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着物を着て作ると、いい出汁が取れる!? 料理家・和田明日香さん(インタビュー後編)「きもの、着てみませんか?」 vol.7-3

着物を着て作ると、いい出汁が取れる!? 料理家・和田明日香さん(インタビュー後編)「きもの、着てみませんか?」 vol.7-3

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Instagramに載せていたレシピが料理本となり、『地味ごはん。』シリーズは累計35万部を突破した料理家・和田明日香さん。インタビュー前編では、和田さんと着物についての関わり、そして大好きな江戸文化について語っていただきました。後編では、ネット時代の料理の変化や、今、お金をかけるべき調味料など、いろいろお話を伺いました。

2024.01.30

インタビュー

江戸の暮らしに思いを馳せて 料理家・和田明日香さん(インタビュー前編)「きもの、着てみませんか?」 vol.7-2

料理に出会っても、着物に出会っても、人生は変わらない

結城紬を纏って。料理家・和田明日香さん

和田明日香さん(以下、和田さん):今回、着物を着て作業するだけで、いつもよりいい出汁が取れそうな気がして(笑)。着物って不思議な引力がありますよね。

薬真寺香(以下、薬真寺)煮物も味が染みそうですよね(笑)。煮物といえば、和田さんがテレビ朝日『家事ヤロウ!!!』で紹介されていた「チキン和田さん煮〜大戸屋リスペクト〜」、自宅で作りました。本当にお家の味っぽくなって、おいしかったです。

和田さん:ありがとうございます。家で作った味になりますよね。

薬真寺:和田さんはまったくお料理をしないところからスタートして、今は料理家というお仕事に就かれていらっしゃいます。

以前、インタビューで「『料理ができるようになって良かった』というのは、あくまでも私個人の感想で。世の中にはそう思わない人だっているはず」とおっしゃっていて、私はそれがすごく好きです。実は私も、着物に対して和田さんと同じように感じているところがあります。

薬真寺:私が着物に出会ったのは二十歳過ぎで、着物を通していただいたご縁もあるし、仕事としてもやりがいがあって着物に助けられたなという気持ちが強いんですけど、だからといって「着物を着たら、人生が変わるよ」とは思わないんです。

自分が人生を変えられたとしても、世の中にはそうじゃない人もいる。そう言ってもらえると、苦手意識のある方はホッとしますし、愛好家の方も肩の力が抜けますよね。和田さんの言葉や、勇気を持ってきちんと発言なさる姿勢に励みを得ています。

和田さんその人にとっての何かが見つかると一番いいんですよね。それが私は料理でしたけど、着物の方もいる

運動音痴は許されるのに、料理ができないと「頑張れ」って言われるのは、うーん……。運動ができないのも、料理ができないのも一緒なんですけどね。私は運動音痴で料理ができなかったので、どっちもダメなんですけど(笑)。今でもそう思います。

結城紬を纏って。料理家・和田明日香さん

和田さん:いま思えば、結婚したときは何もなかったような気がするんです。

自分の考えや「こういう生き方をしています、したいんです」というのを表現するものとして、料理が与えられた感じなんです。

文章を書くのも好きですけど、作家や小説家にはなれない。音楽を聴くのも好きだけど、ミュージシャンになって音楽を作ることはできない。でも「こういう気持ちで子育てをしています」とか、「こんな風に社会を見ています」とか、料理を通じてだと表現できるような気がするんですよね。

和田明日香さん

和田さん:表現をすると、自分が満たされることもあります。誰かが受け取ってくれていると思うと、伝わったな、表現してよかったなと思います。

人に見せたいというよりも、結局は自分のため。私のモチベーションが上がるから……みたいなところが大きいですね。

料理も着物も、大事なことは自ずと似通ってくる

薬真寺:以前「『料理が作れた』と感じたのは、レシピを崩せたときだ」とおっしゃっていましたね。

和田明日香さんキッチンにて

和田さん「やってみなきゃわからない」という性格なんです、何ごとも。なので、レシピに書いてある通り、教わったことに縛られてやり続ける必要もない。

毎日料理をしていると、「やってみたらできちゃった」もあるし、「やっぱりレシピに書いてある通りだった。あーあ、余計なことをしたー!」なんてこともいっぱいあります。

和田さん「自分だったらこうするのにな……」と思えるまでは試行錯誤の繰り返し。でもトライしてみなきゃ、ずっと今のまま。ルールに縛られちゃうと、自分の味が出せないんですよね。

和田明日香さん

薬真寺:着付けもそういうところがあると思います。もともと戦前は着付け教室自体がほぼなかったので、みんな人から人への伝言ゲームで着付けをしていたわけです。

習ったことをアレンジしたり、「やっぱり違うかも」と元に戻したりしながら、自分なりの着付けを各々が獲得したんだと思うんですよね。お料理も着付けも通じるところが多いですね。

和田さん:私も薬真寺さんの言葉が聞けて、うれしいです。

物ごとを突き詰めると、ジャンルが違っても大事なことは似通ってくる。実際に口にしてもらえると、すごく心強く感じるというか。そのことを知っているだけで、「ああ、自分も一人ぼっちじゃなかった」って思えるんですよね。

和田明日香さん_窓辺にて

ネット検索によって巷の料理は変わった!?

