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奈良×沖縄によるケミストリー。映画作家 河瀨直美さんの愛用品

奈良×沖縄によるケミストリー。映画作家 河瀨直美さんの愛用品

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インタビューと対談を通して、河瀨直美監督の価値観や美意識にふれてきました。今回は、彼女が監修を務めるコラボレートコレクション「FIVE SENSES 703」から、思い入れのある品々をご紹介します。

2025.01.02

インタビュー

「対話」を通して分断を超えたい― 映画作家 河瀨直美さん(前編)

2025.04.13

インタビュー

和裁で日本から世界救う!と、本気で願う。 映画作家 河瀨直美さん(後編)

伝統をモダンに!日常使いできるアイテムを

生まれ育った奈良を拠点に活動する河瀨直美監督は、映像製作に留まらず、日本の伝統文化を発信することにも余念がありません。

「最近では墨で手紙を書く人も随分と減って、書道や習字は日常ではなく習い事の域になってしまっていますよね。それは少し残念なこと。

モノは使うことで呼吸し、魂が宿ります。そこから、私たちは生かされているという相互関係性に気づくのでは、と考えるんです」

河瀨監督

そのために「より日常に取り入れやすいモダンなアイテムが必要だ」と考えた河瀨監督。

五感が心地良いと感じるモノづくりのためのコンセプトブランド「FIVE SENSES 703」を監修し、そのファーストコレクションとして2023年6月、彼女の故郷である奈良の墨とゆかりある琉球の藍を使って、沖縄の伝統的技法である紅型で染めた「紅型繋ぐ藍NARA」を発表しました。

沖縄県北部・今帰仁村で琉球藍の栽培から染色まで一貫して手掛ける「紅型工房ひがしや」と、奈良の特産である蚊帳生地や手織りの麻布などで愛着の湧くものづくりを行う「井上企画・幡」のコラボによるオリジナルの紅型小物が誕生したのです。

奄美にルーツをもつ監督ゆかりの地でもある琉球と、愛する住み慣れた故郷・奈良。

両地域に伝わる文化や風習が失われゆく現実に直面しているからこそ、先人たちが残してきた知恵や技術、美意識、感性といった日本ならではの価値を受け継いでいくためにできることを思案した答えのひとつが、このプロジェクトだったのです。

王朝時代から続く紅型技法で染めた数寄屋袋

奈良と沖縄――

それぞれの土地で培われてきた文化的価値を再発見すべくスタートした本プロジェクトの商品は、半幅帯をはじめ数寄屋袋や扇子、雪駄、手ぬぐいなど、和装に欠かせないアイテムが揃っています。

河瀨監督も愛用している花食い鳥柄の「紅型数寄屋袋 奈良の墨」に使われたのは、青々墨せいせいぼくという青みの強い墨。

「奈良は、固形墨の国内シェアは9割。あまり知られていませんが、現在でも墨の生産量は国内トップです。紅型の技法を使って、その奈良の墨を単色に染めています。

紅型と言えば、鮮やかな配色が印象深いけれど、内地では派手すぎるんですよね。だから、琉球藍を使った鹿柄バージョンも、琉球藍の濃淡と紅型顔料で染める沖縄独自の琉球藍型えーがたの技法で落ち着いた色味に仕上げました」

斜めの切り替えが印象的で、ポーチやサブバッグ、バッグインバッグとしても重宝するデザインが特徴的です。

美しい濃淡を実現!奈良の墨のポテンシャル

日常使いしやすい竹製のハンドルがポイントの「紅型竹手バッグ」は、ころんとしたラウンド型のフォルムがかわいらしい。数寄屋袋と同様に、琉球紅型によく用いられる菊や松、梅、筏などを意匠化し、奈良の鹿や正倉院紋様としても有名な花食い鳥や蔦があしらわれています。

「奈良の墨を知って、こんなにもいろんな色が出せることに驚きました。ふだん使いできる小物を“ほんまもんの入口”にしたくて、生地選びから色の濃淡まで細かく打ち合わせを重ねて、着物に合うアイテムを増やしていったんです」

