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光秀の念いに、和の色で寄り添う 「歌舞伎へGO!大久保信子先生に聞く着物スタイル」 vol.3

光秀の念いに、和の色で寄り添う 「歌舞伎へGO!大久保信子先生に聞く着物スタイル」 vol.3

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昨年からの〝光秀ブーム〟はいまも続いているようですね。NHKの『麒麟がくる』は、光秀を主人公とする初の大河ドラマでした。光秀がなぜ信長に謀反を起こしたのかは日本史の謎の一つでもあり、いろいろな説が唱えられています。

3月こそは、着物で歌舞伎鑑賞へ

立春も過ぎ、寒い中にも少しずつ日脚が延びるのを実感するようになりました。
3月は、国立劇場の「令和3年3月歌舞伎公演『時今也桔梗旗揚』」(3月4~27日、10・11・19日は休演)に足を運んではいかがでしょう。

歌舞伎公演チラシ01
歌舞伎公演チラシ02

演目『時今也桔梗旗揚』について

『時今也桔梗旗揚(ときはいま ききょうのはたあげ)』。歌舞伎に詳しい方でなくても、歴史好きなら、時はいま・桔梗・旗揚げ、となれば、「ああ、本能寺ね」とピンとくることでしょう。明智光秀が織田信長を襲った「本能寺の変」を題材にした時代物で、「馬盥(ばだらい)」とも呼ばれています。
「時は今」というのは、本能寺の変の直前に光秀が連歌の会で詠んだ「時は今 天が下知る 皐月かな」から来ており、本作では光秀の辞世として登場します。「桔梗」は明智家の紋です。

昨年からの〝光秀ブーム〟はいまも続いているようですね。
NHKの『麒麟がくる』は、光秀を主人公とする初の大河ドラマでした。光秀がなぜ信長に謀反を起こしたのかは日本史の謎の一つでもあり、いろいろな説が唱えられています。また最近は、新しい史料も見つかり、「光秀は実は別の場所にいて、配下の者に本能寺を襲わせた」可能性もあるそうです。
『麒麟がくる』は先日、最終回を迎えたばかり。ドラマの光秀は、信長という武将をつくりあげた〝製造物責任〟を取らされてしまったかのように描かれていましたが、歌舞伎の『時今也桔梗旗揚』は、こんな物語です。

勅使饗応の役を仰せつかった武智光秀(明智光秀)。主君の小田春永(織田信長)の機嫌を損ね、鉄扇で額を割られてしまいます=饗応の場。
周囲の取りなしもあって、謹慎していた光秀は春永の御前へ出ますが、春永のいじめが止まりません。馬盥(馬の水飲み用のたらい)で酒を飲ませるわ、光秀が浪々の身でお金に困っていたころに妻が売った黒髪を手に入れて渡すわで、光秀をこれでもかとはずかしめるのです=本能寺馬盥の場。
愛宕(あたご)山の宿所に戻った光秀は、春永の命を伝えに来た上使を切ると、本能寺へと向かいます=愛宕山連歌の場。

反りが合わない上司と部下。なんだか現代にもありそうな話ですね。
光秀は春永にいじめられても、耐えに耐えます。そして、ついに謀反を決意する、その瞬間が大いなる見どころとなるのです。光秀を演じるのは尾上菊之助。どのような光秀になるのか、今から楽しみです。

衣裳の「色」は重要な要素

今回は、衣裳の色に注目してみましょう。
衣裳は役柄を表すもの。一目で身分や設定、性格がわかります。中でも、色は重要な要素です。

赤は良家の姫君の色

「赤」は良家の姫君の色であり、情熱の色。
赤地に金糸や銀糸で刺繍した豪華な振袖をまとったお姫さまたちは、恋に燃えています。

田舎娘の色は「緑」。
田畑や山の色から連想されるのでしょうか、ちょっと滑稽味も感じられます。

田舎娘の色は緑
黒にはふたつの顔がある

「黒」には二つの顔があるようです。
悪役や憎まれ役が身に着けることが多いですが、一方で、「助六」のように、江戸っ子の意気をみせる粋な色としても使われます。

では、光秀はどんな色をまとっているのでしょうか。

まずは「紫紺」。
光秀の裃(かみしも)は、桔梗の紋が付いた紫紺色(紺色がかった濃い紫色)。明智家の家紋・桔梗から連想される紫系の色です。春の高校野球の「紫紺の優勝旗」などでもおなじみの色。可憐な桔梗の花より色濃い紫紺は、舞台によく映えます。高貴な紫は、理知的な光秀のイメージをよく表現しているのではないでしょうか。

紫紺色

夏から秋に咲く桔梗の花、さすがに春に身に着けるのは時期に適いませんが、舞台にちなんで桔梗色をどこかに取り入れるのも素敵ですね。帯揚げに用いるなら、薄めの桔梗色にするとなじみが良いでしょう。

紫紺染めの着物で歌舞伎見物
紫紺色02
薄桔梗色
薄桔梗色02

「浅葱」にまつわるあれこれ

それから「浅葱(あさぎ)」。
「葱(ねぎ)」という字がついているので、緑色だと思っている方もいるのではないかしら。
薄い藍色のことです。新選組の羽織の色、といったらわかりやすいでしょうか。

浅葱色

光秀は愛宕山連歌の場で、この浅葱色よりさらに淡い「水浅葱」の裃を着けています。切腹覚悟の死に装束です。時代劇などでは〝囚人服〟に用いられたりもします。いい色なのに、ちょっと切ないですね。
それから、さだまさしの歌『精霊流し』の中では、息子を亡くした母親が浅葱色のきもので、お盆の精霊船を見送ります。浅葱色には、死のにおいがそこはかとなく感じられるのかもしれません。

ほかに「浅葱裏」なんて言葉もあります。田舎出の、気の利かない武士のことをばかにして言うのです。羽織の裏に浅葱もめんを使っていたからだとか。あんまりな言いようです。
でも、本当は粋な色でもあるんですよ。
『年増(としま)』という日本舞踊では、裾よけに浅葱色を用いるのです。年増といっても30歳くらいのイイ女。裾からチラリとのぞく浅葱色が、なんとも色っぽいものです
先日、浅草に買い物に行き、「浅葱色の裾よけ」と言ったところ、店員さんに通じなかったのには少々がっかりしてしまいました。水色とでも言えばよかったのかしら…。

和の色名に想いを馳せて

日本の色の名はゆかしく、美しい。
桔梗をはじめ、杜若(かきつばた)や撫子(なでしこ)、山吹など花の名がつく色もとても多いのです。きものの世界にはふさわしい、そんな色の名に親しみたいものですね。

寒い日が多かった年は、春の訪れが早いといいます。日本気象協会によれば、東京の桜の開花予想は3月22日とのこと。千穐楽を迎えるころには、劇場の外は「桜色」に染まっていることでしょう。

満開の桜の帯
満開桜の染め帯02
満開桜の染め帯01

監修:大久保信子
文:時田綾子
協力:国立劇場

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