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アーティスト Junko Sophie Kakizaki さん (後編)

アーティスト Junko Sophie Kakizaki さん (後編)

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芸術を愛する由緒正しい旧家に生まれ、広く世界を旅するなかで生まれた使命感。そしてミューズとなったアーティスト、Junko Sophie Kakizaki(ソフィー・ジュンコ・カキザキ)さん。目指す未来、抱く願いを伺うインタビュー後編です。

京都に住まい、1年の3分の1は海外で過ごす

京都でお気に入りの庭園のひとつ、白龍園
京都でお気に入りの庭園のひとつ、白龍園。着物も帯も祖母からの古いもの。

国内外を問わず旅先には着物を持って行き、作品を残すようになってから、徐々に着物を着る機会が増えいったJunkoさん。
第二の故郷と呼ぶフランス、台湾をはじめ、1年の3分の1を海外で過ごしている(コロナ禍前)が、ここ3年ほどは住まいは京都に。

京都に移られてからは海外からの客人をもてなすなど、さらに着物を着る機会も増えたといいます。

京都に移ってからは着物を着る機会も増えた
フランス人翻訳家で作家のコリーヌ・アトランさん
フランス人翻訳家で作家のコリーヌ・アトランさん。
日本文学を数多くフランスに紹介されている第一人者。
繊細な感性を分かち合える友人を茶道でおもてなし。
色無地に段々縞の帯を締めて。
フランス人クリエーターのクレモンティーヌ・サンドネールさん
フランス人クリエーターのクレモンティーヌ・サンドネールさん。
アンティーク着物や帯をリメイクしてバッグや洋服を制作している。
初めて着物を着ることで、彼女の意識が大和撫子に。
白沙村荘・橋本関雪記念館の館長は、京都で最初にお世話になった恩人
白沙村荘・橋本関雪記念館の館長は、京都で最初にお世話になった恩人。
現在でも時折、美しい庭園を眺め、お食事をいただきに足を運ぶ。
友人でフランス人調香師のダニエル・ぺシオさん
友人でフランス人調香師のダニエル・ぺシオさんを、練香や山茶花など日本伝統の香りでおもてなし。
正倉院宝物や着物の文様にインスピレーションを得た香水を、ダニエルさんとのコラボレーションにて制作予定。
フランスからダニエルさん、台湾からミッシェル・ルーさんと
フランスからダニエルさん、台湾からミッシェル・ルーさんと、ブダペストにて。
とあるプロジェクトの香りについての打ち合わせを行う。
日本伝統の香りにフランスのエスプリを加えた、台湾人好みの香りを考案中。

運命の一枚

日常的に着物に触れるようになった中、Junkoさんにとって深く印象に残っている着物とはどのようなものでしょうか。

「印象深いものは、私が七五三のときに祖母が誂えてくれた着物ですね。大人になっても着られるように、全部内側に入れて縫い上げてあったもので。
ただ、その着物の色がわりと華やかな茄子紺だったんです。子供心に赤やピンクが着たかったのですが、そのころ着るものはすべて母が指定していたので、そういう想いは叶わずで。

七五三のきもの
母と。ちりめん生地でずっしりとした着物は7歳児にはかなり重かった
祖母が誂えてくれたきもの

さらに柄は、宝船などの吉祥文様が雪輪文になっているもので、子供が着るには渋すぎて、当時、嫌で泣いちゃったんですね。色も男の子みたいだし、みんなお友達は、すごくかわいいお花の模様を着ているのにって。

それでもその着物を7歳のときに着て月日が経ち、20歳のころでしょうか、祖母がその色を染め替えしてくれて。紺をちょっと薄くした感じの青にしてくれたんです。もちろん、縫い上げしたものも全部とって、着物にあわせた小堀遠州好みの帯も誂えてくれていて…それを見たときに、深く感動してしまいました。

新年やお祝いごとにふさわしい文様・大人になってからは初詣によく着用する

あのときの着物がこうやってここにあり、子供の頃に着ていた小さかったものが大きくなって、それにあわせて帯も誂えてくれて。数々の吉祥文様にも、きっと祖母の想いが込められていたのかしらと、描かれていた吉祥文様の意味をすべて調べました」

これから目指すことー「美こそ神」

大叔父の澤木四方吉は、戦前、ヨーロッパに長く留学する
大叔父の澤木四方吉は、戦前、ヨーロッパに長く留学する。
このイタリアの古い邸宅にいると大叔父の面影と対話しているような心地に。
私が彼の意思を継ぐようにと感じました。

色変えや、こういった仕立て直しができるのは、着物ならでは。
また、文様の意味を知ったことで、祖母の伝えたかったことを知ることができた―
そこからJunkoさんは文様に対する興味を抱き、「着物の文様と世界の芸術や文化とのつながり」について大学院にて学術的に研究するべく、該当する大学院や指導ができる研究者を探すまでになりました。

「海外で、着付けを含めた着物の美しさについてなどの講演をさせていただくのですが、その時に、宝相華文などのお話をするとみなさま目を輝かされます。
着物のことは日本固有のものと思っていたけれども、例えば宝相華文でいうと、ペルシャから発生してシルクロードをずっと渡って日本にきたもの。同じルーツのものがヨーロッパにはアラベスクという文様になっている。そういう悠久の話を聞いたときに、みなさんロマンを感じられるようで、はっとされるんです。

