着物・和・京都に関する情報ならきものと

【対談】映画作家 河瀨直美さん×両足院副住職 伊藤東凌さん ―「対話」は、愛。

【対談】映画作家 河瀨直美さん×両足院副住職 伊藤東凌さん ―「対話」は、愛。

記事を共有する

半夏生が咲く頃、建仁寺塔頭両足院で映像作家・河瀨直美監督と伊藤姉弟の対談が実現しました。まずは、副住職を務める伊藤東凌さんとの語り合いについて。美しい庭園の様子と共に、おふたりの「対話」への想いをお届けします。

2025.05.12

インタビュー

奈良×沖縄によるケミストリー。映画作家 河瀨直美さんの愛用品

シグネチャーパビリオンの「対話」について

河瀨監督と東凌さんが再会したのは、「初夏の特別公開」期間中のこと。

建仁寺塔頭けんにんじたっちゅうのひとつである両足院の庭園が、年間を通して最も華やかな時期です。

河瀨監督と東凌さん

池のほとりには、群生する半夏生はんげしょう。葉の一部が白くなり、天に向かって開花するかのような姿が幻想的な風景を描き出します。

庭園風景

半夏生と共に、両足院では坐禅や写経が気軽に体験できるプログラムも人気です。詳しくは、申し込みサイトをご覧ください

――現在開催中の2025大阪・関西万博。河瀨監督が手がけたシグネチャーパビリオン「Dialogue Theater - いのちのあかし - 」では、毎日異なるテーマが設けられ、「対話」が繰り広げられています。

そこで、今日は「対話」についておふたりで存分に語り合っていただければと思います。

半夏生を愛でる監督

東凌さんとの2ショットを撮影後、「半夏生と撮りたい!」と監督。満開の花を愛でるひととき

河瀨直美監督(以下、監督):「対話」をテーマにした私たちのパビリオンでは、会期中の184日間分のテーマに基づいて、毎日9つの対話が生まれています。いま2か月ちょっと経って、リピーターがすごく多くなってきていていることに気づいたところです。

伊藤東凌副住職(以下、副住職):へぇ、そうですか!

――公式ライセンス商品『大阪・関西万博ぴあ 完全攻略編』(ぴあ株式会社刊)で発表された「パビリオン満足度ランキング」で堂々の5位にランクイン、おめでとうございます。

監督:ありがとうございます。中には(全パビリオンの中で)一番好きって言うてくれはる人もいて、本当にうれしいです。

副住職:それは素晴らしい。監督のパビリオンは、人間としての本質的な部分を問う貴重な体験ができる場所ですね。

――連日満員御礼とのこと。人気の理由は何だと思われますか?

監督:万博って、たぶんみんな答えを見つけに来るんだと思うんです。

副住職:未来都市の姿を見たい人も多いでしょうね。

河瀨監督と東凌さん

監督:未来都市の実験場としての空間で、「これが未来都市です」と提示するとなると、AIやアンドロイドなどの分かりやすいコンテンツで、「未来」を具現化することになる。

そうするとみんなハッキリとした未来像を見るわけです。

対して、私たちのパビリオンでは答えがない。

答えのないことこそが、対話の醍醐味だと思っているんです。

だから、「それは人生と一緒です」とアテンドスタッフたちに最後に伝えてもらうようにしています。

自分の言葉ひとつ、行動次第で、何かが変わってくる。それは個々の在りようの問題。自分の言いたいことを言うだけじゃなくて、お互いの間にある、私でもない、あなたでもない何かを言葉を通してつくり上げていくことが「対話」なんじゃないかな、と。

東凌さん手元

副住職:一方的な情報伝達ではなく、ときどき迷って崩したりもしながら、それぞれがつくり上げていく何か。……大切ですね。

「和顔愛語」の姿勢で相手と向き合う

――対話からは理解や共感だけでなく、対立も生まれると思うのですが……。

監督:答えがない分、近しい人だから揉めるんやなってことも。

副住職:想定から外れるから揉めるんですよね。

監督:期待もするし。

それほど親しくない人なら期待もしないので、まあいっかで流せても、一緒に暮らしている家族やパートナーならそうはいかない。

もしかしたら、そういった間柄こそ、もう少し気を遣って、お互いにとっていい場所を探していく必要があるのかな、って。

河瀨直美さん

副住職:その通りだと思います。

監督:そういうことに悩んでおられる方が来られることってありません?

