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茶筅師・谷村丹後は何者か? 「茶筅師の手しごと」vol.2

茶筅師・谷村丹後は何者か? 「茶筅師の手しごと」vol.2

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裏千家・武者小路千家御用達の茶筅師・谷村丹後さん。30年間修業を続けてきた彼がつくる茶筅は、「茶道では末席」という立ち位置に留まらない美しさがあります。古より伝わる指頭芸術である茶筅づくりについて、丹後さんの想いをお聞きしました。

2024.01.26

まなぶ

茶道に欠かせない茶筅(ちゃせん)とは何か? 「茶筅師の手しごと」vol.1

父の教えは「目で盗め、音を聴け」

大学を卒業後、家業とは全く異なる仕事に就いた丹後さん。大阪で7年ほど暮らすうちに自ずと、茶筅師という家業の魅力に気づきはじめたそう。

「やるって言うたら、喜ぶかな?」と父親に弟子入り。

とにかく見て学んで、隣で竹を削る親父の音を目指しました

「迷いはなかったですね。やったことはなかったけど、幼い頃からずっと見てきたから、出来ると思って。やってみたら、そんなことなかった(笑)。でも、面白かったとにかく見て学んで、隣で竹を削る”親父の音”を目指しました

”好きこそものの上手なれ”って言うでしょ。ありがたいことに、毎日機嫌ようやらしてもらってて、いまでは天職やと思ってます

先祖が守り受け継いできた部分を大切に

500年かけて先祖が守り受け継いできた部分を大切にしながら、新しく吸収することを恐れない——常に前向きでいるのが、”丹後スタイル”

他の職人とは違って、「エンドユーザーと直接交わりが持てることが、茶筅師の成長に繋がる」と言う彼は、お家元をはじめ多くの顧客からのアドバイスや要望に耳を傾け、会話のキャッチボールから得る気づきを大切にしているのです。

「厳しいお言葉を頂戴することもありますけど、そこにいろんなヒントが転がってる。茶筅師はアーティストではなく、道具をつくる者です。道具は使ってもらってこそ

愛用してくださる人たちのオーダーに沿い、期待に応えるために必要なのは、柔軟性と鈍感力です」

芸術品をつくろうという気持ちをもって向き合っていく

彼は言います。

「一本の茶筅に、20点も150点もありません。95点を毎日つくり続けることが大事。100点満点にしようと思うと、いまの3倍の時間がかかります。それでは食べていけない」

同時に「消耗品ですが、芸術品をつくろうという気持ちをもって向き合っていく」と。

「一日一服」が茶筅づくりの原動力

つくり手であり使い手であることの重要性を意識

先代までは、”茶筅師はあくまで職人で、茶人ではない”というスタンスでしたが、抹茶を飲んだことも点てたこともない人間がつくる良い茶筅って何や?って考えたときに、つくり手であり使い手であることの重要性を意識するようになりました」

そんな丹後さんは、お歴々に囲まれながら二年間ほど茶道の稽古も経験し、毎朝、一服の茶を飲むのが習慣です。

指すのは、丈夫でしなやかな使いやすい茶筅

「たった5分でも、お茶を点てることだけに集中して、ニュートラルになる時間をもつことで、よし!やるぞ、という気合いが入るのがいいですね」

目指すのは、丈夫でしなやかな使いやすい茶筅。穂数やサイズ、フォルムなど脳内で描いた茶筅の設計図をいかに具現化できるか、いつも試行錯誤を重ねています。

古さと新しさのバランスを常に意識

「これまでは茶道をしている人だけが顧客でしたが、MATCHAブームの影響もあって、客層が変化してきました。だからこそ、古さと新しさのバランスを常に意識しています

丹後さん

”お家元と全く同じ道具を使える”という点で、茶筅や茶巾は貴重やと思います。どんなに憧れても、茶碗や香炉で同じものを揃えるのは現実的ではないですから(苦笑)。これは、門下生としては大変意味のあることなんです」

と、実際に習った茶道を通じて改めて感じたことも、日々の茶筅づくりに生かされているのです。

茶筅の見極め、茶筅の替えどき

穂先が真っ直ぐの茶筅

淡竹を使った穂先が真っ直ぐの茶筅を「利休好み」といいます。

実は、一口に茶筅と言っても、流派によってその仕様は様々。材料となる竹ひとつとっても、裏千家をはじめとする約7割の流派では淡竹、表千家では煤竹、武者小路千家の黒竹(紫竹)と、好みは異なります。

武者小路家の黒竹(紫竹)

流派に関係なく、自宅でカジュアルに抹茶を愉しむために茶筅を選ぶなら、「持ち手の竹の太さが細い方が、間違いなく使いやすい」と、丹後さん。手首のスナップが効きやすく、茶筅の可動域が広くなるのが理由です。

使った後は都度、流水かぬるま湯でしっかり洗い流すことが大事。これは、抹茶に含まれるタンニンが竹に染み込むのを防ぐため。

乾かすときは、穂先を下向きにして水分を落としましょう。完全に乾いたら、立てて収納しても問題ありません。

茶筅

穂先が折れたり大きく開いて戻らなくなったりしたら、もちろん新しいものに替えてください。

「完全に使えなくなる前に、例えば、炉の時季やお正月など時節に合わせて買い替えるのもいいと思います」と、丹後さんからのアドバイス。

丹後さん

そして、まさかの「使い古した茶筅は、穂の下の方でカットして、台所掃除に使ってください」という二次利用の提案まで。

茶道を始めるのはハードルが高いけれど、インスタントコーヒー感覚で抹茶を日々の暮らしに取り入れてみようと思われた方は、ぜひ参考にしてみてはいかがでしょう。

使い古した茶筅は、穂の下の方でカット

最終回は……

なんと、「きものと」コラムでもお馴染みの長谷川普子さんが台湾より参戦!「茶筅の糸かけ体験」に挑戦します。

撮影/弥武江利子

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