ジャズシンガー MAKOTOさん
「おおきに、おおきに」よく通る、明るい声。おだやかな笑顔を絶やすことのないMOKOTOさんは元祇園甲部の芸妓。そして、ジャズシンガーでもあります。
舞妓さんになることと、歌手になること、小さい頃の夢はその両方でした。「どうしても、チャラチャラとかんざしを挿してみたくって」。
とはいえ、一体どんなことをする人かわかないから、まずは「都をどり」を観てみることに。そこで「なんて華やかでカッコイイんだろう」と衝撃を受け、井上流に入門します。稽古はすればするほど、その厳しさも含めて、楽しかった。「こんなに渋い芸能があったのかと目覚め、ええもんやなぁと心から思っていましたね」。
小学生の頃から洋楽が好きだったMAKOTOさん。舞妓時代、お小遣いを貯めて初めて買ったのは家庭用のDJセット。「置屋のお母さんも偶然ジャズが好きな人だったんです。うれしさのあまり、お母さんに報告すると唖然とされたことを覚えていますね(笑)」。お稽古や舞台の傍ら、時間を見つけては、洋楽の歌の練習をしていたそうです。
五年半お世話になった置屋を卒業し、芸妓に衿替えをして、自前になると自由な時間が少し生まれるように。趣味で歌っていると、ライブ活動をするようになって、その回数も増え、次はCDをつくる話になった。その後、メジャーデビューが決まり、アルバムを発売。そのタイミングで井上流の名取をいただくことに。
「どんなこともそうですが続けていくと、ステップアップしていかなくちゃいけないし、立場もそうなっていきます。中堅という立場になり、連絡のやりとり、後輩の指導、稽古や舞台の段取りなど、どんどんやることの幅が増えていって。だけど、音楽をするためには、本業をきっちりとやらなくちゃいけないという気持ちがあり、気づけば気力のみでがんばっていました」。
全部好きなことで楽しくやらせてもらっているはずが、どれが何かわからない。だけど、何を手放していいのかさえわからない。
ノーが言えず、イエスばかり言ってしまう。ノーと言うのがどうして怖いのだろう。
「心の中にぽっかりと穴が空いたような状態になり、さまようってこういうことなのかなと思いました。
どうやったらこのサイクルを止められるのだろう。最終的には、どうやったら消えられるのだろうと思っていました」。
「お風呂で偶然、乳がんに気づいて、すぐに検査し、入院・手術が決まりました。実は、これでやっと休める、そう安心しました。自分と向き合わなくちゃ、と。
続いて、子宮にもがんが見つかって。今度は命と向き合うことに。これは本当に、何かを考える時期をいただいたんだなと思いました」。
そして気づいたのは、結局生きていることは「ありがとう」でしかないということ。
「普通に暮らして、ときどきおいしいものを食べて、好きな歌を歌って、お座敷にも出させてもらって。
こんなにいっぱいあるのに、何かないものを探していたんじゃないか、と心の整理がようやくできたんです。
自分は必要以上のものを欲しがって、欲でがんじがらめになっていたのかもしれないと。病気をしたことで、欲を手放すことができました。
だけど、病気をしなくても、こんなふうに体中傷だらけにならなくても、それができはったらなと思うんです。がんばることはいいこと。でも、がんばり過ぎることは、授かった自分の命を粗末にすることになる。それって、命に対して失礼だなって思うようになって、結果的にノーが言えるようになりました」。
だけど「元気になってここで歌うことができれば、同じ病気の人を少しでも勇気づけることができるかもしれない」そんな願いは、およそ一年後に叶います。
病院でのピアノコンサートでは、闘病後のMAKOTOさんの力強い歌声が響き渡りました。
「生かされている、ということに気づき、すべてに感謝できる自分になったことで、本当に心が楽になりました。
我慢したりせず、自分の命を大切にするという選択をしていけば、いつでも健やかでいられる。周囲にも自分から太陽のような心で接していくことができると思うんです。
ちょっと大きな話になりますが、一人ひとりが自分を大切にすることができれば、戦争ですらなくなるんじゃないかなと思うんですよね」。
シェア
BACK NUMBERバックナンバー
LATEST最新記事
RANKINGランキング
- デイリー
- ウィークリー
- マンスリー
-
よみもの
【Q23】ハーフ成人式にはどんな着物が良いですか? 「いまさんの着物お悩み相談室」
-
まなぶ
羽織りものはシーンごとに使い分けて「着物ひろこの着付けTIPs」vol.11
-
よみもの
気品と気さくさが同居する妙 祇園甲部・小扇さん 「令和の芸舞妓図鑑」vol.15
-
まなぶ
着物でJAZZ@ビルボードライブ横浜「みなさまの着物コーディネート拝見!」vol.6
-
よみもの
紬を楽しむ 「大久保信子さんのきもの練習帖」vol.19
-
まなぶ
名古屋帯とは?袋帯との違いと種類ごとの使い分け・最適な仕立て方まで解説
-
まなぶ
初心者でも可能?着物の着方・着付けの手順を写真で解説!
-
まなぶ
着物は「右前」「左前」どっち?覚え方のコツや注意点を解説!
-
まなぶ
式典に着物を着ると”目立ちたがり”なの!? 「3兄弟母、時々きもの」vol.16
-
まなぶ
羽織りものはシーンごとに使い分けて「着物ひろこの着付けTIPs」vol.11
-
まなぶ
着物でJAZZ@ビルボードライブ横浜「みなさまの着物コーディネート拝見!」vol.6
-
よみもの
大谷友右衛門夫人 青木かずこさん 「歌舞伎俳優 ご夫人方の装い」vol.6 ―歌舞伎俳優の妻はみな”プロデューサー”
-
よみもの
気品と気さくさが同居する妙 祇園甲部・小扇さん 「令和の芸舞妓図鑑」vol.15
-
よみもの
【Q23】ハーフ成人式にはどんな着物が良いですか? 「いまさんの着物お悩み相談室」
-
まなぶ
着物は「右前」「左前」どっち?覚え方のコツや注意点を解説!
-
よみもの
いまを生きる女性に寄り添う『夢訪庵』の表現 「京都できもの、きもので京都」vol.18
-
よみもの
紬を楽しむ 「大久保信子さんのきもの練習帖」vol.19
-
よみもの
故・中村富十郎夫人 渡邊正恵さん 「歌舞伎俳優 ご夫人方の装い」vol.5 ―“妻の仕事“に正解はない、礼儀を欠かず誠意をつくす
-
よみもの
結婚式に振袖を着ると、花嫁より目立っちゃう!? 「きくちいまが、今考えるきもののこと」vol.89
-
よみもの
『モネ 睡蓮のとき』 国立西洋美術館 「きものでミュージアム」vol.39
-
よみもの
お見世出しに密着! 宮川町に新たな舞妓・君花さんがお目見え 「令和の芸舞妓図鑑」特別編
-
よみもの
【さそり座】寝ても醒めても着物のことだけ考える 「12星座で選ぶ、わたしに一番似合う着物」vol.5
-
まなぶ
着物は「右前」「左前」どっち?覚え方のコツや注意点を解説!
-
まなぶ
羽織りものはシーンごとに使い分けて「着物ひろこの着付けTIPs」vol.11
-
よみもの
大谷友右衛門夫人 青木かずこさん 「歌舞伎俳優 ご夫人方の装い」vol.6 ―歌舞伎俳優の妻はみな”プロデューサー”
-
まなぶ
辻が花とは?幻と称される染め物の由来や特徴を解説
-
まなぶ
着物でJAZZ@ビルボードライブ横浜「みなさまの着物コーディネート拝見!」vol.6