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『藤娘』『鷺娘』女方が魅せる究極の美──映画『国宝』でも話題の二つの舞踊 「十倍おもしろい!?歌舞伎ど定番演目大解剖」vol.8

『藤娘』『鷺娘』女方が魅せる究極の美──映画『国宝』でも話題の二つの舞踊 「十倍おもしろい!?歌舞伎ど定番演目大解剖」vol.8

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映画『国宝』では、瑞々しく芸を磨き上げている前半で『藤娘』を愛らしく演じ、クライマックスには美と凄みで圧倒する『鷺娘』を長尺で見せて観客を引き込んでいましたね。

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女方の技量を魅せる演目『藤娘』と『鷺娘』

歌舞伎“ど定番”演目を、初めて知る方には「観てみたい」と思っていただけるように、ご存じの方には「そんな背景があったんだ」などより楽しむ要素が増えるようにと思って続けているこちらの連載、予想以上に読んでいただけているようで光栄です。

今回は舞踊の定番を二つ、一気にご紹介したいと思います。

いずれも映画『国宝』で演じられた女方の価値が試される演目『藤娘ふじむすめ』と『鷺娘さぎむすめ』です。

映画では、瑞々しく芸を磨き上げている前半で『藤娘』を愛らしく演じ、クライマックスには美と凄みで圧倒する『鷺娘』を長尺で見せて観客を引き込んでいましたね。

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今回、この二つの舞踊を特に「女方の技量を魅せる演目」としてより芸術性を高め世界に認知を広げた立役者、坂東玉三郎のこだわりの演出とともにご紹介していきたいと思います。

坂東玉三郎が広げる「女方」の表現

「十倍おもしろい!?歌舞伎ど定番演目大解剖」1

坂東玉三郎は現代において最高峰の女方です。

梨園出身ではないにも関わらず、その美貌だけでなく芸の細やかな研究、努力と古典から現代劇まで幅広く演じる表現力をもって2012年には人間国宝となった、名実ともに「立女形たておやま」です。

演目をそのまま継承するのではなく、新しい解釈を取り入れ物語性を高めたり、究極の美を芸に昇華させる視覚的な演出を考案するなど、女方にできる表現の幅を広げ質を高めたのです。

その一つが『藤娘』『鷺娘』などの舞踊演目です。

『藤娘』のあらすじと背景を解説

「十倍おもしろい!?歌舞伎ど定番演目大解剖」2

『藤娘』は初演が1826年(文政9)と古くから女方の舞踊としてあったものの、元々は旅土産の絵(今でいうポストカード的なものでしょうか)である『大津絵』から遊女が抜け出して舞い踊るコンセプトの、コミカルな部分もある五変化舞踊でした。

もちろん女方の魅力とスキルを伝える演目ではありますが、六代目尾上菊五郎は藤が松の木に絡む=藤の花の精が松に恋するという解釈をしたことで、幻想的な物語性を増しました。

玉三郎はこの解釈をもとに、独自の様式美と衣裳の色彩美を追求し、女方の美の粋を五感で楽しむ演目へと引き上げたのです。

登場は黒い塗り笠姿の娘が大きな藤の花を担ぎ、くっきりとした色合いのコントラストが印象的。近江八景の地名を盛り込んだ長唄に合わせて、浮気性の男に可愛らしく拗ねて見せます。

お次はほろ酔いの色気を見せ、早替わりの後には愛らしさと艶っぽさ、そして最後は、鐘の音が聞こえると夕暮れに名残を惜しみながら辺りに藤の香りを残して幕となります。

『鷺娘』のあらすじと背景を解説

「十倍おもしろい!?歌舞伎ど定番演目大解剖」3

一方『鷺娘』は更に古く、1762年(宝暦12)が初演です。二代目瀬川菊之丞が舞ったのが始まりでした。

こちらは元から人間に道ならぬ恋をしてしまった鷺の精の恋心を表現したものですが、玉三郎はこの演目を国内外で400回以上舞い、世界に女方の舞踊の芸術性を知らしめ多くの芸術家たちの称賛を得ました。

