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組み合わせによって光るもの。 作家・綿矢りささん(インタビュー後編) 「きもの、着てみませんか?」 vol.3-3

組み合わせによって光るもの。 作家・綿矢りささん(インタビュー後編) 「きもの、着てみませんか?」 vol.3-3

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数々の賞を受賞しつつ、現在も精力的に執筆活動を行っている作家・綿矢りささん。インタビュー前編では、作家として女性を描き続ける理由を語ってくださいました。後編では、ご自身と着物との関わり、そして今後の展望について。引き続き着物姿にてお話しを伺います。

作家・綿矢りささんの柔らかで凛とした着物姿

数々の賞を受賞しつつ、現在も精力的に執筆活動を行っている作家・綿矢りささん。薬真寺 香さんによるスタイリング編では、思わずハッとする着物姿をみせてくださいました。今回は、作家としての綿矢さんの想いについてお話を伺いました。

作家・綿矢りささんをお迎えしてのインタビュー後編は、本の街・神保町にあり、1万冊以上の絵本とおいしいカフェのある「ブックハウスカフェ」にて絵本を手に取りながら。

かわいらしい絵本の数々に、思わず綿矢さんの表情もほころびます。

綿矢さんの着物にまつわる過去・現在・未来を伺うと、文学と着物が共通してもつ魅力についても垣間見えました。

人生の節目を彩ってきた着物

京都生まれの綿矢さん。着物との思い出を伺うと、いくつものエピソードをお話しくださいました。

絵本のページをめくる、作家・綿矢りささんの着物姿

綿矢りささん(以下、綿矢さん):原体験は、七五三で弟と一緒に着物を着たことですね。

着物は祖母が買ってくれた赤とピンクの子供らしいものだったんですけど、かわいらしくて気に入っていました。洋服と違う感じが新鮮で、神社の砂利のところを草履で歩くのが大変だった感触や、袴を着せられた弟がぐずっていた情景を覚えています。

京都はお祭りが多いので、学生時代は友達と一緒に祇園祭へ浴衣でいったり、大人になってからは成人式や卒業式で着せてもらいました。結婚式も和装で、白無垢に綿帽子をつけて。真っ白なのですが、迫力があって印象的でしたね。

普段着るほど着物と距離が近いわけではないのですが、人生の節目節目で着せてもらってきました。着物は気持ちが引き締まるので、好きです。

神保町ブックハウスカフェにて、絵本を手にした綿矢りささん

綿矢さんの作品と着物

薬真寺 香(以下、薬真寺):京都が舞台の作品『手のひらの京』の中で、お見合いのような場に臨む登場人物が着物を着ていくか散々悩み、最終的には洋服にするという場面がありました。

そして出かけた先で「着物を着てこなくてよかった」と感じる、あのくだりがものすごく印象的で。逡巡のさなかの、「着物を着てゆく勇気が出ない」という心の声も含めてとてもリアルでした。

着物だと相手に余計な気を使わせてしまうかも、とか、私自身過去に何度も考えたことがあります。今でも判断に悩み身内に相談する時もあるのでとても響きましたし、よくぞこのことを書いてくれた!と感じました。

綿矢さん:悩みますよね。京都育ちで、子どもの頃は舞踊やお茶などの習い事に行っているちょっと年配の方が着ているのをよく見かけたのですが、同年代や少し上のお姉さんたちはそんなに着ていなかった。

京都はもともと着物のお店も多いし、観光地として盛り上がるにつれて着物姿の方も増えて身近ではあるのですが…
とはいえ、いつ着たらいいのかな、普通の日に気軽に着ていいものか、と迷った経験はあります。

絵本を楽しむ、綿矢りささんの着物姿

薬真寺:着物に限らず、作品に出てくる洋服や小物の細かい描写や登場人物の感覚に共感することが多いです。
河原での職場のバーベキューにヒールの高い靴で現れた人に感じたこと、とか。こういったことは実体験に基づいているのでしょうか?

