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京菓子司 亀廣脇 3代目当主・口脇 治さん 「京のつくり手語り」vol.7

京菓子司 亀廣脇 3代目当主・口脇 治さん 「京のつくり手語り」vol.7

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一客一亭のもてなしの心で創業よりご贔屓さんに愛され続ける「京菓子司 亀廣脇」3代目当主・口脇 治さん。「お客さまに育てていただいた」と話す、主客を超えた交流や、伝統の菓子と新しい菓子づくりへの想いを伺いました。

御菓子司 亀廣脇 秋色愛でる『四季の茶心』 「京都・和の菓子めぐり」vol.10

二条城の北西に店を構える「御菓子司 亀廣脇」。「売るための菓子づくりではなく、買うための菓子づくり」を創業から三代にわたって貫く。京の老舗「亀末廣」のDNAを受け継ぐ名店で見つけた「小さな秋」の詰め合わせをご紹介します。

生菓子「高雄」

旬の食材を取り入れるだけでなく、見た目の季節感も大切にする和菓子の世界。季節を少しだけ先取りするところも、きものと通ずる心があります。共通する意匠やモチーフを通して、昔から大切にされてきた人々の想いに触れてみませんか。「一客一亭」のおもてなしを大切に上生菓子は予約制を貫く「亀廣脇」の秋の定番『高雄』をご紹介します。

「着物、着たいんですよね。誂えたことはないんですけど」

と口脇さん。
例えばどんな時に着たいと思いますか、との問いには、

「お正月や娘の成人式とかね。ハレの日に一緒に着て、写真を撮るのに憧れているんです」
と、少し照れくさそう。

季節感や草花の種類にも造詣の深い和菓子職人と着物の邂逅。
蜜月が始まるのは、そう先のことではないのかもしれません。

何かと縁の深そうな着物と京菓子。
京都で伝統産業に携わるつくり手としての想いを伺いました。

決心があと一年遅かったら

亀廣脇3代目当主・口脇 治さん

大学卒業後は東京へ出て、大手の銀行で働いていた口脇さん。
2代目のお父様からも「好きにしたらいい」と言われていたこともあり、もともとは和菓子職人になるつもりはなかったのだそう。

きっかけは就職先である銀行員時代の担当業務。

「事業承継にかかわる相談を主に担当していたんです。いろんなお客さまの話を聞いているうちに、『あれ?親父がおらんようになったら、ウチの店はどうなってしまうんやろ?』と気になってくるようになったんですね」

お兄さんも別の道へ進んでいたため、「ほな、俺が…」と京都に戻り、修行に入ることに。

亀廣脇3代目当主・口脇 治さん

ところが、口脇さんが修行に入って1年ほどが過ぎた頃、お父様が倒れてしまい、一緒に仕事場に立つことができなくなってしまうのです。

亀廣脇3代目当主・口脇 治さん

「正直な話、これはもうやっていけないかも…という考えも過ぎりました」

しかし、たとえわずかな時間でも一度受け取ったバトンをあっさりと手放せる人が、果たしてどのくらいいるでしょうか。

「家業を継ぐと決心する前に親父が倒れていたら、諦めもついたのかもしれませんが、やっぱりこの1年の重なりに意味を感じてしまったんでしょうね。会社にも戻れないですし、とにかくやるしかない…と思っていました」

わからないことがあれば病床のお父様のところへ聞きにいったり、調べたり。

「幸いなことにウチの店は祖父が亀末廣さんから暖簾分けをさせていただいているので、亀末廣の職人さんに教えてもらうこともできたのがありがたかったですね。本当に良くしてもらいました」

亀廣脇3代目当主・口脇 治さん

京菓子組合の青年部や、若手の勉強の場である「持ち寄り会」なども、口脇さんを成長させてくれた場。

「同業者って側から見たらライバルやと思われるかもしれませんが、僕にとっては『仲間』という意識の方が強いんです」

一客一亭の交わり

「あと、ウチの店はお客さまに恵まれていたんですよね」

と、当時を振り返る口脇さん。

「今思えば、ひどいお菓子やったと思います。見た目はそれなりにできても、味はそれまでのクオリティには遠く及ばない。それでも、僕が後継として経験が浅いことも承知の上で、離れずにアドバイスをしてくださるお客さまがたくさんいてくれはったんです」

亀廣脇外観

色はもっとやわらかい方がええ、これでは食感が固すぎるーーー
先代、先々代の味を覚えている常連のアドバイスを一つ一つ丁寧にすくい取って反映させていく。

それは、一客一亭のスタイルを守るこの店だからできたこと。
そして、もう一度あの菓子食べたいと思わせる味を提供してきた店だからできたこと。

「6年ほど経った頃に、あるお客さまから『だいぶ、ようなったな』と言っていただいた時は、嬉しかったですねぇ」

亀廣脇3代目当主・口脇 治さん

伝統と創造の日出処(ひいづるところ)へ

和菓子づくり体験といえば、練り切りやきんとんなどの上生菓子をイメージする方がほとんだと思いますが、口脇さんが「ザ・リッツ・カールトン京都」で講師を務めるお菓子教室では、お干菓子づくりも必ず体験できます。

四季の茶心

「今の人はお干菓子に触れる機会が少ないだけで、実際につくる際はとても楽しそうですし、食べていただければ、きっと好きになってもらえるお菓子だと思うんです。特にウチの店の落雁はしっとりした食感に驚かれる方が多いですね」

亀廣脇3代目当主・口脇 治さん

亀末廣のDNAを受け継いで、伝統的な干菓子をつくり続ける一方で、2021年7月には、さまざまなフレーバーの落雁『京都テンプル』を新たに発売。

口脇さんが京菓子組合の青年部にいた頃(約10年前)に、青年部のみんなでつくって販売したキャラメル風味の落雁が好評を博したのが発端だったと振り返ります。

京都テンプル

「キャラメル落雁の配合や試作を担当してたこともあり思い入れもあったし、みなさんに美味しいと言っていただけたことも心に残っていて…。落雁の可能性を試してみたいと思い、改めていろんな味でつくってみることにしたんです」

まずは、プレーン、レモン、抹茶、レーズン、いちご、キャラメルの6種から。

しっとりとした品の良い食感を受け継ぎながら、異なる味わいで「もう一つ」と手を進めさせる、これまでにない落雁。
新しい夜明けは、やはり「ひがし」からやってくるものなのかもしれません。

撮影/佐藤佑樹(Grit)

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