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55歳で京都へ!着物三昧の日々 秋尾沙戸子さん(前編)【YouTube連動】「着物沼Interview」vol.1

55歳で京都へ!着物三昧の日々 秋尾沙戸子さん(前編)【YouTube連動】「着物沼Interview」vol.1

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新たに始まりましたYouTube連動連載「着物沼Interview」。記念すべき第1回は、国際ジャーナリスト・ノンフィクション作家の秋尾沙戸子さんをお招きして、祇園祭の山鉾を代表する長刀鉾保存会にて、着物の魅力を徹底的に語り尽くしていただきました。

アンティークフェアで一目惚れした初めての着物

祇園祭の準備でせわしない某日、長刀鉾保存会にて秋尾沙戸子さんの“着物沼”についてお話を聴く機会が得られました。

国際ジャーナリスト・ノンフィクション作家の秋尾沙戸子さん

国際ジャーナリスト・ノンフィクション作家の秋尾沙戸子さん

まずは、お召し物チェックから。

着物は、秋尾さんが初めて足を運んだアンティークモールのフェアで出合った記念すべき一枚です。棕櫚しゅろの葉に赤蜻蛉が飛ぶ不規則的な竪絽(変わり絽)は、その大胆な柄行と色味で秋尾さんの心を鷲掴みにしました。

衣紋に掛かっているのを見て、何が何でも着たくなって。袖にシミがあったので、それを取り除いてから下前にもってくるように仕立て直してもらいました」

後ろ姿

合わせたのは、西陣で見つけたという羅の帯。青海波のような文様が浮き出ている印象的な夏帯で、鳥居など神社仏閣の朱赤とリンクする祇園祭に映える一本です。

「これは、西陣織会館のファミリーセールで見つけました。こういう色の帯は一本あると、藍の浴衣にも合わせやすくて便利ですね

帯回り

「この帯(赤の羅の帯)を見つける前までは、母の形見の絽綴れ(上)を合わせていたんですが、結ぶ間に汗だくになって大変でした(苦笑)」と秋尾さん。

アクセントとなる帯留めは、ラリマーというドミニカ共和国でしか採れない石で、ブローチを帯留めに加工したもの。

「指輪でもネックレスでも、この石を身につけているとアメリカではよく声をかけられるんです。ラリマーは、コミュニケーションの石ですね」

帯締めは帯留めのラリマーと同色で

帯締めは帯留めのラリマーと同色で

着物沼への入口となった、母が用意してくれた喪服

秋尾さんがホームステイをしながら海外をめぐっていた頃、よく訊かれたのが、日本の文化についてでした。

「その頃は、日本文化の説明ができないことや着物が着られないことにコンプレックスを抱いていました。そんな折に、母が急逝して……。祖父母が呉服屋を営んでいたこともあって、思いがけずたくさんの着物が手元にやってきたんです。これは完全なるミッションだな、と思いました」

と、当時を振り返り、「あれは運命でした」と語る秋尾さん。

トーク中の秋尾さん

「正直、母とは摩擦もあったけれど、遺された着物に袖を通すことで母と繋がれるような気持ちになりました」

そう言って瞳を潤ませた秋尾さんの着物とのファーストコンタクトはといえば――。

「桐の箪笥の上に置いてあった、『いざという時はこれだからね』と言われていた喪服一式が、母の力を借りずに初めて自分ひとりだけで着た着物でした。
いま思えば、あれが着物修行の第一歩だったと思います」

ときに執筆活動に影響を与えた着物の存在について

著書『京都で、きもの修行』

2024年1月に発刊された著書『京都で、きもの修行 55歳から女ひとり住んでみて』(世界文化社刊)は、着こなし修行10年の日々を綴ったエッセイ本

ほぼ毎日のように着物を着て、京都暮らしを満喫している秋尾さんが、神社仏閣や祭りなどさまざまな場所を訪れ、京都と着物についてまとめるなかで実感したのは、

「和服をまとうとものすごく深く京都が分かる」

というメリットでした。自ら実証したエピソードが詰め込まれた本書は、“着物沼入門書”としても最適です。

著書『ワシントンハイツ』

この日の着物とも似た表紙の著書『ワシントンハイツ』(新潮社刊)は、戦後すぐ現在の代々木公園辺りにできたワシントンハイツ(米軍の家族住宅)に注目し、このエリアの人たちがアメリカナイズされた理由について、膨大な資料とインタビューから繙いた一冊

「日本エッセイスト・クラブ賞をいただいた『ワシントンハイツ』は、できることなら母にも読んでもらいたかった本です。また、その前に上梓した『運命の長女』(新潮社刊)が第12回アジア・太平洋賞特別賞を受賞した際には、ちょうど母が亡くなってすぐでもあったので、表彰式に母の着物で出席した思い出があります

著書『京都占領』

2024年12月に発刊した『京都占領ー1945年の真実ー』(新潮新書刊)は、原爆投下を免れ戦争被害が少なかったといわれる戦後の京都で何が起きていたのかを知ることができる貴重な一冊

「『京都占領』という本をまとめるにあたって、京都で取材を重ねました。その時も、着物を着たことが非常に役に立ちました。京都を理解しようとしているという姿勢が、着物をまとうことで伝わったことが本当にありがたかったです

