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キャラクターと世界観を裏付ける“着るもの”の大切さ『とんび』 「きもの de シネマ」vol.12

キャラクターと世界観を裏付ける“着るもの”の大切さ『とんび』 「きもの de シネマ」vol.12

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銀幕に登場する数々のキモノたちは、着こなしやコーディネートの良きお手本。せっかくなら、歌舞伎やコンサートみたいに映画だってキモノで愉しみませんか。今回ピックアップするのは、重松清氏のベストセラー小説を映画化した感涙必至の“家族の物語”です。

©2021ヴァンブック

銀幕に登場する数々のキモノたちは、着こなしやコーディネートの良きお手本。せっかくなら、歌舞伎やコンサートみたいに映画だってキモノで愉しみませんか。今回は、お酒造りに奮闘する職人たちの生き様に思わず乾杯したくなるシネマです。

人となりを描く、“着るもの”の力

ごきげんよう。

春爛漫。うららかな陽気のなか、お花を口実に堂々と野外でお酒が嗜める季節でございますね。新年度が始まり、進学や就職による環境の変化がなくとも、ちょっとわくわくしたり、気持ちを新たにしてみたり。あらためて家族や友人との関係について考える機会も増えるような気がいたします。

そんないまの時期にぜひご覧いただきたい作品が、親子の絆を描いた『とんび』です。

©2022「とんび」製作委員会
©2022「とんび」製作委員会

原作は、二度ドラマ化(NHK土曜ドラマスペシャル「とんび」2012年/TBS日曜劇場「とんび」2013年)された直木賞作家・重松清氏の不朽の名作。

物語は昭和37年から始まり、令和元年までを描きます。舞台となるのは瀬戸内に面した備後市(と東京)。

©2022「とんび」製作委員会
©2022「とんび」製作委員会

人一倍不器用な主人公・ヤスを演じる阿部寛さんと、その息子・アキラに扮する北村匠海さんの親子っぷりが、まさに見どころです。加えて、ふたりを支える町のみんなとの関係性も見逃せません。

阿部さん曰く「ヤスにとっての“家族”は、アキラだけではなく登場人物全員です」。その言葉通りの絶妙な人間関係が、しみじみとした想いを湧き起こします。

アキラが3歳のときに不慮の事故で亡くなってしまった母・美佐子(麻生久美子)の代わりに、町の人々がみんなでヤス親子を手助けします。なかでも、幼い頃からヤスを弟のように世話してきた小料理屋「夕なぎ」女将・たえ子役の薬師丸ひろ子さんは欠かせない存在。

©2022「とんび」製作委員会
©2022「とんび」製作委員会

キャラクターはもちろんのこと、場面ごとに違った装いで見る者の目を愉しませてくれます。

初登場のシーンではかいらしい(可愛らしい)帯が印象的ですし、歳を重ねるとともに渋い色味を巧みに着こなしておられます。

©2022「とんび」製作委員会
©2022「とんび」製作委員会

アキラの卒業式にはいつもよりも淡い色合いのキモノで参列したかと思えば、出産時に病院へ駆け付けたときは焦げ茶色の膝丈ワンピースで落ち着いた雰囲気に。細い白色のベルトとピンクの小さな釦がワンポイントとなり、そっとした華やかさもあって、衣装ひとつで彼女の人物像を浮き彫りにしているのはさすがです。

今回の薬師丸さんの出で立ちは、入学式とお葬式以外は割烹着姿。
たえ子さんにとってキモノは仕事着。キモノを着ることでスイッチが入る――“着るもの”には、オンオフを切り替える効果もあることが分かります。

私事ながら、母から譲り受けたオレンジ色の割烹着は一向に出番がありません。多くを隠してしまう割烹着は実用的ではありますが、少しもったいない気がして……。

着たからには見せたい根性ゆえ(笑)、食のイベントでキモノを着るときには、友人の絵師に依頼して誂えた椿柄の前掛けを愛用しております。

椿柄の前掛け

涙誘う、親子を包み込む温かい人情

閑話休題。

本作の主たる時代である昭和後期は、キモノが町から少しずつ姿を消しつつあった頃。
将棋を指す御仁が白シャツをインしてカンカン帽を被っていたり、呑み屋や八百屋で働く女性がキモノを着ている程度で、西洋化が進む様子が画面から見て取れます。

©2022「とんび」製作委員会
©2022「とんび」製作委員会

お葬式となると、紋付の喪服を身にまとう女性たちに比べて、男性陣はスーツを着用。礼服の場ではまだまだ和服も出番がありますが、卒業式となれば女性の半分が洋服を選ぶご時世です。

劇中お宮参りでは、麻生さんがキモノをお召しになっています。薄桃色の明るい付け下げに山吹色の帯がハレの場に相応しく、彼女の美しさを際立たせています。

©2022「とんび」製作委員会
©2022「とんび」製作委員会

彼ら親子を見守ってきた住職・海雲(麿赤兒)が入院時に着ている寝間着や祭りに不可欠な法被など、日常に健在する和の装いも世界観の構築には重要です。時代を忠実に再現するためにも、“着るもの”は大事な要素だと痛感いたします。

©2022「とんび」製作委員会
©2022「とんび」製作委員会

そして、本作最大の魅力はといえば……。

数限りなく押し寄せてくる「泣きどころ」だと言っても過言ではありません!
この原稿のために視聴していたにもかかわらず、止まらない涙と鼻水に息苦しさを覚えながら拝見。中でも、銭湯での告白が爆泣きポイントでした。

それに匹敵するのが、雪降る海辺で住職とその息子・照雲(安田顕)がヤス親子の背中を温めるシーンです。住職の沁み入るお言葉は、直にお聞きになってください。

©2022「とんび」製作委員会
©2022「とんび」製作委員会

その他、映画オリジナルとなる令和部分の脚本、作品を象徴するかのような海の映像美、仕掛けのあるナレーション、ラストを彩る主題歌(ゆず「風信子」)と見事なまでの調和が、気づけば『とんび』の世界へと魂ごとさらわれること間違いなしです。

多くの「泣きどころ」を、ぜひ劇場で体感してください。その際は、どうかハンカチ(もはやタオルでもいいかも)をお忘れなく!

©2022「とんび」製作委員会
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