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奔放に自分らしい幸せを追い求める、源典侍 「源氏物語の女君がきものを着たなら」vol.13

奔放に自分らしい幸せを追い求める、源典侍 「源氏物語の女君がきものを着たなら」vol.13

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女官と言っても、元は天皇の血筋を持ち桐壺帝に長年仕えている超高級女官。身分だけでなく趣味の高さや教養、人柄も良い。ただ……若作りで色好みなことだけがタマニキズ、というわけです。

2024.12.24

まなぶ

現代的な感性の持ち主、女三の宮 「源氏物語の女君がきものを着たなら」vol.12

まなぶ

3兄弟母、時々きもの

こんにちは。tomekkoです。
2025年もどうぞよろしくお願いいたします。

2024年はNHK大河ドラマ『光る君へ』に絡めてこちらの「源氏物語の女君がきものを着たなら」を連載してきましたが、この見立てが毎回本当に楽しくて!

きものとさんからも「ぜひ」と言っていただけたので、もうしばらくお付き合いください。

さて、美しい女君が数多登場する源氏物語の中で、物語をエンタメとして盛り上げるおもしろおかしいエピソードが時折挟まれます。

いわゆるギャグ要員、実際宮中にいる「あの人のことね……」と読者からくすくす笑われる対象。

有名なのは、没落した宮家の姫君で何事においても古臭いセンスの持ち主、末摘花。

玉鬘と似た境遇なのに真逆の待遇だということに納得のいかない、下品で育ちの悪い近江君。

そしてもう1人!

若きモテモテ御曹司にチヤホヤされて舞い上がったものの、実はからかわれ、陰で笑い者になっていた、源典侍げんのないしのすけです。

源氏物語の女君がきものを着たなら1

好ましう若やぎてもてなしたるうはべこそさてもありけれ、五十七、八の人の、うちとけてもの言ひ騒げるけはひ、えならぬ二十の若人たちの御中にてもの怖ぢしたる、いとつきなし。
『全訳源氏物語 上巻』角川文庫
好ましく若作りして振る舞っているうわべだけは、まあ見られたものであるが、五十七、八歳の女が、着物をきちんと付けず慌てふためいている様子、実にすばらしい二十代の若者たちの間に挟まれて怖がっているのは、なんともみっともない。

有名な男好きのお婆さんを冗談で口説いたらノリノリで来られてしまい、あれよあれよと男女の仲になってしまった光源氏。

ちょっとさすがに人の噂になるのも恥ずかしいので冷淡に接していたものの、帝にまでバレてしまいまんざらでもない様子の源典侍の対応に辟易します。

しつこさに負けてある夜源典侍を訪ねていくと、ライバルの醜態を見てやろうと忍び込んできた頭中将と鉢合わせ。揉み合っているうちに相手が分かり、慌てふためいて震えている源典侍を置いて若い男同士、笑いながら出ていってしまう、というエピソードです。

昔は美人で実際モテモテだった、一番良かった時代の価値観のままアップデートできず、周りの変化や時の流れについていけないまま、すっかり老いぼれて誰にも相手にされないどころか今では陰で笑われているオツボネ様……ちょっと中高年には耳が痛い職場の”あるある”かもしれません。

でもこの源典侍、「源」の姓からもお分かりの通り、本来人から馬鹿にされるような立場ではありません。

この内侍、琵琶をいとをかしう弾きゐたり。御前などにても、男方の御遊びに交じりなどして、ことにまさる人なき上手なれば、もの恨めしうおぼえける折から、いとあはれに聞こゆ。「瓜作りになりやしなまし」と、声はいとをかしうて歌ふぞ、すこし心づきなき。
『全訳源氏物語 上巻』角川文庫
この典侍は琵琶をとても美しく弾いていた。御前などでも殿方の管弦のお遊びに加わりなどして、殊にこの人に勝る人も無い名人なので、恨み言を言いたい気分でいたところから、とてもしみじみ聞こえてくる。「瓜作りになりやしなまし」と声はとても美しく歌うのがちょっと気に食わない。
別【久保耕 久美すがた】 特選本手描京友禅お振袖 「ヱ霞檜扇」

女官と言っても、元は天皇の血筋を持ち桐壺帝に長年仕えている超高級女官です。登場時点で50代後半にはなっており大ベテランですね。

そして彼女が帝に信頼されているのは、身分だけでなく趣味の高さや教養、人柄があってこそ。

楽器の中では琵琶の名手で、奏でながら歌う声は絶賛されています。体格も華奢で昔は本当に美人だったことも分かります。

ただ……若作りで色好みなことだけがタマニキズ、というわけです。

若い頃の源典侍の様子を思い描いて着物を着せてみるなら、溌剌とした恋多き美人には真紅の華やかな振袖がお似合い!