亡き母から受け継いだ着物への想いを語る

赤い菱形模様の小紋

お母様の形見となる多くの着物の中から、秋尾さんが最初に手に取ったのは、「本当にいろんな人に褒めてもらいました」と言う、赤い菱型文様が珍しい小紋(写真一番上)。

「これには黒系の帯をもってくるとバッチリ似合ったので、最初はよくこれを着ていました。糸が細いからか、昔の絽はとても薄くて、軽くて涼しいんです」とのこと。

宮古上布

こちらは、秋尾さん曰く「たぶん撫子」の柄が印象的な宮古上布です。

「一尺五寸の袖を直さずそのまま着ていました。母の着物やアンティークは裄が短いので、麻の襦袢を胴体だけで作って、一尺五寸と一尺三寸の袖をそれぞれ作り付けにするという工夫を施しました」

また、祖母から譲り受けた越後上布は、グレイッシュな色合いだったものの、雪晒しで洗い張りを終えると、真っ白になって戻ってきたというお話も。「麻って正直なんだな、ということを学んだ」と秋尾さんが教えてくれたエピソードは、ぜひ動画にて。

お気に入りの上布

一番のお気に入りは、こちらのちょっと珍しい模様の上布。

いまだにどこの上布か分からないんです。母の遺品の整理をしている時に、祖母に訊ねたら『上布だがね』と答えてくれて、生まれて初めて上布という言葉を知った一枚です

たくさん出ていた茶色いシミを取るために東京で呉服屋さんに預けたところ「怖くて手がつけられない」と突っ返されたものの、京都の悉皆でしっかり落としてもらえました

大切に手入れし、何度も身にまとった味わいある上布たち。撮影クルーがうっとりと眺めていると、

「みなさんお好きでしょうけど、意外と上布は暑いですよ」

というお言葉が。
なぜか? その理由も、動画でお確かめください。

アンティーク着物にずぶっと沼ったきっかけとは?

手持ちの着物に合う派手な帯を探しに訪れた先で、秋尾さんを魅了したのが鮮やかなアンティーク着物たちでした。

とにかくカラフルでびっくりしました。ディズニーランドやサンリオピューロランドみたいにワクワクしました」

中でも、目を奪われたのがこちら!

向日葵柄のアンティーク着物

「すごく気になったんですが、童顔の私が着ると恐らく七五三みたいになるんじゃないかな……と。でも、諦めきれず、帰る間際に当ててみたら意外と大人っぽくて。お花を裏側から捉えていたり、葉の濃淡の描き方が洒落ていたり。これに合わせる帯は、焦げ茶か深緑しかない!と思っていたら、銀座で素敵な帯を見つけて」

蜻蛉を飛ばした帯

そのままでは少し寂しいからと、アンティークの本を参考にブローチの蜻蛉を飛ばして遊び心をプラス。

さらに、ナイフフォークレストを帯留めとしてアレンジ!

蜻蛉の帯留めアレンジ

加工ができなかったため、帯に直接ワイヤーで留めて、イエローやグリーンの三部紐を通して楽しんでいる秋尾さん

「こういうアレンジができるのも手頃なアンティークだからこそ」

工夫次第で可能性が広がるアンティークの沼から足が洗えない、というのも納得です。

赤い向日葵の着物

とあるパーティで周囲から「赤い向日葵なんて!」と言われるなか、某有名俳優さんに「描き方が面白いね」と褒めてもらえた向日葵柄の振袖。誰に褒められたかは、動画で答え合わせを

アザミ柄の着

赤い帯を合わせて着るのが秋尾さんの定番。「この着物は京都より東京でウケます」

京都暮らしを通して、変化した着物への向き合い方

東京で着物沼にハマり、京都へ移住してきた今はほぼ毎日着物暮らし。そんな秋尾さんだからこそ感じた東西の着物文化の違いとは?

東京は粋が好まれますよね。私も東京にいた時は、柄や色の面白さなど洋服との接点を求めていたのでモダンで粋なコーディネートでしたが、京都に来てからはそういったことよりも文様の意味を考えるようになりました。四季の花だけじゃなくて、神社の御神紋であったり、八咫烏やたがらすなど神話に登場する存在だったり。

祇園祭ならどこの山鉾でも目にする龍に注目したり、端午の節句用に虎柄の帯を探したり。歳時記に合わせた意味を考え、京都の歴史や日本の中世古代史に入り込んだことで、より早くより深く京都を理解できて、着物には本当に感謝しています

トーク風景

東京と京都では好みが違うという着物。その扱いも異なるようで、コメンテーターとしてテレビ出演する際に、「お願いですから着物は着てこないでください」とはっきり言われたことがあるというから驚きです。

その理由についても、動画で秋尾さんが詳しく説明してくださっていますので、必見です。

着物は重要なコミュニケーションツール!

着物の面白さは、とにかく文様にある!と力を込める秋尾さん。

「まずはその意味を知るところから入るのがオススメです」

と言います。少しハードルが高いと感じる方は、まずはこの夏、気軽に着られる浴衣から始めてみるのもいいでしょう。自身が選んで身にまとう浴衣の文様の意味を調べてみるだけでも、見えてくる世界が広がります。

例えば、干支。洋服ではコーディネートが難しいけれど、着物であれば小物ひとつでもモチーフにしたアイテムが見つかりやすい。それを身につけるだけで開運に繋がりますから!」

トーク風景

「東京に比べて、京都では声をかけてくださる方々が、文様や材質に食い込んでこられることが多い印象です。それだけ呉服に関わる人が多いってことかもしれません。

着物が入口となって深みある会話を楽しむことができるのは、京都ならでは。よそさんが京都でコミュニケーションをとる時にこそ、着物は大変役立ちます。少なくとも入口ではねられないし、会話のきっかけになるという点において、着物はコミュニケーションツールだと言い切っていいと思います」

秋尾さん後ろ姿

文章/椿屋
撮影/松村シナ

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