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”守るべき”という考えが滅びの始まり― 飴細工職人 手塚新理さん(前編) 「川原マリア×令和の若手職人」vol.3

”守るべき”という考えが滅びの始まり― 飴細工職人 手塚新理さん(前編) 「川原マリア×令和の若手職人」vol.3

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令和を力強く生きる若手職人に「自ら道を切り拓くこと」についてインタビュー。飴細工職人集団『浅草 飴細工 アメシン』の棟梁である手塚新理さんに、今に至るまでの道のりや、現代をサバイブする職人がどう伝統と向き合うべきかについて伺いました。

川原マリアが訪ねる令和の職人

BARで物想いにふける川原さん
photo by 松永亨

着物の図案家として職人を経験し、「Forbes Japan セルフメイドウーマン100」にも選出された着物デザイナー 川原マリアさんが訪ねる伝統工芸の「今」と「未来」とは。

“自力で道を切り拓くこと”について、活躍されている若い世代の職人とともに考えます。

談笑する2人
旧知の仲の2人

今回は、東京で2店舗と本工場を経営しながら飴細工職人として活動されている『浅草 飴細工 アメシン』の棟梁、手塚新理(しんり)さんにインタビュー。

実は旧友であるおふたり。

気心の知れたフランクな雰囲気のなか、手塚さんが一人で、伝統工芸として絶滅しかけていた飴細工を研究・復活させるまでの道のりや、7名(2022年2月現在)の弟子を抱えて数店舗を経営するに至るまでの経緯をお伺いしました。

寅の飴細工

花火師を経て飴細工職人へ

マリア
マリア

確か、高専へ行って花火師になってから飴細工職人になったと認識してるけど…

手塚さん
手塚さん

大体そんな感じ。飴細工は2010年から始めたかな。

マリア
マリア

花火師はいつからやってたの?

手塚さん
手塚さん

18歳の高専在学中からバイトで2年、正社員で1年働いた。

経歴を説明する手塚さん
マリア
マリア

花火もかっこいいよね。そこから、どうして飴細工やろうと思ったの?

手塚さん
手塚さん

一度実家に戻って、自分が今後何をやるべきかを考えた時にふと、子供のころに見た飴細工のことを思い出したのよね。

マリア
マリア

私も小学生の時に、「飴細工職人は絶滅危機だ」って本で読んだなぁ。

独学で構築し始めた飴細工

マリア
マリア

子供のころから造形は得意だったの?

飴細工を始めた当初を語る手塚さん
手塚さん
手塚さん

好きではあったけど、先生の言うことを聞かないタイプだから(笑)成績は良くなかったよ。飴細工を研究しながらデザイン会社のバイトで店舗の3DCGパースを引いてたりもしたし、デザインは得意な方ではあるかな。

マリア
マリア

日本人ってあまり「ゼロから構築してやろう」って人は少ない気がするけど、飴細工は特に、当時すでにやっている人がほとんどいなかったのでは?

手塚さん
手塚さん

ほとんどいなかったけど、勝機はあったよね。おもしろいと思ったし、何よりみんなが知ってる工芸。これは「ちゃんとやれば上手くいく」と思った。

体験用の飴細工
マリア
マリア

そのイメージでここまで大きい集団にできるって、本当にすごいよね。

本物のような鯛の飴細工
提供:アメシン

自分で作った1号店から

マリア
マリア

あらためて、工房の歴史を聞かせてください。

工房の歴史について語る手塚さん
手塚さん
手塚さん

2010年から独学で飴細工を作り始めました。飴といってもいろいろあるから洋菓子のシュガークラフトも含めて勉強して、最初は露店みたいなとことか地域のイベントでも作ってたかな。
1号店は、2013年に浅草のとある場所に。内装なんかも自分でコツコツ、夏の暑いなか作って。そこは今では製造本工場になっているんだけど、お陰で初期費用は安く済んだね。

マリア
マリア

さすが、生きる力が強いね(笑)

本物の金魚のような飴細工
提供:アメシン
手塚さん
手塚さん

その2年後の2015年に、スカイツリータウン『ソラマチ』出店のオファーがきて。
さすがに内装はプロに頼んだけど、基本的には自分の希望を盛り込んで、イメージ通りに作ってもらっている。

アメシン店舗外観
提供:アメシン
手塚さん
手塚さん

そこから2018年に、浅草寺の近くのこの花川戸店を作った感じ。ここは主に、飴細工体験とか目的を持った人向けの店舗だね。

アメシン花川戸店の外観
浅草寺の近く『アメシン花川戸店』
マリア
マリア

2〜3年ごとに新店舗オープンはすばらしいよね。社員さんを雇うのも大変だし…

手塚さん
手塚さん

人様を食べさせていくのは本当に大変。特にこのコロナ禍の2年はね(笑)

花川戸店内にある弟子たちの紹介と飴細工
花川戸店内にある弟子たちの紹介と飴細工
マリア
マリア

今の従業員数は?

手塚さん
手塚さん

全員で9名かな。弟子はそのうち7名。

マリア
マリア

…みなさん、アメシンさんでお買い物をお願いします!(笑)

アメシン花川戸店の看板

”伝統を守るべき”という考えが滅びの始まり

マリア
マリア

飴細工も伝統工芸と言われているけど、斜陽産業の伝統工芸に何が足りないと思う?

