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御菓子司 聚洸 秋の足音『萩』「和菓子のデザインから」vol.9

御菓子司 聚洸 秋の足音『萩』「和菓子のデザインから」vol.9

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旬の食材を取り入れるだけでなく、見た目の季節感も大切にする和菓子の世界。季節を少しだけ先取りするところも、きものと通ずる心があります。共通する意匠やモチーフを通して、昔から大切にされてきた人々の想いに触れてみませんか。今回は万葉集で『梅』や『桜』よりも多く歌に詠まれた秋を代表する草花『萩』について「聚洸じゅこう」の菓子と共にご紹介します。

まなぶ

和菓子のデザインから

秋の足音は小さな菓子から

季節”感”とは本当に不思議なものです。

処暑を過ぎたというのに、ジリジリと肌を焦がす感覚。

この身はまだ夏にとらわれていても、和菓子屋さんの硝子ケースに並ぶ翡翠色の愛らしい生菓子を見つけると、少しだけ涼やかな心持ちになります

それは、秋の七草の代表格『萩』を知る人にだけ聞こえる小さな足音かもしれません。

生菓子『萩』

生菓子『萩』

くさかんむりに秋、と書いて萩。

実のように見えるのは葉で、小さなピンクと白の粒が花を模しています。

餡を包む

餡を包む

「僕は先にお菓子の意匠として知って、あとから植物の萩を認識しました」

と笑いながら、手早く白小豆のこしあんをういろう生地で包んでいくのは「聚洸」のご主人・髙家裕典さん。

艶々のういろう

艶々のういろう

シャインマスカットと見紛うばかりの艶々のういろう。

刷毛で片栗粉を叩いていくと、一段落ち着いた表情に変わりました。

当たり前とはいえ、こうした変化も見越して生地の色を染めているのだと思うと、改めて手しごとの奥深さに感じ入る次第です。

ういろうに刷毛で粉を叩く

ういろうに刷毛で粉を叩く

生地の丸め方も、まん丸ではなく少し楕円気味

そこに三角ヘラで葉の筋を入れていくのですが、これも中心一直線ではなく、絶妙なずらしと緩やかな曲線が肝

生菓子の作業風景
生菓子『萩』

初夏の定番である『青梅』にも似ていますが、ちょっとの差で、ちゃんと違って見えます。

「三角ヘラは三つの角がそれぞれ違う形状なんですよ」と裕典さん。

三角ヘラの断面

三角ヘラの断面

尖ってる角と、丸みのある角と、細い溝のある角。

「どの部分で筋をつけるか、よくよく見ないとわからないような差ですが、お店や職人によって表現の違いがあって面白いですよ」

2021.08.18

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小さい秋見つけた! 「きくちいまが、今考えるきもののこと」vol.34

万葉の時代より愛された草花

「万葉集」では、梅や桜よりも多く歌に詠まれたという萩。

「秋の七草」の筆頭ですが、粥で食して親しむ「春の七草」に比べると、いまひとつ現代人には覚えが薄い気もいたします。

きもの好きの方なら、萩の柄はご存じかと思いますが、植物の萩はいかがでしょう?

すぐに草花の姿が思い浮かばない方は、ぜひ京都御所の傍にある梨木なしのき神社へ。「萩の宮」とも呼ばれる梨木神社では、例年9月の第3または第4日曜の前後に「萩まつり」が行われます。

一つひとつは小さな花ですが、500株以上の萩が咲き乱れる風景は圧巻です。

萩は、丸い葉が特徴的。夏の終わりから秋にかけて、白や紅紫色の小さな花をつけます。

実物は慎ましく可憐な印象ですが、たくさんの花をつけることから「繁盛」の縁起物として愛されてきた古典柄です。

文様として見られるのは平安時代から。繊細で写実的な美しさは鎌倉時代には豪華な蒔絵の工芸品にも多く描かれ、明快にデザイン化されたものは桃山時代には武士、江戸時代には庶民にも好まれたといいます。

秋だけでなく夏から先取りしてお召しいただけますし、春の草花とあわせて描かれているものは春秋柄として重宝します

また、3つ1組の葉をデザイン化して描かれることも。

浴衣や夏着物では、小物の合わせ方次第で幅広い年齢の方にお楽しみいただけるのも魅力です。

例えばこんな浴衣ならば、白地にビビットなピンクがチラリと入った博多織の小袋帯を合わせて、萩の花の色を取り入れたポップなコーディネートにしてみるとか、「鹿鳴草」との別名を持つ萩と相性の良い、鹿の帯留などで遊ぶのも素敵ではないでしょうか。

2021.09.09

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秋が深まる前に

最後の仕上げ。

筆で塗った蜜の上に、イラ粉を散らしていきます。

生菓子『萩』

イラ粉を少なめで花の散り際を表し「こぼれ萩」とすることもできる

白と薄紅色の混ざった、やさしい色合いの花が咲きました。

秋本番の深紅や黄褐色の世界とは異なる、初秋ならではの爽やかな風情。

生菓子「萩」

夏から秋への架け橋のような、そんな素敵な意匠の「萩」。

和菓子も、きものも、野の花も、存分にお楽しみくださいませ。

撮影/スタジオヒサフジ

2022.08.21

まなぶ

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