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夢は、至高の仏を創ること。 京仏師 宮本我休さん(後編) 「川原マリア×令和の若手職人」vol.6

夢は、至高の仏を創ること。 京仏師 宮本我休さん(後編) 「川原マリア×令和の若手職人」vol.6

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灌仏会に公開となった前編に引き続き、SNSでも注目される宮本我休さんにインタビュー。雅号の由来やある狐との出会い、そして令和の職人に求められるポイントなどについて伺います。

川原マリアが訪ねる令和の職人

令和を生きる職人とは。

着物の図案家として職人を経験し、「Forbes Japan セルフメイドウーマン100」に選出された川原マリアさんが訪ねる伝統工芸の「今」と「未来」とは。

“自力で道を切り拓くこと”について、活躍されている若い世代の職人とともに考えます。

©️Tomokazu Mukai
©️Tomokazu Mukai

前編に引き続き、京もの認定工芸士にも認定されている京仏師、宮本我休さんにインタビューいたしました。

宮本我休さん
工房の前で談笑する二人

ある狐と雅号の縁

マリア
マリア

前編では、仏師になられた経緯などお伺いしましたが、そもそも「我休(がきゅう)」さんという雅号の由来はどこからきているのでしょうか?

我休さん
我休さん

これには、逸話がありまして。普通は、師匠から一文字もらうのが通例なんですが、師匠と作風があまりに違ったので「自分でつけたら?」と、冗談半分に言われていて。

「我休」という名前に最初は抵抗があったと話す宮本さん
我休さん
我休さん

よく師匠に「我が強い事が、君のウィークポイント」とも言われていたので、名前を呼ばれるたびに自分を律することができるよう「我を休める」=「我休」がいいかな、と思っていたんです。
でも、なんだか雅号をつけるのが少し恥ずかしいという思いが、何処かにあったんですね。

我休さん
我休さん

独立して、最初に社交の場に出ないといけない機会があり本名でいこうと思っていたんですが、当日朝、いつもの山を朝散歩してたら、一匹の狐が山道をトボトボ歩いてきて。

「狐がトボトボ歩いてきて…」
「狐がトボトボ歩いてきて…」
我休さん
我休さん

ボロッボロのしょぼくれた狐だったんですが、僕をずっと凝視してきて、また山に隠れて行ったんですけど…、その狐を見て「人生後悔したくないな」と強く思ったんです。すぐ道を引き返して「我休」の名刺をたくさん刷って、その日の晩からこの雅号を名乗りました。

マリア
マリア

そんな逸話が!狐は何かを伝えにきてくれたんでしょうか?

我休さん
我休さん

本当は「白い狐が現れて天啓が…」とか言いたいのですが、現実はボロボロの狐でした(笑)。
「後悔するなよ」「俺みたいになるなよ」って伝えにきてくれたのかもしれないですね。

「後悔するなよ」と狐が伝えてくれた…?
「後悔するなよ」と狐が伝えてくれた…?
マリア
マリア

京都の山の麓にはよく動物がいますけれど、狐はあまり見かけないですよね。

我休さん
我休さん

珍しいと思うんですが、どうやら本州狐がいるらしいですよ。でも不思議なことに、それ以来一度も見てないんですよね。

木が在りたい姿のままに

マリア
マリア

木って「生き物」だと思うのですが、そのあたりで苦労することはありますか?

我休さん
我休さん

あります。本当に予想がつかないんです。修行時代に、樹齢何百年の木から銃弾が出てきたことがありました。会津藩の白虎隊の頃の銃弾が埋まってそのまま成長したのでは!?と想像しています。

驚くマリアさん
マリア
マリア

そんなこともあるんですね!

我休さん
我休さん

それは稀な例ですが、彫っていったら顔のところにフシが出てきたり…それはやり直しになりますし。もうさすがに「木口」っていう切り口を見て、なるべくそういうことがないように見極められますけどね。

木の断面について説明する宮本さん
我休さん
我休さん

最近でいうと『広目天像』という四天王の一体を作っていたのですが、楠の木で、仁王立ちで作るつもりだったのが木目にかなりうねりが出てきて。少し腰をくねらせたほうが動きが出るかなと思い、途中で転換したんです。

現時点で我休さんが一番気に入っている作品
現時点で我休さんが一番気に入っている作品『広目天像』
©️宮本我休 氏 Instagramより
我休さん
我休さん

木がこうして欲しいという形を感じる。キザかもしれないけど、わかってくるんです。何百年も生きてきたものだから、こう収まりたいという木の意志が、見ててわかるんですね。

世間に知ってもらうきっかけは、達磨シリーズ

マリア
マリア

独立されて軌道に乗り始めたのは、何年目くらいからでしたか?