沖縄にしかない伝統技術を世界へ伝えたい

ラウンド型のタッセル付ポーチ「紅型ラウンドポーチ」と、丁寧に手織りされた麻布製「紅型名刺入れ」も、監督のお気に入り。

「きっかけは、琉球舞踊家の宮城茂雄さんからのご縁で、今帰仁村なきじんそんの紅型工房ひがしやさんを訪れたことでした。独特の艶やかな美しさと伝統技術の素晴らしさに、一気に魅了されました。

この技術をもっと広めたい!と思い、元々グッズのファンだった幡さんに相談を持ちかけたんです。そしたら、2代目である林田千華さんが沖縄の工房にも一緒に行ってくれて。信頼できる人たちと一緒に素敵なものづくりができたと思います」

「変わらないもののために、変えていく。」

制作にかかった期間は約半年。「井上企画・幡」がつくった晒の反物を「紅型工房ひがしや」で染め上げ、戻ってきた反物を使って「井上企画・幡」にて商品に仕立て上げられました。

変わらないもののために、変えていく。それが、このプロジェクトの根幹にあるテーマです。手しごとですから均一な仕上がりにはならない。染色の滲みも味です。それこそが、手しごとによって生まれるものの魅力」と、河瀨監督。

3ショット

対談相手の能楽師・田中春奈さん(写真左)と、東大寺塔頭宝珠院の奥様・佐保山素子さん(右)と並んで、取材終わりの記念撮影

手間を惜しまずつくられたモノを大切にする――その丁寧な姿勢こそが、暮らしを彩る要素になるのかもしれません。

リゾートとしてだけではない沖縄の魅力を、日本の古都・奈良で育まれてきた技術とのコラボレーションでカタチにする「FIVE SENSES 703」の挑戦は、まだまだ続きます。

2025.03.07

インタビュー

【対談】語り尽くせぬ、奈良への愛。映画作家 河瀨直美さん × 東大寺塔頭宝珠院住職夫人 着付士 佐保山素子さん

2025.02.17

インタビュー

【対談】映画作家 河瀨直美さん × 能楽師 田中春奈さん ―世界平和のため、家内安全を願う。

ご案内

「FIVE SENSES 703」東京POPUP開催決定!

6.27-POPUPイベント 修正3-1

映像作家・河瀨直美さんが、良質な手しごとや各土地ならではのものづくりを現代の暮らしに取り入れるための案内役を務めるコンセプトブランド「FIVE SENSES 703」が、初夏の東京・神楽坂にてPOPUPを開催します。

奈良の手織り麻に沖縄の紅型を施した雑貨をはじめ、南国らしい鮮やかな色使いの半巾帯、沖縄の夜光貝や琉球漆で仕上げた帯留めなど、和の装いにアクセントをもたらしてくれる商品が並びます。

初日には河瀨さんのトークイベントも行われます。イベント詳細や予約方法などは、「BAN INOUE」オフィシャルInstagramまで。

日時:2025年6月27日(金)~7月6日(日) 11:00~20:00
場所:神楽坂 AKOMEYA TOKYO in la kagu2F

「BAN INOUE」オフィシャルInstagram
https://www.instagram.com/baninoue_official/

「大阪・関西万博」好評開催中!

オフィシャル画像

提供:2025年日本国際博覧会協会

現在開幕中の「大阪・関西万博」では「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに、人々の生活を豊かにし、持続可能な社会を実現するための新しい技術やアイデアに基づいた多種多様な展示やイベントが開催されており、来場者は未来の社会を体験することができます。

各パビリオンでは、「いのちを救う」「いのちに力を与える」「いのちをつなぐ」の3つサブテーマに沿った展示が行われています。

中でも、映画作家 河瀨直美が手掛けるシグネチャーパビリオン「Dialogue Theater - いのちのあかし - 」では、184日間にわたって、「対話」を通じて世界の至るところにある「分断」を明らかにし、解決を試みる実験を行っています。毎日問いかけられる異なるテーマの対話によって多くの気づきが得られる特別空間で、対話の重要性を体感してください。

人はもっとお互いを理解することができる。よりよい未来を一緒にうみだすことができる。
分断のない未来への第一歩を、ぜひ見届けてください。

「Dialogue Theater - いのちのあかし - 」公式サイト
https://expo2025-inochinoakashi.com/

取材・構成/椿屋
撮影/松村シナ

2024.10.10

インタビュー

バイヤー野瀬の、きもの産地巡り

2024.07.04

まなぶ

和裁のいま

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