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“虚”と“実”が織り成す没入感『八犬伝』 「きもの de シネマ」vol.54

“虚”と“実”が織り成す没入感『八犬伝』 「きもの de シネマ」vol.54

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銀幕に登場する数々のキモノたちは、着こなしやコーディネートの良きお手本。せっかくなら、歌舞伎やコンサートみたいに映画だってキモノで愉しみませんか。この秋注目の大作は、日本初のファンタジー小説『南総里見八犬伝』を大胆かつ斬新なアレンジで描き出す『八犬伝』です。

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2024.10.05

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リアリティを後押しする“虚”パートの飛躍

ごきげんよう、椿屋です。

雑食な本の虫は、和風ファンタジーが大好物。そんなわたくしが、28年の歳月を費やして滝沢馬琴が書き上げた『南総里見八犬伝』を通らず大人になったわけがありません。

©2024『八犬伝』FILM PARTNERS.

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今回ご紹介する映画『八犬伝』は、「作者である馬琴が登場する“実”パート」と「彼が綴る物語の世界を描く“虚”パート」をシンクロさせるというアプローチが斬新な、山田風太郎著『八犬伝 上・下』(角川文庫刊)を原作としています。

原作未履修でも十分に愉しめるため、あらすじは割愛させていただくとして……

本記事では“虚”と“実”、両パートの見どころをお伝えしたく存じます。

©2024『八犬伝』FILM PARTNERS.

©2024『八犬伝』FILM PARTNERS.

まずは、圧倒的スケールで物語を実写化させた“虚”パートから。

何よりも目をみはるのが、VFXを駆使したダイナミックな演出です。

©2024『八犬伝』FILM PARTNERS.

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『八犬伝』の舞台として最も重要なのが「城」。

実は、里見家の滝田城の庭や廊下、最後の決戦の場となる伊皿子城の正門などは、国宝・姫路城そのままの姿が活かされています

その他、滝田城はCG中心につくられ、芳流閣(原作屈指の名場面の舞台となる場所)もほぼCG、伊皿子城はほとんどがセットで、時代背景や地域性はもちろん建築的意匠や美意識まで綿密にリサーチされ、デザインされています。

©2024『八犬伝』FILM PARTNERS.

©2024『八犬伝』FILM PARTNERS.

なかでもとくにリアリティと臨場感を生んでいるのが、芳流閣の屋根瓦!

平場で撮影されるアクション映像との合成を考慮すれば平瓦の方がいいのですが、「城である限りは絶対に丸瓦でなければ!」という美術担当者の主張は見事に功を奏し、激しく美しい戦いが眼前に広がります。

しかも、VFXスーパーバイザーは芳流閣の画をつくるにあたって、まずは城の存在意義から考察したといいます。

殿様という頂点を支える経済基盤が見えないと権力自体にリアリティが担保できない。そのためには、城だけでなく村とそこに暮らす人々も描く必要がある。と、城下町に住む人の生活だけでなく、太陽の光や風の向きといった自然条件もすべて構築されているのです。

ここまでしてこその説得力に、脱帽しかありません。

“虚”パートに出演している八犬士は、いま注目の若き俳優陣たち。

©2024『八犬伝』FILM PARTNERS.

©2024『八犬伝』FILM PARTNERS.

加えて、物語のすべての始まりを担う伏姫ふせひめには土屋太鳳さん、里見家に呪いをかける玉梓たまあずさには栗山千明さんが挑まれています。

©2024『八犬伝』FILM PARTNERS.

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これが壮大なエンタメだと存分に伝える圧倒的映像美は、緻密なCG・VFXと大胆な衣裳、そして役者たちのオーバーアクトにも思える外連味けれんみで生み出されているのです。

創作の現場を再現した“実”パートの説得力

対して、作家の仕事場を完全再現した“実”パートはというと……

とり憑かれたように筆を進める人気作家・滝沢馬琴(役所広司)と、その身に神が降りたかのごとき自然体で筆をとる天才絵師・葛飾北斎(内野聖陽)の掛け合いこそが、最大の見もの

このふたりの競演だけでも、本作をスクリーンで観る価値があります。

©2024『八犬伝』FILM PARTNERS.

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北斎が即興で描く完全オリジナルの下絵のクオリティには驚かされます。

誰が見ても北斎の絵だと納得させるため北斎のタッチを再現しながら、しかも馬琴の心を動かすインパクトを表現しないといけないのですから……美術さんの苦労が偲ばれます。そしてそのご苦労は紛れもなく成功しています。

©2024『八犬伝』FILM PARTNERS.

©2024『八犬伝』FILM PARTNERS.

「台詞はほぼ脚本通りですが、動きは二人のアドリブで、北斎が馬琴の背中を借りて絵を描く流れも、リハーサルのときに内野さんがいきなり始めて、それを役所さんが受ける。

そこへ寺島しのぶさんが大胆に絡み、若手の磯村勇斗さんと黒木華さんも怯むことなく堂々と入っていく。素晴らしい舞台を、特等席で観ているようでした」

という曽利監督の体験を、ぜひ劇場で追体験してください。

いくつものインタビューで、役所さんは息子・宗伯役である磯村さんの役づくりを称賛されています

©2024『八犬伝』FILM PARTNERS.

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病に侵されながらも、残り少ない命の火を削るように、父である馬琴が書く物語の校正をする宗伯が、日に日に衰えていく姿を見事に体現した磯村さん。

目の前でどんどん痩せてやつれていく彼を見ていて胸が痛んだ、という役所さんのコメントにしみじみといたしました。

役者の存在感という意味では、馬琴と北斎が連れ立って鑑賞する舞台『東海道四谷怪談』で、七代目市川團十郎を中村獅童さんが、三代目尾上菊五郎を尾上右近さんが演じているのも見逃せない名シーンです。

インタビュー

尾上右近さんインタビュー

その『東海道四谷怪談』の著者・鶴屋南北(立川談春)と、馬琴が創作についての考えの違いで対峙・議論する奈落での場面も、しがない物書きのわたくしの心を打ちました。

©2024『八犬伝』FILM PARTNERS.

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どのような問答が交わされたかは、劇場でご確認くださいませ。

加えて、これまた書くことを生業とする身として胸に響いたのは、失明してなお執筆を諦めようとしない義父・馬琴のため、ろくに読み書きもできなかったお路(黒木華)が手伝いを申し出る件

©2024『八犬伝』FILM PARTNERS.

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その献身に頭が下がるとともに、彼女の芯の強さこそが晩年の馬琴を支えたのではないか、と目頭が熱くなりました。

もちろん、“実”パートの面々の着こなしも文句なしの素晴らしさです。

“虚”パートがあるからこそ真実味を増す“実”パートの説得力を、肌で感じてください。

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