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奇跡の扉が開く時― イマジンワンワールド 代表理事 手嶋信道さん

奇跡の扉が開く時― イマジンワンワールド 代表理事 手嶋信道さん

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世界中の国々を表現した213の着物と帯を制作、着物を通じて世界をつなぎ、平和のメッセージを伝えるKIMONOプロジェクト「イマジンワンワールド」。代表理事である手嶋信道さんは、大企業サラリーマンから驚きの転身をしてプロジェクトに参画。手嶋さんの心をとらえたものとは一体何だったのか… 全4回、プロジェクトに関わる方々への取材から、そこにある想いや描かれる未来図を伺いました。

本来ならば東京オリンピック2020の開会日であった2020年7月24日。
一般社団法人イマジンワンワールドは、全世界、総数213の国と地域(※1)をイメージした KIMONO(振袖と帯)が完成したことを発表。

(※1)日本と国交のある国、東京2020大会に出場予定の国及び地域、IOCに所属する難民選手団、英国内のカントリー等を対象とする。

◆制作費は各国平等に200万円(着物100万円、帯50万円、仕立てや小物に50万円)
◆制作費はすべて寄付によって賄われ、全額を各制作者にお渡しする
◆プロジェクトメンバーは、全員ボランティア

これが、KIMONOプロジェクト「イマジンワンワールド」のルール。

予期せぬ出会いと感動、「伝えなきゃな」という想い

世界中の国をテーマとした着物と帯をつくるKIMONOプロジェクト「イマジンワンワールド」。

現在の代表理事である手嶋信道(てじまのぶみち)さんは、もともと着物とは無縁の世界にいらっしゃいました。
大手スポーツ用品メーカー・アシックスにて、東京マラソンを9年間担当。
好きな仕事にやりがいのある大規模イベント、何不自由のない会社員生活。
そんな働きざかりの年代に、大企業を退職までして飛び込んだのが「イマジンワンワールド」でした。
何がそれほどまでに手嶋代表を突き動かしたのか…その出会いは、思わぬところにありました。

イマジンワンワールド 代表理事手嶋信道さん

きっかけは、手嶋さんのご友人からの「飲もうよ」のお誘い。
実はその方、とある写真コンテストで金賞を受賞され、その副賞がなんと日本酒の一升瓶120本!だったのです。声をかけられたものの、もちろんのこと数人で飲みきれる量ではありません。
「120本あるなら100人200人は必要だよね」と、手嶋さんがイベントを企画。日本酒だから「和」をテーマにしよう。会場は手嶋さんゆかりのお寺を貸し切り、ドレスコードは「着物」に設定。
東京マラソンをはじめとする大規模イベントに関わっておられた経験から、人が集まる場を企画したり運営発信することは、手嶋さんにとってお手のものでした。

Facebookでイベントを立ち上げるとすぐに、ご友人の元日刊スポーツ新聞社・森泰人さんから「おもしろそうなことをやっているね」との連絡が入ります。さらには続いて「着物のプロジェクトをやっている人がいる。しかし良い発信ができていない。発信のノウハウを教えてあげてもらえないか」と相談を受けます。

「俺、着物なんてわからないよ?」と言いながらも、持ち前の明るさで引き受ける手嶋さん。

なんと当初は、お互いがお互いのことをよく分からないままに、まあとりあえずやってみようということでファッションショーをすることになったそう。
手嶋さんにとっては何の事前知識もないまま、イベントは本番を迎えました。

お寺でのファッションショー

そして当日。
ショーを観た手嶋さんは、強く心を揺さぶられます。

「感動しちゃったんだよね」

日本を体現する「着物」と、各国や各地域の文化・風景・歴史への敬意。
様々な形で文化を受け継いできた先人たちの存在がリアルに感じられ、「あぁそうだよな、こういうものを伝えていかないといけないよな」と。ご自身にゆかりのお寺だったということも、コンテクストとして存在していたのかもしれません。

