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啓蟄:大地があたたまり、冬眠していた虫が穴を出て動きはじめる時期! 「二十四節気で楽しむ着物スタイル」

啓蟄:大地があたたまり、冬眠していた虫が穴を出て動きはじめる時期! 「二十四節気で楽しむ着物スタイル」

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啓蟄(けいちつ)は、「大地があたたまり、冬眠していた虫が穴を出て動きはじめる時期」。生きとし生けるものすべてが生命エネルギーを感じて動き出す季節の到来です!季節の変わり目といえば…節句の行事。今回は「桃の節句」にちなんだアンティーク着物コーディネートをご紹介いたします!

(1) 二十四節気とは

「二十四節気」とは、旧暦(太陰太陽暦)における太陽暦であり、2月4日の「立春」を起点に1年を24等分し約15日ごとの季節に分けたもので、いわゆる「暦の上では…」のもとになっているものです。

どこかで見聞きしているものの、いまひとつなじみがないというあなたにこそ知ってほしい「二十四節気」。

いにしえの知恵「二十四節気」に親しむことで、

□ 季節を感じる感覚が豊かになる
□ 着物コーディネートが上手になる
□ 着物を着る機会が増える

こんなステキな毎日がはじまりますよ。

月2回アップするこちらの連載で「旧暦着物美人」をめざしてみませんか。

(2)「啓蟄(けいちつ)」とは

さて、今回訪れる節気は、二十四節気の三番目啓蟄(けいちつ)。
「大地があたたまり、冬眠していた虫が穴を出て動きはじめる時期」という意味で、お天気ニュースなどでもよく紹介されますね。
生きとし生けるものすべてが生命エネルギーを感じて動き出す季節の到来です!

そんなこの時期、気をつけたいのは自分の心の「虫」と上手に付き合うこと。
もしかしたら最近イライラしたり、急に気持ちが変わったりして自分でも戸惑っている方が多いのでは?
でも安心してください。それは自然なことなのです。
イライラするのは気温の上昇にともなって「気」が頭部に上がって逆上(のぼ)せるから。怒りのことを「逆上(ぎゃくじょう)する」というのも、この身体の状態から生まれた言葉です。

急に気持ちが変わるのは、強い春風を受けると「気が乱れる」から。これが種明かしです。
この時期は足元をあたためて、できるだけ風に当たらないように過ごすようにしてみるだけでもだいぶ「心」が落ち着きますよ。

着物は首回りがすっきりとあいているため、のぼせの防止になり、また二重に巻いて胴を支える帯は、丹田(たんでん:おへそから指四本下がったツボ)を意識しやすくしてくれます。
和装は、季節の変わり目に不安定になりがちな身体を守ってくれる衣装なのです。

さて季節の変わり目といえば、「節句」の行事。
啓蟄の数日前の3月3日は、新暦の「桃の節句」「雛祭り」にあたります。
今回は、桃の節句にちなんだアンティーク着物コーディネートをご紹介いたします!

(3)「啓蟄」のアンティーク着物コーディネート

啓蟄のアンティーク着物コーディネート

◎ 着物…錦紗縮緬地(地紋・)春秋柄・花の丸紋 小紋(袷)
◎ 帯…繻子地 貝桶扇・花鼓文様 名古屋帯
◎ 帯留…縮緬細工 鶯
◎ 半襟…縮緬地 春駒と桜の刺繍半襟
◎ 帯揚げ…縮緬地 若草色 
◎ 履物…エナメル台 縮緬八重桜に藤文様鼻緒

「雛祭り」といえば3月3日。
別名「桃の節句」とよばれますが、啓蟄のころは梅が満開の時期で、桃の花を自然のなかで目にすることはまだできません。

それは明治5年(1872年)の改暦で、桃の節句や端午の節句などの五節句を「旧暦」ではなく「新暦」に合わせて行うことが決められてしまったから。
本来ならば、桃の花が咲く旧暦の三月三日(2021年は4月14日)が桃の節句の日にあたります。
「桃の節句」は、古来は「上巳の節句(じょうし・じょうみのせっく)」と呼ばれ、桃の花が咲くころの上巳(旧暦三月の最初の巳の日)に行われる行事だったのです。