副住職:多いですよ。近い距離の会話こそがギスギスしてしまってる事例は、本当によくあります。

監督:そういうとき、どんなアドバイスをされるんですか?

東凌さん

副住職:私がよく言うのは、コミュニケーションや対話というものは、そもそも大変難しいですよ、ということです。

この大前提に立っていないと、相互理解は得られません。強度のある伝え方が一回できただけですごく伝えた気になりますが、実は回数もとても大事なんです。頻度を高めないと、お互いに納得のいく合意には至りにくい。

そしてこの合意というのも難易度が高くて、今日の合意が明日の合意と思い込むのも危険です。一度得た合意に足したり引いたりしながら、違う方向を向かないように微調整することも必要だと思います。

「施す」とは持っているものを見返りを求めず与えることで、僧侶が身に着けている袈裟も元々は余り布を集めてパッチワークしたもの。

では、財産を持っていない者は施せないのか、と言うと、そうではないんですね。

和やかな顔と「ありがとう」や「おやすみ」といった、当たり前のようでいて忘れがちな愛のある言葉を用いて相手を思いやりなさいという教えを、仏教では和顔愛語わげんあいごと表現して、重要な概念だと考えます。

監督:そのお話を聞いた方の反応はどうですか。

副住職:自覚はあるけど疎かになってるという方が多いかな。近い人にこそ感謝や挨拶を伝えなくなりがちなんでしょうね。監督は、ご家族に愛ある言葉を伝えてますか?

監督:うちは息子が幼い頃からボディタッチが過ぎる母なので(笑)、いま夏休みでイギリスから帰ってきてる彼に、今日も行ってくるよチュ!って。ほっぺやおでこに。本人、うぇ!とか言ってますけど、思いっきり嫌っていうより、母ちゃんはこういう人っていう達観的なかんじで(笑)

副住職:ちょっと照れながらも(笑)。それは素敵な関係性ですね!

近しいからこその対話の重要性を考える

――コミュニケーションや対話のコツってあるのでしょうか。

監督:相手の立場に立つことも大事だし、自分でしっかり考えたり落とし込んだりする時間も大事だけど、距離感も大事だと思うんですよね。

副住職:それは、近すぎるとか遠すぎるとかいうことですか。

監督:そう。近すぎると、何でも自分がコントロールしようと思ってしまうことがあるから。自分の思い通りにしようとすると間違うこともあるんちゃうかな、って。

河瀨監督と東凌さん

副住職:そうですね。そもそも、「相手のことを分かる」とか「あの人のこと分かった」っていう言葉って慎重に扱った方がいいと思っています。

誰しも脳内で分からないこととずっと付き合い続けるのは負荷が大きいので、あれはこれね、と記号で決めたがるけれども、分からなさをどれだけ受け止めながら、むしろ分からないからこそ愛せるといったことが重要で。近い距離だからこそ毎日対話を楽しんでいくことがいいな、と最近考えています。

監督:何かの事象が起こったときに、「相手のことが大事やからこう言うてんねん」ってことって、本当は自分のことが大事やから言うてるんちゃうかなって思うことがあって。

副住職:ああ、それはありますよね。

監督:結局はやっぱり自分のことが大事なんやなって。それって、いいことなんですかね。

副住職:それはもう変えられない事実として、これからの二人の関係をどう守って、どう育んでいくか。そこには自分も含まれますよね。「あんたのためなんやで」は包みすぎだから、きちんと開示して、「関係を続けたい」という想いを正直に伝えるのがいいでしょうね。

