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自己犠牲から脱却する時代― 螺鈿職人 野村拓也さん(前編)「川原マリア×令和の若手職人」vol.1

自己犠牲から脱却する時代― 螺鈿職人 野村拓也さん(前編)「川原マリア×令和の若手職人」vol.1

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令和を力強く生きる若手職人に「自ら道を切り拓くこと」についてインタビュー。初回特大号は、「Twitterで世界が変わった」という螺鈿職人の野村拓也さんにお話を伺いました。自己犠牲からの脱却、SNSの活用法、現代で活躍する職人の生き方とは?

新連載!川原マリアが訪ねる令和の職人

ロンドンの街で和洋折衷を楽しむ川原さん

令和を生きる職人とは―

着物の図案家として職人を経験し、「Forbes Japan セルフメイドウーマン100」にも選出された着物デザイナー 川原マリアさんが訪ねる伝統工芸の「今」と「未来」とは。

“自力で道を切り拓くこと”について、活躍されている若い世代の職人とともに考えます。

『 嵯峩螺鈿野村 』の店頭にて

初回は、Twitterで2.7万人のフォロワー(2022年1月現在)に支持されながら、螺鈿職人として活動されている『嵯峩螺鈿野村』の野村拓也さんにインタビュー。

前編と後編に分けてお届けします。

螺鈿を施した美しい指輪

螺鈿とは

漆器は英語で「ジャパン(japan)」といい、日本の伝統工芸品の代表格といえます。
塗りや加飾に様々な技法があり、真塗りや華麗な蒔絵などが京漆器の代表となっています。
また、貝の内側に、紅・青色光沢を持った真珠質の綺麗な部分を漆の部分を漆の中に加飾する漆工芸の伝統技法があります。その技法を使って作られた商品を「螺鈿(らでん)」と呼びます。

説明引用元:嵯峩螺鈿野村HP

親子4代続く螺鈿工房

工房内にて
川原マリア
マリア

工房はご家族で経営されているのですね。いつから京都・嵐山で開業されたのですか?

野村拓也
拓也さん

父と姉と僕が職人として製品を作り、母は主に接客をしています。
開業は1910年から。父で3代目になります。創業時は二条城あたりでと聞いています。
いつから嵐山なんかな?(お父様に向けて)

作業の手を止めてお答えくださる守さん
作業の手を止めてお答えくださる守さん
野村守
守さん

昭和3年頃、嵐山に初代が越してきたんです。道はあるけど竹藪ばかりで、京都市でもない葛野郡嵯峨村という名称で、田舎でした。観光地ではない場所だったのが、この百年で変わりましたね。
今も観光地とは少しそれた場所にありますから、シーズン以外は閑静な場所ですが、息子のSNSの宣伝のお陰でダイレクトに来店くださるのでありがたいですよ。

嵯峩螺鈿野村
清涼寺の近く、閑静な場所にある『嵯峩螺鈿野村』

世代でのSNSに対するギャップ

マリア
マリア

お父様からみて、SNSの印象はどのようなものでしょうか?

守さん
守さん

ハッシュタグ?なんのこと?という感じ。(笑)
SNSをやっているのは、若い世代の方なので未来があるよね。普段見ていただけない方に製品を見てもらえることは価値がある。娘にもSNSは大事やで!と言われていたので、それを実感していますね。

お父様談笑
「SNSは子供たちに任せてます」
マリア
マリア

この地に工房を構えたご先祖様もSNSをはじめた息子さんも、先見の明がおありになったのですね。そしてその挑戦を受け入れられたお父様も素晴らしいと思います。

海外留学や一般企業を経験してから職人へ

海外留学が活きた、と拓也さん。
マリア
マリア

拓也さんは、いつから工房に入られたのですか?

拓也さん
拓也さん

僕は2016年の4月からで、6年目になります(2022年1月時点)。
学生時代はLAに留学したり、大学卒業後はスポーツメーカーの営業をしていました。海外のお客様も多いので、語学留学していたお陰で英語対応が出来るのは良かったことですね。

螺鈿があしらわれた店頭の看板
マリア
マリア

なるほど。幼い頃から家業の工房を継ごうと思われていましたか?