そして旧暦三日といえば、夕方の空に浮かぶ月の形は三日月。
夕暮れにぼんぼりを灯し、幻想的に浮かび上がる雛段の前で、かわいらしく装った女児が白酒やひなあられを楽しむ…これが本来の雛祭りの姿です。

旧暦好きの着物好きとしては少々早すぎる「新暦」の桃の節句から、本当の節句・旧暦の桃の節句までのひと月、ひっそりと雛祭りを楽しむことにしたいと考えたのがこのコーディネート。

ひっそりと雛祭りを楽しむことにしたいと考えたのがこのコーディネート。
地紋がなんと「蛤(はまぐり)」。

着物は梅や春蘭・菊など春秋柄の花が、優し気な「花の丸紋」で描かれていますが、地紋がなんと「蛤(はまぐり)」。
雛祭りのごちそうといえば…
甘酒・ひなあられ・そしてちらし寿司に蛤のお吸い物と、「蛤」は桃の節句につきものです。

これは、蛤は対の貝殻以外とはか み合わないことから「磯のあわびの片思い」とは逆に、「一生一人の殿方に添い遂げる」夫婦和合の象徴と考えられてきました。

着物の地紋は至近距離からでないとなかなか気づかないもの。

この着物の蛤の地紋は「近づいていいに人だけ」「気づいてほしい人にだけ」に見せる秘めた女心をあらわしているのかもしれない…などと考えながら、当時としても贅沢だっただろうと思われる、地紋から着物をあつらえるお酒落心をしのびます。

黒繻子の名古屋帯に刺繍されたのは、花で飾った「鼓」、そして貝桶と貝合わせの貝です。「鼓」は女児の習い事の上達を願う意味と、打てば「良く鳴る」ことから、物事が「良くなる」との縁起が込められた柄。

黒繻子の名古屋帯に刺繍されたのは、花で飾った「鼓」
「貝合わせ」を楽しみながら、一生の縁を思い描いた。

また平安貴族の姫君たちの遊び道具であった「貝合わせ」は、一対がしっかりと組み合う蛤の特徴を生かして自然の貝に見事な蒔絵を施したもので、「貝桶」はその貝をしまっておくための調度品です。

少女たちは、物語から題材をとり、美しい蒔絵が施された「蛤」で「貝合わせ」の遊びを楽しみながら、まだ見ぬ未来の夫との一生の縁を思い描いたといわれています。

この帯の垂れ先には、「青海波」と「菊」の模様がアンティークらしくふっくらと刺繍されて、お太鼓柄の「貝桶」と美しい対比になっています。

垂れ先には青海波と菊の模様が刺繍されています。

(4)「啓蟄」の小物合わせ

帯留の「鶯」の色に合わせて帯揚げも鶯色に
古裂で作った押絵の「鶯」の帯留

見事な刺繍の帯に合わせたのは、古裂で作った押絵の「鶯」の帯留です。
「鶯」の色に合わせて縮緬の帯揚げも薄い鶯色に。
そして「鶯」につきものの「梅」は、着物の中に丸紋で描かれています。

梅といえば、江戸の端唄(はうた)『梅は咲いたか』で、「〽梅はさいたか 桜はまだかいな」に続いて「〽浅利とれたか 蛤まだかいな」と唄われる「蛤」。
旧暦三月の浜辺は月の満ち引きの関係で遠浅となり、貝類を潮干狩りするにはもってこいの時期ということを今に教えてくれています。

