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アイヌと和人の共生への軌跡『シサ<small>ム</small>』 「きもの de シネマ」vol.52

アイヌと和人の共生への軌跡『シサ』 「きもの de シネマ」vol.52

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銀幕に登場する数々のキモノたちは、着こなしやコーディネートの良きお手本。せっかくなら、歌舞伎やコンサートみたいに映画だってキモノで愉しみませんか。今回ご紹介するのは、異なる文化をもつアイヌと和人の確執と共生の歴史を描く『シサ』です。

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ごきげんよう。早めの夏休みで北海道へ飛び、「ウポポイ(民族共生象徴空間)」「阿寒湖アイヌコタン」で予習をしてから『シサの試写に臨んだ椿屋です。

わたくしが心待ちにしていた本作の時代背景は、北海道が蝦夷地と呼ばれていた江戸時代前期

蝦夷を領有していた松前藩とアイヌとの交易に際して起きた争いを、史実に基づき壮大かつリアルに描きます。

©映画「シサム」製作委員会

©映画「シサ」製作委員会
タイトルにある「シサ」とは、アイヌ語で「隣人」を意味し、アイヌ以外の人(=和人)を指す言葉。ちなみに「アイヌ」には「人間」という意味がある

『せかいのおきく』(阪本順治監督/2023年)や『首』(北野武監督/2023年)、NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』などの演技で注目を集める寛一郎さんが主演を務め、激動の歴史の渦に否応なく巻き込まれていく若き松前藩士・高坂孝二郎を熱演

©映画「シサム」製作委員会

©映画「シサ」製作委員会
高坂家の商場はシラヌカ。「白糠」は「シラリ(磯)・カ(上、越える)」に由来し、波が磯を越えて飛沫がたつ「岩磯のほとり」を意味する

アイヌとの交易で得た物品を他藩に売ることを生業としている高坂家。父亡き後、孝二郎は兄の栄之助(三浦貴大)とともに初めて蝦夷地を訪れます。

しかし、思わぬ事件が起こったことで、孝二郎は旅に同行していた使用人の善助(和田正人)を討つため、森の奥深くにあるアイヌコタン(コタンはアイヌ語で「村」)へと足を踏み入れることになるのです。

©映画「シサム」製作委員会

©映画「シサ」製作委員会
アイヌ女性はすべからく、幼少の頃から口の上下や手の甲に入墨をする。この模様は結婚するまで毎年深く広くなっていったという

そこで彼が目にしたのは、アイヌの和人(日本人)に対する反発と高まる蜂起への動きでした。

言葉の通じないコタンでの暮らしのなかで異なる文化や風習による価値観の違いにふれ、それらを理解しようと寄り添うことで己の生き方を見つめ直していく孝二郎の変化こそが、最大の見どころ。

コロナ禍での無理解による差別や偏見、世界各地で勃発している民族や信仰などを理由とする迫害や排斥といった問題を抱える現代において、不寛容な社会に真っ向から立ち向かった本作は、その心意気が胸に迫る傑作です。

アイヌと日本、それぞれの民族衣装

圧倒的な北の大地の自然もまた、見逃せないポイントです。

とくに、オープニングは秀逸

草原を撫でていく風を受けるアイヌの衣装が大変印象的で、幸せな風景のなかに一抹の不穏さを感じさせるシーンは、この物語のすべてを象徴しているかのよう。

©映画「シサム」製作委員会

©映画「シサ」製作委員会
アイヌの人々が暮らす伝統的な家屋を「チセ」という。釘やネジといった人工物は使わず、木や草などの自然物で造られている。部屋の中央には炉が置かれ、上座にはカムイプヤラ(神の窓)というカムイ(神)が出入りする神聖な窓がある

さらには、北海道白糠町の全面的な支援・協力のもと実現したセット建設および撮影によって再現されたアイヌの人々の生活も、本作を成立させるために欠かせない要素です。

今年映画化された人気漫画『ゴールデンカムイ』や、実在したアイヌの少女をモデルにつくられた映画『カムイのうた』といった作品を通して、アイヌ文化への関心が高まっているいま、これほどまでにアイヌを丁寧に描いた映画が上映されることで、多様性への理解が深まることを願わずにはいられません。

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もちろん、アイヌならではの文様刺繍が施された民族衣装も存分に登場いたします。

©映画「シサム」製作委員会

©映画「シサ」製作委員会
独特の模様は刺繍として入れる場合もあれば、アップリケのように縫い付ける方法も

森で負傷し、崖から転落して川へと流されてしまった孝二郎を助けたアイヌの人々が暮らすマカヨのコタンでは、白と赤の揃いの衣服を着ています。

対して、別のコタンからやってきたアイヌの人たちが身に付けているのは青と赤の衣服

©映画「シサム」製作委員会

©映画「シサ」製作委員会

そして敵対する和人の装いは、我々が見慣れた和装姿。孝二郎も、冒頭では同様の武士らしいきものを着ています。

©映画「シサム」製作委員会

©映画「シサ」製作委員会

©映画「シサム」製作委員会

©映画「シサ」製作委員会
孝二郎の母・まさ役の富田靖子さんと、幼馴染のみつを演じた古川琴音さんのきもの姿も、それぞれのキャラクターを引き立たせるコーディネート

クライマックスとなる重要なシーンで孝二郎扮する寛一郎さんが、アイヌの手仕事によって繕われた日本のきものに着替える際の雰囲気の変化に、どうぞご注目あれ。

©映画「シサム」製作委員会

©映画「シサ」製作委員会

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