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引き立て合う強さ 〜柄と柄の力学〜 「徒然雨夜話ーつれづれ、あめのよばなしー」第五夜

引き立て合う強さ 〜柄と柄の力学〜 「徒然雨夜話ーつれづれ、あめのよばなしー」第五夜

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柄 on 柄の組み合わせは、バランスが大事。引き算というより、力の拮抗加減ーベクトルーで考えると、意外な面白さが発見できるかもしれません。

「柄」の概念

着物を着たことがない、あるいは慣れていない方からよく言われることのひとつに、着物は柄に柄を合わせるからすごい(難しい)よね、ということ。

それを聞くたびに面白いなーと思うのですが、「柄」という概念が、たぶん大きく違っているんだろうな、と。

着物の感覚でコーディネートを考える際、「柄」と言うと主に花や自然の柄など、具象的な柄を指していることが多く、縞や格子などパターン化されたもの、特にシンプルな幾何学柄などはほぼ無地の感覚で捉えています。

着物的にイメージする「柄」の着物は、たぶんこんな感じ。

柄の着物には無地感覚の帯を合わせると良いですよ、とよく言われると思いますが、ここで言う「無地感覚」には本当の意味の「無地」の他に、縞や格子、幾何学柄、ワンポイント柄などが含まれます。

洋服の感覚では、縞はストライプ柄だし、格子はチェック柄。

ここに挙げた帯は、どれも総柄の小紋などに合わせやすい代表的な帯と言えますが、洋服的な見方をすると、どれもしっかり「柄」扱いなので柄に柄で難しい…となるみたい。
「縞や格子、幾何学柄はほぼ無地扱い」と言うと、驚かれることが多いです。

全体的に見て、洋服の場合は無地のものの方が割合が多いということもありますね。

無地がまず標準としてあり、柄が入っているものの方がイレギュラー。
それに、洋服には形としてのデザインというものがありますからまったくの無地でも存在感を出すことができますが、着物や帯は平面で形が決まっている分、何の表情も質感もないただの無地ではその面積を保たせることが難しい。

なので、なんらかの柄があることがまず大前提となり、無地の場合は、光沢や地紋と言った素材感、糸の風合い、色の深みなどを追求していくことになります。

一見無地に見える江戸小紋の細かさなども、こういうマニアックな追求のうちのひとつと言えるのではないでしょうか。

柄の主張の少ない無地感覚の着物に柄の帯、という合わせ方は、ある意味間違いのない王道な組み合わせ。
なので、そこまで悩むこともないかと思いますが、柄がしっかり主張した着物に、どういう帯を合わせると良いか、というのは、結構皆さん悩まれるみたいです。

着物と帯の組み合わせを考えるとき、例えば全身に賑やかな柄のある小紋だから、引き算で無地系の帯に…と、それ自体はもちろん間違いではなくセオリー通りと言えるのですが、これがただの無地だと、着物の存在感の強さに負けてしまう。

帯の部分だけ、ぽかんと間が抜けたようなちぐはぐな組み合わせになってしまいがちです。

引き算、とよく使うワードではありますが、単純に印象を弱くすれば良い、というものでもないんですね。
違う方向に引き合った、同じ力感のベクトルでバランスを取る、と言った方が、イメージが伝わりやすいかもしれません。

遊べる「柄 on 柄」

例えばこんな、色とりどりの雪輪に四季の花々が染められた小紋。

染の北川 特選京友禅小紋着尺
染の北川 特選京友禅小紋着尺

雪輪はパターン化された文様でもありますが、多色使いかつ四季の花々も染められており、着物的感覚からも洋服的感覚からも「柄もの」と認識できる着物ではないかなと思いましたので、こちらを例に。

〜すっきりシンプルにまとまる縞や格子の帯〜

雪輪の小紋と格子の帯の柄コーデ

縞や格子は無地扱い(笑)ということで、同系の配色でまとめられた間道の帯を。
着物の柄と共通する色が使われた縞や格子は、違和感なくなじみますので、ある意味、洋服感覚のコーディネートとも言えるかもしれません。

