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腰掛処でいただく握りたても、翌朝の締まった食感も美味!『いづう』名物 鯖姿寿司 「京都できもの、きもので京都」vol.19

腰掛処でいただく握りたても、翌朝の締まった食感も美味!『いづう』名物 鯖姿寿司 「京都できもの、きもので京都」vol.19

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仕事帰りの新幹線で、家人へのお土産に、そしてお昼どきの祇園本店でいただくことも。 『いづう』の鯖姿寿司は、私にとっていちばんの京の味、「時間が調味料」とも言われる旨みを味わいます。

2024.11.16

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いまを生きる女性に寄り添う『夢訪庵』の表現 「京都できもの、きもので京都」vol.18

よみもの

山崎陽子さんのコラム「つむぎみち」(全13回)はこちら!

時間によって変化する早熟れ寿司、それぞれの旨みを満喫

「京都できもの、きもので京都」

小倉生まれで玄海育ちの私は子どもの頃から青魚が好きで、特に鯖は大好物。

これまでの人生、何度となく鯖寿司をいただいてきましたが、やはり「いづう」の味がいっとう好きです。

先日は祇園本店の「お召し上がり処」でいただきました。

祇園本店の「お召し上がり処」

魚もご飯もふわっと柔らかく、昆布やお酢の風味もまだほのかで、出来立てのレア感を満喫。焼き穴子のお寿司とのセットにしましたが、いいバランスでした。

魚もご飯もふわっと柔らかく、昆布やお酢の風味もまだほのか

ふだんはというと、夕方、京都駅の新幹線改札内のショップで1人前6貫を求め、車内で4貫を、残りは丁寧に竹皮に包み直して翌朝食べることにしています。

たぶん車内でいただくときは製造から5~6時間経過していると思いますが、少し魚の身が締まって、昆布を外すときにはそれ自体がしっとり。旨みが全体にまわり、それぞれの風味がほどよく調和しています。

1人前6貫を求め、車内で4貫を
1人前6貫を求め、車内で4貫を
撮影/山崎陽子

そして翌朝は、熱いほうじ茶とともに。

丸一日経つと味も食感もギュッと固まり、鯖の脂の旨みが強まります。この凝縮感は、最後のお楽しみ。

フレッシュな思春期、まろやかな円熟期、熟れた老年期――

人間と同じで、時間とともに味わいが変わり、その時々の旨みがある

鮮度が大事な江戸前寿司もいいけれど、発酵の食文化の知恵に満ちた早熟れ寿司もまた美味で、日本に生まれ育って幸せだなあとつくづく思うのです。

やはり「いづう」の味がいっとう好き

「名物の味は大きくなくては。一口めの印象がぼんやりではいけません」

いづうは、天明元年(1781年)創業。

いづうは、天明元年(1781年)創業。お茶屋さんへの出前、ハレの日の行事食、ご進物として愛されてきました。

若狭でひと塩ふり、鯖街道を経て京の都に運ばれた鯖は、貴重な海の幸。ハレの日を祝うとき、京都の家庭では鯖寿司をこしらえて、家族みなで切り分けていただきました。

そんな庶民の味を、プロの腕と技で磨き専門店として世に出したのが、いづうの始まり。

現在の当主・佐々木勝悟さんは8代目

現在の当主・佐々木勝悟さんは8代目。いづうの暖簾、家訓を大事にしながら、時代の流れにも慎重に応じているとお話しくださいました。

「鯖は日本近海で獲れた真鯖、昆布は北海道産の真昆布、お米や生姜も長年のお付き合いのところから調達していますが、このところの温暖化で素材の仕入れがだんだん難しくなってきました。

以前は夏3日、冬1週間だった賞味期間も見直しています。流行りの味というのもありますので、昔より甘さを控えめにしているんですよ。

最近ですと、海外の方の知識にも驚かされています。江戸前のお寿司と違うことを知って来店する外国客も増えましたね」

と佐々木さん。

佐々木さんが特に心がけているのは“味が大きいこと”

子どもの頃は鯖寿司の何が美味しいのかよくわからず「なんでこんなにお客様来るんかなあ」と不思議だったそうですが、やはり老舗の第一子、受け継いだ味覚は代々の店主譲り。