拓也さん
拓也さん

意識はしていましたが、一般企業に就職したままでも良いなとは思っていました。
ただ、先に工房に入っていた姉が結婚・出産のタイミングであったり、家族の状況の変化もあって運営のバランスをとる為にも戻ろうかなと。英語が出来ることも助けになるだろうしと。

家族経営ならではの連携

マリア
マリア

一度社会経験をされてから、職人として家族の中に入ってみて感じたことはありますか?

拓也さん
拓也さん

一般企業を経験しているので至らない部分も感じはしますが、今は全て数名で完結していますから、それは純粋にすごいなとも感じています。
写真撮影などは、「母さんここ持っといて〜!」とか言いながら、やっていますけどね(笑)。

拓也さん
工夫して撮影された美しい螺鈿のペンダント

Twitterで世界が変わった

Twitterを見る拓也さん
「初めの頃は1日中、試行錯誤してTwitterをしていました。」
マリア
マリア

Twitterでも2.7万人のフォロワーがいらっしゃいますが、SNSはいつからはじめられたのですか?

拓也さん
拓也さん

最初はFacebookとInstagramを姉弟でやっていました。その時は年齢層が高くて、あまり顧客に刺さっている感覚がしなかったんですよね。
そんな中コロナになって、2020年の7月にTwitterを個人名義でやりはじめました。

多くの「いいね」を獲得したツイート
多くの「いいね」を獲得したツイート
拓也さん
拓也さん

最初の1ヶ月で4000人位にフォローいただいて。
2020年8月18日に投稿した「Twitterで世界が変わりました」という感謝のツイートががバズって、更に1万人位増えたんですね。そのお陰でオンラインストアに集客ができるようになりました。

「推し」が伝統文化とのパイプ役に

マリア
マリア

特に、Twitterとの何が親和性が高かったと思われますか?

談笑
拓也さん
拓也さん

Twitterはコアなファンの方が多いと思いますね。
アニメやゲームの影響で螺鈿を知ってくださって、フォローくださる方もいますよ。例えば、『刀剣乱舞』の日本刀にも螺鈿が装飾されているらしく。
夜光貝の説明を投稿をしたら、「夜光貝をゲームで10万個集めました!」とかリプで返って来る(笑)。ファイナルファンタジーの最強の武器の装飾に螺鈿が施されてたりもしますね。

マリア
マリア

漫画やゲーム、アニメの影響力は半端じゃないですよね!「推し」のイベントがあるからテーマカラーで着物を揃えたい、とかいう方はよくいらっしゃいます。
『鬼滅の刃』ブームのお陰で、市松柄とか麻の葉紋様なども、一般の方に人気になりました。

現代にも馴染むデザインや製品
現代にも馴染むデザインや製品

SNSでの自分の役割を意識する

マリア
マリア

SNSを投稿する上で気をつけていることはありますか?

拓也さん
拓也さん

企業は宣伝ばかりでは魅力がないですし、応援したいとも思えないですよね。テーマはしっかり決めて、自分に何が求められているか考えて投稿しています。

New : 新しい気づきや見たことがないもの
Over : 想像や既成概念を超えるもの
Gap : 予想を裏切るもの

これのどれか一つでも、投稿に盛り込まれていることを特に意識しています。

SNSでのポイントを冷静に分析
拓也さん也
拓也さん

もちろん分析もします。
ただ、あまり編集もせずに生活音が入ったままとかの方が、親近感は持っていただいているのかなという気もします。

マリア
マリア

勉強になります…!

職人は、自己犠牲からの脱却が必要

マリア
マリア

伝統産業の職人の平均年齢は高齢化するばかり。
特に私たちのような30代程度の層を含めて、ほどんど後継者はいないと言われていますが、職人の世界はどう改善していけばよいと思われますか?

