着物・和・京都に関する情報ならきものと

福はうち~!良き鬼からの厄除け豆 「大蔵流狂言師・茂山千五郎家の365日」vol.7

福はうち~!良き鬼からの厄除け豆 「大蔵流狂言師・茂山千五郎家の365日」vol.7

記事を共有する

室町時代から現代へ、営々と受け継がれてきた狂言文化。その一端を担う大蔵流狂言師・茂山千五郎家の歴史と月行事を紹介する連載です。今回は、立春を前に行われた千本釈迦堂での「おかめ福節分会」で奉納された迫力ある『古式鬼追いの儀』に密着しました。

2025.01.09

まなぶ

初春を寿ぐ儀式「舞初式」に密着 「大蔵流狂言師・茂山千五郎家の365日」vol.6

社寺儀式に欠かせない奉納狂言

節分祭・節分会

立春大吉。

2月の行事といえば、各社寺で開催される節分祭・節分会。

2023.02.10

よみもの

やいかがしと炮烙(ほうらく)奉納 「#京都ガチ勢、大西さん家の一年」vol.2

京都では、四ツ目の方相氏ほうそうしが登場する追儺式ついなしきの他に、節分ならではの狂言や芸舞妓による日本舞踊の奉納などが行われるところがあり、甘酒やぜんざいの無料接待に参道に並ぶ露店での食べ歩きも節分の愉しみのひとつです。

※方相氏……古代中国の伝承に登場する鬼神。追儺式(鬼やらい)で先陣を務める異形の神。

今回は、茂山千五郎家の節分に密着するため、“おかめ寺”で知られる千本釈迦堂(瑞応山 大報恩寺)へお邪魔しました。

古式鬼追いの儀

古式鬼追いの儀

vol.4茂山宗彦しげやまもとひこさんのコメントにもあったように、狂言はもともと野外で演じられていたもの。

宗彦さん曰く、「本来あるべきスタイルやから、ぼくは奉納狂言が大好き!」。

そもそも、奈良時代に中国から伝わってきた「散楽さんがく」という形態模写(ものまね)・曲芸軽業かるわざといった面白おかしい大衆芸能に、日本古来の歌・踊りが加わって平安時代に発展した「猿楽さるがく(申楽)」が、狂言の源流。

平安から鎌倉の時代、寺社仏閣の由緒や神仏について分かりやすく庶民へ伝える手段として芝居という形がとられていたのです。

演じていたのは、社寺に所属する猿楽師たち。これが、「狂言」のはじまりだといわれています。

狂言師たち

当時、この猿楽は、境内や町中で通りすがりの人を相手に演じられていた親しみある芸能でした。

現代で人気漫画を映画化するみたいに、人々は昔は説話を芝居にして楽しんだのです。

おかめ塚へ

おかめ塚へ

鬼役を担う茂山千五郎家の面々

「奉納狂言は、儀式や行事はもちろん庶民の暮らしの中に、笑いとして息づき続けている芸能です」

と、茂山逸平しげやまいっぺいさん。

茂山千五郎家ではいまでも、年間を通して数多くの狂言を奉納しています。

その代表的なものが、北野天満宮の追儺式(鬼を追い払う儀式)での『追儺狂言』や千本釈迦堂の節分会で行われる『古式鬼追いの儀』です。

おかめ像

境内にある「おかめ塚」のおかめさん。ここ千本釈迦堂は、おかめ信仰発祥の地として知られています

今年の節分は2月2日。

おかめ像前で法楽が行われた後、本堂にて節分厄除祈願法要が執り行われます。

法楽

早くから詰めかけた人たちが思い思いの場所をキープして鬼たちの登場をいまかいまかと待ちわびるなか、まずは上七軒の舞妓による日本舞踊の奉納から。番匠保存会による木遣音頭(京都市無形民俗文化財)にて、節分会が幕を開けました。

※番匠保存会……番匠とは高度な建築工事を司る職人(大工)のこと。番匠保存会は、番匠の技術そのものよりも、古くから伝承される番匠儀式を保存する目的で結成された。

舞妓の舞

1227年創建の千本釈迦堂は真言宗智山派の寺院で、国宝の本堂は応仁の乱で唯一戦火を免れた、洛中最古の建造物と伝わる

それが終わると、いよいよ『古式鬼追いの儀』です。

控室で

法楽後、出番までの束の間、舞台袖で一服する茂山宗彦さん(左)と茂さん(右)のお茶目な1カット

おかめさんの笑顔で鬼が改心?!