我休さん
我休さん

二年目位からですかね。一年目は本当に試行錯誤でした。
最初は仕事もなくて、六畳一間でボーっと、床の間に飾ってあった父親からもらった達磨大師の掛け軸を見てたんです。世の中にもっと仏師を知ってもらわないといけないな、と。

我休さん
我休さん

達磨の丸こい形ってみんな知ってますよね。仏教の中で、市民権をえてるモチーフってあんまりないんですよ。達磨を自分なりに面白い形にしたら、世の中に認知いただけるかなと思って始めたのが、達磨シリーズです。

達磨シリーズ
我休さん
我休さん

それを作ってみたところ、京都伊勢丹で出品してみないかというお誘いがあって。
いろんな作家さんが出していたんですがみなさん忙しく作品だけ出して帰られるところ、自分は暇だったので、2週間ずっと朝から晩までいたんです。道行く人に話しかけたりして。

我休さん
我休さん

そしたらたまたま、お坊さんが修復依頼をしてくださったり、百貨店の方も面白がってくれたり。
それが、作家としての最初の一歩かなとは思いますね。

人気の干支『福々』シリーズ

マリア
マリア

干支シリーズは何がきっかけでお創りになったのですか?

干支『福々』シリーズ
我休さん
我休さん

『福々(ぷくぷく)』シリーズですね。
前から干支のご要望はあったんですが、こういう仏像とは違う彫刻作品は「自分の中で欲しいもの」を作るのでずっと考えていて。ある時なんとなく閃いてきました。

夢は至高の仏を創ること
我休さん
我休さん

「お釈迦様に年始の挨拶に、各々の好きなものを持ってお届けに行く姿」にしようと。
なぜか最後の”猪”からはじめたんですけど、毎年ありがたいことによく売れて秋から年末まで忙殺されてしまうので、ありがたいことではありますが体数制限をかけようかと思ってます。
夢は「至高の仏を創ること」なので、なるべくそこに時間を割きたいんです。

我休さん
我休さん

干支シリーズは弟子に任せたいけど、どうしてもマスターは僕が作らないといけない。十二年一周作ったら、もうやらないと思います(笑)。

弟子の育成も行う
弟子の育成も行う

既成概念を壊せる職人は残る

マリア
マリア

伝統産業って、どうしても斜陽産業という側面があると思うのですが、職人さんで自発的に食べていける人と、生活も苦しいという方がいると思います。そのあたりは何が違うとお考えですか?

宮本さん
我休さん
我休さん

一番最初に淘汰されていくのは「中間加工の職人」なのかなと。
0〜1を生み出す方じゃなくて、各工程の1〜2、2〜3などの中間加工の部分を担う職人ですね。職人にはその2パターンがあって、後者は業界の衰退などの影響を一番に受けてしまう。

談話する二人
我休さん
我休さん

これからの時代は、やはり0〜1を創造できる人が強いと思います。ただたとえ中間加工の職人であっても、提案力次第でどうにかなるのではとも思いますね。
今は少なくなったとはいえ仕事が回ってくるという状況が、かえって真綿で首を絞められてる感じなのではないかな。そこを打破していけるか、峠を越えられるかが課題であって。提案力・企画力・技術力があれば、生きていけるかもしれないですね。

職人について分析する宮本さん
我休さん
我休さん

お金ってやっぱり大事で、生活していけてこそ創作ができるわけで、自分の単価上げていくのは当然の至上命題だし、弟子の給料も上げていきたいなと思います。そのためには、単価を上げるしかない。だけど、利益を追いすぎてもダメだし、追わなさすぎてもダメだなと。

マリア
マリア

なるほど。最近だと3Dプリンターなども出てきていますが、今後彫刻の世界にも大きく影響してくるのでしょうか…

我休さん
我休さん

そうですね。ちょうど今、仏像を3Dに起こそうというプロジェクトも始まっています。
僕は共存していく道を考えています。今後より3Dプリンターが身近になって、安価に造形できる時代がくるのは間違いないですから。

我休さん
我休さん

中途半端なものは技術の進歩で淘汰されていくでしょうし、人間にしかできない唯一無二の総合的な技術とクリエイティブな才能がある一流の職人や作品は、ある種アンチテーゼとして残っていくでしょう。

造形中の『異形の仏』は0から創造する
造形中の「異形の仏」。0から創造する
作品を眺める宮本さん

もう少し歳をとったら着物を

マリア
マリア

ところで、「きものと」は主に着物に関するメディアなのですが、お召しになることはありますか?