薬真寺:今、レシピの話が出ましたが、私、確認のためにネットでレシピ検索をするんですね。白ごはん.com とか(笑)。

和田さん:あはは! 私も見ますよ。白ごはん.comの情報は間違いないです(笑)。「このときの油の温度って、何度だったっけ?」とか。

結城紬を纏って。料理家・和田明日香さん

薬真寺料理は、レシピをネットで検索するようになってから変わったのだろうか……と考えてしまうんです。昔から料理本や料理番組はあっても、いちいち検索していなかったわけで。

というのも、今は、着物に関しても何かと検索する方は少なくないと思うんですね。「単衣の時期 半衿」とか「桜の着物 いつまで」とか。検索をするようになってからの私たちと料理、私たちと着物はどんなふうに変化したのかなって。

和田さんインターネットが普及して、料理は変わったんじゃないですかね。昔は人にすぐに聞けないから、とにかくやってみるしかなかったんですよね。火が通ったかどうかの見極めなどを、自分で判断して習得していくしかなかった

自分の身体で体得しているから、大根の厚さが1cm、2cm変わっても、お鍋の食材の体調が掴めたと思うんですけど。検索でレシピを探すと、例えば大根1つとっても、直径10cmの場合と8cmの場合で煮る時間も火が通る時間も違うのに、1つの答えが導き出されてしまうんですよ。

結城紬を纏って。料理家・和田明日香さん

和田さん:すると「アレ? うまくいかない……」と焦って、「失敗した!」と思い込んでしまう。自分で答えを導き出すまでが、すごく短絡的になった感じはしますよね。

薬真寺:身体で覚えるチャンスがあるのに、検索をしたことで、それを逃しているのかもしれないですね。

和田さんうまくいかなかったら、工夫をすればいいのでしょうけど。デジタルネイティブ世代の子どもたちを見ていると、それはすごく感じますね。

間違えることに対して、極端に恐れているというか。間違えると、「なんか間違えてごめんなさい……」みたいな。トライアンドエラーが許されない息苦しさを感じます。

子どもから実際に窮屈な様子を感じ取ったことがあるので、検索がもたらした結果なのだとしたら、考えてみるのも面白いかもしれないですよね。

和田明日香さん

和田さん:あと、ネットで調べたことって、なぜかすぐ忘れちゃうんですよ(笑)。

薬真寺:わかります。私も検索して作った料理はなかなか覚えられなくて、次に作るとき、また同じ検索を繰り返したりして。料理本で習ったレシピだと、初見が二十年近く前なのにしっかり覚えていて、今でも作れるものもあるから不思議です。

和田流、お金をかけるべき調味料とは

結城紬を纏って。料理家・和田明日香さん

薬真寺:和田さんはスーパーなどの全国どこにでもある調味料で作れるようにレシピを考えていらっしゃいますが、なかでも「これはこだわるべき!」という調味料は何ですか?

和田さん:醤油ですね。はい、醤油は変えると結構違いますよね。

薬真寺:やっぱり、お値段の張るものが良いものなんでしょうか。

和田さん:これは結城紬の話と同じだと思うんです。結城紬は手紡ぎで、職人さんの時間と手間が値段に反映されているとおっしゃっていましたが、調味料も同じで、値段が高いものはそれだけ誰かが手間をかけ、たくさん生産できない状況にあるんじゃないでしょうか。

和田明日香さん_下ごしらえ

和田さん:そこはある程度信用していいと思います。国産大豆じゃなかったとしても、昔ながらの製法でなくても、おいしいと思えるお醤油はたくさんあるので。

そのためには、自分はどういう味が好きなのかを把握しておくことが大事だと思います。私の場合は、こだわっているのは醤油と味噌ぐらいでしょうか。酒・みりんは、大手メーカーさんの一般的な商品を使っています。

和田さんあとは油ですね。米油を使っています料理をするにあたって、ジレンマを感じることはたくさんあります

「こんな良い食材を、いろいろ味付けする方が野暮だよな」とか「お醤油さえおいしいのが手に入れば、あとは焼いて醤油をかけるだけでいいのに」って。

結城紬を纏って。料理家・和田明日香さん

和田さん:でも、そのおいしい醤油をみんなが手に入れられるわけじゃない。そうなったら一般的なお醤油を使って、おいしくなるレシピを提案しなくてはいけない。もう行き詰まったら、その辺にゴロリンって寝てぼーっとしてますよ(笑)。

和田明日香さん_ソファにて

半幅帯

メコンの国の手織り布 PONNALET
http://www.ponnalet.com/
https://www.instagram.com/ponnalet_hayama

構成・文/横山由希路 yukijinsky
撮影/坂本陽 minami.camera
ディレクション・スタイリング・着付け・ヘアメイク/薬真寺 香 ___mameka_

※帯揚げ、三分紐、帯留、長襦袢はスタイリスト私物

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