佐々木さんご自身は「出来上がって6時間経った頃合いが好み」だとか。

いづうには「商ヒハ両手ノ内ニ納ムルコト」という家訓があります。自分の目の届く範囲内でしっかり味を伝承する、がモットー。

そんな佐々木さんが特に心がけているのは“味が大きいこと”と言います。

一口めを噛み締めたときの「これよ、これ!」という感覚は特別

「うちのように名物がはっきりしている一品もの屋は、一口めの印象がぼんやりしていてはいけない。ゆっくりじわじわではなく、最初にガツンと感じさせなければだめなんです」

確かに、一口めを噛み締めたときの「これよ、これ!」という感覚は特別です。

また、その一口めにいくまでの、包みの美しさ、包みを開ける時の香りやきれいな切り口にも「これ!」と感じさせる美意識があります。

ファーストインプレッションは、食においてもとても大事ですね。

ファーストインプレッションは、食においてもとても大事

京都らしい掛け紙の包みや本店での旬のメニューからも、季節感が伝わってきます

お土産用の包みの姿が素敵なのも、いづうの好きなところです。

包み紙にはうさぎ、富士山、美保の松原が描かれ、その上に木版画の掛け紙が添えられて紐がかけられます。

お土産用の包みの姿が素敵

掛け紙は全部で6枚。

12月から2月は「雪」
3月4月「都をどり」
5月6月「蒼葉」
7月「祇園祭」
8月「大文字」
9月から11月は「紅葉」

手彫りの木版印刷と旧字の表記にふっと目がいき、京都での出来事をあれこれを思い浮かべながら、丁寧に紐を解き、包み紙を畳みます。

そして竹皮を開くと、昆布に覆われた鯖姿寿司が現れるのです。お寿司は1年を通して同じ姿ですが、着せてあげる包みが季節ごとにちょっと違っているなんて、着物好きにはたまりません。

春の「京ちらし」夏の「鱧姿寿司」冬は「蒸し寿司」

本店では、春の「京ちらし」、夏の「鱧姿寿司」、冬は「蒸し寿司」が用意されています。

紅葉が終わり、いよいよ年末の慌ただしさとともに冷え込みが厳しくなる12月の蒸し寿司、いつもいただきたいと思いながらもまだ叶いません。冬の間にぜひ、と目論んでいます。

本日の着こなし

紅葉が終わった12月の京都は朝晩グッと冷え込みます。こんな季節には迷わず本場結城紬を。

100亀甲の総詰め絣

この100亀甲の総詰め絣は「年齢的に新しく誂えることをしない」と決めた愛好家の方が反物の状態で譲ってくださり、3年前に仕立てた着物です。

いま3枚の結城を持っていますが、最も結城らしいのがこの100亀甲

着れば着るほどふわっと柔らかく身を包んでくれる真綿紬の布味は、唯一無二だと思います。

合わせた帯は「夢訪庵」のシクラメン。

帯は「夢訪庵」のシクラメン。

真綿色した〜と歌われたのは1975年のこと。この清しい姿と地色のラベンダーに惹かれました。

12月から晩春まで花期が長く、春の季語でもあることから、3月ぐらいまで楽しむつもりです。

よみもの

帯に宿る、わたしだけの物語

紬や、軽めの小紋から江戸小紋にまで合わせられる草木染めの織りの帯は使い勝手がよくて、これからの出番に期待大。帯締めは「道明」の糸竹です。

帯締めは「道明」

コートは、大島紬の袷の着物を洗い張りして撥水加工を施し、単衣の道中着に仕立て直したもの。

山崎陽子さん全身

やはり着物から作った大島紬のコートがあるのですが、あまりに着すぎて裾が擦り切れてしまいました。縫い直しましたが丈が1分ほど短くなってしまったので、思い切って2代目を作りました。

着物で持っておくより出番が増えたのもうれしく、決断してよかったと思っています。

カシミヤマフラーは、染織作家の香月美穂子さんの作。

浮き織りの帯が大変人気な香月さんですが、年に1度、お住まいのある福岡で「あいまいもこ織物展」というグループ展を長年開催されています。

そこではカシミヤマフラーや風呂敷など、日常に役立つ素敵な小品がとても手頃に購入できるのです(今年は11月に終了)。そんな会で入手した草木染め組織織を使ったマフラーは、洋装和装を問わずおしゃれに巻ける優れもの。

やはり着物や帯を織る方の手にかかると、ほんのり和の香りがして、うれしくなります。

撮影/弥武江利子

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