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着物の所作を美しくするために重ねた訓練【女優 熊谷真実さん】(後編)「着物ひろこが会いに行く!憧れのキモノビト」vol.8

着物の所作を美しくするために重ねた訓練【女優 熊谷真実さん】(後編)「着物ひろこが会いに行く!憧れのキモノビト」vol.8

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海外での着物生活を送った後、2024年に帰国して日本での活動を始めた”着物ひろこ”こと長谷川普子さんが憧れの人に会いに行く連載。第四回のゲストは、テレビに舞台にYouTubeにと活動の場を広げ続ける女優、熊谷真実さんです。真実さんのこだわる着物の所作とは?

2025.08.16

よみもの

静岡で人生がガラッと変わった二人【女優 熊谷真実さん】(前編)「着物ひろこが会いに行く!憧れのキモノビト」vol.7

女優 熊谷真実さん

”着物ひろこ”こと長谷川普子さんが、憧れの人に会いに行く!という連載第四回。
ゲストは、テレビに舞台に、さらにYouTubeにと活動の場を広げ続ける女優・熊谷真実さんです。

亜由子さんプロフィール画像

熊谷真実

1960年生まれ、東京都出身。NHK朝の連続小説『マー姉ちゃん』(79年)で主役デビュー。同年、エランドール賞受賞。以後、舞台、テレビ、映画と数多くの作品で幅広く活躍。主な出演作に、映画『大病人』『さよならドビュッシー』、ドラマ『渡る世間は鬼ばかり』『この街の命に』、舞台「眉山」「マンザナ、わが町」など。

ご自身の私服として楽しむだけでなく、女優というお仕事を通してもお着物に触れる機会の多い真実さん。後編では、真実さんのポジティブの秘訣や、着物での「振る舞い」にこだわる驚きのご経験などをお聞きしました。

ひろこさんと真実さん01

自ら勝ち取ってきた「底抜けの明るさ」

着物ひろこ(以下、ひろこ):真実さんの、底抜けに明るいマインドに憧れています。そのポジティブシンキングはいつから?

熊谷真実(以下、真実):これはね、自分で切り拓いてきたと思っているんです。子どもの頃はおとなしくて虚弱で、いじめられっ子だったんです。小学1年生からめがねをかけていて、気がちっちゃくて。

熊谷真実さん01

真実:小学生の頃に男の子からすごくいじめられたので、中学では女子校に入りました。そうすると今度は「真実ちゃんは男の子の前では目をぱちくりする」と指摘されてしまって。だったら「男っぽくすればいいのかな?」と思いそう振る舞ってみたら、人気の的になって(笑)

ひろこ:人気者になったターニングポイントは、そんなに早いタイミングから!

ひろこさんと真実さん02

真実:根っから明るいというよりも、明るさを勝ち取ってきた部分があるのかもしれませんね。ポジティブシンキングと言っても、思考の癖ってなかなか治らないじゃないですか。だから、ポジティブな言葉を使って、脳を勘違いさせていく。気分が上がらない時は「今日も最高!」と言ってみるようにしていたら、いつの間にか今の「熊谷真実」ができちゃっていたのかも。

ひろこ:すごく素敵な考え方ですね!この連載は若い方にも読んでいただいていると思うんですけれど、絶対に勇気が出ると思います。

きものひろこさん01

気さくな真実さんらしさを育てた、阿佐ヶ谷の洋服店

ひろこ:真実さんは、テレビ番組『徹子の部屋』に昨年2回もご出演されていましたよね?!

真実:私、もうトータルで15回も出ているの!芸歴45年だもの。デビューから考えたら少ないくらいだけど、番組としてはトップクラスに多いらしいです。

ひろこさんと真実さん03

ひろこ:一度目が白いレース着物で振袖、髪飾りも大きくウェディングドレスを思わせるもの、二度目はチェックの着物でイギリス風。どちらもとても印象的でした。

真実:あれはライブのときに着たものなんです。

ひろこ:晴れ舞台に着物を選ぶときの、真実さんなりのこだわりはありますか?

