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モットーは“裁心縫”。きものづくりのプロを養成 『大原和服専門学園』(後編) 「和裁のいま」vol.2

モットーは“裁心縫”。きものづくりのプロを養成 『大原和服専門学園』(後編) 「和裁のいま」vol.2

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古都奈良にある学校法人『大原和服専門学園』より、後編では、和裁学科で学び、“きものづくりのプロ”として羽ばたこうとしているふたりの学生さんの素顔に迫ります。「和裁」とは何か?どんな人が「和裁士」に向いているのか。彼女たちの声をお届けします。

2024.06.05

まなぶ

技能五輪全国大会「和裁」W受賞の快挙! 『大原和服専門学園』(前編) 「和裁のいま」vol.1

「和裁」に必要な力と、「和裁士」のやりがい

着物沼に足を踏み入れると身近になる「悉皆」。その一環として「和裁」という言葉や「和裁士」という職業について知る人も、多いのではないでしょうか。

通過儀礼で着物を着せられたり、旅館や祭りで浴衣を着たりするくらいの若者が、己の人生の行く先として和服業界を選ぶ――その覚悟や決意は、いかばかりか。

作業風景

取材の最後に、「『和裁』をひとことで表現すると?」という、ド直球な質問を投げかけてみました。

芝田さん

「第61回技能五輪全国大会」和裁職種部門にて銀賞を受賞した芝田琴音さん

すると、随分と頭を抱えてしまった彼女たち。

「えー、ひとこと……」と言葉に詰まる芝田さんに対して、江嵜さんは「みなさんは(ご自身の仕事について)どうですか?」と取材クルーに向かって問い、我々がしばしその答えを述べる一幕も。

江嵜さん

同大会にて見事金賞に輝いた江嵜美紀さん。まっすぐな瞳で取材クルーへ逆質問

散々悩んだ末に、

「それぞれの体型に合わせてつくる、マイサイズというスペシャル感。心を籠めて縫うからこそ時間がかかるけど、だからこその手縫いの良さ。作り直せるのも良さ。大事に使ってもらえたらうれしいです」

と、芝田さん。

芝田さん

芝田さんの手元。作業に入ると瞬時に、空気感が変わる

その答えに頷き、江嵜さんは、

「代々受け継がれていくものを着物というカタチで残せることの素晴らしさ。人生の大事なものに携われる仕事です」

と教えてくれました。

和裁の工程で、最も怖いのが「裁ち」だと話すふたり。江嵜さん曰く「思い切りが大事」で、芝田さんが「度胸も必要」と続けます。

江嵜さん

とにかく神経を使う「裁ち」の工程

「和裁」と言えば、多くの人が「運針」を連想するかもしれませんが、「目の前に差し出された布をただ縫うだけの作業は、辛くてもやってれば必ず終わります」と、笑う江嵜さん。

だからこそ、「ちまちまが好きな人、ものづくりが好きな人、じっと座ってても大丈夫な人が和裁士には向いている」と、芝田さんは言います。

芝田さん

「ものづくりが好き」というベースは、ふたりともに共通

和裁士は、日本の伝統文化に関わることができる仕事であり、無くなったら困る職業。
そんな希少価値の高い役割がもつ特別感を、彼女たちは大原和服専門学園で過ごした日々で実感していたのです。

江嵜さん

ふたりの愛は、学校給食にあり?!

学園の特徴は、寮生活と学校給食。このふたつを理由に入学を決める学生も少なくありません。残念ながら、学生寮の閉鎖に伴い学校給食の形態も新しくなりますが、“生活も教育の場”という考えに基づいたサポートこそ、学園ならではの魅力だといえます。

寮での規則正しい生活では、各自が役割をもって助け合いながら自立と社会性を身につけてきました。制約のある寮生活を通して、「いやでも変な絆が生まれました」と笑うふたり。

江嵜さん

なかでも、こと給食の話になるとふたりの愛と勢いが止まりません。

「卒業するのも寂しいけど、もう給食を食べられないのが悲しい!」と言う芝田さんに、激しく同意する江嵜さん。「好きな献立は?」と訊けば、ふたりして声を合わせて「いっぱいありすぎるー!!」とのこと。

給食の献立

聞けば、3月は卒業生のリクエスト月なんだとか。

「今月はヤバい!」とふたりが大興奮していたのも納得の、強力なラインナップでした。

「同じ釜の飯を食う」という言葉通り、憩いの時間が絆を深める素敵な計らいです。

「裁心縫」をモットーとする人材育成を

大原和服専門学園

大原和服専門学園外観。入り口手前には針塚が

曾祖母であり創設者の大原マサさんが大切にした「裁心縫」(着る人を思い心で裁って、心で縫う)という姿勢を受け継ぐ大原敏敬氏は、学園長になってからの日々を、

「苦労の連続ですが、やってなかったら面白味のない人生だった」

と振り返ります。

学園長

大原敏敬学園長

江嵜さんと芝田さんが語ってくれた浴衣の思い出をお伝えすると、破顔一笑。

「運針は本当に大変で心が折れることもあるけど、大切な誰かにプレゼントすると忘れないエピソードが生まれるんですよね。そのエピソードが、やりがいになる」

着物は、人が着てこそ。

人が着るものをつくるのであれば、まずは自身が着られるようにならないといけないと考え、着付けの授業を強化しているそう。「理解すれば、応用が利くようになる」と、大原学園長は言います。

「いまは彼女たちこそが、私の作品」と目を細める彼は、全学生の出身地や家族構成をすらすらと説明できるほど、彼女たちと交流をもち、常に寄り添っています。

そんな大原学園長へのインタビューで最も印象的だったのが、「新しく挑戦しているところに未来ができる」という言葉。

一人でも多くの“きものづくりのプロ”が活躍できる未来をつくるための大原和服専門学園のこれからにご注目あれ。

針塚

道具を大切にする心を忘れないよう、年に一度、折れた針を奉納する「針供養」を行う

撮影/弥武江利子

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