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『義経千本桜』まるで歌舞伎のオードブル! 「十倍おもしろい!?歌舞伎ど定番演目大解剖」vol.9

『義経千本桜』まるで歌舞伎のオードブル! 「十倍おもしろい!?歌舞伎ど定番演目大解剖」vol.9

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見どころはなんと言っても狐忠信の人間業とは思えぬケレン! 有名な宙乗りはもちろんですが、常に人と狐の間のような手足や首の動きはミステリアスだし、高い段差を軽々と飛び越えたり上からくるんと降りてきたり、ブレイクダンスのように高速で回転したりと、まじまじと見ていても理解が追いつきません。

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三大名作の一つ『義経千本桜』

いよいよ秋本番、文化・芸術の秋は観劇にもぴったり!

今回は美味しいところの詰め合わせ、歌舞伎のオードブルのような長編演目『義経千本桜よしつねせんぼんざくら』をご紹介したいと思います。

十倍おもしろい!?歌舞伎ど定番演目大解剖1

初演は1747年(延享4年)、人形浄瑠璃で演じられると爆発的な人気を博し、翌年には江戸で早くも歌舞伎化されました。

浄瑠璃が元となった演目の中でも名作で知られる『菅原伝授手習鑑すがわらでんじゅてならいかがみ』『仮名手本忠臣蔵かなでほんちゅうしんぐら』と並び、「三大義太夫狂言さんだいぎだゆうきょうげん(三大名作)」と呼ばれています。

通しで全て見ると1日がかりの長大作。お昼休憩を挟んで一日楽しむのも良いけど、それぞれのエピソードが単体でもしっかり完結しているので人気の場が独立して上演されることもあります。

『義経千本桜』の三つの特徴

以前紹介した『勧進帳』のように歴史上の人物の中でも特に江戸時代に人気が高かった「義経」が登場する演目は多いですね。

『義経千本桜』も大まかなあらすじは、源平合戦の後、兄の源頼朝から謀反の疑いをかけられ都を落ち延びる源義経の旅……と『勧進帳』と一見同じストーリーがベースになっているのですが、『義経千本桜』は全く趣が違います。その特徴とは……

十倍おもしろい!?歌舞伎ど定番演目大解剖2

一つは「歴史スペクタクルファンタジー」として振り切った設定。

義経や源平合戦の登場人物、つまり平安末期の実在の人々が中心なのですが、舞台は江戸時代。

さらに壇ノ浦の合戦で討たれているはずの平家の武者が江戸の庶民に身をやつして暮らしながら源氏への復讐と再起のきっかけを狙っていたりする……なんて字面だけ見ると「何言ってんの?」となる設定。

現代のファンタジーだと現代人に転生したり、逆にタイムスリップして歴史の渦に巻き込まれたり、と多少は時系列に納得のいく設定があるんですが、こちらは数百年のギャップを無視して全員江戸に連れてきちゃいます。

でもそれゆえに、完全に歴史系ファンタジーとして重苦しくなく楽しめるんですね。

あり得ない生き物も登場するしあっと驚くような仕掛けもあって、それを全部「ファンタジーだから」の一言で片付けられちゃうんです。

二つ目の特徴は、当時の江戸っ子が大好きなテーマ「家族の情愛」を源平合戦の筋書きにうまく乗せて現代的な感覚で楽しめたこと。

今も昔も歴史物は人気だけど、感情移入できるポイントが少ない。でも史実には無かったかもしれないけれど、当時の現代人の扮装で体温を感じるエピソードが入ると一気に引き込まれます。家族愛という古今変わらぬテーマなら、歴史を詳しく知らない当時の庶民でも楽しめたことでしょう。

そして三つ目。場面ごとにダイナミックな殺陣やケレンなど、ワッと思わず声が上がるような派手で大掛かりなパフォーマンスがあること!

十倍おもしろい!?歌舞伎ど定番演目大解剖3

単話で独立して演じられることも多いと言いましたが、それでも観たいと思わせられるのはこの見せ場の多さもポイントなんです。

そんな主な見どころを紹介していきましょう。

『義経千本桜』のあらすじと背景を解説

『義経千本桜』は通し狂言で見ると五段に分けて演じられますが、中でも主な中心人物は三人。

「義経」と言いつつも実は義経はこのお話では主役というよりも、各エピソードをつなぐナビゲーターのような役割なんですね。

平知盛(二段目 渡海屋・大物浦)

九州へ渡るため船宿「渡海屋とかいや」に滞在する義経一行ですが、実は宿の主人・銀平は、壇ノ浦で死んだはずの平家の将、平知盛たいらのとももりの仮の姿。知盛は義経に復讐を仕掛けるものの返り討ちに遭います。自分が必死に守ってきた安徳帝を義経が引き継ぐ姿を見て、知盛は体に巨大な碇いかりを巻きつけて海へと身を投げます。

見どころは敗軍の将、知盛が満身創痍の姿で最後の力を振り絞り、巨大な碇を持ち上げて見栄を切るシーン。「碇知盛」と呼ばれ、この迫力と悲壮感は役者の芸の見せどころです。

