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浮世絵の題材はこんなにも幅広い! 「浮世絵きほんのき!」vol.4

浮世絵の題材はこんなにも幅広い! 「浮世絵きほんのき!」vol.4

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”浮世絵コンシェルジュ”の畑江麻里さんが解説する「浮世絵きほんのき!」。今回は…浮世絵に描かれる幅広い題材について。 武者絵、戯画、花鳥画など、様々なジャンルをご紹介いただきます!

2022.12.15

まなぶ

浮世絵はどうやって作られる? 「浮世絵きほんのき!」vol.3

浮世絵に描かれるものは?

前回vol.3では、1枚の浮世絵版画がどのようにできあがるかをご紹介しましたが、今回は、

浮世絵に描かれる題材にはどのような種類があるのか?

その幅広さをみなさまにご覧いただきたいと思います!

題材によって呼び方が異なる浮世絵

浮世絵は描かれる題材によって呼び方が異なります。

初期は「美人画」と「役者絵」が中心に刊行され、そこに天保期(1830~44)から盛んに描かれるようになった「風景画」を加えた3つが「浮世絵三大ジャンル」と呼ばれています。

その後さらに、他の題材を描いた作品が徐々に増えていき、江戸後期には「武者絵」「戯画」「花鳥画」など、さまざまなジャンルが存在するようになりました。

ちなみに、現在では一般的に「美人画」「風景画」「戯画」「花鳥画」のように呼ばれていますが、「画(が)」というのは明治時代に作られた言葉で、江戸時代からあった言葉ではありません。

明治時代にできた言葉の「美人画」も、江戸時代は「美人絵」や「女絵」と呼ばれ、江戸時代に「美人画」と書かれている作品も「びじんゑ」と読まれていました(この「ゑ」は「え」と読みます。他にも、江戸時代は絵師のことを「画師」とかいて「ゑし」と読んでいました)。

浮世絵三大ジャンル

美人画

喜多川歌麿の代表作《當時三美人》寛政5年(1793)頃 大判錦絵 メトロポリタン美術館蔵

喜多川歌麿の代表作《當時三美人》寛政5年(1793)頃 大判錦絵 メトロポリタン美術館蔵

当時のアイドルや美しい吉原の遊女や芸者など、文字通り美しい女性を描いたのが「美人画」です。

今でいう、人気の女優・タレント・アイドルなどのグラビアやブロマイドであり、さらにはファッション誌や広告の役割も果たしていた「美人画」。

江戸時代には「美人絵」「女絵」と呼ばれていました。

初期には主に吉原の遊女などが描かれ、女性の名前や風俗を描いた作品は、遊郭の案内書の役割も担っていたのです。

歌川国貞(三代豊国)《新吉原京町壱丁目 角海老屋内 八千代》天保4年 (1833)項 大判錦絵 足立区立郷土博物館蔵

歌川国貞(三代豊国)《新吉原京町壱丁目 角海老屋内 八千代》天保4年 (1833)項 大判錦絵 足立区立郷土博物館蔵

鈴木春信《団子を持つ笠森お仙》明和5、6年(1768、69)頃 中判錦絵 東京国立博物館蔵

鈴木春信《団子を持つ笠森お仙》明和5、6年(1768、69)頃 中判錦絵 東京国立博物館蔵 出典:ColBase(https://colbase.nich.go.jp/)

それが江戸中期になると、一般の町娘も描かれるようになります。

このとき題材になったのが、vol.2でもご紹介した「笠森お仙(かさもりおせん)」をはじめとする、江戸の庶民に広く知られ実在した「評判娘」。

そして江戸後期には彫りや摺りの技術がより一層発達し、緻密かつ華やかな柄の着物をまとった作品も見られるようになっていきます。

役者絵

東洲斎写楽の《三代目大谷鬼次の江戸兵衛》東京国立博物館蔵

東洲斎写楽《三代目大谷鬼次の江戸兵衛》 寛政6年(1794)大判錦絵 東京国立博物館蔵 出典:ColBase(https://colbase.nich.go.jp/)

