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アイヌ民族の歴史と文化をいまに伝える 『カムイのうた』 「きもの de シネマ」vol.41

アイヌ民族の歴史と文化をいまに伝える 『カムイのうた』 「きもの de シネマ」vol.41

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銀幕に登場する数々のキモノたちは、着こなしやコーディネートの良きお手本。せっかくなら、歌舞伎やコンサートみたいに映画だってキモノで愉しみませんか。昨年北海道で先行上映された『カムイのうた』が、いよいよ本土上陸!アイヌ民族のユーカ(叙事詩)を美しい日本語に訳した少女の一生を描く物語に注目します。

2023.12.16

よみもの

春画ールさんに聞く!春画の魅力 『春の画 SHUNGA』 「きもの de シネマ」番外編

実在の人物をモデルに描かれる壮絶なる歴史

寒中お見舞い申し上げます

ごきげんよう、椿屋です。
旧年中は作品紹介だけに留まらず監督や出演者へのインタビューも叶い、18本の新作映画をご紹介いたしました。ちなみに、わたくしの鑑賞作品は235本。みなさまはどんな映画を劇場でご覧になったでしょうか。当コラムが作品選びの参考になったとしたらうれしゅうございます。

さて、2024年最初の注目映画は、厳しくも雄大な自然を誇る北の大地を舞台とする『カムイのうた』

実話に基づいた、アイヌの文化についてより深く知ることが叶う切なく美しい物語です。

©シネボイス

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カムイとは、アイヌの言葉で「神」のこと。

独自の文化をもつ先住民であるアイヌの人々は、この世界のすべてに神が宿ると信じ、厳しくも豊かな北海道の自然と長らく共存してきました。ですが、時代の流れと共に、彼らは和人(大和民族)による言われなき差別と迫害を余儀なくされていきます。

©シネボイス

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本作の主人公・北里テルのモデルとなった知里幸惠は、文字を持たないアイヌの文化を初めて美しい日本語に訳した人物として、その功績がいまに語り継がれている女性です。知的で感受性豊かなテルを演じるのは、若手実力派俳優として注目株の吉田美月喜さん。

©シネボイス

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教育という名のもとに民族の言葉を奪うことは、文化や風習や思想そのものを奪う行為。
そうして奪われた民族としての誇りを取り戻すため、テル(吉田美月喜)は「ユーカ」を翻訳し、彼女に想いを寄せるアイヌの青年・一三四(ひさし/望月歩)は軍人になる決意をするのです。

それぞれの進む道を尊重しながら、将来の約束をするふたりの“生き方の選択”もまた、胸に迫ります。

©シネボイス

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マキリ(木彫りの小刀)ムックリ(竹製楽器の口琴)といったアイヌ文化ならではのアイテムも重要な役目をもって登場します。

とくにマキリは、プロポーズをするときに欠かせないアイテム。アイヌの子どもたちは幼い頃から文様を描く練習を重ね、成長すると男性は彫刻、女性は刺繍の技術を磨き、生活のあらゆるものに伝統の文様を施すといいます。一三四が愛用しているマキリの文様にもご注目あれ。

©シネボイス

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ところで、独特な色柄や組み合わせで観る者の目を愉しませてくれる衣装の数々もまた、本作の魅力のひとつ。きものとして同じフォルムにもかかわらず、どこか和人とは違った雰囲気をまとうテルたちの装いも、きものと読者であればついつい目が釘付けになることでしょう。

カムイ宿るアイヌの「ユーカ」に聴き惚れる

この物語で鍵となる「ユーカ」とは、アイヌ民族の歴史を詠い継ぐ叙事詩のこと。

本作の世界観を明確に打ち出しているテルの伯母・イヌイェマツ役の島田歌穂さんが詠い上げるユーカは、どれも魂の叫びのよう。その気高さと迫力に、圧倒されること間違いありません。

©シネボイス

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「島田さんでないと歌えていなかっただろう」と、監督と音楽スタッフが絶賛したユーカは、一度聴いただけでも、その不思議な音の重なりと独特のリズムが妙に耳に残ります。ピシカン、ランラン、ピシカン、ランラン……何を言っているのかは分からないにもかかわらず、ふとした拍子に蘇ってくるのです。これぞまさしく、カムイが宿る響きがもつ力なのかもしれません。

©シネボイス

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テルに希望を与えるアイヌ語研究第一人者の兼田教授(加藤雅也)は、ユーカ「口伝えの文化、民族の歴史、生活に必要なすべての答えを教えてくれるアイヌの宝」と評し、そんなユーカをもつアイヌ民族を「思想や物語が語り継がれている、世界に類を見ない唯一無二の貴重な存在」だと力説します。

©シネボイス

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彼の力強い言葉は敬愛の信念にあふれていて、理不尽に虐げられてきた彼女が民族としての誇りを取り戻すきっかけになります。助言と支援を惜しまぬ兼田教授と妻・静(清水美砂)との出逢いこそが、彼女の行く末に光をもたらすことになるのです。人は、人との出逢いによってのみ生き方を変えることができる、と言いたくなります。

個人的には、外にでかける際には背広姿でキリっとしている教授が、家ではラフな和服でくつろいでいるのも好ましく拝見しました。

©シネボイス

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懸命にユーカと向き合うテルの生き様を通して、生き方の根源にあるべきものや人間の尊厳について考えずにはいられない本作。

過酷ながらも、そこにカムイの存在を信じずにはいられない美しい景色とともに描かれることで、無知から生まれた偏見による差別の醜さが浮き彫りになっていくのは、大変興味深い点です。

とくに冒頭約3分、『アイヌ神謡集』序文を用いて表現したダイナミックな映像美は必見です。

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アットゥシ織の制作現場を訪ねた京都きもの市場の取材動画もどうぞ。

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