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世界観を下支えした所作指導とは? 「エミー賞受賞!『SHOGUN 将軍』の座組から」vol.1 女優・こばやしあきこさん

世界観を下支えした所作指導とは? 「エミー賞受賞!『SHOGUN 将軍』の座組から」vol.1 女優・こばやしあきこさん

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世界中が称賛する海外ドラマ『SHOGUN 将軍』で描かれる“真の日本”の姿は、緻密にホンモノを求めて奮闘した裏方の存在があってこそと言っても過言ではありません。太秦関係者に研究者、所作や能楽・茶道の指導者、衣裳のプロなど、本気の時代劇を創り上げた縁の下の立役者たちによる撮影秘話をご紹介するシリーズです。

海外ドラマ『SHOGUN 将軍』のおさらい

真田さん受賞写真

殿こと真田広之さんの手には、作品賞と主演男優賞のトロフィーが

現在ディズニープラスで配信中の海外ドラマ『SHOGUN 将軍』は、映画『ラスト サムライ』(2003/ワーナー・ブラザーズ)以降、活動の拠点をロサンゼルスに移した真田広之さんが主演・プロデュースを務める戦国時代劇

エミー賞に25もの部門でノミネートされ、史上最多となる18冠に輝いた大快挙で注目されています。日本の時代劇が作品賞をはじめとする主要賞を総なめにしたのは革命的なニュースでした。

※エミー賞……アメリカで放送されるドラマ番組に与えられる賞。「テレビ版アカデミー賞」とも称され、アカデミー賞(映画)・トニー賞(演劇)・グラミー賞(音楽)と並ぶ、アメリカで最も権威ある文化賞のひとつ

メインビジュアル

1975年に発表されたジェームズ・クラヴェルの小説『将軍』を原作としてディズニー傘下のFXが製作し、日本クルーも関わって創り上げられた同作。

徳川家康ら歴史上の人物にインスパイアされたキャラクターたちが“SHOGUNの座”を懸けて陰謀と策略を繰り広げる戦国スペクタクル・ドラマシリーズです

数百億ともいわれる製作費をかけた壮大な作品は高く評価され、その真正性が称賛されました。

この連載では、エミー賞受賞後、シーズン2およびシーズン3の制作準備が決まったという朗報に湧くいま、『SHOGUN  将軍』シーズン1の制作に携わったキャスト・スタッフが語る撮影秘話を存分にお届けします!

ホンモノの空気感に必須な「所作指導」

まずインタビューが叶ったのは、作品の世界観にリアリティをもたらすために必要不可欠な所作指導を担われた京都出身の女優・こばやしあきこさん

11か月もの間、撮影地であるカナダ・バンクーバーで過ごし、主に女性陣の所作指導を行なっていた彼女は、ヒロインである戸田鞠子まりこ(アンナ・サワイ)の一の侍女・勢津せつ役として出演もしています

仏光寺にて

「レインクーバーと言われるくらい雨の多いバンクーバーは、日本同様に四季があるからか、松林など日本のようなロケーションがたくさんありました。知らずに見ると到底カナダで撮影されたとは分からないでしょうし、知っていたとしても驚かれると思います」

圧巻の映像美を実現したのは、バンクーバーの広大な大地に建てられた“ホンモノ”を追求したセットやディティールまで目が配られた調度品などの美術の力。そして、そこに生きる登場人物たちの存在により、リアリティあふれる世界観が立ち上がったのです。

「全ての背景でホンモノを伝えるためには絶対に所作指導を入れる必要がある、と真田さんが強く仰っておられて、ご縁があって私が行くことになりました。その際、私では侍の所作を体現出来かねるため、男性の所作指導も入れましょうと提案しました。

後々、私が勢津役に決まったとき、ショーランナーから『AKIKOが勢津を演じればヒロインの背景をよりホンモノにできる』と仰っていただき、身の引き締まる思いでした」

ネックストラップ

現場で着用が義務付けられていたネックストラップの身分証にも”ピリオド・ムーブメント・アドバイザー”の肩書が

「実は日本人が思う『所作』を的確に説明する言葉が現地にはなくて、いろんな言い方を試しながら、最終的には”ピリオド・ムーブメント・アドバイザー”という肩書に落ち着きました。