申し分無い身分でもアグレッシブで奔放でいつも自分らしい幸せを追い求めている……ちょっと朧月夜に近いイメージでしょうか。

2024.03.24

まなぶ

親しみやすく可愛らしい、朧月夜の君 「源氏物語の女君がきものを着たなら」vol.3

一方、光源氏目線では、年老いてたるんだ目元を取り繕おうとアイライナーを強く引きすぎて目尻の皺のせいで落ち窪んでよれている様子、派手な色の衣を纏い、若者向けの真っ赤な扇に、意味深というかお下品というか……な歌を書き散らして持ち歩く様子など、ちょっとイタイところが見え隠れ。

源氏物語の女君がきものを着たなら3

「いま、聞こえむ。」とて引き放ちて出でたまふを、せめておよびて、「橋柱」と怨み化くるを、主上は御袿果てて、御障子より覗かせたまひけり。
『全訳源氏物語 上巻』角川文庫
「そのうち、お手紙を差し上げましょう」と言って振り切ってお出になるのを、懸命に取り縋って、「橋柱」と恨み言を言うのを、主上はお召し替えが済んで障子の隙間からご覧あそばしたのだった。

光源氏に少しでも気に掛けられたと思うやいなや、袖を掴んで離さず、若い男をその気にさせようと品のない歌で追いすがるあたりは、現代だと、ミニスカートに胸元が大胆に開いた服装の厚化粧のおばさまにしつこく飲みに誘われる若手社員、という感じでしょうか……

それでも多分この方、男性との色恋さえ絡まなければセンスがいい人なわけです。面白いですね。

例えば、仕事で使う接待のお店選びや季節の贈答品など、悩んだ時には源典侍に聞けばきっとお相手の格にピッタリ合った、一目置かれるようなベストアンサーをバチっとくれるんだと思います。

正直、年齢に関わらず女性からすると、この源典侍が小馬鹿にされるような扱いはちょっと胸くそ悪いお話ですよね。

色好みはともかく、この時代の女官=働く女性としては、出産や家庭に縛られずバリバリと定年まで働き仕事で輝いて、さらに自分の趣味も恋も若々しく楽しめる源典侍の人生はなかなかに幸せそうで魅力的。

2024.09.24

まなぶ

光源氏からの”愛”を受け取る、花散里 「源氏物語の女君がきものを着たなら」vol.9

男性に依存せずに自立できるだけのキャリアと自信があってこそ、若作りだって恋愛だってできるんですもの!

そんな素敵な50代のマダムにもし着物を選ぶなら、はっきりした濃い色に華やかな全体柄の小紋を和洋MIXでカッコよく。

源氏物語の女君がきものを着たなら4

ご本人のもつオーラと自信から、派手な色柄も浮かずに着こなせるのではないかと思います。

2023.04.18

よみもの

【Q4】50~60代の和洋MIXカジュアルは? 「いまさんの着物お悩み相談室」

そんな感じなのに逆に、好きな男ができると途端にぐだぐだになって勘違いした若作りでイタいキャラになってしまうなんて……なんだかちょっと可愛いじゃないですか!?

現代は当時に比べると年齢にとらわれずチャレンジしたり成長したり、一歩を踏み出しやすい時代になりました。

実は私も、数年前に柄が好みで衝動買いしてしまった着物、実物を見たら派手すぎてちょっと着る勇気が出ずしまいこんでいたんです。でもお正月に着物を広げてみた時に初めて袖を通してみた所、当ててみると思っていたほど派手ではなく「いけるじゃん!」と気づいたということがありました。

2023.12.22

まなぶ

帯にまつわる後悔から来年に向けて 「3兄弟母、時々きもの」vol.26

今年の計画をいろいろ立てた方も多いと思いますが、私は今年、

「もう歳だから……」
「どうせおばさんだから……」

と、やる前から諦めるようなネガティブワードを口に出さず、興味を持ったことはとりあえずやってみる!を目標にしようと思いました。

この一年も、いい歳の重ね方をしたいですね!

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【久保耕 久美すがた】 特選本手描京友禅お振袖 「ヱ霞檜扇」

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