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季節の小宇宙 ~皐月(さつき)の巻~「十二ヵ月のアンティーク半襟」vol.1

季節の小宇宙 ~皐月(さつき)の巻~「十二ヵ月のアンティーク半襟」vol.1

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着物の中で一番目につく面積の狭い「半襟」。 刺繍半襟は、「着物を一枚仕立てる贅沢の代わりに、せめて刺繍の半襟を…」という女性の気持ちに寄り添って作られた、小さな贅沢だったのでしょう。 今月から1年12か月、旧暦の月名にあわせて、和の美と季節の再発見をテーマに、季節の行事や季節のモチーフを取り入れたアンティーク半襟をさとうめぐみの「半襟箱」の中からご紹介していきます!

新連載スタート!

着物姿のなかで一番目につく面積の狭い「半襟」。しかし、かつては、

「お話しする時は相手の目ではなく、半襟をみてお話しするように」

という躾(しつけ)の言葉や、

「いずれ白襟で伺います」
※普段掛けている色襟を正式な白襟に替えて(=あらためて)伺う

という礼儀の言葉があったように、「半襟」は特別な意味を持つ和装小物です。
アンティークの刺繍半襟や染めの半襟にはすばらしい手仕事が凝縮されており、礼装はもちろん、縞の着物などに季節の半襟を掛ける(つける)ことが、明治から昭和、当時の女性の楽しみでした。
刺繍半襟は、

「着物を一枚仕立てる贅沢のかわりに、せめて刺繍の半襟を…」

という女性の気持ちに寄り添って作られた、小さな贅沢だったのでしょう。

今月から1年12か月、旧暦の月名にあわせて、

・和の美
・季節の再発見

をテーマに、「季節の行事」や「季節のモチーフ」を取り入れたアンティーク半襟をさとうめぐみの「半襟箱」のなかから取り出して、ひとつずつご紹介いたします!それでは、めくるめくアンティーク半襟の世界へ…

アンティーク半襟をご紹介していきます!

二十四節気と半襟について

さて、今月5月は旧暦名で「皐月」(さつき)。
早苗を植える月であることから、早苗月(さなえつき)が早月(さつき)になったといわれ、「さ」が「皐」になったのは「神に捧げる稲」の意味からと言われています。

5月に訪れる「二十四節気」は、

「立夏(りっか)」(2021年は5月5日)
「小満(しょうまん)」(2021年は5月21日)

です。

「二十四節気」とは、旧暦(太陰太陽暦)における太陽暦であり、2月4日の「立春」を起点に1年を24等分し、約15日ごとの季節に分けたもので、いわゆる「暦(こよみ)の上では…」のもとになっているものです。

実はこの「15日ごとの季節」という小さな区切りこそ、半襟のおしゃれの見せどころ。

着物や帯に季節のモチーフを取り入れてしまうと、短い時期しか着ることができなくなってしまいますが、ほんのわずかな面積が襟元からのぞく程度の半襟なら、印象に残ることも少なく、着ている方は季節の移り変わりを密かに楽しむことができます。

「立夏」は夏のはじまり

見える部分はわずかでも、デザイン・構図は一枚の絵として完成している見事なアンティーク半襟。

5月の最初の節気「立夏(りっか)」は、読んで字のごとく「暦の上での夏のはじまり」。
着物の暦では、この日から単衣の解禁です。

立夏:暦のうえでの夏の始まり・単衣の季節の到来! 「二十四節気で楽しむ着物スタイル」

どこかで見聞きしているものの、いまひとつなじみがない…というあなたにこそ知ってほしい「二十四節気」。今回は、七番目に訪れる節気「立夏」にまつわる着物スタイルをご紹介いたします!

「単衣は6月と9月に着るもの」というのは、正式な場所でのTPO。
ゴールデンウイークに入ると、街のあちこちで半袖姿の人を見かけるように、私たちのなかには「立夏=夏のはじまり」という感覚が息づいています。

二十四節気に親しむ上でも、「立夏」はとてもよいタイミングです。
なぜなら「立夏」は毎年ほぼ新暦の5月5日にあたるから。

「暦では、子どもの日から夏がはじまる」

と覚えてくださいね。

皐月の半襟1『弓矢に兜文様 刺繍半襟』

弓矢に兜文様 刺繍半襟

子どもの日の源流は「端午の節句」。
一枚目の半襟には、男児のための節句にちなんで作られた『弓矢に兜文様 刺繍半襟』をご紹介します。

生成り色の縮緬地

生成り色の縮緬地に白・オレンジ・金で刺繍された弓矢と兜。

武者人形を思い起こさせる意匠で、襟元にきらめく金糸が、顔色を明るく見せてくれる半襟です。

このほか「菖蒲」「薬玉」「こいのぼり」「吹き流し」なども、「立夏」にぴったりのモチーフですね。

白・オレンジ・金で刺繍された弓矢と兜

皐月の半襟2『山桜・清流に鮎文様 刺繍半襟』

山桜・清流に鮎文様 刺繍半襟

二枚目にご紹介する半襟は、『山桜・清流に鮎文様 刺繍半襟』です。

爽やかな水色を清流に見立てています

爽やかな水色を清流に見立て、山桜が散りかかる岩場を鮎が遡上する…
なんとも物語性にあふれた意匠です、

南北に長い日本は、北海道に桜の開花宣言が出されるゴールデンウィークあたりまで長く「桜のシーズン」を楽しむことができますが、ソメイヨシノよりも開花が遅いヤマザクラの半襟は、まさに単衣の時期のはじめにおあつらえ向きの一枚です。

