着物で広がる彩りの世界・黄色編 「色の印象・コーディネートを学ぶ」
着物の一番の魅力は、何といってもその美しい彩りの世界。 カラーコーディネート次第でおしゃれにもなれば、場の雰囲気を損なってしまうこともあります。今回は「黄色」にフォーカスをあて、伝統色やおすすめカラーコーディネートをご紹介します。
ときに繊細にときに大胆に、無限に広がる豊かさを感じていただけます。
しかも色は人に様々な印象を与え、どのようにカラーコーディネートするかによって、
おしゃれになることもあれば、場の雰囲気を損なってしまうこともあります。
特に和姿においては、ひとつの色が全身の印象を決めることも多く、色が担う役割は非常に大きいと言えましょう。
そんな「着物における色」について今回は「黄色」にフォーカスをあて、
伝統色のバリエーションからおすすめカラーコーディネートまでをご紹介します。
1 「色」の役割と着物
色は、身分や階級をあらわすものだったのです。
聖徳太子が定めた「冠位十二階」にて位を示す色をまとったのがはじまりで、時代によって形を変えつつも江戸時代まで続きました。
それらは「禁色(きんじき)」と呼ばれ、高貴な身分でなければ身につけられない色でした。
一方で、色を楽しむという考え方も古くからありました。
「襲ね(かさね)の色目」と呼ばれる、平安時代の貴族の教養のひとつです。
当時の絹布が薄く透けるものだったため、表地と裏地、重ねた布の配色で美しく組み合わせることを着こなしの作法としていました。
また襲ねの色目は、野山の色彩を衣類に取り入れ、季節感を楽しむものでもありました。
華やかにときに淑やかに私たちを飾る着物は、このような役割のなかで、多彩で美しいカラーバリエーションを作り出してきたのです。
着物を深く知るには、色への理解が不可欠です。
着物ならではの色の特性を知ることで、装うことの喜びをより強く感じていただけることでしょう。
今回は、数ある色のなかから「黄色」に焦点をあてて、色の意味や着物の着こなしについてご紹介いたします。
2 「黄色」が与える印象
金色に近いことや収穫時の稲穂の色にも似ているため、富や権力・豊作の象徴でもありました。
現在は、明るさや楽しさ・前向きな感情・幸福感といったイメージが強くなっています。
心が浮き立つような、軽やかな気持ちにさせてくれる色です。
太陽の光のように周囲までを明るく照らし、場を華やかな雰囲気にします。
一方、目立つ色であることから危険を知らせるために使われることも多くあります。
伝統的な黄色のなかにも主張の強い色味のものがありますし、また特に着物は、みせる面積が広く色の印象が強く残るため、好みだけで選ぶのではなく、黄色の特徴やTPOにも配慮してセレクトしましょう。
3 「黄色」のバリエーション
日本独自の色味で、かつ微妙にニュアンスを変えながら、それぞれ異なる味わいがあります。
そのなかから、着物にも使用されることが多い代表的な黄色をいくつかご紹介します。
なじみ深く、どんな色かすぐに思い浮かぶ方が多いのではないでしょうか。
バラ科の低木である山吹の花に由来する色で、オレンジに近い赤みのある黄色です。
平安時代とくに人気が高く、かさねの色目として装いを華やかに飾っていました。
鬱金の根で染めた色のことで、赤みがかった黄色ですが、山吹色よりやや鮮やかな色合いです。
マスタードイエロー寄りといったところでしょうか。
「金」の文字を含むことから縁起が良いとされ、鮮やかな色味も相まって、江戸時代初期に財布などの小物に多く使用されました。
現代では、鬱金の防虫効果から、着物を包む風呂敷に多く用いられております。
ミカン科の黄蘗の樹皮で染める緑みのある色で、グレープフルーツカラーより若干落ち着いた色合いをしています。
黄蘗は、下染めや公文書用の紙などの染料として使われたほか、漢方薬としても役立てられました。
アブラナ科の芥子菜の種子から作られる和からしに着想を得た色です。