当時人気の歌舞伎役者を描いたのが、「役者絵」。

浮世絵版画のなかで「役者絵」は、最も多く刊行されたと言われています。

歌川国貞(三代豊国)《四代市川小団次の黒手組助六、初代河原崎権十郎の牛わか伝次》安政5年(1858)大判錦絵二枚続 足立区立郷土博物館蔵

歌川国貞(三代豊国)《四代市川小団次の黒手組助六、初代河原崎権十郎の牛わか伝次》安政5年(1858)大判錦絵二枚続 足立区立郷土博物館蔵

「役者絵」は現在も最も多くの数が残っている浮世絵のジャンル。江戸中期・明和の終わりには役者の似顔絵が描かれるようになり、ますます盛んになります。

歌川国貞(三代豊国)《さかい町 中村座楽屋之図》文化10年(1813)大判錦絵三枚続 国立国会図書館蔵

歌川国貞(三代豊国)《さかい町 中村座楽屋之図》文化10年(1813)大判錦絵三枚続 国立国会図書館蔵

「役者絵」には、描かれた歌舞伎役者のブロマイド的役割があったことに加え、毎月変わる芝居の演目・役者・役柄・演出などの情報が描きこまれたポスターや案内書でもあり、他のジャンルよりも速報性が求められました。

そのため役者の姿が大写しで描かれた作品だけではなく、劇場や楽屋の中に居る場面を描いた作品、さらには役者の日常、人気役者と名所背景を組み合わせた作品など、描き方も様々なバリエーションがあります。

歌川国貞(三代豊国)《東海道五十三次之内 戸塚驛 八代目市川團十郎の早野勘平》嘉永5年(1852)大判錦絵 国立国会図書館蔵

歌川国貞(三代豊国)《東海道五十三次之内 戸塚驛 八代目市川團十郎の早野勘平》嘉永5年(1852)大判錦絵 国立国会図書館蔵

風景画

葛飾北斎《冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏》天保2年 (1831)項 大判錦絵 メトロポリタン美術館蔵

葛飾北斎《冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏》天保2年 (1831)項 大判錦絵 メトロポリタン美術館蔵

古典の和歌に詠まれた有名な風景、宿場や街道の風景などを描いたのが「風景画」です。

日本絵画の世界では、風景画はもちろん古くから主要なジャンルでしたが、浮世絵版画において多く刊行されるようになったのは江戸後期になってから。当時は「風景画」ではなく、「名所絵」と呼ばれていました。

