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着物でつなぐ”斜めのシスターフッド” 文筆家・岡田育さん(インタビュー後編)「きもの、着てみませんか?」 vol.5-3

着物でつなぐ”斜めのシスターフッド” 文筆家・岡田育さん(インタビュー後編)「きもの、着てみませんか?」 vol.5-3

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数々の著作を執筆し女性の共感を呼んでいる文筆家・岡田育さん。インタビュー前編では、ニューヨークで生活をしながら着物を楽しむスタイルについて語っていただきました。後編では、著書で語られている”斜めのシスターフッド”と着物についてお話をお伺いします。

2023.03.09

よみもの

軽やかに突き抜ける春カラー feat. 岡田育「きもの、着てみませんか?」 vol.5-1

2023.03.13

インタビュー

ニューヨークの着物、東京の着物。 文筆家・岡田育さん(インタビュー前編)「きもの、着てみませんか?」 vol.5-2

40代「着るものがない」から踏み出した

薬真寺香(以下、薬真寺):いろいろなことをやめていたタイミングに着物をはじめられたとのことでしたが、なぜ着物だったのでしょう。

岡田育さん(以下、岡田さん):そもそもは「40代、洋服何着ればいいかわからない問題」でした。

これを着ておけばいいと思っていた定番ファッションも、全身揃えると年齢とともに顔だけ浮いてしまう。突き抜けた派手柄が似合うおばさんに早くなりたいと思っても、それはそれで今はまだ中身が追いつかない。バブルの頃だったらブランド物を着てれば良いという安心感があったのでしょうが、我々の世代はそういうのもないですし、どの売場で、どんな値段の何を買えばいいかさっぱりわからない。

そんなことをTwitterに書いていたら、「着物はいいですよ」と先人たちからたくさんのおすすめが来たんです。

「ちょっといいコットンワンピースを買うくらいの値段で木綿の着物を仕立てられますよ」

「スターターキットは2~3万円からありますよ」

「一枚あれば帯や小物を変えてたくさん楽しめますよ」

ってお告げのように、着付け解説のYouTubeリンクやなんかが送られてきて、熱い勧誘を受けました。

文筆家・岡田育さんんの着物姿

薬真寺:熱い勧誘(笑)。私も身に覚えがあります。着物はいいよ、頼りになるよ、と誰彼となく囁いてきました。

岡田さん:私はワンシーズンでどんどん服を買い替えていくようなファッションフリークではないけれど、おしゃれしたくないわけじゃない。そんな時に「着物ですよ」と言ってくれた人たちと私の気質は、どうやら似ている。これは着物ありなのかも……?と。

薬真寺:たしかに。

岡田さん:10代の頃は服に無頓着でしたし、20代の頃は仕事着にお金がかかる。コスプレとかゴスロリとか渋谷系とか、着るもので自己表現することに憧れはあってもそこまで振り切れなかった。どんな服を着ていいかわからなくて、全身黒で揃えてました。スティーブ・ジョブズみたいにずっと同じ格好でいられたら、と思っていたくらいです。

でも着物を着るようになって街を歩くと、「ステキですね」って声をかけられる。その時に、若い頃の私も本当はおしゃれしたかったのかもしれない、と気づかされました。

薬真寺:すごく分かります。

文筆家・岡田育さんんの着物姿

岡田さん:40代の今となっては、若い子だらけのゴスロリのお店にも平気で入って「着物に合うおもしろいアイテムないですか?」と訊いてますからね。そうすると、店員さんも熱心に教えてくれるんですよね。

薬真寺:パンクファッションやロリータと着物界隈は、意外と近しいんですよね。ヴィヴィアン・ウエストウッドのロッキンホースは舞妓さんのおこぼ(履物)からインスパイアされた、という説もあったり。

岡田さん:今日び好んで着物を着る人は、大和撫子というよりも、反骨精神のカタマリでしょ。そういう点で共通しているのかもしれません。

薬真寺:そうですね、トラディショナルとパンクどっちも好き、というタイプの方は着物と相性良いのかも。

岡田さん:昔やりたかったことを今やれているなと思うんです。若い頃の、本当はおしゃれしたかった自分が慰められ、救済されていく。

薬真寺:いい話。しみじみします。

岡田さん:まぁ、昔よりも目が肥えてしまってお金もかかりますが……凝りはじめるとキリがないじゃないか、一枚あれば足りると誘ってきた人、大嘘つき!と思っていますが(笑)、それ以上に得られたものが大きくて、一歩踏み出してみてよかったです。

文筆家・岡田育さんんの着物姿

着物を着るようになったからわかること

文筆家・岡田育さんんの着物姿

岡田さん:もともとは冨永愛さんのようなスレンダーな方がモダンに着ていらっしゃるのを真似したかったんですが、最近の心境の変化として、和装のプロポーションが洋服の時よりぽってり見えるのは案外嫌いじゃないな、絹の重ね着って豊かなものだし、それはそれでかわいいなと思うようになりました。

中年が着るんだから、たっぷりゆったりラグジュアリーに見えるのも悪くない。着物ってそういうものなんだって、これも着てみないとわからなかったことですね。

薬真寺:着てみないとわからなかった、という気づきを一つ一つ大切にしながら着物に向き合ってらっしゃるのが素敵です。今の育さんが、あの人の着姿いいな、って感じるのはどんな方ですか?