熊谷真実さん02

真実:国宝級のお着物までいったら手が出ないけれど、「自分なり」という言葉が好きなんです。手が出て、なおかつ自分なり。そういう着姿を探していたら、ひろこさんのインスタを見つけたんです!

きものひろこさん02

ひろこ:そういうきっかけだったんですね!真実さんからご連絡をいただいたときにはとても嬉しかったのですが、「芸能人」という意識はどれくらいあるのでしょう?芸歴45年というお立場で、一般の方のところに寄っていくのはどういう気分なんだろうと気になっていました。

真実:私の実家は、阿佐ヶ谷でずっと続いている洋服屋なんです。親が「日本一安い店」と言っていて、朝ドラ『マー姉ちゃん』でデビューしてからも、売り出しを手伝わされていて(笑)。

ひろこ:芸能人に囲まれるようになって、気持ちの変化はありませんでしたか?

熊谷真実さん03

真実:劣等感ばかりでしたよ。学校では超人気者だったのに、芸能界に入ったら、日本中から美人と美男子が集まってくるわけでしょう。全然自分がすごいとも思わなかったし、おまけに親がそういう育て方をしているから、一般から離れられなかったのかも(笑)。

藤娘からマツケンサンバまで!着物の所作を鍛えるために

ひろこ:真実さんもバレエをやっていらっしゃったとお伺いして、そこもまた共通点だなと思いました。

真実:そうそう!ひろこさんの動きがとてもきれいだから、勉強したんだなと思っていたんです。バレエだったんですね。

熊谷真実さん04

真実:動きのきれいさと言えば、私にとってのバイブル的な映画があるんです。『日本橋』という作品で、山本富士子さんと淡島千景さんがお互いに芸者の役を演じているんですけれど、お着物の仕草がもう本当に美しくて。

ひろこ:いいことを聞きました!ぜひ見てみます。

きものひろこさん03

真実:私が30代の頃『細雪』という舞台に8年ほど出演していたのですが、淡島千景さんがお姉さんで、私が四女の役だったんです。法事でみんなが集まるシーンでね、淡島さんのセリフで「着物と帯がきゅっきゅっいう音が嫌やねん」というのがあって。

それはそれは、体から出ているようなセリフで、本当に美しくて。私はいっつも、淡島千景先生の動きを毎日見ていました。『細雪』に、お歴々の映画スターの方々と出られたことは、私の中では宝物です。

ひろこ:真実さんは撮影では着付けていただくとおっしゃっていましたが、普段はどうなさっているのですか?

熊谷真実さん05

真実:日本料理に行く時などは自分で着ていくこともありますね。これからは着物が衣裳の舞台があるので、そういうときは日常から着物の生活をするタイプなんです。役柄でずっと着物だと、所作や足捌きも変わるじゃないですか。

ひろこさんと真実さん04

真実:それこそ昔は、演出家の先生に「なんだ、そのイカみたいな歩き方は」と言われて(笑)。足捌きを鍛えるために膝のところを伸びる腰紐で縛った状態で、生活をしていた時期もありました。

ひろこ:すごい!今、まさに『ガラスの仮面』のリアル北島マヤだと思いました。さすが女優さん!そこまでやるんですね!

真実:というか、私は不器用なので。1日できた、2日できた、3日できた、と続けていったら歩幅が変わっていったんです。着物に合わせた体の訓練は、本当に大変でした。

ひろこ:真実さんは日本舞踊もならっていらっしゃったんですよね?

きものひろこさん04

真実:演出家の石井ふく子先生からおすすめいただいて、40歳から日本舞踊を習い始めました。50歳を超えるくらいまでは習って、藤娘を踊って。40代は、今よりも着物生活をがんばっていたのかもしれません。

ひろこさんと真実さん05

真実:着物を着る役も多かったし、結構がんばったなぁ。こう見えて、マツケンサンバも松平健さんと一緒に踊ったりしたんですよ!