歌川広重《東海道五拾三次之内 日本橋》天保4年 (1833)項 大判錦絵 足立区立郷土博物館蔵

歌川広重《東海道五拾三次之内 日本橋》天保4年 (1833)項 大判錦絵 足立区立郷土博物館蔵

五街道が整備されて庶民も快適な旅行ができるようになったことで、「名所絵」も人気を博して数多く刊行されていきます。

その”名所絵ブーム”をけん引した代表的な絵師が、かの有名な葛飾北斎と歌川広重でした。

三大ジャンル以外の多様な浮世絵

相撲絵

歌川国貞(三代豊国)《新版勧進大相撲之図》安政元年(1854)大判錦絵三枚続 山口県立萩美術館・浦上記念館蔵

歌川国貞(三代豊国)《新版勧進大相撲之図》安政元年(1854)大判錦絵三枚続 山口県立萩美術館・浦上記念館蔵

相撲の力士を描いた「相撲絵」というものもあります。

力士を題材とした「相撲絵」には、その立ち姿をはじめ、土俵入りや取り組みの様子も描かれています。

歌川国貞(三代豊国)《駒ヶ嶽峰五郎》文久元年(1861)大判錦絵 山口県立萩美術館・浦上記念館蔵

歌川国貞(三代豊国)《駒ヶ嶽峰五郎》文久元年(1861)大判錦絵 山口県立萩美術館・浦上記念館蔵

「美人画」や「役者絵」と同様、「相撲絵」は早くから浮世絵の1ジャンルとして刊行されています。

また力士の顔貌は「役者絵」と同様に、その人物の特徴をとらえた似顔表現を巧みに用いて描き分けられています。

武者絵

歌川国芳《八犬伝之内芳流閣》天保11年(1840)頃 大判錦絵三枚続 山口県立萩美術館・浦上記念館蔵

歌川国芳《八犬伝之内芳流閣》天保11年(1840)頃 大判錦絵三枚続 山口県立萩美術館・浦上記念館蔵

歴史や故事に登場するヒーローを描いたのが「武者絵」です。

江戸時代後期に読本(現代の小説)が流行すると、物語の名場面を描いた浮世絵が刊行されました。

『平家物語』や『太平記』などの軍記もの、『水滸伝』など中国の豪傑もの、『南総里見八犬伝』や『椿説弓張月』などの物語もの(稗史絵、物語絵)。

さまざまな読本の名場面が絵画化されました。

歌川国芳《通俗水滸傳豪傑百八人之壹人 浪裡白跳張順》文政末~天保前期(1828~33)頃 大判錦絵東京国立博物館蔵

歌川国芳《通俗水滸傳豪傑百八人之壹人 浪裡白跳張順》文政末~天保前期(1828~33)頃 大判錦絵 東京国立博物館蔵 出典:ColBase(https://colbase.nich.go.jp/)

戯画

歌川国芳《猫の当字 なまづ》天保末期~弘化初期(1843~47)大判錦絵 山口県立萩美術館・浦上記念館蔵 (2)

歌川国芳《猫の当字 なまづ》天保末期~弘化初期(1843~47)大判錦絵 山口県立萩美術館・浦上記念館蔵

現在のイラストレーションや漫画にも通じる滑稽な絵を描いた「戯画」。江戸時代は「戯れ絵」、「狂画」とも呼ばれました。

歌川国芳《金魚づくし 百ものがたり》天保(1830~44)後期頃 大判錦絵 東京国立博物館蔵 (2)

歌川国芳《金魚づくし 百ものがたり》天保(1830~44)後期頃 大判錦絵 東京国立博物館蔵 出典:ColBase(https://colbase.nich.go.jp/)

歌川国芳《みかけはこはゐがとんだいゝ人だ》弘化4年(1847)大判錦絵 山口県立萩美術館・浦上記念館蔵

歌川国芳《みかけはこはゐがとんだいゝ人だ》弘化4年(1847)大判錦絵 山口県立萩美術館・浦上記念館蔵

ユーモラスな表現を用いた浮世絵のことで、何体もの人の体で顔ができあがった作品や、植物や動物を擬人化した作品など、現代のイラストレーションや漫画にも通じるもので、洒落を楽しんだ江戸っ子たちの当時の嗜好やセンスが伺えます。

花鳥画

葛飾北斎《芍藥 カナアリ》天保(1830~44)期 中判錦絵 東京国立博物館蔵

葛飾北斎《芍藥 カナアリ》天保(1830~44)期 中判錦絵 東京国立博物館蔵 出典:ColBase(https://colbase.nich.go.jp/)

動物や花、鳥、魚介や虫などを描いた「花鳥画」もあります。

人物はふくまず、動物や花や鳥、魚介や虫などを描いた浮世絵で、江戸時代は「花鳥風月」とも呼ばれました。

中国からも影響を受けたとも言われており、古来より伝統的テーマとして描かれてきました。

歌川広重《月に雁》天保(1830~44)前期 中判短冊錦絵 東京国立博物館蔵

歌川広重《月に雁》天保(1830~44)前期 中判短冊錦絵 東京国立博物館蔵 出典:ColBase(https://colbase.nich.go.jp/)

今回ご紹介したもの以外にも、浮世絵にはさまざまなジャンルがあります。またの機会にご紹介させていただきますね!

渋谷の芸者・鈴子姐さんのお着物を着て

畑江麻里さん

昨年11月に無事に双子を出産しました。

現在、渋谷円山町の芸者・鈴子姐さんと浮世絵と日本舞踊を紹介するコラボ企画を計画中です。出産前に鈴子姐さんが私に似合いそうな着物を貸して下さり、企画に使用する写真を撮影しました。

お腹が大きかったので、ゆったり着物を着ています。

畑江麻里さん
渋谷円山町の芸者・鈴子姐さんと

最終回となる次回もどうぞお楽しみに!

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