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長楽館オーナー 土手素子さん

長楽館オーナー 土手素子さん

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東山区の中心、円山公園の一角に、時を越えたような洋館が佇む。100年以上も昔、明治のたばこ王と言われた村井吉兵衛によって建てられた「長楽館」。ヨーロッパのあらゆる建築様式が組み込まれた建物は圧倒的な美しさを誇り、今なおその威光を放つ。

「長楽館」にたゆたう、 優雅な空気や時の流れを ゆったりと感じてほしい
東山の緑に包まれた、明治の息吹を感じる洋館長楽館は京都にまだ迎賓館がなかった時代、伊藤博文や西園寺公望、大隈重信など明治の元勲、
さらにはアメリカ、イギリスなど外国からの賓客をもてなす迎賓館としての役割を果たし、華やかな集いの場であったという。

「大らかであった明治という時代の息吹をそのままこの館に吹き込みたいという、村井吉兵衛さんの思いが込められた館だと思っています」とオーナーの土手素子さん。

1954(昭和29)年、先代がこの館を手に入れてから現在に至るまで「長楽館」は絶えず修理修復を続けてきた。

「長い歴史の中で、たまたまご縁があって、現在はわたくしどもがお預かりしている大切なお宝ですから、修理修復を重ね、できるだけ美しく保っていきたい。そして後世に引き継いでいきたいと考えています」。

当時の雰囲気はそのままに 生まれ変わり続けていく1986(昭和61)年には京都市有形文化財にも指定されたこの館を使用しつつ保存する動態保存というかたちで守っていくことに土手さんは心を砕く。

特別な方だけでなく一般の方に楽しんでいただけるようにと、カフェ、フレンチやイタリアンのレストラン、ウエディング、宿泊という部門で営業を展開。さらに2016年には新たにバーとブティックがお目見えした。

「もともとはライブラリーとサンルームであった場所。その面影や雰囲気はそのままに、いかに新しいことをしていくかにエネルギーを注いでいます。長楽館はひとつの完成品。わたくしどもの手に負える分野ではありません。根本的なところはまず変えない。

でないと、村井吉兵衛さんがかわいそうじゃないですか。時代に合わせ、変えなければいけないところと、変えてはいけないところ。そこを見極めるのが一番難しい。

ホテルをはじめ、これまでもさまざまなものをつくりましたが、新しいものをつくる時は正直すごく怖い。大変な覚悟がいります。苦しい時もいっぱいある。

もしこの世に村井さんがいはったら、こういう直し方をして、ようやったと褒めてくれはるか、それは嘘やろと言われるか、いつでも問いかけるようにしています。アホ、間違っているで!って言われたらかなわんしね(笑)」。

時を越えた、二つとない場所で 先人のように最高のおもてなしを
「長楽館」で古い歴史を持つのは、先代の頃より営まれている喫茶店。
以前に比べて席数を大幅に減らし、ゆったりと寛げる空間に生まれ変わった。ひと手間加えた商品やサービスも心がけている。

「落ち着いてゆっくりと過ごすことができれば、お客様は自然と空間を見ます。窓の外の景色を見ます。壁や絨毯、天井を彩る美しい絵柄や細やかな装飾、大理石の彫刻、家具の一つひとつに目が行くようになる。窓の向こう、東山の山並みや遠く比叡山を眺望できるのもこの館の素晴らしい魅力です。お客様の滞在時間が長ければ長いほど、長楽館の味が伝わっていくとわたしは思うんです」。

「ここは普通の喫茶店ではない」と土手さんは言います。

「昔々、明治期に村井さんはこの館を個人のものでありながら、公の器として使われました。賓客をおもてなしの気持ちでお迎えになった。

この館は当時の空気を十分に吸収している、二つとない場所。その息吹は時を越え、今わたくしどもに降り注いでいると感じます。歴史の中で、自分が今ここにいる意味を見つめながら、先人のようにお客様をおもてなししたい。

そして多くの方に長楽館にたゆたう空気や時の流れを感じていただけたら、こんなに幸せなことはないですね。なにしろ、長楽館はわたしにとって命の次に大切なものですから」。

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