マスタードの色味を思い浮かべる方が多いかもしれませんが、マスタードイエローよりも落ち着いた、やや渋みのある色合いです。
かさねの色目として使われていた伝統色です。
名前から想像できるように淡い黄色ですが、ただ薄くなったというよりも赤みを足して柔らかな風合いになっています。
イメージとしては、黄みの強い肌色です。
黄色の華やかさはあるものの柔らかな風合いで、日本人の肌に合う色です。
ススキの仲間の植物・刈安からつくられ、刈りやすい、つまり手に入りやすいことから多く用いられた色です。
緑みのある黄色で、イエローやレモンイエローのような明るくはっきりとした発色をしています。
赤みを含まない色のため、藍と用いるときれいな緑に染まります。
梔子の実で染めた色ですが、正確には、梔子のみを使用した色を黄梔子、わずかに紅花の赤を重ねたものを梔子といいます。
どちらもオレンジとイエローの中間のような色合いです。
奈良時代には染料として使われはじめ、平安時代に色としての名がつきましたが、とくに江戸時代に高い人気がありました。
藤黄という顔料に由来する色で、オトギリソウ科の植物からつくられます。
奈良時代までさかのぼることができますが、江戸時代には友禅染に欠かせない顔料として取り入れられます。
山吹色に近い、オレンジ寄りの鮮やかなミモザカラーです。
4 「黄色」を使ったおすすめカラーコーディネート
・同系色でまとめる方法
・補色(色相環で正反対に位置する色)を組み合わせる方法(互いを引き立たせる)
同系色でまとめれば全体に統一感がでて、補色との組み合わせはメリハリがでます。
黄色の補色は青紫ですので、青や紫などの寒色カラーと相性がよいということになります。
ただ黄色は目立ちやすいという特性もありますので、色の強弱のバランスに注意してカラーコーディネートをしましょう。
淡い黄色に赤みを加えたオレンジカラーの帯は、着物よりもやや色味が強めですが、同系色のため違和感のないコーディネートに仕上がっています。
グラデーションでまとめる帯あわせは、昨今のトレンドともいえます。
女性らしいまろみのある着物に似通ったトーンの暖色を重ねることで、あたたかみと優しさが増す印象になりました。
こちらは、古典文様の立涌華文を濃淡の紫でしとやかに表現した西陣織の袋帯です。
優美かつ上品なデザインで、十分にコーディネートの主役になれる作品ですが、着物の黄色と補色関係で引き立てあうことにより、着物と帯の両方が主役として存在しています。
また先ほどの組み合わせと比べると、しとやかななかにもパッと華やいだ雰囲気へと変化したことがわかります。
このコーディネートは、色のトーンを合わせることがポイントです。
どちらか一方の色だけが浮かないように注意しましょう。
このように、同じ着物でも帯ひとつで印象がガラリと変わるのも着物の魅力です。
さらに帯揚げや帯留め・半衿などの色も合わされば、組み合わせパターンは無限大に広がります。
カラーコーディネートの楽しさやバリエーションは、洋服以上のものがあるといえます。
黄色に合わせる茶色は、黄みがかった茶色を選ぶのが失敗しないコツです。
絞りの凹凸に独特の世界観が垣間見える久保田一竹氏の着物。
大人の女性としての気品にあふれており、このすばらしさを最大限に活かすには、落ち着いたなかにも風格の感じられる帯がおすすめです。
技巧を駆使した西陣織の帯は意匠もしゃれており、着物にあわせることで、独特の深い魅力を広げてくれる組み合わせです。
5 まとめ
伝統色おいてもバリエーションが豊富で、とても楽しい色といえましょう。
しかし一方で、鮮やかで目を引く色であるだけに、TPOに応じた色選びも大切です。
黄色の印象の強さにも留意しながらコーディネートを満喫いたしましょう。
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