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師走、来る年も歓び笑って 「現代衣歳時記」vol.12(最終回)

師走、来る年も歓び笑って 「現代衣歳時記」vol.12(最終回)

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京都祇園の禅寺に生まれ、東京でサロン「enso」を主宰する伊藤仁美さん。禅語や伊藤さん自身の哲学とともにスタイリングを紹介してくださるコラムも今年最後となりました。今回は、年末の大掃除で見つかる“タンスの肥やし”、そして結城紬の産地での出会いからの想いなど。一年の締めくくりにふさわしい禅語とともにお楽しみください。

“タンスの肥やし”も、着物なら自分次第で輝く

伊藤仁美さんのスタイリング
photo by 水曜寫眞館

今年もあっという間に過ぎ去り、師走も残りわずか。少しずつ仕事を納め、家の大掃除も本番でしょうか。

押し入れや収納の中をあらためて見直すと、意外に捨てるものが多かったりします。私も以前は使わなくなったものを捨ててしまっていました。

愛らしい印象を与える鴇色の訪問着
photo by 水曜寫眞館

特にクローゼットの中は“タンスの肥やし”ばかり。気づけば、2年くらい仕舞いっぱなしの洋服も。

しかし私は、着物で生活するようになった途端、自然と物を捨てるという習慣が減りました。

なぜならそれは、ヘアメイクやちょっとした着方でイメージを大きく変えられるから。またそれこそが「着物の醍醐味」でもあります。

今年の12月には、普段手にする事の少ない鴇色(ときいろ)の訪問着をどうにか着こなせないかと思い、着てみました。

鴇の風切羽のようなお色味であることから、名付けられた鴇色。黄味がかった淡く優しい桃色が特徴的で、モノトーンや寒色を好む私が普段あまり選ばないお色味です。

また辻が花が描かれたこの訪問着は着方次第で大仰なイメージになってしまいます。いかにタンスの肥やしにせず、より日常に寄せた自分らしい着こなしを実現するか。

辻が花が描かれたちりめん地はマットな質感
photo by 水曜寫眞館
着こなしや小物合わせでより自分らしく
photo by 水曜寫眞館

しっかりとこの訪問着や自分と向き合った結果、まずは着方を調整しました。

特に工夫したのは、帯の位置と襟合わせ。帯を巻く位置が高すぎたり、襟を丸くとると子供っぽい印象になってしまうのです。なるべく下の方で帯を止め、襟はVネックをイメージして角度を鋭角にしました。そうすることでグッと大人な印象となります。

小物はグレーや紺など寒色のものでまとめ、黒のコートで引き締めて全体のバランスを取る。髪型もいつもは夜会巻きのように前髪を斜めにゆるっと分けていますが、今回はセンターパーツ。椿油をつけて艶っぽくまとめると、よりハンサムに。

いかに最初の仰々しさを削ぎ落としていくかがポイントでした。

アレンジ次第でいかようにも雰囲気を演出できる。

着物に出会ってから、いま手元にある物をいかに活かすかを考えるようになりました。そしてそれこそが、心の豊かさに繋がっています。

この日は特別な用事はありませんでしたが、訪問着で友人とお茶をしに出かけました。
一年の終わりに「もう使わないから」と捨てる前に、いつもとは少し違う色柄を纏えば、また来年に繋がる新たな発見があるのかもしれません。

晩秋から初冬にぴったりな落ち葉のような色味の帯
この季節にぴったりな落ち葉のような色味の帯
photo by 水曜寫眞館

結城紬の職人技に気づかされた私の使命

今年の秋、私は仕事でたくさんの伝統工芸の職人さんとお会いさせていただく機会がありました。

特に印象に残っているのは、結城紬の産地を取材させていただいた時のこと。
偶然にも私が初めにお誂えしたカジュアルなお着物が結城紬だったこともあり、取材前からとても楽しみにしていました。

そして素敵なご縁は繋がるもので、たまたま私が15年前から着続けている結城紬を作られたのがその時取材させていただいた工房だったのです!

帯には楓や桜など四季折々の柄が描かれている
帯には楓や桜など四季折々の柄が描かれている
photo by 水曜寫眞館

私が着ていたものは機械織りの結城紬ですが、取材では地機織りという全部手作業の工程をありがたく見せていただきました。

まず驚いたのは、蚕をよって一本の糸にしていく工程。職人さんが自身の唾液で糸を固めていきます。なんと薬を飲むだけでも成分が変わってしまうのだとか。そのため、「健康じゃないと続けられない」とおっしゃっていました。

また、地機織りは経糸(たていと)と緯糸(よこいと)の配列で柄を出していくのですが、織り始める前に「絣くくり」と呼ばれる技術で防染する必要があります。絹糸に色が染み込まないよう、図案を元に印をつけた部分を糸で結んでいくのです。

そんな途方も無い時間を費やして作られた糸を、ようやく機にかけて織っていくのですが、機械だけで織ると糸に負担がかかって切れやすくなってしまうのだとか。
そのため、職人さんが経糸を腰に巻きつけ、その張り具合や力加減を調整しながら少しずつ織っていきます。

これは「いざり機」と呼ばれ、場合によっては完成まで1年半という膨大な時間と熟練の技が必要なのです。

先ほど健康じゃないと続けられないという話がありましたが、本当に心身ともに安定していないと完成しない奇跡の一反なのだと、あらためて実感しました。

コートを脱げば、柔らかい印象にも
コートを脱げば、柔らかい印象にも
photo by 水曜寫眞館
職人の手技に魅せられて
photo by 水曜寫眞館

そんな職人さんの魂とも言える作品を着させていただいているんだから、もうそれは大事にしなければという思いもひとしお。

いらないからとすぐに捨てるのではなく、最後の最後まで味わい尽くしてほしい。

その時、「私の役目は彼らの一反にかける精神性や美意識を着る人に伝えていくことに違いない」とあらためて思いました。

今年歓笑復明年(ことしかんしょう またみょうねん)

「今年、歓び笑って過ごしたように、来る年もそう過ごそう。」

伊藤仁美さんのスタイリング
photo by 水曜寫眞館

これからの活動を通して、ストーリーテラーとして職人さんの手によって生み出された作品の素晴らしさを着る人に伝えていきたい。
ひいてはそれが、みんなの笑顔に繋がるように。

兎にも角にも、みなさまにとって今年よりまた笑顔が一つ増えるような年になることを願っています。

文章/苫とり子

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