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めでた尽くしで、歳神さまをお出迎え 〜モチーフで遊ぶ〜 「徒然雨夜話ーつれづれ、あめのよばなしー」第八夜

めでた尽くしで、歳神さまをお出迎え 〜モチーフで遊ぶ〜 「徒然雨夜話ーつれづれ、あめのよばなしー」第八夜

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おめでたモチーフを身に散りばめて、心新たに迎える2022年のお正月。のんびりゆったり、おおらかな気持ちで、いろんな視点から老若男女さまざまな“動く”着物姿を堪能するお正月も、また愉し。

長襦袢のお洒落

長襦袢は、スーツで言うシャツに近い感覚。確かに下に着るものではあるけれど、まったく見えないわけではなく、所作のたびに動く手元や、後ろ姿なら袂にこぼれる色柄など、意外と目につきコーディネートの印象をかなり左右します。

もういくつ寝ると…

ってたぶん、このコラムがアップされるのは本当に年末ぎりぎりの予定なので、お正月が明けてから、お読みになる方も多いのではないかと思いますが(笑)。

マンション暮らしだと、なかなか立派な門松を飾って、というわけにもいきませんし、ぎりぎりまで、また新年早々仕事だったりすると、たいしてお正月らしいこともせず終わってしまったりもするのですが、小さな松のアレンジをちょこっと玄関に飾る程度でも充分お正月の雰囲気が味わえます。

でもまぁ、やっぱりせっかくのお正月ですから、改まった気持ちで着物を纏うのも楽しみのひとつ。モチーフを組み合わせて身に付ける、というのは、洋服ではまずあまりしない着物ならではの遊びですしね。

松竹梅に宝尽くし、瑞雲や波、流水、七宝や鱗、鶴亀などなど、いわゆる吉祥文様と呼ばれるおめでたモチーフは限りなくありますから(あらゆる柄がそうとも言えますが)、お正月らしい組み合わせ、といえるものはいくらでも作れてしまうのですが、今回は“松”を取り上げてみたいと思います。

松百態

吉祥文様の筆頭“松竹梅”の、中でも最初に挙げられる“松”は、例え雪の中でも変わらぬ瑞々しいその緑が生命力や長寿の象徴ともされ、門松など、お正月にも欠かせないモチーフ。

松というと、盆栽のイメージなど、なんとなく渋い印象をお持ちの方も多いかと思いますが、ひと言で松と言っても多種多様な形態があり、その表情もさまざまでなかなかに面白く魅力的な意匠です。

百態、はさすがにちょっと大袈裟かもしれませんが、梅や竹以上にアレンジによって印象が変わるモチーフと言えるのではないかと。

若松

白の綴れ地に織りであらわされた若松柄は、すっきりと瑞々しい印象。

松の丸文

若松を円状にあしらった文様。松葉を丸くアレンジする場合も。

大王松

のびやかな大王松。
この帯は繊細さが際立ちますが、表現によっては大胆だったり重厚な雰囲気だったり。

光琳松

ゆるっとした柔らかなラインが愛らしい印象の光琳松。
どことなくユーモラスで、独特の存在感があります。

松菱文

すっきりとシャープで、幾何学柄のような雰囲気で使える松菱文様。

松皮菱

松の樹皮に由来すると言われる松皮菱。幾何学的でモダンな印象も。

松竹梅

藍の濃淡で織り出された、爽やかで新鮮な印象の松竹梅。
元は宋代の中国で好まれた文人画の題材「歳寒三友」が由来とされますが、吉祥の意味合いが強まったのは日本に伝来してからと言われています。

松藤文

松に絡む藤を白波に見立てた様を歌った平安時代の和歌に由来する組み合わせ。
常緑の松は長寿、豊かな花房を持つ藤は繁栄を意味する吉祥文様として、江戸時代以降人気になったとか。

その他、堂々とした幹とともに描かれた“老松”(いわゆる盆栽的なものはこれですね)や、松の根に和紙や水引を結んだ“根曳松”、家紋などでよく目にする“三階松”など、松のアレンジはさまざま。

