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能面師という仕事(後編)~女流能面師・宇髙景子さんに聞く~ 「気になるお能」vol.6

能面師という仕事(後編)~女流能面師・宇髙景子さんに聞く~ 「気になるお能」vol.6

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無表情な面、聞き取れない言葉、古い価値観——能楽へのハードルは高く感じてしまいがち。室町時代から受け継がれてきた日本を代表する舞台芸術への扉を、一緒に開いてみませんか? 派手髪の能面師・宇髙景子さんに、能面作りについて教えてもらいましょう。

2023.10.02

まなぶ

能面師という仕事(前編)~女流能面師・宇髙景子さんに聞く~ 「気になるお能」vol.5

命が吹き込まれる能面

鑿で面を打つ景子さん

能面の材料となるのは、樹齢200年以上の檜。20~30年かけて乾燥させ、カットした原木を使用します。

最初に行うのは、上下左右を決めること。

ブロックの中心に線を引き、そこに水を数滴垂らします。その水の滲み方を見て「吸い上げ幅の広い方を上にするのは、それがあるべき自然のままの姿だから」と、景子さん。

制作工程

鋸(のこぎり)で角を落とし、鑿(のみ)を使って大まかな形を切り出します。その後、鑿や彫刻刀によって素彫りしたものに型紙を当てながら、ミリ単位で調整。

その仕上げ彫りが済んだら、下地を塗っていきます。サンドペーパーなどで磨きをかけ、メイクを施すように彩色(色付け)して完成です。

道具

シャープな面にするためには道具のメンテナンスも欠かせない。餅は餅屋で、刃物の砥ぎはプロにお任せ

景子さんをはじめ、現代の能面師が打つ能面は、そのほとんどが「写し」といわれるレプリカ。手本となるのは、室町時代に制作された「本面(ほんめん)」です。

とはいえ、実物を見る機会はそう多くはないそうで、他流が所蔵するものを見せてもらう好機もありますが、多くは、博物館などで本物を見た記憶、写真や絵図などを頼りに制作していきます。

仮面劇である能において、神・鬼・精霊・幽霊といった人ならざる者を表現するための能面は、欠かせないアイテムです。だからこそ、「能面は舞台で使うことが大前提」だと景子さんは言います。

その複雑な表情はもちろん、傷や経年変化も正確に写し取っていき、味わいや深みさえも再現してこその「写し」。ただコピーを繰り返すのではなく、能面師が魂を込めて受け継いでこその面(おもて)なのです。

100%が特徴になる

ときに寝かせ(時間を置い)て、ときに壁にかけたり、鏡に写したりもしながら、「俯瞰で見ること」が大切だと、景子さんは考えています。

「集中していると目が慣れてきて、脳内補完されるので、出来るだけフラットに見ることを心掛けています」

彫り進める過程で、何度も手を止め、写真と見比べ、微調整を加えていく作業は、自分と向き合う時間

「軸が右側に振れる彫り癖があるので、そこも常に意識しています。時間が経ってから見ると、どうやって彫ったのか自分でも不思議に思うこともありますよ(笑)」

本面は全く無駄がない。たった1ミリ、ズレても足しても違って見える。どこにも不足がなく、ピタッと完成しているんです」

制作のようす

そんな神がかった本物に、いかに近づけるか——それこそが、能面師に課せられた役割。

「その時々の自分の技術がカタチになって出てくるので、嘘がつけないんですよね。なんか違うなぁと思いながら、その小さな違和感をスルーして仕上げてしまうと、そこばかりがずっと気になる。

私は、けっこういい歳まで好きなことだけやりたいって思いながら生きてきたので嫌なことを避けてしまいがちで……(苦笑)。粘り弱い自分が嫌いなんですが、面を打っているとそういう性分を突きつけられるんです」

制作のようす02

「作業中、ピタッときたな!と思う瞬間があって、そのときは『私、天才か!』とテンションが上がったかと思えば、数秒後には『うわ、最悪……』と落ち込んだりもします。アップダウンが激しいんですよ(苦笑)」

自分自身で納得のいく=人前に出しても恥ずかしくない100%の面にするためには、「我慢と見極めが肝心」と言う景子さん。

「最近になってやっと、そのときの100%が出せるようになってきました。その100%が、私らしさ……特徴かな?」

キャラクターに寄り添う

「型は補助輪のようなもので、途中で外して自力でゴールを目指さないといけない。そのためには、顔(面:おもて)がどういうふうにしてほしがっているか、を常に考えます

物語をさらい、その背景へアプローチしていくところから。

制作のようす03

文献にあたり、「キャラクターにフォーカスして、そこに自分の印象やあぶり出した魅力をエッセンスとして足す」作業の積み重ね。

本面(ほんめん)のないキャラクターを新しく制作する場合は、

「どういう役がやりたいか、演者にヒアリングもします。能楽師の鍛錬を知っているからこそ、役柄にマッチして、邪魔をせず役立てる面を作りたい

こう語る彼女の瞳は、一段と輝いていました。

「ラッキーなことに、(弟たちのおかげで)私には自分の面を舞台で使ってもらうチャンスがあって、実際に舞台上で動く面を観るからこその手応えを得られる瞬間があります。オペラグラスで確認することもあるんですが、昔ほど粗探しをしなくなったかな。自分で作った面なのに、『うわ~』とか『おおっ』とか思いながら観ていることも(笑)」

そんな景子さんが手掛けた作品のいくつかを、次のコラムにてご紹介。次回もぜひご覧ください。

第21回 宇高青蘭能之会(うだかせいらんのうのかい)
金剛能楽堂

2023/10/14(土)
開場: 12:30 / 開始: 13:30 / 終了: 16:00

※チケットはこちらから

景子さんの新作面が使われます!

「気になるお能」vol.1~4 登場、田中春奈さんご出演の会も来月愛媛にて開催されます。

第三十九回 松山市民能

※チケットはこちらから

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