後々、そういった言葉(概念)があったならエミー賞の部門にもなっていたのでは?そしたら受賞できたかもね! なんて話していました」

モノマネではなく価値観ありきの所作を

こばやしさんは期間中、所作指導者と出演者という二足の草鞋を履きながら、勢津としての出番がないときでも常に現場に詰めていました。

「私が演じた勢津は、細川ガラシャ(玉)に実際に仕えていた侍女・霜にインスパイアされたキャラクター。

ドラマの中でも常に鞠子様に付き従っています。最も近くで彼女を見守っている人物だからこそ、いつでも鞠子様役のアンナさんを間近で見ていられますし、その場でアドバイスもできたのは、とてもありがたかったですね」

こばやしさんアンナさん共演カット

鞠子様に常従う勢津は、頼れる侍女頭

こばやしさんが指導を担当したのは、アンナさんや二階堂ふみさんといった役者だけではありません。

エキストラとして参加していた多くの日系カナダ人たち相手に、着物の着付けはもちろん、立ったり座ったりという簡単な動作から摺り足での歩き方や膳の運び方、身分に合ったお辞儀など、そこに居ておかしくない所作を教えるのも大事な役割でした。

「向こうでは、エキストラではなく”バックグラウンド”と言います。その言葉が表すとおり、多くの方々の努力で物語に奥行きが生まれ、ホンモノの景色が再現されました。

当時のしきたりや立ち居振る舞いの奥にある価値観など大事なことは撮影前に時間をかけてレクチャーしましたが、細々とした動きに関しては、説明がなくても私の真似が上手にできる『勘のよさ』が必要でした」

バックグラウンドの多い場面

名もなき武将らに扮したバックグラウンドの存在が、物語にリアリティと説得力を担保

「なかでもとりわけ印象に残っているのは、私が演じた勢津に従う二の侍女に決まった女性です。

彼女はCOVID班として現場にいたスタッフで、元英語教師という、芝居には縁のなかった人。

所作レッスン中、いつも背筋をピンと伸ばした姿勢を崩さず自らの仕事を全うしている姿を見て、私にキャスティング権はないのですが、あなたもオーディションを受けてみたら?と声をかけてみたんです(笑)。一念発起して挑んだ彼女は、見事に鞠子様の侍女役を射止めました」

※COVID班……撮影はコロナ(COVID-19)禍の真っ只中で行なわれていたため、マスクの着用チェックや密になっていないか等を監視する専用のスタッフが配置されていたという

「アンナさんとはよく視線について話し合いましたし、シーンによって虎永様(真田広之)のどの辺りを見るかも相談を重ねました」

と、立ち居振る舞いだけでなく視線も所作のひとつ、と大切にしていたこばやしさん。

こばやしさんアンナさん共演場面2

いつでも鞠子様の心に寄り添う勢津が嫁入り前からの侍女というふたりの歴史を体現しているこばやしさん

ひと月にわたって行なわれたバックグラウンドを対象とするブートキャンプを振り返って

「とくに侍女たちには、身分による目線の位置を教え込みました。控えているとき、どの辺りを見ていると失礼がなく、それでいて常に主人の要求にさっと応えられるか、いざというときに主人の身を守れるか。

侍女=侍の娘です。ただの下働きではなく、女性であっても侍の心をもって主人に仕える必要があるのです。目は口ほどに物を言いますから、セリフのないバックグラウンドもしっかり目で芝居をしてくれていたと思います」

と語ってくれました。

「苔は日本人のソウル!」が脚本に採用

日本とカナダだけでなく、アメリカ、フランスなど世界中からプロフェッショナルが集まって創り上げた『SHOGUN 将軍』のバックスクリーンでは、出身に関係なく互いへのリスペクトを胸に、ときにはぶつかり合い、ときには譲り合いながら、手を携えて長期間の撮影をやり遂げました。

「それはダメ、あれはおかしいと指摘するのもお仕事ですが、ただ『苔を踏まないで』『畳に靴のまま入らないで』と言うだけではなかなか伝わりませんでした。

ですから『日本人は苔をとても大切にしていて、まして禅を尊ぶ武士にとってはある意味”ソウル”とも言えるもの。失礼にあたるから踏まないで』と説明したら、そこからみんな踏まなくなりました」