もともとアシックスでは、東京マラソンなどのイベントを手がけてきた手嶋さん。
「それなら何か自分も手伝えるのではないかな」と思われます。
それもそのはず、そのまま会社員生活を続けていれば、きっと東京オリンピックにも関わられていたことでしょう。イベントの企画運営で培ったノウハウを、この「イマジンワンワールド」のKIMONOプロジェクトにも活かせるのではないかと考えたのです。

KIMONOプロジェクト・イマジンワンワールド

最初はあくまで、会社員と両立しての「お手伝い」というスタンスでスタートされました。
しかしそれから7ヵ月後、手嶋さんは「会社を退職する」という道を選ばれます。
驚いた周囲の仲間たちからは「何をやってるんですか、これは非営利活動ですよ。分かってますか?」と言われたそう。
ですが手嶋さんは「会社に行っていたら何もできない。中途半端だ」という強い意志にて「イマジンワンワールド」に参画されました。

「本物を作れ」の「本物」とは?

着物を5、6着ほど手掛けた頃、手嶋さんは、ある方から助言を受けました。
それはビーチバレーの元オリンピアン・瀬戸山正二さんで、「本物を作れ」ということ。
「自分たちは本物を作っているつもりだ」と返したところ、「このプロジェクトに必要なのは、ウールマークやJISマークのように、外部から”本物だ”と認定してもらうこと。そのためには、その国の大使館に行き、その国の大使と一緒に作るのが良い」というアドバイスが。

その言葉を聞いた手嶋さんは、さっそく大使館へと足を運ぶようになりました。最初はなかなか中に入れてもらえず、苦労したそうです。そんな手嶋さんが、大使館でまずはじめに確認するのが「着物に描いてはいけないもの」=タブーです。

大使館にて着物の相談

「おもてなしという言葉がありますが、”押しつけ”とはき違えている人が多いのではないかと感じることがあります。例えば、相手の国の食文化をよく調べずに「日本だと〇〇が美味しいよ」とか。そうではなく、相手のことを調べて、相手が何をしたら喜ぶかを考えるのが、本当のおもてなしだと僕は考えています」

そう話す手嶋さんは「まるで好きな人を口説くように」ひとつひとつの国に対し、本当のおもてなしの姿勢で真摯に向き合ってきました。

「たとえば僕が海外旅行である島に行ったとするでしょう?僕が日本人だと知った現地の人たちが、日本のことがそっと描かれた島の民族衣装を着て歓迎してくれたら、すごくうれしいじゃないですか。おもてなしって、そういうことだと思うんですよね」

そうして作り上げられたKIMONO(着物と帯)は、どの国に持っていっても喜んでもらえるものになりました。

大使館にまったく知り合いがいなかった状態からのスタート。
居留守を使われたことも多数。
しかし今では「イマジンワンワールド」というワードを出すと「あの国の大使館につなげてあげるよ」と言ってもらえる関係を大使館と築かれています。

各国の大使館とも懇意の仲に
G20にてイギリスのメイ首相と

制作したKIMONO(着物と帯)は、2016年のG7、2019年のG20といったサミット(地域首脳会合)でも披露され、各国の要人たちをおもてなししました。その縁を結んでくれたのも、大使館でした。

ペルーの着物を大使夫人がとても気に入られ、そこからサミットへの道がひらけたのです。大使夫人は2017年の「天皇陛下誕生日茶会の儀」でも、ペルーの着物をお召しになっています。

ペルーのKIMONO

「サミットなんて考えていなかった、でも、自分の道を歩いているうちに大使館の方から、サミットに出たら?と声をかけていただいた。え、僕たちも出ていいんですか?と。僕はこれを”奇跡の扉”と呼んでいます。このプロジェクトからたくさんの奇跡が生まれ、広がり、扉がどんどん開いていっているというのをすごく感じます。」

「イマジンワンワールドは、イベント会社ではありません。

僕たちの理念は『世界はきっと、ひとつになれる。』

残念なことに世界の国や地域は様々な情勢によって、仲良くできないことがある。でもあの国とあの国も…KIMONOを通してなら手をつなげてあげることができる。」

来たるオリンピック・パラリンピックは、スポーツと平和の祭典です。それは、世界中の人々が最も注目する瞬間。

「だからこそ、このKIMONOプロジェクトはオリンピックなんですよ!世界の目が日本に向くその時にこそ、日本が世界へ向けて平和のメッセージを発信する。その信念に向かってまっすぐに進んできました。オリンピックしか見ていません。ひたすら一途に。」

