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女優・富司純子のワードローブ拝見! 『椿の庭』 「きもの de シネマ」vol.2

女優・富司純子のワードローブ拝見! 『椿の庭』 「きもの de シネマ」vol.2

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銀幕に登場する数々のキモノたちは、着こなしやコーディネートの良きお手本。せっかくなら、歌舞伎やコンサートみたいに映画だってキモノで愉しみませんか。連載2回目は、四季折々のお庭の美しさに負けないキモノがふんだんに登場する『椿の庭』をご紹介します。

花咲く庭に、映えるキモノ

ごきげんよう。
先日、祇園祭オンラインツアーでレポーターを務めるため、昨年誂えた「紙糸ゆかた」を箪笥から出してきた、映画大好きのんべぇライター椿屋です。

紙糸浴衣

紙糸は、マニラ麻を原料とした紙から生まれた繊維。
経糸を綿、緯糸を紙糸で織り上げられた生地は驚くほど軽く、やさしい肌触りで着心地抜群です。

しがない物書きとしては、紙で出来たゆかたと言われて、買わないわけにはまいりません。単衣としてシャリ感のある夏帯と合わせるのが気に入りでございます。

閑話休題。
今回ご紹介する映画は洋画でも時代劇でもなく、現代を舞台にした邦画。長らく写真家として活躍されている巨匠・上田義彦氏の監督デビュー作品となった『椿の庭』です。

©2020 “A Garden of Camellias” Film Partners
©2020 “A Garden of Camellias” Film Partners

屋号に因んでか、身の回りになにかと椿モノが集まってくる身としては、タイトルを拝見しただけで前のめりに。実は事前情報ゼロで鑑賞いたしました。

はじまって、まず息を呑んだのは、映し出される庭を満たす自然の姿でした。僅かな木漏れ陽、微かな風の音、小さな虫たちの息吹……驚くほど、静かな佇まいの映像美がそこにはありました。

©2020 “A Garden of Camellias” Film Partners
©2020 “A Garden of Camellias” Film Partners

そして、主演の富司純子さんの存在感たるやっ……!
彼女の娘として出演している鈴木京香さんが「美しい佇まい、優しい声、丁寧な所作…日本女性として、女優として、憧れの方です」とおっしゃるのも、然もありなん。夫との幸福な日々を胸に、草木を愛でながら、長年住み続ける家を守るたおやかな女性・絹子(その役名も体を表す!)を演じ切ってらっしゃいます。

©2020 “A Garden of Camellias” Film Partners
©2020 “A Garden of Camellias” Film Partners

物語は、実際に一年をかけて撮影され、春夏秋冬、四季折々の景色を映し出します。高台に立つ家から眺める海や空を借景に、移ろいゆく時間と共に変化する命をも描き出しているのです。

たゆたう金魚。雷雨に散る藤の花。雨蛙の鳴き声。庭の草木に降りかかる蝉しぐれ。遠くに聞こえるバイクの排気音。湧き上がる入道雲……。すべての風景ににじむ慈しみと安らぎこそ、この映画の最大の魅力ではないかと思えるほど。

フィルムに刻まれる、キモノの美

©2020 “A Garden of Camellias” Film Partners
©2020 “A Garden of Camellias” Film Partners

ごく自然に和服での暮らしを営む絹子。「純粋な可愛い人」だと富司純子さんが評した彼女が身にまとうキモノは、すべて私物というからこれまた驚き!

絹子をイメージして、富司純子さんご本人が撮影前に用意された中から、シーンごとに上田監督と共に選んだもの。そのコーディネートの豊かさは流石という他なく、落ち着いた色合いなのに組み合わせの妙でいかようにも印象が変わるキモノと帯、それぞれの存在感は見ものです。

©2020 “A Garden of Camellias” Film Partners
©2020 “A Garden of Camellias” Film Partners

中でも、最も印象的なのが、夫の四十九日法要が終わった後、自室で姿見を前に喪服から平服へと着替えるシーン。シュッシュッと小気味よく帯をほどき、明るい色のキモノを羽織る姿に、思わず見惚れてしまいます。
一切の迷いなく、余分なシワもよれもなく、指先ひとつまで凛としながら、新たな布で身を包んでいく様を食い入るように見つめつつ、細部に宿る美とはこういうことか、と唸らずにはいられませんでした。

©2020 “A Garden of Camellias” Film Partners
©2020 “A Garden of Camellias” Film Partners

長女の忘れ形見である孫娘(シム・ウンギョン)とおでかけする際の日傘や、落ち葉を掃く箒、夏の室礼替え、涼を取る団扇などなど、何気なく登場する和小物もまた、味わい深い。

それらすべてが詩的な美しさをもって浮彫になるのは、どれも「うつろいの一部」として描かれているから。
命あるものは盛りを迎え、朽ち、やがて消えてゆく。諸行無常、盛者必衰の香がそこはかとなく漂っているのも、魅力のひとつなのかもしれません。

そしてそれは、監督自らカメラを回し、フィルムで撮影された「光の記憶」。
「カメラひとつあれば撮れるんだよという映像」だという監督の言葉以上に、大事なことはないのかもしれません。

劇場上映に間に合う方はぜひ、涼やかなキモノなどお召しになって、映画館でご覧くださいませ。

<予告編>
YouTube
『椿の庭』本編映像_絹子の着付け

文中に登場した着付けシーンもご覧いただけます。

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