ひろこ:藤娘からマツケンサンバまで……!何でもこなせるんですね。多才!

着こなしをどんなにアレンジをしても美しいコツは衿にあり?

真実:インスタを見ていて思っていたのですが、ひろこさんも、きっと凝り性なんじゃないですか?

ひろこ:凝り性かな?でもたしかに、ハマると長いんですよね。

真実:着物はどういうきっかけで?

ひろこ:お正月には家族で着たりしていました。

熊谷真実さん06

真実:昔はそうだったよね!

ひろこ:ですよね!だから着物自体は嫌いじゃなかったんです。でも30代のころ、京都のレンタル着物屋さんにカップルで行ったら、相手はとても和顔で似合っていたんですけど、私には似合わないと思ってしまって。

きものひろこさん05

ひろこ:それから結婚したり離婚したり独身だったりも経験して、仕事をがんばってパーティーなどにいく機会もあったんですけれど、ボンキュッボンという体型じゃないからドレスもしっくりこなくて。そんな時着物をレンタルしてみたら、似合うものに出会えたんです。

真実:私も、たぶん20代の頃だったと思うんだけど、伊勢丹で大島紬の大きなマドラスチェックのような着物を着た女性がいて「こんな着物が着たい」というのはずっと頭の中にあったんです。だいぶ経ってから、「これだ!」という着物に出会ったのは転機でしたね。

ひろこ:今日は真実さんは、どうしてこの浴衣をお選びに?

真実:自分の中で想定できるイメージを覆したかったんです。いつものようなフリルがついていない!みたいな(笑)。

ひろこ:驚きました!真実さんがこの装いなのは意外!って。もっとポップな印象がありました。

ひろこさんと真実さん06

真実:正統派で、女優さんっぽくいこうと思って。今日、女優さんっぽいでしょ(笑)?

ひろこ:本当にお美しいです!

真実:着物って、着ているだけじゃだめなんだなって最近思って。やっぱり所作が大事。そして、衿が大事だなと思ったんです。

ひろこさんのきれいなところは衿。どんなに着くずしてファンキーでも、衿元がきれいじゃないですか。衿合わせもしっかりしていて、肩も美しいなと思っていました。着付けや帯結びは自己流で?

きものひろこさん06

ひろこ:海外生活が長かったので、自己流が多いですね。自分なりに工夫していったことなどを、台湾に引っ越したあたりからYouTubeで発信しようかなと思い、始めました。

真実:YouTubeはご主人が?

ひろこ:自分で撮って自分で編集しています。iPhoneで。私、実はパソコンが使えないんです。なので全ての作業はiPhoneです。コラムや本の執筆まで……

真実:全部iPhone!すごい!

私もYouTubeをしていて、帯結びの動画の再生回数が伸びました。でも、じゃあ帯結び動画ばっかりやろうとはならないのが熊谷真実で(笑)。結局、歌をやったり、いろんなことをやりたくなってしまっています。

ひろこ:真実さんは、これだけ浮き沈みのある世界で、ずっと第一線でお仕事されていて、本当に素晴らしいと思います。

ひろこさんと真実さん07

真実:私ね、運がいいんです。たぶん世の中が忘れかけるタイミングで『徹子の部屋』に呼んでいただいたり。「ずっと出てる感」を出しているんです(笑)。でもひろこさんも運がいいですよね。

ひろこ:そこも共通点ですね!やっぱり、静岡に住んで、徳川家康公に見守られているのかな(笑)。

ヘアメイク・着付け/小楠優子
構成・文/山本梨央
撮影/伊藤圭
撮影協力/浮月楼 徳川慶喜公屋敷跡(国登録名勝/国登録有形文化財)

2025.07.25

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着物ひろこが会いに行く!憧れのキモノビト

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