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眼鏡づくりを諦めなかった兄弟の歩み『おしょりん』 「きもの de シネマ」vol.36

眼鏡づくりを諦めなかった兄弟の歩み『おしょりん』 「きもの de シネマ」vol.36

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銀幕に登場する数々のキモノたちは、着こなしやコーディネートの良きお手本。せっかくなら、歌舞伎やコンサートみたいに映画だってキモノで愉しみませんか。いまや眼鏡の聖地となった福井で、ゼロから眼鏡づくりに挑んだ兄弟と、彼らに寄り添い続けた妻の事実に基づく物語をご紹介します。

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増永兄弟が人生をかけて挑んだ眼鏡づくり

ごきげんよう、椿屋です。

今回注目したのは、「文化の日」のご紹介に相応しい『おしょりん』。明治時代、福井県でゼロから眼鏡工場を立ち上げた兄弟の軌跡と、ふたりを信じて支え続けた妻の愛情を描いた物語です。

© 「おしょりん」制作委員会

© 「おしょりん」制作委員会

ご存じのとおり、鯖江をはじめとする福井県は眼鏡の名産地。なんと、国産眼鏡の95%ものシェアを誇ります。『おしょりん』は、その眼鏡が世界に誇る福井の特産品になるきっかけとなった増永兄弟の眼鏡づくりへの歴史を描いています。

兄・五左衛門を演じるのは、小泉孝太郎さん。庄屋の跡継ぎとして生まれ、己を律しながら生きてきた不愛想で頑固な“THE長男”を、自然体で表現されています。

質実剛健な兄に対して自由奔放な弟・幸八には、森崎ウィンさん。いつもポジティブな好奇心と野心を抱き、人懐っこくてチャーミングな“いかにも次男坊”として、ときに兄と対立し、ときには兄と並び歩きながら、夢へと真っ直ぐに突き進む青年を好演しています。

© 「おしょりん」制作委員会

© 「おしょりん」制作委員会

そんな兄と弟を支え続ける五左衛門の妻・むめに扮するのは、北乃きいさんです。親の決めた増永家への嫁入り後、家事と育児に追われる日々を送っていたむめは、幸八が持ち込んだ村を挙げての眼鏡づくりという事業に魅せられます。

右も左も分からぬ眼鏡づくり。知識も技術もないところからのスタートです。

大阪から職人を招いて、村人を巻き込み、見様見真似で始めた眼鏡工場は、幾度となく挫折に襲われます。けれどその都度、決して夢を諦めない強い心をもったむめに、彼らは励まされ、背中を押され、一歩ずつ進んでいくのです。

© 「おしょりん」制作委員会

© 「おしょりん」制作委員会

本作を観終わった後、きっと多くの人が感じること——それは、「眼鏡づくりを諦めないでくれて、ありがとう!!」という一言に尽きるのではないでしょうか。

かく言うわたくしも、中学生の頃からの眼鏡ユーザー。大学進学と共にコンタクトレンズデビューを果たしましたが、自宅では専ら眼鏡をかけております。お洒落に眼鏡は不可欠とばかりに、お手頃なアイウェアをいくつも併用していた時期もありましたが、現在は清水の舞台から飛び降りる覚悟で手に入れた鯖江製の眼鏡を15年以上愛用しています。

そう、眼鏡は実用品であると同時に装飾品でもあるのです。

不足なく見えることは当たり前で、かけ心地や見た目も重要。機能性や耐久性だけではない、“用の美”を追求する彼らのアツい想いをご体感召されませ。

福井の絶景と文化・風習が織り成すリアル

史実に基づいた物語にリアリティを与えるもののひとつに、ロケーションがあります。

本作は、オール福井ロケ。四季折々の風景はもちろん貴重な建物群を使用した各シーンも、福井の魅力を存分に捉えています。

冒頭で5分間流れる「福井県ニュース」も、実話ベースの映画にしては初の試み。北陸新幹線が福井・敦賀まで延伸開業される2024年春に向けて、福井県全市が本作に協力を惜しまなかったといいます。

「映画撮影で福井の町と人々に元気を届けたい」という福井県出身の河合広栄プロデューサーと、同じく福井を舞台にした前作『えちてつ物語~わたし、故郷に帰ってきました。~』(2018年)でタッグを組んだ児玉宜久監督の“福井愛”がそこかしこにあふれている作品です。

© 「おしょりん」制作委員会

© 「おしょりん」制作委員会

福井ならではの自然に加えて、本作の見どころは時代考証に則った眼鏡づくりと風習の再現にあります。

例えば、劇中で職人たちが製造している眼鏡は、実在するメーカーによって本作のために制作されたもの。

また、印象的なシーンで登場する眼鏡のいくつかは福井市在住の眼鏡コレクターから、職人たちの机や道具は鯖江市メガネミュージアムから、当時実際に使われていたものを借りるという徹底っぷり。道具類は、当時の職人が自分たちの手でつくったオリジナルだといいます。

© 「おしょりん」制作委員会

© 「おしょりん」制作委員会

衣装にも予算がかけられており、福井の美容組合による協力の下、エキストラのヘアメイク・着付けに至るまで、時代考証に沿って完璧につくり上げられています

洋風な装いが入ってきた時代ということもあり、とくに幸八(森崎ウィン)の衣装に、都会の流行や遊び心が反映されているので、そちらもお見逃しなく。

© 「おしょりん」制作委員会

© 「おしょりん」制作委員会

当時の文化・風習へのリサーチも丁寧に行われ、むめ(北乃きい)と五左衛門(小泉孝太郎)の結納と祝言のシーンでは、地元の方々が当時のしきたりを可能な限り再現されています。

お目出度い柄のカラフルなハレの着物や純白の花嫁衣装をはじめ、手拭いを姉さん被りしている不断着や客を迎えるときの着物など、TPOに合わせたむめの出で立ちも必見です。

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© 「おしょりん」制作委員会

© 「おしょりん」制作委員会

とくに注目したいのは、着物の花柄に合わせて一羽の蝶があしらわれた赤色の帯を結んだ、嫁入り前の初々しいむめの装い。縦縞の袴姿で現れた幸八と会話を楽しむ彼女のうきうきする乙女心を表したようなコーディネートです。

その後、結婚して母となった彼女は渋茶の地味な着物で登場します。その変化も、きものならではの好ましさではないでしょうか。

© 「おしょりん」制作委員会

© 「おしょりん」制作委員会

職人たちの作業着、五左衛門の当主然とした紋付袴、白シャツをインナーにして袴の上で尻っぱしょりをした幸八の旅姿や都会帰りの垢抜けた着こなし……

木蓮柄の着物×水仙の帯で登場する千代(秋田汐梨)が娘らしい華やかな衣装から少しずつ落ち着いた装いに変わっていく様子や、職人の妻・ミツノ(磯野貴理子)の性格を体現する派手なコーディネートなど、それぞれのキャラクターに沿った衣装も大変素晴らしゅうございました。

個人的には、「内国協賛品博覧会」入口で衣桁にかけられた絢爛豪華な着物と、某シーンでむめが手にしている団扇の柄が椿だったことに、「おっ!」と思った次第です。

最後に、本作のタイトルとなった「おしょりん」がどういうものかは、ぜひ劇場にてお確かめくださいませ。

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