ホーム
コラム
わたしだけの春色を探そう「きくちいまが、今考えるきもののこと」vol.23

わたしだけの春色を探そう「きくちいまが、今考えるきもののこと」vol.23

2021.03.01 （2022.03.08 更新）

記事を共有する

春色は人を優しくおだやかな気持ちにさせてくれるマジックカラー！マスクで顔を覆い、表情も見えにくい昨今ではありますが、少しでも明るく穏やかな気持ちで過ごすためにも、春らしい色を身に着けてみませんか？わたしにとっての春色ベスト3は何だろう、と探すのも、心の中が春色になってきて楽しい時間になりますよ。

「春色」と言えばどんな色を思い浮かべますか？
桜の印象が強いからと思いますが、桜のような淡いピンクと答える方が多いそうです。「桜色」だけでも、うす桜、墨桜、灰桜、といろんな種類があるのだから、桃色、ツツジ色、牡丹色、朱鷺色などをすべてひっくるめて、ただ一言の「ピンク」で片付けてしまうのは、なんだかとても惜しい気がして、せめて春のひとときだけでも、日本古来の色の名前で細かく丁寧に呼んであげたくなります。

でも実際には、淡くさわかやな空の色や少し緑がかった春の海の色や、菜の花、タンポポなどの黄色もいいですね。わたしが好きな春色は、柳が芽吹いたときの淡い黄緑。山の残雪と春の空との組み合わせを見つけてうっとりするときが、長かった冬の終わりを実感するときなのです。

昔、ハンガリーから来た人が、お雛様に飾られた菱餅を見て「ハンガリーの国旗に似ている」と喜んだという話を聞いたことがありました。なるほど、ハンガリーの国旗は上から赤・白・緑で、菱餅は上から、ピンク・白・黄緑になっています。菱餅だけでなく、三色団子の色もこの組み合わせですね。これは春の景色を表現したもので、順番がきちんと決まっているのです。上のピンクは頭上に咲く桃や桜、白は残雪、黄緑は「下萌え」とも呼ばれる草の芽吹きで、雪を押し上げているのです。

ちなみにハンガリーの国旗とよく似ているブルガリアの国旗は、下から赤・緑・白（わたしはイチゴを縦においてヨーグルトをかけた状態、と覚えています）。イタリアは左から縦に緑・白・赤で、そのまま緑を青に置き換えたらフランスの国旗になります。ちょっと見ただけでも国旗はきりっとした色の組み合わせばかり。そういえばピンクの国旗って見たことがないですよね。優しくたおやかなイメージだからでしょうか、弱々しく見えるので、国旗に使われることはないそうですが、その代わり、全人類を優しい気持ちにしてくれる色、ということでもあるのかなと思います。

つまり、春色は人を優しくおだやかな気持ちにさせてくれるマジックカラー！
マスクで顔を覆い、表情も見えにくい昨今ではありますが、少しでも明るく穏やかな気持ちで過ごすためにも、春らしい色を身に着けてみませんか？
わたしにとっての春色ベスト3は何だろう、と探すのも、心の中が春色になってきて楽しい時間になりますよ。

エッセイスト・イラストレーターきくちいまさん

ほぼ一年中を着物で過ごし、着物ライフの楽しさをイラストとエッセイでつづる。執筆の他、着物や帯などのプロデュースも手がけ「着物は人生に寄り添うもの。おしゃれで楽しくて、お守りのような存在の布になれたらと願い、ものづくりをしています」と語る。著書に「大人かわいい着物読本」(主婦と生活社)、「おとなのときめきふだん着物」(河出書房新社)、「買ってはいけない着物と着物まわり」(実業之日本社)などがあり、最新刊は「東京着物さんぽ」(GB)。山形県在住で、子3人犬1匹の母でもある。