梅と違って季節が限定されないため、お正月以外にも季節を問わず使えて重宝なモチーフでもあります。

松のコーディネート

〜松尽くし〜

そんな“松”を使って…

さて、そんな“松”を使って…

鮮やかな常盤色の地に、加賀友禅の繊細な色遣いで松や松葉が散らされた付下げ。大胆な配色で染められた動きのある笠松文様の帯は、個性的で存在感があります。

お能や、歌舞伎でも「松羽目もの(まつばめもの)」と呼ばれる能から派生した演目を観にいく際にも良いですね。

装いに清潔感をもたらし、改まった印象が漂う白の小物。

証明写真を撮る際、膝上に白いハンカチなどを広げると、顔色が晴れやかに綺麗に写ると言われますが、白の帯揚げにも同様の効果があり、濃い色同士を合わせる際には、よりその効果を発揮してくれます。

黄色の小さな絞りが飛んだ白の帯揚げに、帯の柄の白、着物の柄の白が響き合い、それぞれの柄がよりくっきりと際立ちます。扇子の上に松毬が乗った立体的な彫金の帯留はアンティークのものです。

松に限らずですが、“◯◯尽くし”のコーディネートを楽しむ際は、形状や大きさの違うアイテムを組み合わせるのがコツ。同じような大きさで集めてしまうと、ごちゃごちゃしてメリハリがなくなってしまいがち。

大きさやアレンジの違うものを組み合わせることで、トゥーマッチになることなくバランス良くまとまります。

〜松竹梅〜

“松竹梅”の組み合わせ。

繊細なグラデーションが美しい手刺繍の松葉が散らされた付下げに、梅と短冊の刺繍半衿、深紫地に竹柄の羽織で“松竹梅”の組み合わせ。

着物の地紋は永遠や浄化の意味を持つ波、綴れの帯には瓢に寿や福の文字。
どうせなら、と、とことんめでたいモチーフを集めて。お正月だけでなく、お祝いの席などにも。

帯揚げの地色は、松葉の刺繍のグラデーションや帯の霞の柄ともつながる色。
ほわりと浮かぶ墨色のぼかしが、半衿の黒地と着物や帯を違和感なくなじませてくれます。

帯留には、羽織の柄からはらりと落ちたような笹の葉を。
生成りの二分紐で帯になじませ、瓢の柄や帯留を際立たせて。

帯揚げのぼかしだけでなく、寿の字の濃い色や帯留の黒みなど、ところどころに入っている濃い色が黒地の半衿とリンクして、全体を引き締めつつまとめる役割を果たしてくれています。

地色の濃い半衿は難しいと思われがちですが、こんな風に刺繍が主に白であしらわれたものは、実際に見える部分はほぼ白の印象に。

濃色の半衿を試してみたいけど…と躊躇されている方、まずはこういうタイプの、柄部分(刺繍でも染めでも)が白系で多めのものからチャレンジしてみると、意外と違和感なく白半衿とさほど変わらない印象で使えると思います。

〜帯を主役に〜

個性的な松の柄

なかなかお目にかかることの少ない個性的な松の柄。

飛び出してきそうな勢いのある元気いっぱいの松と松毬、コーディネートの主役にしたくなる帯ですが、だからといって着物がシンプル過ぎても浮いてしまいそうなインパクトです。
なので、ざっくりとした奥行きのある複雑な織り味と紅花染めの力強く深みのある色がしっかりと主張する、横段柄の紬をセレクト。

以前、第五夜でもテーマにした同じベクトルのコーディネートです。力ある帯と着物が引き立て合って、生命力にあふれた装いになりました。

とぼけた表情の獅子舞の帯留はアンティーク。
これもまた、素朴な力強さを感じさせる小物です。

着物にも複雑に色が入っているので、帯揚げ、二分紐に何をどんな色を持ってきても面白く合わせられそうですが、ここでは、帯の柄をシンプルに活かすため、墨色とカラシの帯揚げ、濃青緑の二分紐を。

まったく同じ色だと同化しすぎてしまうので、少しだけ外したクセのある色に。

柄と柄の力学

柄 on 柄の組み合わせは、バランスが大事。引き算というより、力の拮抗加減ーベクトルーで考えると、意外な面白さが発見できるかもしれません。

季節のコーディネート

〜お正月の長閑な景色をまとう〜

お正月にもぴったりな着物です。
刺繍付下げ「松葉に凧」 + 刺繍名古屋帯「雲」

光沢のある亜麻色の紬地に、枝垂れ松と凧の刺繍があしらわれた付下げ。
紬など織りの着物でも、素材に艶があるとぐっと改まった印象になります。

大島紬なども、軽やかなので春先のものと思っていらっしゃる方も多いようですが、そういう意味でお正月にもぴったりな着物です。

凧が悠々と舞うのは空、ということで、お太鼓に雲の刺繍の帯を合わせて。カラフルな雲は瑞雲、やはり吉祥文様のひとつ。晴れやかに迎えたお正月の、おめでたい雰囲気が漂います。