玉三郎が『鷺娘』で特にこだわったのは、鷺の精の心情表現を深め、芸術性を極限まで高める演出でした。

特にクライマックスは、原作から大きく演出を変えます。

元々は、人間に恋するという罪のため地獄に堕とされた鷺が、地獄の責苦に喘ぎ衣裳を逆さまに広げて見栄を切る「ぶっかえり」で歌舞伎らしく終わるものでした。

しかし玉三郎は現代的な感性を取り込み、アンナ・パブロワによるバレエ『瀕死の白鳥』の趣向を参考に、雪の中、徐々に弱って死んでいく白鳥の切なさ、ドラマティックさを取り入れ、グッと引き込まれる視覚的演出に力を入れたのです。

序盤からクライマックスまで、見どころ満載の『鷺娘』

白無垢に傘で顔を隠しても滲み出る美しい立ち姿から始まる舞台。娘の純真な恋心、積もる思いを表し静かに舞う鷺の精に、序盤から観客はスゥーっと感情移入していきます。

早替わりで衣裳がパッと鮮やかな色合いの着物に変わると、町娘の姿で明るく恋の喜びを表現します。

お次は粋な江戸娘。流行歌を交えながら軽やかに。

さらに町娘が続きます。「傘尽くし」という、歌詞にも傘を多く盛り込みながら傘を扱う楽しい舞踊となります。何気なく簡単そうにクルクルと傘を回しますが、実は重く扱いが難しい傘。踊り手の身体能力と高度なスキルを魅せる場面です。

そしてクライマックス!前の場面とはガラリと変わり、地獄で閻魔大王に打ち据えられて苦しむ鷺の精……

早替わりで娘から再び白無垢の鷺=本来の姿に変わると、登場と同じ白でも、今度ははっきりと鷺の羽を模した刺繍が丁寧に施された衣装で人外の者ということがよく分かるように。

腰に垂らした生地は、動くと雪の中キラキラと輝くように絶妙に白から銀鼠色にぼかしをかけたこだわりの糸で縫われ、その美しさに息を呑んで魅入られてしまいます。

舞踊というと、ともするとセリフも無いので単調で長く感じてしまう方も多いのですが、『鷺娘』は早替わりも多く見どころだらけの演目です。中でもラストの見事な海老反りは派手さもあり、役者の身体能力の高さに驚かされます。

女方の美を極め、次の世代へ

男性が女性を演じる「女方」ならではの良さをあらゆる面から納得できるこれらの舞踊。

数十キロの鬘や衣装を纏っての海老反りや、涼しい表情で柔らかく(実は相当重い)小道具を扱うアクロバティックな見せ場はもちろんですが、男性が女性の恋する心情を突き詰めて完成する表現は、より美しく理想化され芸術としての見応えがあります。

昭和の女方の最高峰と謳われた六代目中村歌右衛門が生前、当時大ブームを引き起こしていた若き玉三郎を「人気はあるけど古典はまだまだ」と評していたVTRを見たことがあるんですが、それから数十年、玉三郎はただ姿の良い女方で終わらず、古典演目から現代劇まで幅広く演劇を研究して解釈を深め表現力を高め、絶えず進化と成長を止めなかったんですね。

女方の価値を高め人間国宝となって以降は後進の育成に力を入れ、舞踊も『二人藤娘』『二人(三人)道成寺』など実力のある若手女方とのコラボも積極的に行っています。

これを機に玉三郎の背を見て続く役者たちの珠玉の共演の美に酔いしれるのもおすすめです。

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『藤娘』『鷺娘』におすすめのコーディネートは?

さて、そんな美の詰め合わせを着物で観に行くなら?

この場合、着物文化ならではの「主役を譲る」着こなしはいかがでしょうか?

「十倍おもしろい!?歌舞伎ど定番演目大解剖」4

『藤娘』なら藤柄は避けて、藤が恋する松になってみるとか。

『鷺娘』は、この時期なら黒の単衣に雪輪の刺繍や染めで鷺の舞台に徹してみるのはいかがでしょう?

まだまだ暑い日は続きますが、息を呑むほどの美を全身に浴びて清涼感に包まれたいですね!

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