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御菓子司 塩芳軒 ”雪”に願いを 「和菓子のデザインから」vol.7

御菓子司 塩芳軒 ”雪”に願いを 「和菓子のデザインから」vol.7

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旬の食材を取り入れるだけでなく、見た目の季節感も大切にする和菓子の世界。季節を少しだけ先取りするところも、きものと通ずる心があります。共通する意匠やモチーフを通して、昔から大切にされてきた人々の想いに触れてみませんか。今回は五穀の精といわれその年が豊作になる吉兆とされる雪輪文様について「塩芳軒」の雪を題材にしたお菓子と共にご紹介します。

塩芳軒『聚楽』

室町時代より織物のまちとして栄えてきた西陣に店を構える「御菓子司 塩芳軒」。この辺り一帯は豊臣秀吉が築いた絢爛豪華な城郭・聚楽第跡でもあります。創業以来つくり続けている代表銘菓「聚楽」をご紹介いたします。

寒さ際立つ冬の「白」

厨房内風景

シュウシュウと湯気をあげて蒸されているのは、薯蕷饅頭。
菓子屋の日常風景ですが、その白さが際立って見えるようになると、外は季節のバトンを冬へと渡す頃を迎えます。

薯蕷饅頭に焼印

ふっくらと蒸しあがった生地の表面にジュ…と押される雪輪の焼印。

「やってみるか?」と任された若い職人の真剣な面持ちもあってか、冬の朝、新雪に踏み出すようなワクワク感と少しの緊張感が漂います。

同じように焼印が施された薯蕷饅頭ですが、仕上げの銀箔のあしらいで少しずつ表情が変わる面白さを見せていただきました。

着物の金彩加工「砂子」のように目の細かい濾し器を通してふりかけると、このように。

銀箔をあしらう

「押し箔」のように箸で大きめの箔をつけるとこのように。

雪輪の薯蕷饅頭

銀箔のあしらい方の違いで菓銘まで変わりそう…と思いつつ、こちらの薯蕷饅頭の菓銘を伺うと、

「店に出すときの名前はもちろん決まっているのですが、このお菓子がどんな風に見えたか、ぜひご自分でも菓銘を考えてみてください」

と店主の高家さんより宿題をいただいてしまいました。

続いて、高家さんがつくってくださったのは、「雪餅」。

つくね芋を贅沢に使ったきんとんを芯となる餡玉にふわりとまとわせた、真っ白な姿。
京都では冬の和菓子の代表格です。

生菓子の作業風景

芯に黄身餡を使うお店が多い印象がある中で、塩芳軒では小豆餡を使っておられます。
指先で器用に餡玉を回転させ、潰さぬように、剥がれぬように、絶妙な力加減できんとんをまとわせていく工程は見飽きることがありません。

きんとんのそぼろもしっかりとした太さ。
みるみるうちに大地を覆っていく雪のようです。

金沢生まれの私は、儚いだけではない雪の強さを懐かしく思い出しました。

生菓子「雪餅」

雪の結晶から生まれた文様

「雪輪文様」は、古くから愛されてきた吉祥文様です。

古来、大雪が降った年の春は雪解け水に恵まれ、稲作が順調で豊作になると信じられていました。雪は五穀の精といわれ、豊作の瑞兆とされていたのです。

こうした雪をモチーフとした文様が使われるようになるのは、平安時代とも室町時代ともいわれています。

雪の結晶が六弁の花のような形であると知られるのは、顕微鏡がつくられるようになった江戸時代に入ってからです。

しかし、それ以前にできた柄もよく見ると、六つのくぼみを持つ六角形で構成されているのは非常に興味深いことです。

雪輪はその名の通り、輪っか状の文様ですが、その内側に疋田柄や草花柄を入れたり、雲取りのように縁取りとしての意匠をになったりと、多彩なアレンジが加えられています。

また、「雪」とついているため冬のイメージが強いものの、季節を問わず使うことができるのも吉祥柄ならでは。

夏の浴衣に雪輪を使って涼を感じさせるというのも、季節感の強いイメージを逆手にとった日本人らしい感性ではないでしょうか。

菓銘に願いを込めて

お茶とお菓子をいただき、すっかり満たされてお店を後にしたところで思い出しました。
大事な、宿題があったのでした。

もし私なら、このお菓子になんと名前をつけるか…。
雪に込められた、いにしえびとの豊穣の願い。
瑞兆としての神聖な存在感。

六つのくぼみを持つ花のような可憐さ。
風に舞う様を思わせる繊細な銀箔の砂子。

瑞花 

私なら、雪の美称でもある「瑞花」と名付けたいです。

みなさまも、もしご自分がつけるならどのような菓銘にするか、考えてみませんか。
薯蕷饅頭の本当の菓銘はどうぞ店頭にてお確かめくださいね。

生菓子「雪餅」、干菓子「雪まろげ」、薯蕷饅頭

雪餅と瑞花(仮)の周りにお干菓子の「雪まろげ」を遊ばせた塩芳軒の雪づくし。

雪に願いを込めて。

新しい年も皆さまにとって実り豊かな一年になりますように。

撮影/スタジオヒサフジ

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