河瀨直美監督

監督:それが個人対個人から国家間へと広げるとなると、さらに難しくなりますよね

図らずも、私たちのパビリオンでは、オープニングからひと月はイスラエルの監督のショートフィルムを流してて、次はウクライナ、いまはイランの監督なんです。

全員、なら国際映画祭に応募してくれた監督たちで、私も含めた6名の監督が撮った対話をテーマとした作品を、観客代表者とワークショップを経験した話者との10分間の対話の後に観てもらうんですね。

奇しくも、私以外は戦争に関わりのある国の監督ばかりで、パレスチナ難民を多く受け入れているヨルダンのパビリオン関係者から「どうしてイスラエルの監督を呼ぶのか」って言われたこともあって。「イスラエルがいま何をしているのか分かってるの?」って。びっくりしました。

私はただ単純に、そのイスラエルの監督が表現者として優れているからフィルムをお願いしたんですよね。そして、たまたま彼女が来日してたタイミングでパビリオンでトークショーをやったんです。

それをイスラエル館の人たちに伝えたけど来ない。もちろん、ヨルダンの人たちも来ない。「政府に聞いたけど行くなって言われた」と。万博でもこんな感情がからんでいるのかと、当然といえば当然ですが、まのあたりにして衝撃を受けました。

2025.01.02

インタビュー

「対話」を通して分断を超えたい― 映画作家 河瀨直美さん(前編)

2025.02.11

インタビュー

【対談】映画作家 河瀨直美さん × 能楽師 田中春奈さん ―世界平和のため、家内安全を願う。

3分間「対話」を、いざ実践!

――そのパビリオン「Dialogue Theater - いのちのあかし -」で連日行われている「対話」を、今日はおふたりに実際に挑戦していただこうと思います。

テーマは「すべてを知る人と、何も知らない人では、どちらが強いでしょうか?」です。

対話のルールは3つ。

1 敬語は使わない。
2 自己紹介はしない。
3 テーマについて直接的な話をしない。

テーマに対して答えを出すのではなく、見ている人たちが考えるきっかけになるような「対話」を目指して、まずは1分間のシンキング・タイムを挟みます。

それから、“昔からの親しい友人”というくらいの距離感で、3分間対話(パビリオンでの実際の対話は10分間)の実践です!

(対話の様子はこちら)

――はい、3分経ちました。では、いまの対話を振り返って、いかがでしたか?

副住職:早い! 目の前の対話を聴かないといけないのと、行き着く場所に向かっての道筋を悶々と考えながらで、ちょっとまだ混乱していますね(笑)

対話って時間が短ければ短いほど、どちらかがある程度ナビゲートする必要があるのかな。その流れに邪魔せず乗るのか、こちらが流れをつくっていくのか。それも信頼関係の委ね合いというか……。これは、面白いですね。

監督:本音を引き出すためには、ちょっと反発するようなことも、ときとして必要なんですよね。嫌われたくないからか、つい同調してしまうことも多いんですが、そうすると会場の観客からするとただの世間話を観ることになってしまうので、沈黙や意地悪な返答も重要な変化になります

副住職:なるほど。いやぁ、興味深いなぁ。これは1回やったら絶対もう1回やりたくなりますね。リベンジしたい!

監督:ぜひ本物の会場で経験してください!

河瀨監督と東凌さん

――では最後に、「対話」とは何かについて、それぞれのお考えをお聞かせください。

副住職:「対話」とは、会話の後に双方が変化していることが前提になる行為だと思います。片方だけが変わるのでは、それは指示や命令など圧力の強すぎる会話に留まってしまうので、持っているものを正直に出し合って、話し終わった後にお互いが相手の事を学び、新しい接し方を発明するように双方が自己変革する。この前提がないと、良い対話は難しいと思います。

監督:「対話」は、愛です。

一方通行にならず、どちらのものでもないものを慈しみ、一緒に育むこと。それこそが、愛です。

ご案内

山田晋也|Antique & Art Masa Pulse of Silence
したたりとひたたり “Drip and Dwell”