我休さん
我休さん

僕は普段着ることはないんですが、兄が茶道をしているのでよく着ています。
あと、僕ももう少し歳をとったら、ガッツリ着てみたいと思っています。男性の着物は簡単だと聞きますよね。作務衣は作業着として優秀なので、普段から着ますしね。

マリア
マリア

メンズは本当に楽で、慣れた方だと1〜2分でお召しになられますね。
Instagramで拝見したのですが、お嬢さんと息子さんの七五三の晴れ姿も大変愛らしかったですよね!

我休さん
我休さん

最初は慣れなくてグズっていましたが、写真は撮らせてくれるから不思議ですよね(笑)。

千年先を意識した創作と伝統

マリア
マリア

最後になりますが、我休さんにとって「伝統」とは何でしょうか?

我休さん
我休さん

僕の立場から言うと、彫刻の伝統は「黄金比」です。
仏像に関しては9割9分、千年前に決められた伝統のルールにのっとって作ります。そのルールを「儀軌(ぎぎ)」というのですが、胸の幅とか手の位置とか決まっているんですね。

比率について説明する宮本さん
我休さん
我休さん

例えば坐像仏だったら、「座面から髪の生え際まで」と「両膝の幅」が1:1の正方形になっています。
ここが狂うと、安定感がなくなる。それを伝えるのが役目なんです。

我休さん
我休さん

その「儀軌」は、千年以上前に定朝(じょうちょう)が定めたものなのですが、他の大陸から来た文化を模倣していたものが「和様」と呼ばれるMade in Japanの仏像のルールとして決められたんです。
それが後の運慶・快慶に繋がっていく。その点と点がずっと引き継がれての千年の歴史と軌跡であって、僕もその点のひとつにすぎないんです。

マリア
マリア

そのルールを、時に、崩したくはならないものですか?

千年先を意識した補修や仏像制作
我休さん
我休さん

面白いことに、決まった寸法の中でも、作る人によって全く別の仏になります。
制限の中でいかに自分の表現ができるか、というのが楽しくなるので、逸脱したいとか思わなくなる。
八百年前の仏像と比べてどうだろう?ということも、そのルールの中だから比較できるし、「令和」というひとつの点がまた八百年後どうみられるかという視点にもなる。
歴史と対話しながらやる仕事だから、そういう気持ちは出てこないですね。

説明する宮本さん
我休さん
我休さん

千年前に決まった定朝の黄金比。それを崩そうとした時代もあったようですが、やっぱりこの決まりにおさまっているので、僕はそれを伝えるまでです。
修復や創作についても、我々仏師は、数百年後そして千年後も美しく残る工夫を時代毎にバージョンアップさせていく努力をしています。

川原マリアの令和装コーディネート

シルクロードと時代の流れを意識して

今回のコーディネート

今回のインタビューにあたって意識したのは、「シルクロード」と「時代の流れ」。

仏像も着物も、はじめはシルクロードを経て異国からの文化が日本で定着し、独自の発展を遂げたもの。決められたルールの中での表現が楽しまれ、また着物の形は少しずつ変化しながらも固定され、描かれる紋様はその時代や流行を反映するものでした。

着物は、オリエンタルな唐花菱がモチーフとなった紬。龍郷柄のようにも見えます。
唐花はシルクロードから由来した紋様の代表ともいうべきもの。時代時代の流行も、脈々と受け継がれてきた技術や歴史とともに創られていきます。

タートルネックに洋服のベルトで

背面

インナーには着物の柄とリンクさせたボルドーのタートルネックを着て、帯の代わりに広幅の洋服ベルトを締めています。
リボンのカチューシャとリボンの靴を合わせ、「令和」らしい新しい装いに。

伝統を繋ぎながらも、日常着では既成概念を壊しながら遊ぶ。そんな歴史との戯れ方もありそうです。

撮影/弥武江利子

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