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長月、月愛でる傍にはススキを 「未生流笹岡家元に学ぶ、華やぎあるくらし」vol.1

長月、月愛でる傍にはススキを 「未生流笹岡家元に学ぶ、華やぎあるくらし」vol.1

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1919(大正8)年創流の未生流笹岡は、伝統的な華道の表現方法に留まることなく、西洋花を用いた「笹岡流盛花」を編み出した流派。狂言やミュージカル、初音ミクや二条城といった様々な異なるジャンルとの掛け算による創造性豊かな活動で注目を集める当代家元の隆甫さんから、“華やぎあるくらし”のヒントをいただく新連載のスタートです。

秋月に捧ぐ、豊作祈願のいけばな

9月のいけばな作品は、上賀茂神社の橋殿で観月祭に合わせて奉納された献花から。

上賀茂神社の橋殿は舞殿として使用されることも多く、いけばなの他に能楽師が小舞を舞ったり、茶人や陶芸家らがお点前を披露することも。

花器は、漆工芸家・三木表悦氏〈|hyoetsu〉の大振りな漆器

用いた主花材は、ハート型の葉が特徴的なベニマンサク

そこに、紅葉が鮮やかなドウダンツツジに、ススキ・オミナエシ・ハギ・ナデシコ・フジバカマといった色とりどりの秋草、さらにはリンドウやキクも加わって、祭礼に相応しい華やかさでいけ上げられました。

月にススキを供え、農耕の神でもある賀茂別雷大神かおわけいかづちのおおかみに豊作を祈ります。

東の空から上った満月が山の稜線を浮かび上がらせ、社殿をやわらかい光で包む――古より変わらぬ風景に身を置く喜びが、ひときわ月夜を美しく見せるのかもしれません。

実りを象徴する「ススキに月」

暑さは残るものの、朝夕の風に涼しさが含まれてくるこの季節は、彩り豊かな時期。そんな今頃について、未生流笹岡家元の笹岡隆甫さんは「ごちそうがたくさんある」と言います。

隆甫さん横顔

未生流笹岡 笹岡隆甫お家元

秋の七草をはじめとする花も豊富で、実物みものも豊かに穣る。9月は、月愛でる月です。

今年の十五夜(仲秋の名月)は、9月17日。

「七草全部は無理でもどれかひとつ――それだけで、気分が晴れやかになります。なかでも実りの象徴であるススキは、稲穂の見立てとなる植物でもありますし、月が満ちていくイメージを表現できる花材。

この時期、花屋の店先にはお月見用の小さなブーケなども並んでいますし、ススキに何か好きな色の花を一輪プラスして、括ってグラスに挿しておくだけでも家の中が明るくなります。窓辺に置いて、月明りの下で眺める七草も違った趣があると思います。

ちょっとしたことからおうちでも実践してみてもらえたらうれしいですね」

秋草

山上憶良も詠んだ秋の七草「萩(はぎ)の花 尾花(おばな) 葛花(くずばな) 撫子(なでしこ)の花 女郎花(おみなえし) また藤袴(ふじばかま) 朝顔(あさがお)の花」

月×ススキは、花札にも描かれているお馴染みの取り合わせ。

米の豊作を願ってススキを供える習わしを取り入れてみるだけで、わずかなりとも心が浮き立ち、日々のくらしに彩りがもたらされるとしたら……やらないのはもったいない、かもしれません。

庭の百日紅

家元邸の庭に咲く百日紅。夏から秋の長期にかけて紅色の花をつける。開花期間が長いことに由来して「ヒャクジツコウ」の別名も。そのすべすべした幹肌から、木登りが上手な猿でも滑り落ちるという喩えが名の語源とされる

今月のお家元 ― 長月の華やぐ思い出

先日、壬生寺の貫主にお誘いいただき、昨年11月にオープンしたばかりの「鮨こんどう」さんへ行ってきました。

今月のお家元 ― 長月の華やぐ思い出

賀茂川の畔に建つ随筆家の住まいだった邸宅跡で、およそ100坪の敷地内にあるたった6席だけの鮨店です。

「鮨こんどう」写真
「鮨こんどう」写真
「鮨こんどう」写真
「鮨こんどう」写真

撮影:笹岡隆甫

とにかく、凄かった。

お借りになっているのは奥の鮨カウンターの部分だけとおっしゃっていましたが、そこに至る建物の室礼が美しい。1階にも2階にも、座敷が2部屋ずつあり、御簾や簾戸で涼やかに設えられていました。

ガラス戸は、大正ガラス。洋館の応接もあって、庭は塵一つ見つからないほど手入れが行き届いており…… 鮨の美味しさはもちろんですが、それに付随するすべてのものに溜め息が洩れました。

すでに来年の9月まで予約でいっぱいのようですが、機会があれば足を運んでみてください。

笹岡隆甫

2023.02.10

よみもの

やいかがしと炮烙(ほうらく)奉納 「#京都ガチ勢、大西さん家の一年」vol.2

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