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初夏の訪れを肌に伝える、本塩沢ならではのしゃり感 「つむぎみち」 vol.1

初夏の訪れを肌に伝える、本塩沢ならではのしゃり感 「つむぎみち」 vol.1

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『きものが着たくなったなら』(技術評論社)の著者・山崎陽子さんが綴る連載「つむぎみち」。おだやかな日常にある大人の着物のたのしみを、織りのきものが紡ぎ出す豊かなストーリーとともに語ります。

立夏を迎えると、まだ5月であっても単衣が着たくてそわそわします。
天気予報で「今日は最高気温25度、今年初めての夏日になります」と聞いたのは、4月26日。さっそく押入れの収納ボックスから、単衣の着物を出しました。

シーズン最初の単衣に決めている茄子紺の本塩沢

この数年、シーズン最初の単衣は、この茄子紺の本塩沢と決めています。
本塩沢は、生糸を先染めし、緯糸に強い撚りをかけて絣を織り上げ、最後に湯の中で揉んで仕上げます。湯揉みによって撚りが戻ろうとすることで、独特のシボが現れる。そのしゃり感をまとうと「ああ、夏が始まる」と、体が反応するのです。
裏地がついていなければその着物は確かに単衣なのですが、本塩沢は素材自体が「私は単衣」と訴えているかのよう。さらっと軽やかなその感触は、季節の花や旬の食材と同じように、私に夏の訪れを告げてくれます。

5月は本来、袷の季節ですが、昨今の温暖化によって、気温によっては単衣でもよしとされるようになってきました。とはいえ、あまり薄い色や素材はまだ気が引けます。外では藤やツツジが満開、菖蒲や杜若も咲き始める季節、葉の色もどんどん濃くなって。4月が優しく華やかな色の月だとしたら、5月はキリッと爽やかな色が似合うように思います。
そういう意味でもこの茄子紺は単衣の始まりにぴったり。外出はままなりませんが、今日は風車柄の八寸帯、水色の帯揚げ、杜若の帯締めで、風薫る五月晴れのお出かけをイメージしてみました。

本塩沢に風車柄の八寸帯をあわせて
手括りによる糸の細密な絣模様が美しい本塩沢

私は7年前に着物デビューしましたが、こんなに好きになったのも、最初の指南役が素晴らしい人だったからだと思っています。その方が、東京の呉服店からご実家の山梨へ帰られ、ご親族が営む老舗の着物屋さんで仕事をするようになりました。2014年の秋、初めて訪ねたそのお店で出合ったのが、この本塩沢でした。
手括りによる糸の細密な絣模様が、浮き上がるというより、むしろ水底に沈むように地紋をつくり、その抑制の効いた織り味が、目に静かに飛び込んできました。ときはすでに10月で「着られるとしたら来年の6月になるけれどいいの?」と聞かれましたが、私に迷いはありませんでした。
思えば、単衣の着物の中で、新品の反物から誂えたのは、この1枚だけ。ほかはみな、いただきものや袷からの仕立て直し、アンティークや新古品ですので、なおさら思い出深いのかもしれません。

本塩沢の産地は、新潟県南魚沼市。私はまだきもの未経験のときに、雑誌の取材で南魚沼を訪れたことがあります。
季節は夏、どこまでも続く青々とした田んぼ、羽釜で炊いたコシヒカリの美味しさ、青木酒造でいただいた「鶴齢」という日本酒のふくよかな味わい、貴重な越後上布のコレクション、雁木のある街並みなど、その豊かな風土と歴史の深さにすっかり南魚沼ファンになりました。
そこに新たに着物が加わりました。実は、私が生まれて初めて買った着物もベージュの本塩沢。それは袷に仕立て、昨年、八掛の天地替えをしたほど、今でもたいそう活躍しているのです。

本塩沢の産地は新潟県南魚沼市
本塩沢の証紙をチェック

やがて、年をまたいで、単衣の着物が仕立て上がってきました。そこについていた証紙を見て「あれ?」と思い、袷の着物をチェックしました。なんと、どちらも同じ織元、「酒田織物」の本塩沢だったのです。あのとき、お目当は単衣だった訳でもないのに、たくさんの反物の中からこれを選んだというのも、不思議なえにし。着物に呼ばれたのでしょうか? もしかしたら同じ職人さんによって織られた姉妹なのかもしれません。

立夏を迎えると単衣を着たくなってそわそわします
本塩沢のコーディネート

・本塩沢(酒田織物)
・風車柄織八寸帯(洛風林)
・杜若の冠組帯締め(道明)
・白と空色のツートン帯揚げ(衿秀)
・木草履(京都一脇)
・バッグ(ナンタケットバスケット)

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