帯前にはカラフルな直線の霞があしらわれ、後ろ姿とはまた印象が違ってモダンな雰囲気です。

帯前は、モダンな印象です。
刺繍付下げ「松葉に凧」 + 刺繍名古屋帯「雲」
小物:スタイリスト私物

紫の帯締めでひと色足して、厄除けの意味を持つ七色に。
羽子板の帯留を合わせて、お正月の晴れた日に子供たちが遊ぶ、昨今ではまず見ることのない古(いにしえ)の風景を。

刺繍の着物に刺繍の帯、これで半衿にまで刺繍を合わせると少々息苦しい感じになりますので、さらりと松葉が描かれた白地の半衿を合わせました。

半衿の白、帯揚げの縞の白、三分紐のぼかしの白、そして足袋の白。ところどころに挿した白が響き合い、きりっと改まった雰囲気を醸し出します。

凧や羽子板など、いかにもなお正月モチーフは、やはり松の内くらいまでがふさわしいでしょうか。
“松の内”とは、門松を飾る期間を指し、関東は1月7日、関西は15日。短いけれど、いつまでもお正月モードを引き摺るのも何なので、できればそのタイミングで身につけたいモチーフ。

季節限定の意匠は、無理にでも着るタイミングを作りたくなる、それだけの魅力があります。

ふてぶてしくて良いお顔

刺繍だけでなく、友禅や帯留などの造形物でもそうですが、表情のあるもの(人形や動物)は作者のセンスや力量が如実に現れてしまう部分なので、とても難しい(特に目。この目さえなければ…と思う作品もあったりします笑)。

この奴さんは、なかなかふてぶてしくて良いお顔。

“動く着物”から見えてくるもの

やはりお正月の期間は、テレビや雑誌などのメディアでも着物を目にする機会が多くなると思います。

普段はあまり着る機会がなくてもお正月だけは、という方も多くいらっしゃいますし、年齢も雰囲気も、また男性、女性、さまざまなバリエーションのお着物姿が見られるのも新鮮で、この時期のお楽しみのひとつかと。

今着付けを習っていらっしゃる方や、リアルな身近に着物を着る人がいない方は特に、雑誌などのシワひとつないびしっとした着付けではなく自然な動きを伴う着物姿が参考になることも多いかと思います。

また、着る方の個性に合わせたコーディネートや、着慣れて見える方、そうでない方の違いがどこにあるのかなど、注目する部分はたくさんありますね。

“着慣れた”と“着崩れない”は、ニュアンスがまた少し違うと思うのですが、動いていても着崩れず自然で綺麗な状態が保てている、という意味で考えると、以前にも触れましたが、まずいちばん大切なのは“姿勢”。
“体幹”と言っても良いかと。

お正月番組は、着たまま長く映っていることも多いので、本当に着慣れている方はもちろんなのですが、姿勢や体幹の良い方は、例え気慣れてないなくても着崩れがほぼないのが、画面からもなんとなく感じられるのではないかと思います。

その好例が、お正月特番などで着物を着ていらっしゃることも多いアスリートの方々。

日常的に着物をよく着ているアスリートの方はたぶんそう多くはないと思うのですが(力士の方はともかく)、着物姿がわりとしっくりくるというか…自然に、綺麗に着ていらっしゃるなと思うことが多いです。

姿勢や体幹を保った状態で動くことに慣れている、と言えば良いのでしょうか。当然着付けはしてもらうにせよ、例え着慣れていなくても自然に動いて綺麗な状態が保てるのは、それが理由なのではないかなと。

男性は、それがより顕著かもしれません。男性はお腹が出ていると似合う、なんてことも良く聞きますが、それを聞くたびに「腹が出てりゃいいってもんじゃないぞー」と心の中で思っています、実は(笑)。

