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白石和彌監督が手掛けた高純度な時代劇『碁盤斬り』 「きもの de シネマ」vol48

白石和彌監督が手掛けた高純度な時代劇『碁盤斬り』 「きもの de シネマ」vol48

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銀幕に登場する数々のキモノたちは、着こなしやコーディネートの良きお手本。せっかくなら、歌舞伎やコンサートみたいに映画だってキモノで愉しみませんか。今回は、草彅剛さんとタッグを組み、白石和彌監督が初めて挑んだ時代劇『碁盤斬り』に注目します。

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囲碁を通して描く、矜持を貫く武士の生き様

山滴る、今日この頃。いかがお過ごしでしょうか。

ごきげんよう、椿屋です。

今回ご紹介する『碁盤斬り』は、『凶悪』(2013/日活)や『孤狼の血』(2018/東映)で知られ、アウトローな世界を抒情的に描くことに定評がある白石和彌監督が初挑戦された時代劇です。

主演は、『ミッドナイトスワン』(2020/キノフィルムズ)で第44回日本アカデミー賞最優秀主演男優賞を受賞した草彅剛さん。

©2024「碁盤斬り」製作委員会

©2024「碁盤斬り」製作委員会

原作となったのは、古典落語の名作「柳田格之進」(「柳田角之進」とも書く。別名に、「柳田の堪忍袋」または「碁盤割」)。誇り高き武士の生き様を描いた人情噺です。

公式サイトのINTRODUCTIONに“愛と感動のリベンジ・エンタテインメント”とあるように、本作のテーマは「復讐」です。主人公は、ある冤罪事件に巻き込まれたために脇差一本の食い詰め浪人となった男・柳田格之進(草彅剛)。

©2024「碁盤斬り」製作委員会

©2024「碁盤斬り」製作委員会

故郷である彦根藩を追われ、篆刻てんこくで糊口を凌ぎながら、娘のお絹(清原果耶)と江戸で貧乏な長屋暮らしを送っています。

そんな彼の唯一といっていい趣味が、囲碁なのです。

©2024「碁盤斬り」製作委員会

©2024「碁盤斬り」製作委員会

映画のタイトルが示すとおり、「囲碁」をなくして本作は語れません。

幾度となく映し出される碁盤と碁石は大層印象的で、作品序盤にて早くも、囲碁が武士の教養的嗜みであり、庶民の娯楽であったことがよく分かります。

実は「名人」「死活問題」「一目置く」「定石」「先手を打つ」などなど……囲碁に由来する言葉は多く、それほどに当時の人々にとって囲碁は身近なものだったといえるでしょう。とはいえ、囲碁のルールを知らずとも、案ずることはありません。

作中、格之進が口にする「正々堂々、嘘偽りなく碁を打ちたい」という言葉さえ受け止めてしまえば、物語の核心を摑むことができるのですから。

©2024「碁盤斬り」製作委員会

©2024「碁盤斬り」製作委員会

その格之進の囲碁への実直な姿勢は彼の人柄そのものであり、彼の囲碁仲間となる萬屋源兵衛(國村隼)の商いへの意識をも変化させます。

碁盤を挟んで向かい合う男ふたりの静かな佇まいは大変に美しく、ときに穏やかで、ときに圧倒的な存在感を放ちます。まるで、碁は人生の如きと言わんばかりに――

©2024「碁盤斬り」製作委員会

©2024「碁盤斬り」製作委員会

囲碁に加えて、風に揺れる風鈴、蚊遣り、暑さを凌ぐ水桶。仏壇へのお供え物、月見団子と、季節の移ろいに人の想いを乗せた“画の力”も、本作の魅力です。

何気ない風景や日々の暮らしの端々こそが、スクリーンの中で生きる彼らに血を通わせ、その肌の温もりさえ身近に感じるような命あるキャラクターへと導いているのは間違いありません。これぞ、白石監督の真骨頂!感服です。

©2024「碁盤斬り」製作委員会

©2024「碁盤斬り」製作委員会

「白石和彌監督ならではの、エグみと深みを含んだ美しい時代劇になっていると思います」

格之進の仇・柴田兵庫を演じた斎藤工さんのコメントが、実に的を射ていると思います。

2021.10.09

インタビュー

大島紬で際立つ”静かな迫力” feat. 俳優・片岡礼子「きもの、着てみませんか?」 vol.2-1

力強いが生む、そこに生きる人々の息遣い

仕立てで生計たつきを立てるお絹の、堅実な性格をも表した身なりにも説得力があります。

彼女の帯は、若い娘らしい「文庫結び」。

対して、町ゆく女房たちの「矢の字結び」や昼夜帯の「角出し」、店働きの子どもの「貝の口」に、吉原の遊女たちに見る前結び……と、身分や仕事によってさまざまな表情を見せる帯結びも、これまたリアリティをもたらしています。「きものと」読者にとっては見どころのひとつでしょう。

2024.05.14

まなぶ

しびれるくらい粋でカッコいい!半幅帯の帯結び 「着物ひろこの着付けTIPs」vol.5

「手が遅くて……」と謙遜するお絹に、彼女が仕立てた着物を見分して「一針一針、心が籠っている」と褒める女郎屋の女将・お庚(小泉今日子)の佇まいはピカイチ!

©2024「碁盤斬り」製作委員会

©2024「碁盤斬り」製作委員会

月見の宴に招待されても着ていくものがないと困り顔のお絹に、「こんな年増には派手過ぎる」と帯を譲ってくれ、紅をさしてくれるお庚の存在は、この物語の救いです。

お絹が父・格之進に対して「もしものときはお米に替えるために取っておいたのに」と遠慮した母親の形見である反物から仕立てた一張羅は、彼女によく似合っていました。当該シーンのコーディネート、お見逃しなく。

©2024「碁盤斬り」製作委員会

©2024「碁盤斬り」製作委員会

TPOに相応しい装いはもちろんのこと、お庚の気風がいい様もまた、物語の展開に勢いと活力を注いでいるようにお見受けしました。まさに、恐ろしく効力のあるカンフル剤!

ありそうでなかった、酸いも甘いも噛み分ける女っぷりが活かされている人間関係の描き方に思わず唸った次第です。お庚を演じた小泉今日子さんの「既視感のない時代劇になっていると思います」というお言葉が、何よりもしっくりきました。

そして、お庚と肩を並べるキーマンとして、忘れてはならないのが市村正親さん。

©2024「碁盤斬り」製作委員会

©2024「碁盤斬り」製作委員会

賭け碁の賭場を預かる横網よこあみの長兵衛が、詳しい事情を語らぬ格之進の決死の覚悟を受けて、「ようござんす」と踵を返す際の颯爽とした後ろ姿たるやっ! 江戸の粋がカンストしておりました!!

冒頭からの静なる世界観と、仏のような男が一瞬で鬼と化して物語の空気感が一変する瞬間の衝撃と、その後の生々しい展開。

そして命を賭すクライマックスからの、カタルシスともいえるエンドロールまで。すべてが新鮮で一瞬たりとも目が離せない、時代劇の型も殻も破った新境地な一本です。

ぜひとも!劇場でご覧くださいませ。

©2024「碁盤斬り」製作委員会

©2024「碁盤斬り」製作委員会

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