丸い柄に対して直線的な柄を合わせると、丸い柄の甘さを抑えてすっきりと小粋な印象に。

〜グラフィカルな幾何学柄の帯でモダンに〜

雪輪の小紋と柄帯のコーデ

『星繋』と名付けられた幾何学柄のパターンは、亀甲にも鱗(ウロコ)にも、また雪の結晶を彷彿とさせる六花(りっか)のようにも思えます。
チョコレートみたいな濃い焦茶色に散りばめられた綺麗な色がモダンな印象で、クラシカルな小紋を新鮮な表情に。小物選びも楽しめそう。

〜モチーフを重ねる〜

雪輪の小紋と雪輪の織帯の柄コーデ

あえてモチーフを重ねる面白さもありますが、それには少しばかりテクニックが必要になるかもしれません。
(と、偉そうに言うほど難しいことでもないのですが)

いかにもお揃いと言った感じの、似た雰囲気のものを選んでしまうと野暮ったく見えてしまいがちなので、大きくシルエットで切り替えられた雪輪の帯をセレクト。
色も、着物の柄の中から、もっとも小さくアクセント的に使われているクセのある色を選ぶと洗練された印象に仕上げることができます。

冒険にも思える色合わせですが、最初から着物に入っている色なので、色が合わなくて失敗するということはまずないから安心。
そして「柄 on 柄」の面白さに加え個性的な色使いのため、さも難しい合わせ方をさりげなくしているかのように見える…というちょっと目眩し的な(笑)効果があったりします。

また、この帯は白の効果も生きていますね。

白&個性的な色、というのは、ある意味最強の取り合わせ。
クセの強い色が持つクドさを中和して、そのエッセンスだけ残してきりっと上品に仕上げてくれるから。個性的な色の強さに自信がない場合に白の力に頼ると良いのは、第四夜でもお話した通りです。

コーディネートの色のお話し

似合う色と好きな色は違う?肌の色やタイプもあるけれど、でも最終的に大事なのは、結局、好きかどうか。何をどう主役にするかで、イメージはがらりと変わる。それが着物の面白いところだと思うのです。

〜見立ての愉しみ〜

雪輪の小紋に見立てのコーデ

これはいわゆる、合わせやすいとされるセオリー通りの「無地感覚」の帯合わせ。

抽象柄の魅力のひとつに「見立ての愉しみ」があり、シンプルな水玉も、雪輪と重ねればカラフルな雪玉のようにも見え、どちらかというと古典的な着物が、なんだかわくわくするような遊びの効いた印象に。

同じ丸っこいモチーフを合わせるなら、ピッチの違うものや無地場の多いものを選ぶと、全体を引き締めつつお互いの柄を引き立て合うことができます。

雪輪の小紋の柄コーデ

同じ水玉でも、こちらは少々難易度の高い組み合わせと言えるでしょうか。
一見相容れないタイプに思えますが、こんな着こなしの方がいたら、思わず「やるなー」とうなってしまいそうな。

更紗とドットが組み合わされたインパクトのあるこの帯、ドットだけだと雪輪とぶつかってちぐはぐな印象になりそうなところが、縦にすっきり入った更紗のラインが絶妙なバランスに仕上げてくれます。

更紗と雪輪の中の花々の描き方が、少し型絵染め風で似たテイストだから合う、というのも大事なポイント。エキゾチックな更紗と雪の組み合わせが、不思議な世界観を醸し出し個性的な着姿に。

〜物語のある着こなし〜

雪輪の小紋に桜柄の帯のコーデ

雪輪、というと季節限定のように思えますが、この着物は四季の花々が描かれているので、そこまで限定せずとも大丈夫。遊び心を発揮して、こんな風に桜モチーフを合わせて『雪月花』のコーディネートにしても。
帯留や半衿、簪などで、月に繋がるモチーフを添えましょうか。

雪輪の小紋に月を思わせる柄の帯のコーデ

あるいは、すでに着物の柄に充分“花”が描かれているから…。

月光を思わせる帯を添えて、「テーマは〇〇!」と大書して背中に貼って歩くようなこれ見よがしの着こなしではなく、さりげなく、でも同好の士には、ん?もしかして?と気付かれるかも。

そのくらいの軽やかさで装いたい『雪月花』に。

大切なのは、センス云々ではなく

こんな風に、あーでもない、こーでもない、と、着物や帯を部屋中に広げてコーディネートを考えるのって、着物好きにとっては、悩ましくも楽しい時間ですよね。

ただ、たまーに、置いた状態のコーディネートに夢中になるあまり、うっかり忘れてしまう方もいるんです。その上に乗るのはご自分の顔でありその中に収まるのはご自分の身体だってことを…。

