山鉾巡行のお祝いと応援にゑびすさまのもとへやってきた——! そんなふうに思うと、なんとも微笑ましい光景です。是非、祇園祭でお参りのご縁がある方にはご覧いただきたいのですが、そのご鎮座のゑびすさまは、魚釣りのお姿で私たちを出迎えてくださいます。

※留守文様……シンボルを描くことで、対象の人物を想起させる手法。菊水鉾の前懸では、浮かぶ舟にある烏帽子や釣竿、鯛の入った魚籠でゑびす神をイメージさせている。

2025.07.08

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ゑびすさまの総本宮「美保神社」とのゆかり

美保神社

さて、ゑびすさまゆかりの地として、島根の美保神社をご存じでしょうか。

全国のゑびす社の総本社ともいわれるこちらの神社は、私の祖父母が暮らしていた鳥取・米子からも遠くない場所にあります。生前、毎年のように帰っていた祖父母の家。近年は、お墓参りの折に、少し足を延ばして、美保神社のある美保関へも足を運ぶことが、毎年の楽しみになっています。

美保関町の地名は出雲神話に由来し、大いなる聖なる岬を意味する「御大之御崎みおのみさき」から。この地に残る国引き神話によると、出雲の初めの神「八束水臣津野命やつかみずおみつぬのみこと」は、「八雲立つ出雲の国は、小さく若く、未完成な国だ」と嘆き、そこで、新羅や新潟・越乃国で見つけた「国のあまり」を網で引っ張ってもってくると、それらを縫い合わせ、今の「美保関」を造ったというのです。

美保神社

美保神社の鳥居を境内側から撮った一枚。美保関が額縁の絵のように見える

また、ゑびすさまは日本海の美保関で魚釣りをされたと伝わり、日本最古の魚釣りの記録として有名です。豊かな漁業、商売繁盛の神様とされる由縁ですが、それ以外に重要なお役割が「お留守番」。全国の神様が出雲に集まるとされる神無月にも、ゑびすさまだけはお留守番をして、その土地を守ってくださるといわれています。理由は諸説ありますが、本当のところはよく分かっていないようです。いずれにしても、人や土地に寄り添うやさしい神様だなあと感じます。

ところで、近年、この美保関には二頭のイルカが住み着いていて、タイミングが良ければその姿を見ることができるとのこと。昔からこの地では、ゑびすさまの御使いともいわれるイルカ。

今回の扇子の中にも、そのイルカをそっと描き込んでみました――見つけることはできますか?

扇面

菊水えびす扇の原画

愛逢あいあい月の亜由子好み

祇園祭の時期にだけ、菊水鉾町で数日間設けられるお茶席は、祇園祭の風物詩のひとつ。

お気に入りは、もちろんお抹茶と亀廣永さんの銘菓「したたり」です。そして、菊の露のイメージを映したこのお菓子を、菊の花のかたちの器でいただくことができるとのこと。お皿の意匠は、菊水鉾最上部の鉾頭「十六辨菊華じゅうろうべんきくか」を模しています。

元々、菊水鉾町は千利休の師にあたる武野紹鴎たけのじょうおうが庵「大黒庵」を構えていた場所で、茶の湯の原点のような土地でもあります。そんなご縁から、菊水鉾では再興当初からお茶会を行っておられますが、数年経った頃、亀廣永さんに依頼されて、菊水鉾オリジナルの和菓子として「したたり」が生まれました。

ちなみに、この銘菓名は菊の葉からしたたり落ちる薬水のイメージから命名されたそうです。

したたり

甘味に黒糖が使われた「したたり」は、一般的な琥珀羹よりもやわらかいのが特徴

趣のあるそのお皿をお持ち帰りできるのも、嬉しいところです。

お茶席では菊水鉾の掛け軸なども鑑賞でき、稚児人形「菊慈童」はもちろん、先述の魚釣りのお姿のゑびすさまにもお参りすることができますので、“神より団子”となりませんよう、どうぞお参りもお忘れなく!

2025.07.16

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構成協力/椿屋

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