半襟にほんの少し「桜」をのぞかせて、春の到来を心待ちに。

「〽桜はまだかいな」との問いかけには、半襟にほんの少し「桜」をのぞかせて春の到来を心待ちに。

「桜」とともに刺繍された、「春駒」と呼ばれる白馬を模した玩具も、子どものお祭りにふさわしいモチーフです。
「春駒」は、白馬節会に源をもつとも、蚕業の予祝(あらかじめ祝うこと)からきたものともいわれる儀式のひとつで、春の訪れを告げる意匠です。

赤いエナメルの草履には、八重桜と藤が刺繍されています。

赤に近いエナメルの草履に挿げた鼻緒は、鮮やかな紫色に八重桜と藤を刺繍したもの。
着物に施された薄紫の破れ格子に、草履の鼻緒の濃い紫色の濃淡が、コーディネートをグッと引き締めます。

(5)「啓蟄」のモチーフ

巣ごもりの虫が地上に這い出して来るほど、地面が太陽熱であたたまってくる時期。
「啓蟄」には、春の優しさを感じるモチーフがおすすめです。

桃の節句の伝統を伝える「貝合わせ」「貝桶」。
女の子の遊び道具「手毬」は、角のない丸く優しい性格に育つようにという意味の込められた縁起物です。

桃の節句の伝統を伝える「貝合わせ」「貝桶」。

ひとつひとつを折り上げて楽しむ「折鶴」。
それらをつなぎあわせ、幸せをもたらす「千羽鶴」。
千代紙遊びで作った「姉様人形」や「御所人形」。
「唐子」「テディベア」などのお人形も、雛壇を飾る仲間として和装のモチーフに取り入れても良いでしょう。
七五三の女児の飾りとして欠かせない「筥迫(はこせこ)」を図案化した着物や帯も、大人の女性のかわいらしさを引き出してくれます。

愛らしい薄桃色の「桃の花」、古来より霊力を持つ実であり愛の象徴とされる「桃の実」も、この時期のモチーフとして身につけたいものです。

雛飾りに据えられる、桜も控えめに取り入れてみてはいかがでしょうか。

宮中を模して造られた雛飾りに必ず据えられる「右近の橘・左近の桜」にちなみ、「橘」や「桜」も控えめに取り入れてみてはいかがでしょうか。

また江戸時代の人々は、「雷」柄の着物を着ることで「春雷」を呼び、雨を降らせて乾燥した大地を潤すよう祈ったとも言われています。

着物に親しむことで、身の回りにある伝統文化・植物や花、などを自然と再発見できるのも、装いの恩恵のひとつです。
自然や季節との調和した着物姿は、着る人をより美しく見せてくれることでしょう。

身の回りにある植物や花、などを自然と再発見できるのも、装いの恩恵のひとつ

(6)「啓蟄」の着物スタイルをイメージする

心に思い浮かべるイメージをカレンダーや手帳にメモしてみましょう

春の日差しが明るくなってくる「啓蟄」のころには、光沢のある着物や春色の明るい着物がしっくりきます。

光沢のある着物といえば、織の着物なら「大島紬」や「黄八丈」。
ほこりっぽい春の風をうけても、着物をひと撫ですれば気持ちよく着られる素材です。
やわらかものの着物を着るなら、冬向きの縮緬から、シボの低い縮緬へと切り替えてゆけば、自然の光とマッチするでしょう。

心がウキウキするような春こそ、着物のお洒落を楽しみたいものですね。
「啓蟄」からの春は、どんな着物スタイルで楽しみたいか心に思い浮かべるイメージをカレンダーや手帳にメモしてみましょう。
無地や縞・格子の着物に節気のモチーフをひとつ取り入れるだけで、自然と調和した素敵なコーディネートになりますよ。

一年で二十四回、二週間ごとに着物に親しむ、あなただけの「二十四節気の着物スタイル」をお楽しみください。

次回は3月20日に訪れる「春分」についてお話しします。
前日19日の配信を楽しみにお待ちくださいね!

『旧暦で楽しむ着物スタイル』河出書房新社
 

※写真はさとうめぐみ著『旧暦で楽しむ着物スタイル』(河出書房新社)より。

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