男性の着物は、スーツと同じ。

どちらかと言えば、“胸”や“肩”で着る(体幹がしっかりしていれば、腰は自然に決まるので)。スーツを格好良く着こなせる方は、たいてい着物も似合いますね。

スーツの着こなしも、しっかりと鍛えられた胸や体幹、姿勢がとても大事なので、身体をきちんと鍛えていて姿勢の良い方は、細みで全くお腹が出ていなくても(笑)、補正など入れなくてもしっかり格好良く着こなせます(あ、お腹が出ていても、格好良い人は格好良いです、もちろん。大事なのはお腹じゃないよーってことなので、くれぐれも誤解のないようお願いいたします)。

次に注目したいのは、所作の美しさ。

本当に気慣れている方は、ここがやはり違うと思うのですが、まず、不自然な負荷がかかるような無理な動きをしない。何かを取る際には、必ずその方向に体を向けてから手を伸ばしたり、何かを拾う際にも、強引に屈んだりはせず、体幹を保ったまま腰を落としたり。所作の美しさは、無理のない動きによっても培われます。

着付けに関して言えば、着付けを習い始めたばかりだと、衿の出方が何㎝、おはしょりが何㎝、帯が高い or 低い…と気になることも多いかと思うのですが、人の身体はそれぞれ違いますし、すべて同じにはなりません。

例えば、私がスタイリングや着付けをさせていただいている女優さんなどでも、半衿の詰め方や見せる加減、帯の高さや幅、おはしょりの長さなど、体型だけでなくお好みに合わせても変えますので、仮に同じくらいの身長や体型の方であったとしても、ずいぶん差が出ます。
また、いわゆるセオリー通りではない着方なのに、しっくりとはまっていて、その人らしく美しい着姿だなと感じる方も。

大切なのは、数字ではなくバランス。

もしご自分がなんとなく好きだなーと思う方の着こなしを見つけたら、何が素敵なのか、他の人とどう違うのかなど、じっくりご覧になってみると面白い発見があるのではないでしょうか。

あえて、はずす。こともある

雑誌などの静止画像なら、あちこち摘んだり畳んで見えないように隠したり、見える部分のボリュームを絞ったり、と綺麗に見せるためにいろいろ小細工(笑)をしますし、なんならポージングまで完全に固めた上でいちばん良い状態にしてしまってから瞬間的に撮影、という場合すらあります。

でも、固まった形が必ずしも良い、というわけではないんですよね。

動きの途中のかたちが、自然な流れだととても美しく思えたのに、静止画像になると、途端にあれ?なんだか綺麗じゃない…ということもよくあるので、静止画像の方がかえっていろいろと小細工をしないといけなくなる、というのも事実だったりします。

着付けにおいて、きちんといろいろなところが揃っている(左右均等だったり、幅がまっすぐだったり)というのは基本的には美しいことではあるのですが、揃え過ぎず、あえて“はずす”ことで、その魅力が増す場合も(先程、松のコーディネートで、◯◯尽くしにするときは…という中で触れたことにも通じるのですが)。

例えば、お太鼓を結ぶ際、太鼓下のラインとたれとで、柄を合わせましょう、と習う場合が多いと思うのですが、帯の色柄によっては完全に揃えてしまうと、お太鼓とたれが一体の長方形に見えてしまい、後ろ姿がなんだか間延びして不恰好に見えてしまう場合もあります。

そういう場合は、わざと柄を合わせずお太鼓を作ることも。

また、太縞の着物などもそう。

体のラインをより強調させる、幅が数㎝あるようなはっきりとした縞のお着物などは、おはしょりと上前とできっちり揃えて縞を通してしまうと、揃いすぎてちょっと気持ち悪いことがあるので、あえて少しずらしたり(その結果、衽線もずれたりします)。

わざとバランスを崩すことで、より柄の魅力や面白さが際立つ、というのは、デザインでもよく使われる手法ですね。

着せられているだけの姿と、その人に馴染んだ着姿って、何が違うんだろう?

自分にとって、美しいと感じる着方ってどういうの?
(美醜の感じ方は、当然人によって違うから)

お正月のさまざまな方の着物姿は、そんなことを考えるのに、ちょうど良い題材になってくれるかもしれません。

さて、次回の第九夜は…

卒入学の時期を前に、洋服が主流の現代において使い勝手の良い「フォーマル」とは?
ということを考えてみたいと思います。

それでは、良いお年をお迎えくださいませ。
みなさまにとって、2022年が穏やかで幸せな一年となりますように。

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