綿矢さん:変な服を着て来ちゃったから早く帰ろうとか、あらたまった場所にスニーカーで行っちゃったとか、たくさん歩く場面で痛い靴を履いてきてしまったというのもそうだし、洋服や小物選びでその日一日が変わってしまう経験はたくさんありますね。

薬真寺:そんな心の動きを掬い取ってくれるところがうれしかったです。これからも折に触れ思い出すと思います。

型があるからこそのおもしろさ

薬真寺:これから先、着物を着るとしたらどのような場面で着たいですか?

神保町ブックハウスカフェにて。作家・綿矢りささんの着物姿

綿矢さん:小説家の方は着物でパーティーに来られる方も多いので、私も年齢が進んだら挑戦してみたいなと思っていました。

他の先生方がお着物を着られているのを見ると、素敵だなと思うんです。みなさんそれぞれ着方が違って、作風とも通じるような個性があって。ご自身の趣味と、似合うものが重なっている着こなし方には憧れます。

薬真寺:着物や帯は、形がきまっているからこそ、着る人の内面やこれまで生きてきた背景が出やすいものだと思っています。型が決まっているからこその楽しみというのは、俳句や短歌とも近いのかも。

綿矢さん:布地などの種類があまりに豊富なので気づきませんでしたが、たしかに形は同じですね。はめなければならない型があるからこそ、そこからはみ出る個性があるというのは納得です。

組み合わせによって光るもの

組み合わせによって新たに光るものがあるというのは、「文章」と「着物」に共通するところのよう。

本好きの作家・綿矢りささん、絵本を手に。

綿矢さん:言葉にも古いものから若者言葉までありますが、文章のなかで年代の違う言葉を組み合わせると、違和感が生まれ調子が狂う分緩急がついて、読んでるな、というドライブがかかる感覚があります。

今日のスタイリングも、着物のみを着付けてもらった時は上品で女性的な繊細さを感じましたが、帯を合わせ、帯締めをした時にスパイスのように現代っぽさが加わったので驚きました。

私にとっては想像もつかない合わせ方だったのですが、亀甲が繊細なお着物にビシッとあって、意外なものの組み合わせできっちり調和している。着物は歴史が長い分、遊び方もたくさんあって素敵ですね。

薬真寺:組み合わせや裏地を変えるといったちょっとしたことで見え方が変わり、掛け合わせが無限大なのがおもしろいところです。

今日着物を着ていただいて、綿矢さんならではの着物スタイルはまだまだ追求しがいがあってあらためて興味深いなと感じました。文壇の場でのお着物姿が楽しみです。

綿矢さん:自分なりの着こなしを探求してみたいですね。

本好きの作家・綿矢りささん

バッグ

『Yosuke Fujii』
2014年、デザイナー 藤井陽介によって設立される。有史以来生まれた色、 形に着想を得て一点一点手描きで表現されるドレスをはじめ、 現代に生きる女性の生活に添いながら、 着用する事で人類の文化とその未来に想いを馳せる事ができる衣服を提案する。
HP : https://www.yosukefujii.com/concept/
お問い合わせ先:藤井服飾デザイン 03-6804-0065

藤井陽介
1987年生まれ。 イギリス、 ロンドンのセントマーティンズ美術学校を卒業後、 数年に渡りヨーロッパ各地に滞在する。帰国後、 画廊勤務を経てブランドを立ち上げる。皇室をはじめ、財界や芸能界の顧客のためのドレスをデザインする。
Instagram : https://www.instagram.com/yosukefujii0108/?hl=ja

帯締

有職組紐 道明
江戸時代初期の1652年(承応元)に上野池之端で糸商として創業して以来、組紐づくりを生業とする老舗。伝統を受け継ぐ東京の老舗として、雑誌などで数多く紹介されている。
https://kdomyo.com/

有職組紐 道明

江戸時代より東京・上野で組紐を製作し続ける「道明」。道明が取り組むのは、日本で脈々と受け継がれてきた、組紐の長い歴史の上に立脚したものづくり。

※半衿、帯揚げ、髪飾りはスタイリスト私物

構成・文/青葉鈴 greenery_aoba
撮影/坂本陽 minami.camera
ディレクション・スタイリング・着付け・ヘアメイク/薬真寺 香 ___mameka_

取材協力

ブックハウスカフェ
東京都千代田区神田神保町2-5 北沢ビル1F
営業時間 11:00~18:00 年中無休(年末年始を除く)
https://bookhousecafe.jp/

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