鞠子様カット

和の心が伝わった出来事はうれしいおまけ付きだったようで……

「この苔に対する日本人のソウルについては、後に鞠子様のセリフに登場したときは感動しました。

作品に関わるすべての人が真摯かつ真剣に“日本人が見ておかしいと思わないホンモノ”を目指したからこそ、エミー賞という結果に繋がったと思います」

どのようなセリフとなって物語に活かされたのかは、どうか本編でご確認あれ。

インタビューカット

かつてはNHK京都放送局にてキャスターも務めていたこばやしさん。いつも朗らかで明るいムードをまとう

世界に誇れるコンテンツとして注目を集めている日本の時代劇は、作品の減少というピンチに陥っているのが現状です。

時代劇の技を見て盗む現場は多くなく、教えてもらえる機会も僅かになっています。

次世代への継承が危ういいま、エミー賞受賞という看板を背負って逆輸入された『SHOGUN 将軍』が、改めて、時代劇は“日本の宝”だと気づかせてくれました。

たくさんのサインが入った手拭いは宝物

「撮影チームやメイクチームの方々がロゴを使って作ったチームでオリジナルキャップやワッペンなどをくださったので、私もお返しにと、ロゴ入りの手拭いを注文してみなさんに配りました。

撮影に携わっているキャストやスタッフがお世話になった方々に贈り物をするラップギフトは、素敵な習慣ですね」

サイン入り手拭い

自分用の手拭いにはキャスト・スタッフのサインがずらり。「殿(真田広之氏)のもあります♡」と示されたサインの達筆なこと!

「エミー賞の授賞式をバンクーバーで大勢のスタッフがパブリックビューイングで見守っている際に、衣裳部のスタッフさんがその手拭いを首にかけてくれていたのも嬉しかったですね」

と、こばやしさん。

現地でも日本と変わらず毎日着物で生活していたため、持って行った着物と帯はスーツケース4つ分!

「キックボードも着物で乗っていましたし、草履のままで雪の中をはしゃいでいたら『クレイジー!!』って驚かれたこともありましたよ(笑)。

とくに、衣裳さんから後ろの裾にハネが上がらないことを指摘されたのは印象的でした。みんな濡れたり汚れたりしているのに、私だけハネが少なかったのは『摺り足』のおかげですね!」

提供:こばやしあきこ

元日に三つ指揃えて新年の挨拶動画を撮影した凍った湖
提供:こばやしあきこ

着物初心者必見!『きものん』YouTube動画

京都に生まれ育った彼女の実家母屋は、

「学校から帰ってきたら、南町奉行所になっていたり、門の前に籠が停まっていたり(笑)」

というほど時代劇のロケ地として有名。歴史あるエリアと家で育ったことで、自ずと美しい所作や品のある言葉遣いが身についたこばやしさん。

物心ついた頃から、着物も大好きだったといいます。

こばやしさん着姿

お母上から受け継いだケイトウ柄の着物。たとう紙に「門外不出」と記すほどお気に入りだった一枚。小学生の頃に百貨店の呉味の市で一目惚れした帯に、ケイトウと揃いの深紅が映える帯締めを合わせて

「うちは三世代各三姉妹なので、着物はいっぱいありました。自分で着付けられるようになったのは、大学に入ってからですね。大学には毎日着物で通っていました。

NHK時代にも”着物デー”を提案したところ、ニュース以外ならいいよと言ってもらって、着物で出勤していました」

「京都観光おもてなし大使」に任命された彼女は、「もっと着物を着てもらうにはどうしたら?」と考えて、着付け動画を作成・配信することを思いつきます

なんと14年前の2010年、今活躍されている着付け系YouTuberの面々が誕生するずっと前のことです。

2台同時撮影・ノー編集でつくられたYouTube「きものん」は、数ある着付け動画の中で最も視聴されている伝説の動画

「パリ、バリ、カナダ、オーストリア、プラハ……世界のあちこちで『Are you きものん?』って声をかけていただいたことがあります。

おおきに~と答えると、リアルだー!って喜んでくださるんです。

今回の『SHOGUN 将軍』の撮影現場でも、集結していた着付け師さんの中に『きものんで勉強しました!』って方がいらして。呼ばれるべくして呼ばれたんだなぁって思いました」

インタビューカット

『SHOGUN 将軍』
“Courtesy of FX Networks”
ディズニープラスで全話独占配信中

取材・構成/椿屋
撮影/松村シナ
撮影協力/大西常商店

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