ルーブル美術館に何十回も通い、ミロのヴィーナスと対面する
ルーブル美術館に何十回も通い、ミロのヴィーナスと対面する。
訪問着は、日本から持ち込まれヨーロッパで人気となった菊花文様のものを。
オリエンタル急行の乗客が宿泊していたホテル
オリエンタル急行の乗客が宿泊していたホテル(イスタンブール)では宝相華文の着物を。

日本独自と思っていたけれど、一つ一つをみていくと異国情緒にあふれている。文様だけでなく織りも、爪掻きつづれ織などがありますよね。エジプトには、コプト織があって。大昔に発生したものがめぐりめぐって着物にも、帯にもなっていたということがとても興味深く、着物から世界の文化とか芸術とのつながりというのを深く掘り下げく考えています。

北京では、唐花の見事な装飾を舞台に唐花文様の大島紬を着て
北京では、唐花と唐草の見事な装飾を舞台に唐花文様の大島紬を着て。
「反日感情が高まっていた時だったので、中国で着物を着るのを心配してくれる方もいましたが、みなさんとても親日的で着物きれいね!と声をかけて下さいました。あらためて文化と美の力を感じました。日本文化を深く理解するには、その源泉である中国の美術や文化を知ることがとても大切であると、日々学んでいます。ここ数年、中国のアッパークラスの文化人の方々のセンスと品の良さにも、得るものが多くあります」

逆にそういう人がいないと、誰も伝える人がいなくなってしまう。
そういった危機感もあります。着物の文様を研究しようにも、ご紹介いただいた先生はみなさまご高齢なのですよ。けれども、伝承が難しいと言われるのです、若い人で研究する人がいないからと。

それを聞いたときに、みなさまがまだお元気なうちに、私がお話を聞いてまとめていくことがすごく大事で、これも使命のように思いました。今は、京都に着物を学術的に研究ができる大学院がないようで驚くしかありません。残念ながら、需要がないからとよく耳にします。需要を作りたいですね」

組紐帯は、もともと大陸から技術が伝わる
組紐帯は、もともと大陸から技術が伝わる。
「締めやすくて豪華、好きな帯です」
◆以上4枚の写真は、ヨーロッパートルコー中国ー日本と並ぶ。着物は実に多くの世界の文化が混じり合い日本で昇華されたものと分かる。

「大叔父の西洋美術史家、澤木四方吉が残した言葉に、「美こそ神であり、神の姿を学問という理知の眼で哲学的に捉えよう」というものがあるんです。親族が生涯をかけて追求しようとした「真実の美」。1100年前から連綿とつづく一族の歴史の中に自分もいるのだなと、認識したような感じです。

また私1人では無理ですが、同志たちで京都に着物の美術館を作りたいとも思っています。大きな夢ですが、叶えられると信じています。そもそも日本にそれなりの規模の着物専門の美術館がないことが驚きなのです」

せっかく着るのなら美しく。着物を着て、美しくあるということ

白大島紬に更紗文様、汕頭刺繍が施された着物
白大島紬に更紗文様、汕頭刺繍が施された着物。
「異文化がうつしだされたお気に入りの着物です」
更紗が伝わってきたインドと、日本の伝統美容についてのコラボも進行中。
「古い着物を生かすアイデアを出しています」

日本の「粋」やフランスの「Art de vivre」の精神を探求しているJunkoさん。
芯の通った美しさからは、美を伝えるものとしての気概や、覚悟が感じられる。
Junkoさんのように美しく着物を着こなすには、どうすればいいのでしょう。Junkoさんが着物を着るうえで一番気をつけていることを聞いてみました。

「細かく言えば、文様のあわせ、季節の色柄、帯の格合わせ、会う人や場所に添っているか、などなど色々あります。でも一番大切なのは、総合的に美しく着ることでしょうか。美しいものをまとうのではなく、美しく着こなすことが、着物を着る上でのポイントだと思っています。美しく装うことが立ち居振る舞いにも生きてきて、その人の「佇まい」になると思うのです。」

珍しい織柄の大島紬
珍しい織柄の大島紬。
「祖母からの着物は裄丈が短く、お直しに出したいところです。
120枚くらいあるので、優先順位をつけるとしたらこの着物は最優先のもの」

「着付けなどの基本のルールから自由になってもいいのではないかとも思うのですが、基本をふまえたほうが、より日本人女性らしい洗練された優雅さが出てきますので、着る上で分からないことは一度勉強してみるのといいかもしれません。
ある程度を学ばなければならないことは教養のひとつともなりますし、そうやって日本のことを知るということこそが、すばらしい体験だとも思います。

今では良い着物がお求められやすくなりましたし、着付けは色々な場で学ぶことができます。
お母様やお祖母様のお着物があるのでしたら、ぜひ着てみて下さい。
洋装と異なり、まとうだけで明らかに違う自分…もしかすると、本来の自分が現れてくるかもしれません。こんなに楽しいことはありませんよ」

「そして何より、着物を美しく装い、優雅な振る舞いをする日本女性は、世界で称賛されていること、これを知ってほしいと願っています」

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