鬼たち

登場直前、本堂の奥で面をかける出演メンバー

あのお決まりの掛け声「鬼は外~!福は内~!」の「福」は、おかめの別名「お多福」に由来するとか。

そんなおかめさんにゆかりある千本釈迦堂で奉納される『古式鬼追いの儀』は、同寺特有の儀式。

鬼たち

出番を待つオニ―ジャーズ

鬼登場

茂山宗彦さん(右)がボス鬼

登場した鬼たち。小槌を持ったボス鬼に扮するのが、茂山宗彦さんです。

豆まきの様子

豆まきの様子

大暴れする鬼にする=マメをまき、退治しようと試みると――

これはいかん!と、鬼たちは一時避難。

豆まき人が襲われてる様子

豆まき人が襲われてる様子

ほっとしたのも束の間、鬼たちは再び暴れ出します。ついに豆の効力がなくなってしまい、鬼による逆襲リンチで大ピンチ!

おかめさん登場

おかめさん登場!

そこへ現れたるは、福々しい笑顔のおかめさん。ジャーン!!

おかめさんによしよしされるボス鬼

おかめさんによしよしされるボス鬼

おかめさんの微笑みに、ボス鬼もイチコロです。

優しく諭され、よしよしされると……

「これからは打ち出の小槌で福をもたらす良い鬼に、俺はなる!」と改心してしまうのです。

まさに、「笑う門には福来る」!

みんなで豆まき

その後は、みんな揃って招福豆まきタイム。

みんなで豆まき

謡を担当した茂山逸平さん(左)は紋付袴で。おかめ役は茂山茂さん(右)が務めました

同寺の豆はちょっと珍しい殻付き落花生で、うっかりフードや鞄に入っているのもご愛敬。

いただいた豆をアテ(酒肴)に、ふるまい酒を愉しむのも一興です。

豆まき

千本釈迦堂では事前に申し込めば、年男・年女が鬼たちと豆まき共演できると聞きつけ、ちょうど巳年生まれのライター(左)も、せっかくなので参加させてもらいました、の図

椿の花紋

着物は20代の頃に誂えた江戸小紋。屋号にちなんだ椿の花紋の意匠デザインは、別連載「うきうきもの」でも人気の辻ヒロミさんによるもの

まなぶ

うきうきもの

今月の狂言師

茂山逸平

茂山逸平しげやまいっぺい

1979年6月12日、二世七五三の次男として生まれる。4歳で『業平餅』の童で初舞台。
緒形拳主演『将軍家光の乱心・激突』(1989年/東映)の竹千代役に抜擢された以降、NHK連続テレビ小説「京、ふたり」「オードリー」「ごちそうさん」他、狂言以外の舞台やCMなどにも多数出演している。
2009年より、日本舞踊・尾上流家元三代目尾上菊之丞と『逸青会』を、落語家三代目桂春蝶と『春蝶・逸平の一緒に遊びまSHOW!』を主催。愛称は「ぺぺ」「いっぺーちゃん」。

茂山千五郎家家系図

「バタバタしていた1月に比べて、2月は追儺式が終われば新年を迎えてゆっくりできる日がやってきます。ニッパチ=2月と8月は暇な月なのはご存じの通りで、2月は茂狂(茂山狂言会)の月でした。でも、この時季は子どもたちがインフルエンザでダウンすることが多く、10年くらい前から茂狂の開催を3月にしたんです。

狂言師とは関係ないですが、2月といえば世間的にはバレンタインデーですね。小さい頃は洋菓子にあまり興味がなく、チョコレートよりお饅頭が好きな子どもでした。ここ数年は娘が手づくりチョコをくれるので、昔より愉しいイベントになりました」

公演告知

逸青会 京都

2025年3月8日(土)
金剛能楽堂(京都)

2009年より日本舞踊・尾上流家元三代目尾上菊之丞さんと主催している「逸青会」の15周年を記念して、昼夜公演で新作『御礼』を前後編で上演するという趣向。

加えて、中村鴈治郎さんをゲストに迎え、過去作品から『いたりきたり』が再演される。昼夜で、逸平さんと菊之丞さんが同じ役に挑むのは「見どころでもありチャレンジです」と、逸平さん。

サヨウナラバ 狂言Ver.

2025年3月15日(土)~20日(木・祝)
ザ・スズナリ(東京)

わかぎゑふ脚本・演出の同じ演目を違うジャンルで楽しむ「わ芝居」の再演。コロナ禍の緊急時代宣言により2020年公演は中止となり、2022年に変則的対応で上演された『サヨウナラバ』の完全版が満を持して上演される。

芝居と狂言、どちらか一方でも十分だが、両方観れば面白さも倍増!狂言Ver.は、当主・千五郎を筆頭に茂・宗彦・逸平・千之丞が顔を揃える。

撮影/スタジオヒサフジ

2023.01.21

まなぶ

先駆ける春を装う如月 「月々の文様ばなし」vol.11

2025.01.04

まなぶ

正派西川流・西川喜優先生 お稽古時の装い 移ろう季節に寄り添うコーデ 「日本舞踊の愉しみ」vol.4

シェア

BACK NUMBERバックナンバー

LATEST最新記事

すべての記事

RANKINGランキング

  • デイリー
  • ウィークリー
  • マンスリー

HOT KEYWORDS注目のキーワード

CATEGORYカテゴリー

記事を共有する