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駆け足で過ぎる!花いっぱいの台湾の春 「台湾きものスタイル考」 vol.4

駆け足で過ぎる!花いっぱいの台湾の春 「台湾きものスタイル考」 vol.4

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日本では桜が咲く時期、台湾では藤の花が真っ盛りとなります。 台湾の北部、都心からも小1時間で行ける「淡水」は風光明媚な場所。そこに、見事な藤棚を一般公開している珈琲農園があります。

台湾の4月

4月、SNS上が満開の桜色に染まる頃…
台湾(台北)の気温は30度を超え、私は、今年初の夏着物に袖を通しました。
そして早くも、2月にオーダーした少し個性的なゆかたの仕立てあがりが待ち遠しくなっています。

駆け足で続く春の花のリレー!

日本では桜が咲く時期、台湾では藤の花が真っ盛りとなります。
台湾の北部、都心からも小1時間で行ける「淡水」は風光明媚な場所。
そこに、見事な藤棚を一般公開している珈琲農園があります。

珈琲農園の藤棚

細い山道を行かなければならないのと、もともと観光のために作ったわけではなかったとのことで、毎年訪れるたくさんの人の波の整理や、駐車場のアルバイト人員の確保に難儀していたらしく、残念ながら一般公開は今年で最後になるのだそうです。

今年は例年よりも気温が上がるのが早かったので、予定していた開花時期も10日ほど早まりました。

仲間うちで「着物を着て藤の花を見に行こう!」と計画していましたが、あまりに早い開花宣言と連日の気温の高さに、私は、夫とひと足先に様子を見に出かけたのでした。

藤棚を見上げて
藤棚の下で日傘を持って

満開のように見えますが、これでも7分か8分咲き。開花宣言から2日目の様子です。

着物で藤花鑑賞

この珈琲農園は淡水に2箇所藤棚を持っており、もうひとつの場所は若干開花が遅かったため、一緒に計画を立てたみなさまとも、散り際に間に合いホッとしながら紫色の世界に浸りました。

それにしてもこの両日は暑くて…
それぞれ、3月の半ばと3月末のこととは、我ながら信じられません。

台湾では日本に比べ2ヶ月ほど先行して、また駆け足にて、季節の花が一斉に咲き乱れていきます。

菖蒲の花
炭の中の木棉花

もうひとつ、3月から4月にかけて台湾で咲く有名な花に「木棉花」という枝花があります。
木棉は中国語で「ムーミェン」、日本語では「キワタ」、木綿と文字の辺は違いますが、「ゆうはな」として木綿の字を使う場合もあります。

種子には白い毛が生えており、まさに名前のとおり、枕や布団の綿などに使います。
日本人にはあまり馴染みのない花で、私も台湾に来て初めて見聞きしました。

花が葉よりも先に咲くのは桜と同じですが、オレンジ寄りの真っ赤な花が一斉に高い木を染めたかのように満開になり、椿のように花ごと首から落ちるのも特徴的です。

お地蔵さまのまわりにも
玄関にて

この木棉花をテーマに春の宴が台中で開かれ、お招きを受けましたので、新幹線に乗って行ってまいりました。

台中での宴に、どんな訪問着で出席するか

台中での宴に出席するのに、中国語の先生でもある友人を伴うことになりました。
私が言葉をはじめ何においても頼りにしている彼女は、茶道や日本舞踊にも精通しており、師範の資格もお持ちです。
彼女が「まだ袖を通していない訪問着が着たい」とのことでしたので、せっかくのお招きですし、会の趣旨としてもいわゆる「ちょっとしたパーティー」と判断し、台北から2人で訪問着を着て出かけることにしました。

この時私は、どんな訪問着を着るか…実はとても悩みました。
薄々感じていたことですが、一般的な台湾人や海外で「着物が好き」とおっしゃる外国人の方々と、私の着物に対する感覚の差をあらためて実感させられたからです。

私は、どなたかとご一緒する際、特に指定がない場合には仰々しいタイプのものは避けるようにしてきました。

好みの問題もありますが、私自身が控えめな美に強く惹かれるのと、着物というだけで目立つのだから、それ以上はやりすぎのような気がしてしまうからです。

ところが、私の考えは「かえって自意識過剰」「どうせ目立つのだし思いきり派手なほうが着物らしい」「着物を着た甲斐があるうえに外国人にも喜ばれる」という意見をいただいたのです。

入り口での着物での立ち姿
牡丹の訪問着

なるほどなぁ、と一度は思い直し、以前ネパールにて、タイ人の友人の結婚式に着用した「煌びやかな牡丹の花の訪問着」と「辻ヶ花の絞りに金銀の織が豪華な袋帯」を用意してみました。

…が、やはり当日になって、抑えた染めとぼかしが美しい、どちらかといえば地味な訪問着に変更してしまいました(笑)

牡丹の訪問着に豪華な帯

ネパールでの結婚式の時は会場に日本人は私一人でしたし、披露宴に華を添える意味もありましたから、躊躇なく着れました。

でも今回は場の趣旨が違うのと、ご一緒する方を立てたい、という思いも働いたのです。

着物仲間と数人で話したなかで自覚したのは、残念ながら私自身の自己肯定感の低さでした。

「パーティーで目立つのは良いことでしょう?!」と屈託なく返された私は、「何に、そして誰に遠慮をしていたのだろう?」と一瞬考えこんでしまいました。

「VIPとして歓迎します」とご招待いただいたのに、何者でもない自分が必要以上に目立つことに躊躇したのです。

台中にて、絵の前で着物の後ろ姿
全身の着物姿

ただ好きなものを着るだけではない場所での着物のチョイスや立ち居振る舞いには、「自分の信念や美意識」と、こちら側が勝手に想像する「先方からの期待」、そしてあるとしたらその「期待に応えたい」という思いとの狭間で心が揺れることがあります。