岡田さん:樹木希林さん、白石加代子さん、富司純子さん、シーラ・クリフさん……テイストはそれぞれですが、自分が着るようになると御本人のこだわりが強い方にパッと目を奪われますね。

今の自分が真似したいというよりも、60歳、70歳になった時に自分がそうなっていたいなと思いつつ、いろいろな冒険をした上でそこにたどり着いている、年上の方の姿をよく見て学んでいます。

時代劇の役や場面に合わせてゆるっと着ていらっしゃるなとか、重鎮として貫禄を出すスタイルにしていらっしゃるなといった”着こなし”に目がいくようになりました。着物を着慣れている方は着姿が違うと感じます。私は今回は薬真寺さんに任せっきりですが……この経験を糧に精進します!

文筆家・岡田育さんんの着物姿

2023.03.13

よみもの

女優・富司純子のワードローブ拝見! 『椿の庭』 「きもの de シネマ」vol.2

斜めのシスターフッドと着物

文筆家・岡田育さんんの着物姿

薬真寺:私、育さんの最新の著作『我は、おばさん』(集英社)に出てくる『更級日記』のエピソードが特に好きなんです。

育さんが小学生の頃、親戚のおばさんから『ポーの一族』をはじめとする少女漫画をごっそりもらった体験が、同じようにおばさんから『源氏物語』を贈られた『更級日記』の作者・菅原孝標女と重なる、という話。

私自身40代独身で子どもがいないこともあり、母→娘のような直線ではない関係を結ぶことが年々増えてきていることもあって、育さんのおっしゃる”斜めのシスターフッド”にとても共感しました。

『更級日記』の「実用品や必需品は母親が用意するだろうから”ゆかしくたまふなるもの”(欲しがっているもの)をあげましょう」っていうのもすごくリアルですよね。

※シスターフッド……女性同士の連帯

文筆家・岡田育さんんの着物姿

岡田さん:私の母方の祖母は、女学校を出て高校の先生になって、当時の田舎では才媛という扱いだったと思います。懇意にしている呉服屋さんで着物を仕立てて、晴れの場では着物姿という人だった。私も成人式には振袖を借りましたし、他にもたくさんの上等な着物を持っていたはずなんですが、生前にほとんど処分してしまっていたんですよ。

自分が着物を着るようになって、おばあちゃんは絶対センスの良い着物を持っていたはずなのに、私は受け継げなかったな、継承を断ち切ってしまったなと、悔やまれました。

でも祖母の着物は受け継げなかったのに、”斜めのシスターフッド”であるところの親戚のおばさんから漫画を受け継いだというのもおもしろいですよね。これはこれでよかったと思うことにしています。

薬真寺:私は、”斜めのシスターフッド” “非お母さん”の衣装として、現代において実は着物がぴったりなのでは?と思っているんです。

岡田さん:確かにそうですね。ネットで年代物の着物をポチりながら、これは何十年も前に、私に似た誰かが袖を通したものなんだなと思うと、会ったことのない見知らぬおばさんのクローゼットから着物を借りているような気持ちにもなります。これって究極の”斜めのシスターフッド”だなと。自分は誰かの姪で誰かのおば。私よりも年下の譲り手もいるかもしれないですけど、着物年齢で言えば私はまだ下も下なので「ありがとう、いただきます!」という気持ちで着ています。

血縁から血縁へ家単位で受け継がれる着物もすばらしいけれど、逆に、着物で繋がる縁、好きなものが似ている人から譲られて、自分より似合う誰かに渡していく、そんな斜めの関係性を紡いでいけたら、それが最大のうれしいことだろうと思います。

文筆家・岡田育さんんの着物姿

※半衿、帯締め、帯揚げ:スタイリスト私物

構成・文/青葉鈴 greenery_aoba
撮影/坂本陽 minami.camera
ディレクション・スタイリング・着付け・ヘアメイク/薬真寺 香 ___mameka_

撮影協力
「東京タワーで、あいましょう。」計画
https://tta-keikaku.jp/

特別協力
株式会社TOKYO TOWER
https://www.tokyotower.co.jp/

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