手塚さん
手塚さん

そもそも「伝統」っていう概念をみんな間違って認識してる。守らなきゃいけないわけない。いらないものは淘汰されていくのが自然の摂理。「伝統だから偉い」という考え自体が滅びの始まり。

手塚さん
手塚さん

どの時代も、その時代に合わせて良いものだったから選ばれてきたわけで。
振り返った時に「サバイブしてきた結果、残っている」というのが正しいと思う。「伝統」にお高く留まった時点で破滅への第一歩だと思う。

90度ある飴を手慣れた様子で準備する手塚さん
手塚さん作:着色前の金魚
手塚さん
手塚さん

飴細工も、業界全体的にデザインは良くなってると思う。
単純に「製品がいい」と思ってもらえなければ無理。新しい感動を与えて、革新的だから伝統になるってことかと。

マリア
マリア

腕一本、実力で魅せていく。職人さんのかっこよさでもあるよね。

腕一本で作り出す伝統工芸
手塚さん
手塚さん

「シュガークラフトでこんなのが作れるんだ!」って世界中に感動してもらえることに存在意義があるし、そこで初めて「伝統」に意味が出てくる。

一般企業と変わらない

マリア
マリア

アメシンさんは、ちゃんとお弟子さんにもお給料を払ってる。
私が徒弟制度のなかにいた頃は「数年無給で…」みたいなのが基本だったし、今もそういうところは多いんじゃないかな。

手塚さん
手塚さん

ちゃんとお給料を払って、実力のある人は社員になってもらってるよ。無給で…は持続可能じゃないよね。続かない。

伝統工芸の経営の甘さを指摘する手塚さん
手塚さん
手塚さん

求められればお金になる。最低限、自分が生きる、スタッフが飯を食えるために、需要を作り出す。需要を生み出す環境を作るっていうのが経営よね。

マリア
マリア

伝統工芸の世界にも経営手腕が問われている、ということだね。

手塚さん
手塚さん

飴細工は作れなくても、袋詰めとかからステップアップさせる。飯を食べていける状態を作ってやらなきゃ生きていけないじゃない。一般企業と変わらないという意識を持たないと、当然潰れていくよね。

如何に弟子を成長させていくかを語る手塚さん

「実戦で、自分で闘え」

マリア
マリア

最近、社員さんが作ったものが店頭に並ぶことが多くなったよね。

手塚さん
手塚さん

30歳の時に引退宣言したから(笑)。ソラマチ店ができた時も自分が作ったものがメインで店頭に並んで、弟子は簡単なものしか作らなくて。これはまずいな、と。

「俺は店頭に並べるものは作らないから」って社員に宣言してから、メキメキ腕が上がったね。「あ、この人何もしてくれなくなる」って本気で気付いたんだろうね(笑)

『引退するから』と宣言した手塚さん
手塚さん
手塚さん

そういう環境作りが大切。自分がいなくても会社がまわる状況にできたのは、良いステップアップだったと思う。

マリア
マリア

社長が動かなくてもまわる組織にできたことは成長だよね。職人さんって「ある一定以上のレベルに達さないと表に出ない、出さない」イメージだけど。

手塚さん
手塚さん

いつまでも練習だけしてる人は、そのレベルから脱しない。少しでも無理して背伸びして、サバイブさせないと成長はしないよ。「実戦で、自分で闘え」ってスタンスだね。

組織としての職人集団の在り方を語る手塚さん

弟子たちの製品がECでも好調

マリア
マリア

今、一番売れている商品は何ですか?

弟子が作成したちょこざい飴「金魚」
提供:アメシン オンラインショップ
※時期によって掲載内容は変更されます
手塚さん
手塚さん

『ちょこざい飴』が一番出てるかな。郵送もできるし。

マリア
マリア

お弟子さんたちが作り出した製品だね。ヒットの要因はなんだと思う?

手塚さん
手塚さん

手頃だからじゃないかな。お土産にするのにいいんだろうね。映えるし。消え物っていうところも魅力だと思ってる。バレンタインとかホワイトデーにもよく出る。

マリア
マリア

季節によって内容が変わるし、かわいいし。飾っておきたくもなるよね。

『角蔵』と『伊八郎』?鋏鍛治とは

マリア
マリア

体験で使うこのハサミも特注なの?

伊八郎という名の鋏
手塚さん
手塚さん

そう。名前は『角蔵』。私が使ってるハサミは『伊八郎』。

マリア
マリア

『角蔵』と『伊八郎』ww 名前、渋くて良いね(笑)

ネーミングに爆笑する2人
手塚さん
手塚さん

伊八郎はね、千葉出身の江戸時代の彫刻家から名前を貰った。名前というかブランド名だね。伊八郎さんは、波の様子を彫刻していたらしい。

マリア
マリア

新理くんは千葉出身だし、海も好きだもんね。これを作るのは、刀鍛冶(かたなかじ)とかとはまた違う職人さんなの?

手塚さん
手塚さん

刀鍛冶とは違う「鋏鍛治(はさみかじ)」だね。普通の刃物とはまた違う。ハサミのところと持ち手の部分の材質が違って、合わせと曲げ、焼きの入れ方とか、いろいろ違うのよ。

マリア
マリア

…鋏にも興味が出てしまう(笑)

道具の職人技術について熱く語る手塚さん
手塚さん
手塚さん

これを作れる人もほとんどいなくて。存続の危機だったんだけど、この前やっと弟子が入ったみたい。可能な限り発注して、職人の継続を応援したいと思ってる。

飴細工を独学でスタートしたところから店舗作り、弟子の育成、経営に至るまで。実績と経験があるからこその重みと説得力。

後編は、手塚さん流の実用的なメンズ着物スタイリングと飴細工体験の様子をお届けいたします。川原マリアさんの令和の着物コーディネートにもご注目を。

数年来の友人でツーショット

ー 後編へつづく(2月中旬公開予定) ー

撮影/湯澤藍

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