確かに海外の方々は華やかな色柄を好まれますし、私が派手と感じるものでも十分に受け入れられます。

それでも私は、自分がそれを纏って居心地が良く、まわりの人や物・空間にもそぐう色柄の着物を選びたいのです。

台中で着物姿にて

新幹線乗り場で合流した友人の着姿を目にした時、私は2人が並んだ時のバランスの良さに安堵しました。

結局何が正解だったのかはわからないですし、多分何を着ていっても同じように歓迎していただけたとは思いますが、好みだからということだけでなく、その一枚を選ぶ時には自分の中にある様々な潜在的思考が影響することをあらためて認識しました。

もっとも、軽い感覚で着物を選ぶ日は別にありますし、私は「ハレの日」「ケの日」というメリハリを大切にした着こなしをしたいのです。
相手への思いや、杞憂ともいえるまわりへの配慮をのせられるのが着物(和装)なのですから。

みなさまと記念撮影

そうそう、この日は連日30度を超えていた気温が、突然16度へと大幅に下がった初日でした。
寒波は3日ほど台湾を冬に戻し、袷着物がちょうど良い最後の機会を与えてくれました。

ファッションとしての着物も、文化的側面も

みなさまご存知のように、訪問着に袋帯という装いは、一般的にはお祝いの席での和装となっています。
日本人の一般家庭での感覚だと、出番の少ない種類の着物です。
ところが、普段着物を着ない方や海外では「着物といえば訪問着」と思い込んでしまっている場面によく遭遇します。

いつ何を着るのも個人の自由ですが、着物にも、洋服と同じように場にふさわしいTPOがあります。

普段、スーパーへお買い物に行ったり山へレジャーに行ったりする際には「小紋」。
生地もしっかりとした汚れが目立たちにくいものを選んだり、会社にスーツで行くような感覚とすれば江戸小紋や色無地などが、それに近いイメージでしょうか?!
感覚には個人差がありますので、一概にこれはアリ、これはダメという話ではありません。
洋服でも、パーティードレスを普段に着るのは少し浮きますが、普段にドレスを着るのが好きな方もごくたまにいらっしゃいますから。

「着物は持っているけれど着ない」という方がお持ちの着物は、だいたいが訪問着クラスのお祝いの席で着る「滅多に着ない」ものなのではないでしょうか。
もったいないから着れない、お手入れのことを考えたら汚せない、のです。

それを「普通の着物」だと思い込んでおられる方が多いことに驚きます。

たまに着る「ハレの日」の装いや着姿は写真に残したりSNSにUPしたりしますから、人目に触れる機会も多く、それが、着物は訪問着のような華やかで美しい色柄のものだという感覚を植え付けてしまっているのだと思います。
海外で特に着物のTPOが浸透しない理由は、そんなところにありそうです。

着物姿の帯

さらにはかつて嫁入りの際に持たされた訪問着などは、めったにないお祝いの席に、袖を通されることなく、しつけ糸もついたままの状態で、大量にリサイクル市場や海外に流れました。
安価で美しい、また目をひく訪問着(ドレス)があれば、地味な普段着物よりそちらに人気が集まるのは無理もありません。
確かに美しく華やかですから。

ですが「特別な時に特別な気持ちをのせて装う」といった意味も、「着物が好き」とおっしゃってくださる海外の方々にぜひ伝わるとうれしいなぁと感じるのです。

また逆に、出番がない訪問着を着る機会をわざわざ作るためのイベントもあると良いと思います。お手入れは「着る」とセットで考えますので、気楽にというわけにはいかないのが、現実ですが。

以前の私は、海外の方が着物を着るというだけで、「すごい!」「すばらしい!」と手放しで賞賛していました。
でも最近、それは自国の文化を手放すことになっているのではないか…と思うようになってきたのです。

普段に着る着物も十分美しいこと。
場に合わせて考えて控えた装いや、汚れが目立たない色柄の工夫、丈夫な織り生地を選択することなど…
洋服と同じように、素材や色柄・デザイン・着こなし次第でTPOに合わせて楽しめるものだということまでを理解いただけたら、さらに着物の奥深さや魅力に触れられるのに、と思うようになりました。

私は「ルール」や「決まりごと」と言われている多くのことは、TPOさえおさえていたら、他人が口を出す範疇ではないという考えです。
「着物は着るもの」
人にはそれぞれのこだわりや思い入れがあったり、相反するいろいろなご意見があり、いろいろな着こなしがあります。

その中で「嫌だわ」と思うなら、自分はしなければ良いだけのこと。
また「ステキだわ」と思えば、積極的に取り入れたりも。
洋服のTPOをおさえておけば、大抵のことは「間違い」ではありません。

ファッションとしての着物の存在を認めながらも、文化としての側面もまた、大切に護りたい―
「誰もその本当の姿や決まりを知らない民族衣装」にしないためにも。

藤花の前で日傘をさして

桜の咲くこの時期は、入学式、卒業式のシーズン。
SNS上では、はにかむ若者の隣で誇らしげに美しい着物姿を披露される方々の写真を目にします。

あらためまして、おめでとうございます。
思い出のすべてがうれしさとなりあふれているのが伝わってきます。

ハレの日にはハレの着物を、日常にはケの着物を。

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