置いたコーディネートが、仮にどんなにばちっと決まった!と思っても、着る人に合っていなかったらその魅力も半減してしまいます。
残念なことですが。

逆に、置いただけだといまいちぱっとしない…?という組み合わせでも着る人にしっくりはまって、なんだかすごく素敵!ということも多々あります。

コーディネートを一生懸命考えているとき、たいていの場合、単体での着物や帯の組み合わせにばかり意識が行きがちですが、実際にそれを着て動くとき、他者の目には360度すべてがさらされます。

当たり前ですが、写真と違って、平面の静止画像ではないですから。
頭から足先まで、そして後ろ姿も、自分の目が届きにくい場所ほど他者の印象に残ると言っても良いかも知れません。

顔(造作、メイク)もですが、髪型や履物、バッグなどの小物使いにおいてもそれぞれのテイストが合う合わないということだけではなく、手入れが行き届いているか、とか、清潔感だとか。
着方、所作、姿勢など、全身の端々にまで自然に意識が行き渡っているかどうか。

どんなにアイテムすべてが美しく素敵にコーディネートされていても、着て動いたら、あれ?そうでもない…?という、哀しい結果にならないためにも、その意識を忘れないでいたいものですよね。

畳紙の上であれこれ揃えて、コーディネート完成!ではない。
コーディネートは、人が着て、動いて初めて完成するものだから。

これまでにお会いした“着姿が素敵だな”と思う方は、結局そこに尽きる。

単純に、組み合わせのセンスが良いとか悪いとかではなく、その方なりの美意識(何をもって美しいとするかは人によって違う。シワがないこと=美しい、ではないように)が反映された着姿に魅力を感じます。

先取り季節のコーディネート
〜蛍ぼかしを淡雪に〜

ちょっと気が早いけれど、雪輪モチーフを取り上げたので、気分がすっかり冬モードになってしまいました。
スタイリングのお仕事で、すでにお正月ものに取り掛かっているせいかもしれません。
(ついつい、リアルな季節をすっ飛ばしがちになるのは、このお仕事の弊害と言えるかも。笑)

でも、反物からお仕立てするとしたらちょうど良いタイミングになりそう。

お気に入りを見つけたら、あれを合わせようか、それともこっちかな…と、わくわくしながら次の季節を待てるのも、着物の醍醐味のひとつですよね。

蛍ぼかしのコーディネート

ふわりと舞う蛍ぼかしを淡雪に見立て、雪持ち椿の染め帯を。

蛍ぼかしのコーディネートに羽織も

雪の粒を繋いだような、摺り疋田の流水が染められた小紋を羽織にして、雪尽くしのドラマティックなコーディネートに。

黒地の羽織がピンクの可愛らしさを抑えてくれ、大人の女性にも似合う程良い甘さ。
クリスマスやお正月はもちろん、雪景色が舞台となる演目の観劇などにもぴったり。歌舞伎などの和はもちろん、バレエやオペラなど洋の演目にも似合いそう。

蛍ぼかしのコーディネートの前帯部分も

クリスマスには雪華や、モミの木、リースなどのモチーフ(クリスマスにしか使えないそのものずばりではなく、松などの針葉樹を見立てたりしても楽しい。実際オーストラリアなど南半球では、暑さにも強い松の木が使われるそうですし。松の丸や葉の丸などの文様をリースに見立てても)を。

年末年始には、松竹梅や南天、猫柳など定番の植物以外にも、鷺や兎などの動物たちなど雪の似合うモチーフはたくさんありますから、さまざまに物語が広がっていきそうな着物です。

ちなみに今回の最初の画像は、ここでは羽織にした流水の小紋に、アンティークの紅葉の刺繍帯を合わせた“龍田川”の組み合わせ。
秋らしい色使いの刺繍が黒地に映え、艶やかな印象の着こなしに。

10月、いよいよ袷の季節。

シンプルな組み合わせもいいけど、ちょっと今までとは違う感じの着こなしにもチャレンジしてみたい…なんて思っている方は、「柄 on 柄の愉しみ」に目を向けてみてはいかがでしょうか。

さて、次回の第六夜は…

見えるところも楽しいけれど、見えないところはもっと楽しい。

という、お話です。

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