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林帯芯工場 帯姿を決める「帯芯」 真摯にものづくりに取り組むその姿勢とは

林帯芯工場 帯姿を決める「帯芯」 真摯にものづくりに取り組むその姿勢とは

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普段何気なく着付けをしている、帯。その帯の中に入っている帯芯…皆さんはご覧になったことありますか? すっきりとした着姿を叶えるにはなくてはならない帯芯。今回は帯芯工場にお邪魔して、糸から帯芯になるまでを取材してまいりました。

今回お邪魔したのは、愛知県西尾市にある「林帯芯工場」。
西尾市のある三河地方(愛知県東部の地域)は古くから綿の生産が盛んで、帯芯といえば三河…と言われるほど、この地方で製造された綿帯芯は多くの帯に使われています。

公園の隣、ひっそりとした建物の奥から、織機の音が聞こえてきます。
手作り感のある、「林」マークの門がかわいらしい。

今回ご案内くださったのは、林賢治社長。

織物を営まれてから三代目。
先々代は酒屋さんで使われるような前掛や、足袋の裏地などを中心に織物工場を創業。
帯芯も作っておられましたが、戦時中に華奢禁止令が発令されると、華やかな着物や帯に替わって軍服を織り上げる工場として稼動することに。
戦後、日本が活気を取り戻し呉服の販売数が増えるにつれ、帯芯の需要も高まり、林帯芯工場は業界一の生産高を誇る工場にまで発展したそうです。

創業100年を迎えてなお、真摯に帯芯作りに取り組んでおられます。

林社長がまず見せてくださったのは、帯芯が織り上げられる前の横糸。
綿をほぐして糸を紡ぎ、晒して真っ白にして、大きな筒状に巻いたら…

各織機で使えるような、より小さいサイズに巻きなおされます。
フォーンという甲高い音を立てて、糸が巻きとられてゆきます。

 出来上がった横糸が、糸の太さごとに分けられ箱に詰められていました。1枚分の帯芯に、およそ3本分の横糸が使われているとのこと。

ここからこの「シャトル」という木の枠に入り、織機にかけられます。

こちらが帯芯専用の織機。

縦糸はそれぞれが綜絖にかけられています。 このあたりは帯本体の作り方にも似ていますね。

2階に12台ほど、1階には50台ほどの織機が並んでいます。

2階の織機は1台ずつがそれぞれの動力で動くようにされていますが、1階の織機はなんとすべての織機が一つの天井にある滑車で動かされているとのこと!

天井にある大きな滑車から…

それぞれの織機の小さな滑車に長ーいベルトでつなげられ…

一気にこの台数の織機が動く様は圧巻の一言!

横糸が納められたシャトルが左右を行き来するたびに「ガッチャンガッチャン…」と金属音が奏でられ、その音が何台にも重なって…どんどん真っ白な帯芯が織り上げられていきます。

2階の織機は独立動力のため、1分間あたりの回転数が多く、早く作りたい場合はこちらを使う。
逆に太めの糸を使いシャトルの行き来がそれほど多くなくて済む場合は、1階の織機を使う…など使い分けをされているそうです。

林帯芯さんで作られている帯芯は、3種類の横糸、4種類の縦糸を掛け合わせて12通りの厚さがあるとのこと。
追加で表面を針で引っ掛け起毛加工をするかどうか、柔軟仕上げの加工をするかどうか…などで多用な種類の帯芯が作られています。

これは一番細い横糸と太い横糸の差。歴然とした差です。

こちらは林帯芯工場さんで作られている、一番地厚の帯芯。
芯というより…まるで八寸帯そのものを触っているかのような分厚さ!
七五三の帯に使われる芯だそう。

他にも能衣装や舞妓さんの帯には、綺麗にたれを作りたい、と言う希望からこういった厚手の帯芯が好まれるようです。

織機置き場には、霧吹きが。
かなりの強さで細かな霧状の水が噴出していました。

繭をほぐして一本の糸を紡ぎだす絹糸と違い、綿糸は綿の繊維を撚りながら一本の糸状にしていくため、乾燥していると繊維がばらばらになってしまったり、弱くなってしまうそう。
綿糸が弱くなると織っている最中に糸が切れて、不良品ができやすくなってしまうため、出来る限り湿度は高く設定されているようです。

「ただ湿度が高すぎても、織機が錆びやすくなってしまうから…湿度調節とメンテナンスは大変だね」と林社長。

ちなみにこちらの織機は、おなじみTOYOTAの前身となった豊田自動織機社製。
1階の機械で一番長いものは、60年以上も使い続けられているようです!

さてこの帯芯の生地、約300mの長さに一気に織り上げられた後、こちらの部屋で帯1本ずつの長さに切り分けられます。

これが帯100条分の帯芯100枚!分厚い!
なかなかこの形でお目にかかることはありません。
因みに京都きもの市場では、この帯芯の束をお仕立屋さんにお渡しし、帯を仕立てていただいています。

お客様のお手元に届く場合は、ここから1枚ずつ巻かれ、包装され、店頭に並ぶわけですね。

「最盛期は朝4時から夜の11時まで、2000台の織機がひっきりなしに動いていたこともあったんです。」と林社長。
ただ昨今の呉服産業の衰退とともに生産量も減らさざるを得ず、帯芯工場も段々と減少。

林社長は語ります。
「くず糸を寄せ集めて作った不織の帯芯は確かに安くて手に入りやすいけど、繊維を固めていた糊(のり)が取れて、すぐよれよれになってしまう。
糸から作って、きちんと織った帯芯は手間がかかるけど強くてしなやか。やっぱり綺麗な帯姿でいて欲しいから、きちんとしたものをお届けしています。」

現在は息子さんとともに、一家で帯芯作りに取り組まれているそう。
「僕より神経質に品質にこだわって作ってますよ」と林社長は笑っておられました。

お孫さんも夏休みに帯芯作りに携わられ、文集に工場の様子を執筆されたとのこと。
その一文をご紹介します。

——–
わたしは夏休みの間、おじいちゃんの帯しん工場のお手伝いをすることにした。おじいちゃんにそのことを伝えたら、またくしゃっとした笑顔になって喜んでくれた。
「何を手伝ったらいい。」
と、私が聞くと、
「糸からぬのを作る、ぬのをたたむ、ふくろに包んでラベルをはる、はがきを書く、電話をする、ほこりがいっぱい出るから、そうじもこまめにする。数え切れない量だよ。」
わたしは言葉が出なくなってしまった。おじいちゃんは、にやにやしている。
「ど…、どうしてそんなにいっぱいの仕事があるの。」
おじいちゃんはにっこりして、
「全国の呉服屋さんに、三河の帯しんをとどけるためだよ。おきなわから北海道まで全国にお客さんがいるんだ。」
と言った。



※「文集 にしお(小学校高学年版)」より抜粋
——–

何度も着用して、ハリがなくなってきたかな?という時は、帯芯を新しいものに付け替えればまたハリも復活します。

京都きもの市場では現在、お仕立ての際にはすべてこちらの林帯芯工場さんで作られたものを使っています。
帯姿を決める上でも要になる帯芯のこだわり。
表には見えないけれど、帯を締めるときにふと感じていただければ幸いです。

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