半襟の生地素材として現在では、「夏以外は塩瀬」「夏に絽」こだわりがある方は「冬に縮緬」と気を配って襟元を楽しみますが、アンティーク半襟にはこちらのように「楊柳縮緬(ようりゅうちりめん)」生地の半襟が数多くみられます。

縦の凹凸が出るようにシボを織り出した楊柳縮緬は、塩瀬縮緬に比べ、わずかに肌から離れ、身体に張り付かない素材。
湿度の上がる時期にぴったりの絹地です。

また5月21日には「万物次第に長じて天地に満ちはじめる」という意味の二十四節気「小満」が訪れます。

草木が成長して生い茂るこの時期、着物のコーディネートにも、新緑を感じさせる色やモチーフを取り入れると自然と調和した装いとなります、

シボを織り出した楊柳縮緬
小満:新緑や五月雨をテーマに! 「二十四節気で楽しむ着物スタイル」

毎年5月21日頃に訪れる「小満」を過ぎると「五月雨(さみだれ)」の季節。藤に青い細縞が描かれたアンティークの単衣は、里山に咲く山藤を濡らす雨を見事に表現しています。

皐月の半襟3『鈴蘭文様 刺繍半襟』

鈴蘭文様 刺繍半襟

三枚目にご紹介する半襟は、若草色の絹地にパステルカラーの絹糸がかわいらしい『鈴蘭文様 刺繍半襟』です。

鈴蘭は「君影草」とも呼ばれています。

「鈴蘭」は、北海道や東北などの高地に多く自生する花で、うつむき加減に控えめに咲くその姿から別名「君影草(きみかげそう)」とも呼ばれています。

フィンランドでは国花とされ、フランスでは花嫁にブーケとして贈る風習があるなど、ヨーロッパでも古くから親しまれ愛されてきた鈴蘭。
日本では、西洋文化がもたらされ和洋折衷の近代化が進んだ大正から昭和初期に、舶来の香りのする着物のデザインとして大変人気を博しました。

西洋美術の潮流は折しもアール・ヌーヴォーまっさかり。
自然の植物をテーマにした優しい曲線は、半襟にもぴったりの構図だったことがうかがえます。

自然の植物をテーマにした優しい曲線

皐月の半襟4と5『薔薇 刺繍半襟』

赤地に薔薇の半襟
ピンク地に薔薇の半襟

鈴蘭と同じように、西洋を代表する花として人気があったのが「薔薇(バラ)」。
四枚目・五枚目はそれぞれ薔薇をモチーフした刺繍半襟ですが、地色が違うとこんなにも違って見えることに、うれしい驚きを覚えます。

赤い縮緬地に、枝垂れの梅と共に刺繍された薔薇
「アール・デコ」の特徴・単純化された表現が表れています。

赤い縮緬地に、枝垂れ(しだれ)の梅とともに刺繍された薔薇。
「アール・ヌーヴォー」のすぐ後に隆盛をみた芸術思潮「アール・デコ」の特徴である「単純化された表現」がとてもうまくあらわれています。

モーヴピンク地の半襟
煙るような細い絹糸で薔薇を縫い取った半襟

一方の、モーヴピンクに煙る(けぶる)ような細い絹糸で薔薇を縫い取った半襟をよく見ると…下部に「直」の文字の刺繍が。

刺繍半襟の神戸の名店「ゑり直」の文字

その文字を頼りに調べたところ…
昭和のはじめ頃、刺繍半襟の神戸の名店「ゑり直」というお店のものということがわかりました。

現在、呉服屋で「ゑり萬」「ゑり善」など「ゑり」を掲げるお店の前身は、半襟を専門・中心的に扱う「半襟屋」さんだったことが知られていますが、かつては「半襟」だけを商うだけのお店があったほど、半襟の種類・需要ともに充実していたという証(あかし)ですね。

「さとうめぐみの半襟箱」

一枚一枚がまるで宝石のような、手仕事の粋を凝縮したアンティーク半襟たち。
それらを一枚一枚集めたのが…「さとうめぐみの半襟箱」。

家紋入りの半襟箱
箱の裏には京都 宮崎平安堂 謹静製のラベル
今も京都で京指物を手掛けている家具屋さんです。

家紋入りの半襟箱の蓋の裏には、

「京都 宮崎平安堂 謹製」

のラベルが貼られています。

「宮崎平安堂」は、今も京都・夷川(えびすがわ)で京指物を手掛ける家具屋さんですね。

その半襟箱のなかでのとっておきが…
京都「ゑり善」の台紙がついた、時を止めたかのようなデッドストックの半襟。

とっておきの京都「ゑり善」の台紙付き半襟
デッドストックの半襟

京都洛趣會展覧會 NO65 
出品者 ゑり善 #81
\五圓弐十銭…

「ゑり善」は半襟の図版を有する京都四条の呉服屋

言わずと知れた「ゑり善」は、『ゑり善 所蔵半襟』(京都書院)という大型本を刊行するほど多数の半襟図版を有する、京都四条の老舗呉服屋さんです。
「宮崎平安堂」しかり、現在も営んでおられるということに、京都のものづくりの息の長さを感じずにはいられません。

半襟のタイムカプセルを開けるドキドキを皆さんと共に…

ひと月に一度、半襟のタイムカプセルを開けるドキドキをみなさまとともに…

次号は「六月・水無月(みなづき)」の巻。
6月4日、二十四節気「芒種」(6月5日)前日の配信をお楽しみに!

半襟撮影協力/正尚堂

『旧暦で楽しむ着物スタイル』河出書房新社
 
さとうめぐみ著『旧暦で楽しむ着物スタイル』(河出書房新社)他
アンティーク着物や旧暦、手帳に関する著作本多数!

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