いがみの権太(三段目 すし屋)

二段目が知盛編と呼ばれるのに対し、この三段目は維盛これもり編と呼ばれたりもします。なぜならすし屋の奉公人、弥助やすけというどこか品の良い青年は平維盛が身をやつした姿だったから。

頼朝の手先が維盛の行方を追っている中、すし屋の不良息子、権太ごんたは金の無心に来た折に弥助が維盛であることを知り、首を差し出して褒美をもらおうとします。

しかし母から奪った金を入れたすし桶と、事情を知っていた父が維盛の従者小金吾こきんごの首を入れておいたすし桶を取り違えたことから事態は急転。首と妻子を鎌倉方へ差し出した権太を激怒した父が刺してしまうと、死に際の権太が真相を独白します。

実は維盛一家を逃しすし桶に入っていた別人の首と自分の妻子を差し出した、と。権太一家の犠牲によって維盛は助かり、出家を遂げます。

忠義のために自分の家族を犠牲にするエピソードは、現代人としては理解しにくいけれど浄瑠璃や歌舞伎ではよく出てきます。

見どころは権太の「もどり」。「もどり」とは悪人と見られた人物が実は善人や忠義者だったことが明かされることです。

本当はどこかで改心したいと思いながらも、つっぱってなかなか素直になれなかった権太が死に際に苦しみながら語る長い独白シーンは涙なしには見られません。

ちなみに権太の左眉上に化粧でほくろを施しているのは江戸型。すっきり粋でいなせな権太の役柄を作り上げた五代目松本幸四郎の特徴がオマージュとして定着しているんですよ。

上方風は原作に忠実な無頼漢ぶらいかん。長く愛され東西でアレンジされていった作品なのでこんなポイントで見比べるのも楽しいですね。

狐忠信(四段目 川連法眼館)

インパクトのある姿から、これが一番メジャーかもしれませんね。

初段で伏線として、源平合戦後に後白河法皇から禁裏の重宝「初音の鼓」を賜った義経。義経の逃避行は危険が伴うため、恋人の静御前を連れて行くわけには行かず形見として「初音の鼓」を託して去ろうとすると、悪漢に襲撃される静を義経の家臣・佐藤忠信(実は鼓の皮となった親を慕う子狐)が現れて救ったのを見て、義経は忠信に静の守護を命じます。

四段目では、義経のいる吉野の隠れ家に到着した静御前の元へ本物の佐藤忠信が謁見しにやってきて、話が噛み合わないことから不信感を募らせる二人。「初音の鼓」を打つと現れた忠信を静が討とうとすると、忠信は正体を明かします。鼓の皮となった「両親」を慕って忠信の姿を借りてそばに仕えていたと。

親子の深い情愛に心を打たれた義経は、狐に鼓を授けます。狂喜乱舞した狐は宙を跳び、義経を狙う敵の夜襲を予知して撃退して吉野の山へと帰っていきます。

ここでも親子の情愛が描かれますが、すし屋の権太よりもファンタジー要素が強いですね。幅広い年齢層、客層に愛される理由がわかります。

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見どころはアクロバティックなケレン

見どころはなんと言っても狐忠信の人間業とは思えぬケレン!

有名な宙乗りはもちろんですが、常に人と狐の間のような手足や首の動きはミステリアスだし、高い段差を軽々と飛び越えたり上からくるんと降りてきたり、ブレイクダンスのように高速で回転したりとまじまじと見ていても理解が追いつきません。

この回では鎌倉方の追っ手と狐の殺陣がダンスのようにリズミカルでアクロバティックなところも面白いですよ。

と、挙げていくと一つの物語なのに全くタイプの違う役柄が山場を作っています。

正統派立役、豪胆な武者平知盛。いなせで情を隠した小悪党、権太。そしてミステリアスで跳び技、軽技をこなす狐忠信。

前述の通りそれぞれの場ごとに上演させることも多いのですが、通し狂言でこの三人を一人で演じ分けることがあり、これは立役として最高難易度と言われています。

1日がかりで歌舞伎を楽しめそうなら演じ分けも見てみたいですね!

『義経千本桜』におすすめのコーディネートは?

さて、そんな『義経千本桜』に着物で挑むなら!

キーアイテムがたくさん出てくるお話ですが、中でも好きな場面の世界観を着物で表すのはどうでしょう?

十倍おもしろい!?歌舞伎ど定番演目大解剖4

知盛の衣装である白・銀がベースのお着物に、波を表す青海波の帯。碇はブローチなんかを帯留めにして、碇知盛をオマージュ。

狐忠信なら桜色の着物に鼓を刺繍した帯、狐のお面が半襟から覗いたり、帯留だったら可愛いかも!

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すし屋の権太の衣装にちなんでカジュアルな格子柄も。

通し狂言を観るなら帯はできるだけ楽に、背をつけやすい帯結びで。
お出かけが楽しくなってくる季節なので、ぜひ観劇もお着物で楽しんでくださいね。

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