「静寂が脈を打つ」——それは、日本の美の根源的な感覚。Pulse of Silence は、日本の美意識と身体感覚を現代に呼び覚ますアート・コレクティブとして、2021年より活動を続け、今回で第10回目の開催を迎える。

本展のテーマは「したりとひたたり」。日常にひそむ小さな出来事の本質に目を向け、その現象そのものに意識を向けるインスタレーションを展開する。会場となる両足院の空間と共にお楽しみあれ。

山田晋也|Antique & Art Masa Pulse of Silence

会場:両足院(建仁寺山内)
会期:2025年8月2日(土)〜8月11日(月)
時間:17:30–20:30(最終受付/20:00)
入場料:1,000円(学生無料)※学生証を提示

なら国際映画祭 for Youth 2025開幕に向けて参加者募集中!

なら国際映画祭

2010 年になら国際映画祭を発足してから15年。
偶数年度は本祭を開幕しておりますが、 今年の2025年度は学生たちが主役となるユースシネマプロジェクトを軸に映画祭を開幕いたします。

・「映画を創る」ユース映画制作ワークショップ
・「映画を観る」ユース映画審査員
・「映画魅せる」ユースシネマインターンの3つのプログラムを展開します。

開催に先駆けて、夏休み企画として、【ユース映画制作ワークショップ】を実施し、 開催期間中は【ユース映画審査員】【ユースシネマインターン】を実施しており、 このプロジェクトと若き表現者の参加を募集しています。

>>詳しくは応募要項をご覧ください → https://nara-iff.jp/news/3309/

【ユース映画制作ワークショップ】 ※13歳~18歳対象
「大人が口出ししない」をモットーに、奈良の自然や歴史ある場所を舞台に、 映画制作を1から体験できる1週間のワークショップが開催されます。
企画・撮影・編集・上映までを映画作家・河瀨直美さんや現役の映画監督、映画祭スタッフと共に、 自分たちだけの映画づくりが体験できる。

【ユース映画審査員】 ※13歳~23歳対象
世界の映画作品をじっくりと鑑賞し、自分の感性で「最優秀作品」を選び、審査するプログラム。
ベルリン国際映画祭やショートショート フィルムフェスティバル & アジアの推薦作品を鑑賞し、意見を交わしながら審査を行う。
最終的には、実際の映画祭の舞台で作品発表も行う貴重な機会。

【ユースシネマインターン】 ※13歳~23歳対象
YouTube や SNSが身近な今だからこそ、「映画祭をどう伝えるか?」という課題に、学生の皆さんが自由な発想で発信していくプログラム。
装飾制作、SNS発信、会場運営など、映画祭のPRや広報・運営に関わりながら、 映画祭を魅せる戦略を一緒に計画し、「観る側」から「つくる側」として映画祭に関わる貴重な体験ができる。

3つの魅力あるプログラムに興味のある方、映画が大好きな方はぜひ、募集フォームからエントリーお願いいたします。
>>募集フォームはこちら→https://forms.gle/Lrztp1bC7F9sSCRw9

映画祭を通じて、新しい出会いの場に参加しませんか?
ご応募お待ちしております。

なら国際映画祭

なら国際映画祭実行委員会

お問い合わせ→info@nara-iff.jp
公式サイト→https://nara-iff.jp/

取材・構成/椿屋
撮影/松村シナ
撮影協力/建仁寺塔頭 両足院

2025.06.23

よみもの

透明感あふれる白の世界。【日本画家 定家亜由子さん】(前編)「着物ひろこが会いに行く!憧れのキモノビト」vol.5

2025.07.07

よみもの

天井に描かれた双龍が有名な建仁寺。見どころは他にも盛り沢山!周辺おすすめスポットも併せて解説

シェア

RECOMMENDおすすめ記事

Related Posts

LATEST最新記事

すべての記事

RANKINGランキング

  • デイリー
  • ウィークリー
  • マンスリー

HOT KEYWORDS急上昇キーワード

CATEGORYカテゴリー

記事を共有する