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無修正で描く春画への偏愛コメディ『春画先生』 「きもの de シネマ」vol.34

無修正で描く春画への偏愛コメディ『春画先生』 「きもの de シネマ」vol.34

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銀幕に登場する数々のキモノたちは、着こなしやコーディネートの良きお手本。せっかくなら、歌舞伎やコンサートみたいに映画だってキモノで愉しみませんか。春画を愛する研究者とその弟子が繰り広げる”推し活”映画『春画先生』。日本映画史上初!無修正で見せる浮世絵春画の数々を、とくとご覧あれ。

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2023.08.31

よみもの

東京下町が舞台の人情ラプソディ 『こんにちは、母さん』「きもの de シネマ」vol.33

観る者を魅了する、目眩く春画の世界

ごきげんよう、椿屋です。

今回ご紹介する作品には、無修正の浮世絵春画が登場します。映倫区分は「R15+」(R18+ではなく!)指定。

まずは本作の魅力をお伝えする前に、「春画とは?」というお話を少しばかりいたしましょう。

肉筆や木版画で描かれている春画は平安時代からはじまり、江戸時代の木版技術の発達で全盛期を迎えた”人々の性的な交わり”を描いた画のこと。葛飾北斎や喜多川歌麿など著名な浮世絵師の多くが手がけ、身分を問わず老若男女に娯楽として愛されてきました

まなぶ

浮世絵きほんのき!

その根底には、日本ならではの性を大らかに肯定する精神があり、“笑い絵”とも称されます。

絵師・彫師・摺師といったクリエイターたちが、浮世絵では発揮できない人の性と真面目に向き合い、笑いや風刺として表現してきたのです。最高の画材と技術で描かれた春画は、モネを代表とする印象派の画家やピカソらにも影響を与えたといわれています。

©2023「春画先生」製作委員会

©2023「春画先生」製作委員会

その芸術性は海外でも高く評価され、2013年から翌年にかけてロンドンの大英博物館で開催された『春画 日本美術における性とたのしみ』展では、8万7000人を超える来場者を記録しました。

しかも、訪れた人の半分以上が女性。春画=好色な男性が好む卑猥な画、というイメージが覆された画期的な展覧会だったといえます。

かくいう私も、2015年秋に東京で開催された『春画展』に行ってまいりました。そこで購入した図録が本作冒頭にも登場しており、思わず前のめりになるところでした。

『SUNGA 春画展』で購入した図録

この分厚さ!ショップでは持ち帰りとは別に発送カウンターが設置されていたほど。本作プロデューサーの小室直子さんは同展覧会で春画に魅了され、春画をテーマとする映画制作を決意されたそう。また、塩田明彦監督も偶然この展覧会に足を運んでおられて、「当初は、春画の絵師を描くという案もありました。(中略)絵師を直接描くのは難しいと断念しました。春画ではない浮世絵の展示会にも通いつつ、永青文庫『春画展』の秀逸なカタログとずっと向き合い、対話していました」と述べられています。私事ながら、重かったけど買ってよかった!と、改めて思った次第です

さて、肝心の映画の話に戻りましょう。

©2023「春画先生」製作委員会

©2023「春画先生」製作委員会

主人公は「春画先生」と呼ばれている変わり者の研究者・芳賀一郎(内野聖陽)。愛する妻に先立たれ、世捨て人同然の日々を送りながらも、春画の研究に没頭しています。

先生から春画について学ぶにつれて、彼に心を奪われていく弟子・春野弓子(北香那)。芳賀が執筆する『春画大全』の編集者・辻村俊介(柄本佑)、亡き妻の双子の姉・藤村一葉(安達祐実)など、己の生と性に正直で貪欲な“クセ強メンバー”が織り成す、春画偏愛コメディです。

©2023「春画先生」製作委員会

©2023「春画先生」製作委員会

内野さん演じる先生の禁欲的かつマゾヒスティックからくる自縄自縛さ、北さんが放つ揺るぎない信念と逞しい生命力による吸引力、柄本さんの軽妙洒脱な色男っぷり、安達さんの息を呑むド迫力の存在感——これぞまさしく、圧巻の競演

繊細にして大胆!着物ならではの美

春画の魅力を語る先生の言葉の数々が、なるほど!という気づきや、まさしく!といった得心をくれるのも本作の面白さのひとつ。加えて、春画そのものの見せ方や春画を連想させるような映像の切り取り方も秀逸です。

たとえば、チラリズムを感じさせる『春画先生』というタイトル表記

局部に文鎮を置いて視線を誘導する方法。「春画とワインの夕べ」という、日本と西洋のメタファーであろう名づけ。

家政婦の真似事をすることになった弓子が先生の書斎を覗く際のアングルにも、秘した春画の世界に倣ったような奥ゆかしさと大らかさが感じられます。

©2023「春画先生」製作委員会

©2023「春画先生」製作委員会

このとき、弓子が着ているのは紺絣の着物。柄の色とリンクするような縞の半幅帯を結んでいます。彼女の先生へのほのかな恋心を思わせる八掛の淡い桃色も大変にキュートです。

芳賀家の「家政婦心得」には、服装心得の段で次のように書かれています。

一、身に着ける服装は和装とすべし

突然やってきた新参者の弓子に嫉妬を隠し切れない家政婦・本郷絹代(白川和子)も、もちろん和装。ふたりによる台所仕事の風景は郷愁を含み、和装を課すことの説得力になっているように感じられます。

©2023「春画先生」製作委員会

©2023「春画先生」製作委員会

先述の「春画とワインの夕べ」には、芳賀の亡き妻のドレスに着替えて出向く弓子。初心者が集うイベントで先生にエスコートされるのに相応しい、シンプルですが上品な一着です。

©2023「春画先生」製作委員会

©2023「春画先生」製作委員会

対して、年に一度行われる玄人向けの鑑賞会には、先生と弓子だけでなく、お付きの辻村も正装で臨みます。

©2023「春画先生」製作委員会

©2023「春画先生」製作委員会

内野さんと柄本さんの色気に撃ち抜かれるのは当然として、清楚なのにどこか艶っぽい弓子の装いも見逃せません。

桜柄の付け下げから覗く半衿にも桜の刺繍が施され、孔雀羽根の帯には水色の帯揚げと縹色の帯締めを合わせたコーディネートです。

そして、彼女と対極をなすようなインパクトでその場の空気を一変させるのが、安達さん演じる一葉です。

©2023「春画先生」製作委員会

©2023「春画先生」製作委員会

パツっと切り揃えられた髪が印象的ですが、それにも益して、シックな装いに映える差し色の朱色が、妖艶であり、格好良くもあり。貴重な春画にも匹敵する婉然とした佇まいは、見事というほかありません。

春画先生の言をお借りすれば、春画を見る際には「無により有を描く」その技法にもご注目を

とくに、色柄だけでなく着物の質感——肌が透けるほどの薄さや軽さまでも紙の上で描き表されている点も見どころです。

2023.08.16

よみもの

開館10周年記念展 第2部 『歌麿と北斎 ―時代を作った浮世絵師―』 岡田美術館 「きものでミュージアム」vol.25

2022.11.29

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