国からの信頼を積み上げてきた

2021年の東京オリンピックを目指す手嶋さんたちは、知名度は上がるものの、直接オリンピックにはつながらない民間からのイベントのお誘いをすべて断りました。なかにはTV報道も多くなされるような大変人気のビッグイベントもあり、理事の間で争点となることも。

「外務省などの省庁関連行事に注力し、国からの信頼を積み上げてきました。先輩からの”本物を作れ”というアドバイスが、プロジェクトにとって大きなターニングポイントとなったのです。」

“KIMONO”が紡ぐストーリー

ひとつひとつが、大切な宝物のような”KIMONO”たち。

日本各地の染め織りの作家さんたちは、各国の大使館と何度も何度も丁寧に相談しながらその国や地域に真摯に思いを馳せ、腕を鳴らし、KIMONO(着物と帯)というキャンバスにその国を映してきました。それは、身近な隣国であったり、はじめてその名前を聞くようなはるか彼方の見知らぬ国であったりさまざまです。

どうしたらその国を自分なりの表現であらわせるのか?
そして、どうしたら喜んでもらえるのか?

普段はお商売である以上どうしても市場に求められている作品を作らなければならない面があるなか、ただただひたすらにひとつの国をつきつめて、ご自身ならではの技法を活かしながらのびのびと、心おもむくがままに制作にのめりこめるイマジンワンワールドのKIMONO。
それは、昨今大変厳しい状況にある日本全国の伝統産業の作家さんたちにとって大きなエールであり、元来そうであるべき「ものづくり」に立ち戻ったとも言えます。

どの国どの地域のKIMONOも、大切な想いの詰まったかけがえのないものであるのは間違いないなか、手嶋さんも魅せられた「KIMONOが紡ぐストーリー」をいくつかご紹介いたしましょう。

ひとつめはナイジェリア。
ナイジェリアには、なんと254もの部族が共存しています。そこで描かれたのが、優雅に舞う254の蝶々。ナイジェリアにしかいない種類の蝶です。そこには、部族のみなさんが手を取り合って羽ばたいてほしいという平和への願いがこめられています。

「254も蝶を描いたのは、人生ではじめてだよ!俺、もうこんな仕事やらないからな!」

こうおっしゃった作家さんの瞳は、キラキラと、楽しそうに輝きます。

最初はよそよそしかったナイジェリアの大使も、このKIMONOとあらわされた蝶々にこめられたメッセージを知ると、手嶋さんの肩をたたき「友よ!」と腕を広げてハグ。そして自ら、他の国の大使を紹介してくださったそうです。

KIMONOプロジェクト・イマジンワンワールド あめや藤本
KIMONO制作者:あめや藤本
https://kimono.piow.jp/nation/079.html
KIMONOプロジェクト・イマジンワンワールド カナダ
KIMONO制作者:千總
https://kimono.piow.jp/nation/108.html

ふたつめはカナダ。
手嶋さんは女性の作家さんから「これはカナダとは関係ないのですが、小さな四つ葉のクローバーを描いてもいいですか?」と相談を受けます。手嶋さんがなぜかと尋ねると、

「これは、幸せの四つ葉のクローバーです。このプロジェクトが成功しますように、と願いを込めたいから」と。

うれしくなった手嶋さんが「じゃぁもっと大きく描きなよ!」と言うと…

「四つ葉のクローバーは、みつかりそうでなかなかみつからない。だからこそ、みつかったらうれしい。このくらいの大きさがいいんですよ。」

カナダのKIMONOには、やさしい想いの込められた四つ葉のクローバーがそっと小さくあしらわれています。

みっつめはインド。
こちらは東京にある泰明小学校の子どもたちによるデザインです。
オリンピック開催地の小学校が応援する国を決め、その国について学ぶという、一校一国運動。泰明小学校では1年間、インドについて深く学びました。
そして最後の仕上げとして、インドで学んだことをこの着物に込めたというわけです。

