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100歳の作家・佐藤愛子の人気エッセイ誕生を描く 『九十歳。何がめでたい』 「きもの de シネマ」vol.49

100歳の作家・佐藤愛子の人気エッセイ誕生を描く 『九十歳。何がめでたい』 「きもの de シネマ」vol.49

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銀幕に登場する数々のキモノたちは、着こなしやコーディネートの良きお手本。せっかくなら、歌舞伎やコンサートみたいに映画だってキモノで愉しみませんか。今月の注目映画は『九十歳。何がめでたい』。100歳の直木賞作家・佐藤愛子さんを、90歳を迎えた女優・草笛光子さんが演じたベストセラーエッセイの実写化作品です。

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ごきげんよう、椿屋です。

今回ご紹介するのは、梅雨の憂鬱も吹き飛ばしてくれる痛快なエンタメ『九十歳。何がめでたい』

御年100歳の佐藤愛子先生が断筆宣言後に上梓された同名エッセイを原作とする本作は、草笛光子さんの“生誕九十年記念映画”でもあります。

©2024映画「九十歳。何がめでたい」製作委員会 ©佐藤愛子/小学館

©2024映画「九十歳。何がめでたい」製作委員会 ©佐藤愛子/小学館

監督は、『老後の資金がありません!』(2021年/東映)や『大名倒産』(2023年/松竹)など、エンタメを主軸としながらも独自の視点や社会派な題材を入れ込み、キャラクターを活き活きと描くことに定評のある前田哲監督

個人的思い入れで恐縮ですが、前田監督はわたくしが初めてインタビューさせていただいた映画監督ゆえ、再びご紹介できることになってうれしい限りでございます。

2023.06.23

よみもの

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©2024映画「九十歳。何がめでたい」製作委員会 ©佐藤愛子/小学館

佐藤愛子先生
©2024映画「九十歳。何がめでたい」製作委員会 ©佐藤愛子/小学館

作中、草笛さんの素晴らしいお着物姿が見られるのは4度。意外と少ないですが、それぞれが物語に華を添え、印象的なシーンとなっています。

担当編集・吉川真也(唐沢寿明)の娘の発表会会場へ赴く際にお召しの油滴天目茶碗を思わせるような青と黒のグラデーションが美しい羽織姿(下写真)や、授賞会見でのスタンダードなハレの装い(扉カット)は安定の佇まいですが……

©2024映画「九十歳。何がめでたい」製作委員会 ©佐藤愛子/小学館

©2024映画「九十歳。何がめでたい」製作委員会 ©佐藤愛子/小学館

注目していただきたいのは、執筆依頼にやって来たイマドキ若手編集者・水野秀一郎(片岡千之助)を迎える際のコーディネート。

©2024映画「九十歳。何がめでたい」製作委員会 ©佐藤愛子/小学館

©2024映画「九十歳。何がめでたい」製作委員会 ©佐藤愛子/小学館

九十歳になっても、心は乙女――衣裳が“物を言う”、きものと読者には必見のシーンでございます。

監督曰く、

「切れ味鋭く、肝の据わった、作家としての佇まいをどう表現するか?ヘアメイクやスタイリストにも、知恵を出してもらいました」

とのこと。アクセサリー類で装った写真があまりないなか、黒っぽい大ぶりのリングをはめた愛子先生のポートレートをヒントに、草笛さんがお着物をまとう場面で翡翠の指輪を用意されています

細やかなスタイリング、お見逃しなく!

さらに「衣裳」という点に着目すれば、大熱演のコスプレも見どころのひとつ。

©2024映画「九十歳。何がめでたい」製作委員会 ©佐藤愛子/小学館

©2024映画「九十歳。何がめでたい」製作委員会 ©佐藤愛子/小学館

愛子先生が年賀状にお孫さんと一緒に撮った仮装写真を使われているのは有名な話で、作中でもそれが忠実に再現されています。

衣裳の度に、草笛さん自らメイクを替えての6カット! 渾身のシーンはあっという間ですので、刮目してご覧ください。

自然体で物申す佐藤愛子の生き様に共感しきり

原作となった“一笑両断”が痛快な愛子先生のエッセイに綴られていることは、至極真っ当なご意見ばかり。でもそれがSNS至上の現代では、忖度やら迎合やら炎上回避やらで力強い言葉を発することがしにくくなってしまっています。

そんな生きづらい世の中にこそ響く、愛子先生のお言葉の数々。

「特に新しいことを考えて書いたわけでも、何か特別な思いを込めたものでもなく、相も変わらず憎まれ口を叩くという、そんな気分で」書いたとおっしゃる、愛子節が満載です。

それらは、もちろん映画でも健在。

©2024映画「九十歳。何がめでたい」製作委員会 ©佐藤愛子/小学館

©2024映画「九十歳。何がめでたい」製作委員会 ©佐藤愛子/小学館

続編となる『九十八歳。戦いやまず日は暮れず』も併せて、自然体の愛子先生の魅力がふんだんに盛り込まれたエピソードで構成されています。原作未読の方、映画をご覧になった後に一読されることをおすすめいたします。

原作の魅力をさらに引き立たせているのが、実写化ならではの豪華なキャスティングです。

強烈な相棒となる編集者には、シリアスからコメディまで見事に演じ切る唐沢寿明さん。

©2024映画「九十歳。何がめでたい」製作委員会 ©佐藤愛子/小学館

©2024映画「九十歳。何がめでたい」製作委員会 ©佐藤愛子/小学館

周囲から煙たがられる“昭和のおじさん”を体現されています。

アドリブ満載の単行本の押しつけ合いのシーンは、「いつまで続くんだろう?とニヤニヤしながら見ていました」と前田監督。

©2024映画「九十歳。何がめでたい」製作委員会 ©佐藤愛子/小学館

©2024映画「九十歳。何がめでたい」製作委員会 ©佐藤愛子/小学館

愛子先生の娘・響子を真矢みきさん、孫・桃子は藤間爽子さんが演じ、吉川の妻・麻里子役の木村多江さん、編集長を務めた宮野真守さんらに加えて、「草笛さんのためなら」とオダギリジョーさん、清水ミチコさん、石田ひかりさん、三谷幸喜さんといった豪華キャストが集結。

©2024映画「九十歳。何がめでたい」製作委員会 ©佐藤愛子/小学館

©2024映画「九十歳。何がめでたい」製作委員会 ©佐藤愛子/小学館

なかでも、久方ぶりの共演を果たした草笛さんの実妹・冨田恵子さんの出演は、往年の映画ファンにはたまらないのではないでしょうか。

最後に、本作プロデューサーのお言葉を引用しておきましょう。

「ベンチに佇む姿や机に向かう背中、草笛さんがただそこに居るだけで説得力がある。草笛さんの女優人生と、佐藤先生の作家人生が絡まり合っているような印象を受けました。執筆中、戦争に思いを馳せる横顔には、草笛さんの品性が表れていた」

©2024映画「九十歳。何がめでたい」製作委員会 ©佐藤愛子/小学館

©2024映画「九十歳。何がめでたい」製作委員会 ©佐藤愛子/小学館

失っていくものが多いからこそ、柵からもまた解放され、身軽になっていく——その思わぬ自由が「老いる」ということなのかもしれません。

「老いとは、億劫との戦い」という草笛さんのお言葉が示すとおり、この物語は、ときには少し抗いつつも、概ねを受け入れ、「老い」と上手くつき合っていくためのコツがちりばめられています。そこに籠められている“人生の悲哀と未来への希望”を、ぜひ劇場で受け取ってくださいませ。

きっと、年を取るって大変そうだけどちょっと面白そうって思えますよ。

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