考える拓也さん
拓也さん
拓也さん

昭和の「自己犠牲が美徳である」という価値観や働き方から変われていないのは問題ですよね。
なぜなら現代はモノを買うにも意味を求める時代だから。SDGsな活動も注目されていますが、その商品を購入することによってどんな社会が実現されるのかを購入側は意識しています。

ピアス
工房には2児のお子さんを育てながら活躍されているお姉様の作品も
引用元:嵯峩螺鈿野村HP

前向きに変えようとする努力が共感を生む

マリア
マリア

私も着物の図案家に弟子入りする際に、特例を除き3年間は基本無給、家賃や食費は当然自分で賄うように、との条件でした。
徒弟制度は強要できませんし、世間とは環境が乖離していますよね。

拓也さん
拓也さん

違法労働や低賃金の労働者によって作られた商品購入は避けられますよね。
以前のような、私生活や利益を求めず仕事にすべて打ち込むという「美徳」は評価されないと思います。

マリア
マリア

休みなく、身を粉にして貢献するのが良しとされる風潮が日本全体にありますね。
「やりがい搾取」のような部分が伝統文化やアートにはつきものというのは悲しい事実です。

美しい螺鈿を作る為に、地道で根気のいる作業が続く
ご自身も家族を大切にしながら、美しい製品を作る拓也さん
拓也さん
拓也さん

働き手もプライベートを充実させながらやりたいことを実現させていく、その前向きな姿勢や変えようと努力する気持ちが応援されて共感を生むのではないでしょうか。
「諦めずにやりたいことを工夫しながらなんとか実現していく」のが大切で、そこからなにがボトルネックなのか、解決するにはなにが必要なのかを考えながら働くことが重要。
「伝統工芸でこういうものだからしょうがない」と思考停止しているといけないですよね。

「職人は多くを語るべからず」は時代遅れ

マリア
マリア

伝統工芸に関わる職人さんでSNS発信をされている方は、まだ少数派ですよね?

美しい製品
拓也さん
拓也さん

そうですね。はじめた当初は、ベンチマークになる人がいなかったです。
職人が発信しないのは「発信はダサい」と思われているのかもしれないですね。職人は多くを語るな、生前は評価されなくても死んでから価値が高まる仕事をしろ、みたいなところがある。

黙々と仕事をするイメージのある職人像
拓也さん
拓也さん

同業者には、SNSなんて流行り物に手を出すなんて…と思われているのかなとは思います。
「いらんことすな」、縦社会の中で「一人前でもないのに目立つな」、みたいな風潮はあるので。

高齢化するの伝統工芸界では若手とされる2人
マリア
マリア

私も昔からよく言われます。図案家なんて日陰の存在が表に出るな、と。
ただ、実際に結果を出すと、少しずつ反応が変わって来るところはありますよね。背に腹はかえられない状況まで来てしまっているかなとも思いますが…

拓也さん
拓也さん

実際のところ、同業者からお金を頂戴するわけじゃないですからね。
発信する上でメリットとデメリットがあるのは当然で、デメリットばかり見てやらないのももったいないですよね。このまま黙っていたら、知らないうちに伝統はなくなっていくと思います。

手八丁、口八丁で生きていく時代

守さん
守さん
守さん

私もね、正直に伝えすぎるので業界では異色ですね。
でも、前の世代の人と同じことしてても残ってはいかへん。これからは、黙ってても儲からへん。手八丁・口八丁で生きていく時代ですよ。

守さん
守さん

せっかく取材いただくなら、職人のリアルを知ってもらわないとね。
私は「天然記念物の朱鷺」になりたいわけじゃない。保護されて、綺麗ですねと言われているだけでは生きていけないし未来には残っていかないですよ。

表彰状
香合
美しい宇宙のような香合(野村守さん作)
引用元:嵯峩螺鈿野村HP

現代の時流に真摯に向き合い、試行錯誤する拓也さん。

拓也さんのチャレンジする精神性は、お父様や先祖代々から受け継がれてきたもののようです。

ー 後編へつづく(1月下旬公開予定) ー

撮影/弥武江利子

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