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つつましく賢い女性、明石の上 「源氏物語の女君がきものを着たなら」vol.2

つつましく賢い女性、明石の上 「源氏物語の女君がきものを着たなら」vol.2

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明石の上は、とにかく白が似合う人。「氷襲」と呼ばれる白い衣を重ねた服装で外を眺める姿がなんとも言えず高貴で美しいのです。

まなぶ

3兄弟母、時々きもの

こんにちは。tomekkoです。

vol.1では、紫の上の着物姿をイメージしてみましたがいかがでしたか?

2024.01.24

まなぶ

源氏物語のもう一人の主役、紫の上 「源氏物語の女君がきものを着たなら」vol.1

実のところ、平安時代の人物をイメージして着物を考えるって……想像していたよりずっと難しかったです!

物語中に出てくる「襲の色目」に引っ張られるところがあるのは当然のことなのですが、その色目を現代の着物に使うと、どうもしっくりこなかったりするんです。

特に紫の上は、現代的で華やかな色味が似合う人でありながら内面としては比較的コンサバな印象で、優しい暖色に古典柄が似合いそうに感じられたんですよね。自分自身のコーディネート力が貧困すぎてちょっと悔しかったです。

さてvol.2では、紫の上とはお互いを最も意識し合うライバル、でも晩年には厚い友情を培ったつつましく賢い女性、明石の上にフォーカスしてみます。

人ざま、いとあてに、そびえて心恥づかしきけはひなぞしたる

人ざま、いとあてに、そびえて心恥づかしきけはひなぞしたる
『全訳源氏物語 上巻』角川文庫

明石の上は、光源氏が兄帝への謀叛を疑われ、須磨に隠遁していた時期に出会った女性です。

大臣クラスだった身分を捨て、都から離れて暮らす「明石の入道」の娘なのですが、皇女にも劣らぬ美貌と気品を備え、田舎育ちにも関わらず趣味や教養は洗練されています。琴も琵琶も名手だとか……

性格は、出自へのコンプレックスのためか謙虚でひかえめ。

光源氏最愛の人である紫の上とほぼ同等に愛され、紫の上には無かった子宝にも恵まれた明石の上は、条件からしたらもっと意地悪く紫の上にプレッシャーをかけられるのに、むしろ紫の上の思いや立場を気遣い、自分の娘にさえも(育ての親となる紫の上を立てて)侍女として仕えるんですよね。

だからと言って決して卑屈な印象はなく、気高く芯の強い人だからこそ魅力的なんですよね〜。

紫の上を脅かす存在でありながら読者からも嫌われることはなく、光源氏の両翼のように一目置かれているように思います。

そんな明石の上をよく表す襲の色目といえば、紫の上の回でも出た「衣配り」のシーン。

梅の折枝、蝶、鳥、飛びちがひ、唐めいたる白き小袿に、濃きがつややかなる重ねて…
『全訳源氏物語 上巻』角川文庫
【京の染匠】 特選暈し染刺繍付下げ着尺 「麗華菱花文・薄紫色」

女君たちに贈るお正月に着るための衣装を、紫の上の前で光源氏が自ら選ぶのですが、「その色目や柄ゆきから女性たちの容姿を想像しないでね」なんて冗談を言われなくてもそりゃ想像しちゃいますよね。

紫の上には前回ご覧の通り、現代的で華やかな葡萄染めの襲を選んだ光源氏ですが、おそらくそれは高級で手間のかかる生地をプレゼントすることで紫の上を一番尊重しているよ、という気遣いのメッセージ

対して明石の上には、白と紫という最も高貴な色合わせを選びます。

それを見た紫の上の心中は穏やかではありません。「こんな素晴らしい襲の色目が似合う人なんだ……」とシクシク胸を痛めている紫の上の気持ちを思うと、なかなか酷なシーンですよね……

現代の感覚でも、白と紫はキリッとして格式高い印象がありますよね。ただ着物だとパッキリした配色なのでちょっと粋に玄人さんっぽく見えてしまうかも。

つつましく控えめながら格式高さがあらわれるようなコーディネートを考えてみると、襲の色目よりも落ち着いた紫を暈し込んだ白地のお着物が上品で似合いそう。

そして明石の上は、冬のイメージの強い人。”春の御方”と呼ばれた紫の上とは対極的ですね。

光源氏が呼び寄せた六条院でも冬の対に住まうことになるんですよね。雪の日に明石の上の美しさが際立つシーンがこちら。

白き衣どものなよよかなるあまた着て、 眺める様体、頭つき、うしろでなど 、「限りなき人と聞こゆとも、かうこそはおはすらめ」

白き衣どものなよよかなるあまた着て、 眺める様体、頭つき、うしろでなど 、「限りなき人と聞こゆとも、かうこそはおはすらめ」
『全訳源氏物語 上巻』角川文庫

娘を光源氏と紫の上の元に預け、離れて暮らすことを決めた雪の朝、「氷襲」と呼ばれる白い衣を重ねた服装で外を眺める姿がなんとも言えず高貴で美しいのです。

白の襲というと、結婚式の白無垢や死に装束のように、良くも悪くも日常に着るイメージがあまりないですね。

唐衣裳装束からぎぬもしょうぞくで言うと現代では、皇后陛下が神事にて、清浄をあらわす「はく」と呼ばれる白のみの襲をお召しになられます。でも平安時代ではこんな襲も日常的に着られていたのでしょうか。

明石の上は、とにかく白が似合う人なんですね。実際に白い服を着ると分かることですが、よほど色白で素材が良くないと浮いてしまうのです……彩色で華やぎを添えなくてもそのままで美しい容姿が想像できますね。透き通るように白い肌に羽織った衣に黒髪の美しさが映えていたのでしょう。

着物で再現するのは勇気が要りますが、地紋の浮き出る艶のある生地に控えめな刺繍を入れて、差し色には青みのある小物を使った”現代風氷襲”はいかがでしょう?ふぅ〜上級者!

最後に、光源氏が兄朱雀院の50歳のお祝いに女君たちを集めて開催した女楽で、娘・明石の女御に付き添って琵琶を弾く明石の上の姿

柳の織物の細長、萌黄にやあらむ、小袿着て、羅の裳のはかなげなる引きかけて
『全訳源氏物語 上巻』角川文庫
特選十日町友禅訪問着 「雪輪に花熨斗文・白緑色」

この時にも、身分の低さをわきまえ「細長」と呼ばれる衣に裳を着けて臨んだ明石の上。萌黄色を中心にした落ち着いた大人の盛装で、これまでの寒色系のイメージとは違いますね。

明石の海を眺めて育った人なので、洲浜に松のような海辺を想起させる柄を入れつつ、あまり渋くなりすぎないコーディネートが似合いそうです。

こうして見ると、柄や色で誤魔化さない素材の美しさが映えるようなものばかりですね。

顔立ちだけでなく、仕草や”人となり”もきっと品位があって、だからこそ互いに意識していた紫の上とも会ってみれば信頼できる素敵な友人関係ができたのだろうな……とつくづく思いました。

今回描いてみて、”明石の上コーデ”は素人が気楽に手を出せる感じではないかも……とも思ってしまいましたが、冬まっただなかに”氷襲風コーデ”、いつかはやってみたい!

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【京の染匠】 特選暈し染刺繍付下げ着尺 「麗華菱花文・薄紫色」

特選十日町友禅訪問着 「雪輪に花熨斗文・白緑色」

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