KIMONO制作者:大羊居
https://kimono.piow.jp/nation/006.html

子どもたちの絵そのままに、全く直すことなく表現されたKIMONOのなんと自由なことでしょう…

できあがった着物を見て「ここの絵、僕の!」と言う子も。
「何でわかるの?」
手嶋さんが聞くと、「だってさ、僕イニシャル入れたもん!」
手嶋さんも大笑いのエピソードでした。

最後にご紹介するのは、パラオです。
制作者は、日本工芸会正会員であり鎌倉友禅の第一人者である坂井教人さん。

ある日手嶋さんは坂井さんから、「手嶋くん、あした目を入れるから、来なさい。」と声がかかります。何のことか分からないままに手嶋さんが赴くと、坂井さんは、戦争の話をしながらゆっくりと、着物に描かれた鳥たちに目を入れていきました。

瞬間…
鳥たちに命が宿る。

パラオの着物は、戦争を題材にしています。第二次世界大戦中にパラオで起こった「ペリリューの戦い」は、現地に赴いた1万人の日本軍がほぼ全滅。生存者はわずか34名という壮絶なものでした。

「もしあの戦争がなければ、彼らもいつか、つがいとなる伴侶をみつけ、巣を作ったり、家族で追いかけっこをしたりしたんじゃないかな…」

そんな話をしながら、鳥たちに目を入れていく坂井さん。

「もう、泣いて泣いてね。」

そう話す手嶋さんの目には、またうっすらと涙がにじんでいました。

KIMONO制作者:坂井教人
https://kimono.piow.jp/nation/153.html

このようなストーリーが、着物と帯の数だけ、国・地域の数だけ存在するのです。

東京オリンピックで奇跡の扉、夢の扉を開く

「今でもあまり着物には詳しくない」そう話す手嶋さん。
しかし大事な場へ行くときには、必ずイマジンのKIMONO(着物と帯)を持っていくようにしているそうです。
百聞は一見にしかず。
言葉で伝えるよりも、KIMONO自体がより強いメッセージとして相手の心に届くと考えているからです。

ラグビーワールドカップ

コロナウイルスの影響で1年延期になってしまった東京オリンピックですが、何をするのかは「サプライズ」とのこと。

「クリスマスもあるし、七夕もあるし、ハロウィンもある、こんな幕の内弁当のような文化を持つ国は日本しかない。多様な文化を受け入れて来た日本だからこそ”世界はひとつ”と発信できる。2021年の東京オリンピック開催の際には、想像もつかないことが起きる。奇跡の扉、夢の扉が開く。」

手嶋さんは、そう熱く語ります。

世界中に蔓延する新型コロナウイルスは未だ終息に至らず、先の見えない不安な状態が続きます。しかしイマジンワンワールドなら、きっと、着物を通じて世界に希望を与える、感動の1ページを開いてくれることでしょう。

奇跡の扉が開くとき―

それは、我々着物ファンにとってもまた、かけがえのない瞬間となるはずです。

◆ インタビュー公開(2020年7月24日)にあたり手嶋信道さんからのメッセージ ◆

昨日、競泳選手・池江璃花子さんから、力をいただきました。

「逆境から這い上がっていくときには、どうしても希望の力が必要だということです。希望が遠くに輝いているからこそ、どんなにつらくても、前を向いて頑張れる。世界中のアスリートと、そのアスリートから勇気をもらっているすべての人のために。一年後の今日、この場所で希望の炎が、輝いていて欲しいと思います。」
https://tokyo2020.org/ja/news/one-step-forward-plus-one-message-ja

こう聞いて、アスリートとは我々ひとりひとりのことなんだなと…
プラスワン精神に!
炎は、消えていない。
KIMONOプロジェクト「イマジンワンワールド」は、準備が整いました。
さぁ、スタートです!!

◆ 一般社団法人イマジンワンワールド・オフィシャルサイト ◆
https://www.piow.jp/

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